人手不足を乗り越える。スマート農業が描く持続可能な農業

日本の農業はいま、大きな転換期を迎えている。人手不足や高齢化、気候変動といった課題が深刻化する一方で、最新テクノロジーを活用した「スマート農業」に注目が集まっている。本記事では、国内における農業事情と、その課題解決につながる持続可能な農業の実現に向けた取り組みを紹介する。

高齢化と担い手不足。日本の農業が直面する課題

日本の農業が直面している課題は、「担い手不足」「農業従事者の高齢化」「耕作放棄地の増加」「気候変動」など多方面にわたる。

なかでも特に深刻なのが、農業従事者の高齢化と担い手不足だ。

農林水産省の「農業労働力に関する統計」によると、2015(平成27)年に約175.7万人だった基幹的農業従事者(個人経営体)は、2025(令和7)年には約102.1万人まで減少している。また、2015(平成27)年に約6万5,000人だった新規就農者数も、2023(令和5)年には4万3,500人程となり、年々減少していることが分かる。(*1)

年齢構成を見ると、2024(令和6)年には65歳以上が約7割を占めているとされ、農業従事者の高齢化は深刻な問題となっている。(*2)

農業就業人口の減少の背景には、農村の人口減少や農業特有の厳しい労働環境があり、新規参入が進みにくい状況がある。都市部とは異なる労働時間や給与形態に抵抗を感じる若年層も少なくなく、さらに天候など外部要因によって収入が変動するという点も、新規参入のハードルとなっている。

そして、後継者不足や新規就農者の減少による「耕作放棄地」の増加や、それに伴う生産量の減少も懸念されている。耕作放棄地とは、かつては農地だったものの「1年以上作付け(栽培)されず、今後も再開の意向がない土地」を指す。全国の耕作放棄地の面積は、2015(平成27)年時点で約42万ヘクタールとされ、これは富山県の総面積に匹敵する大きさだ。(*3)

耕作放棄地が増加すると、雑草が生えたり鳥獣被害や害虫が発生しやすくなる。手入れされなくなった土壌は年月が経つほどに悪化し、作物を育てるための養分も失われていく。また、管理されていない農地は、家庭ごみや産業廃棄物などの不法投棄の温床となるリスクもある。

農地の減少は、農産物の生産量低下に直結する問題だ。2024(令和6)年度の日本の食料自給率は、カロリーベースで約38%とされているが、耕作放棄地の増加は、生産量の減少を通じて、食料自給率のさらなる低下に影響する一因となる。(*4)

これらのデータが示すように、このまま農業従事者の減少が続けば、日本の食料供給や地域農業の持続性にも大きな影響を及ぼす可能性があるのだ。


耕作放棄地が、子どもたちの秘密基地に。

スマート農業が実現する生産性と環境負荷の両立

多くの課題を抱える日本の農業だが、人手不足の解消と生産性向上、そして環境負荷の低減などにつながる「スマート農業」の普及が進められている。スマート農業は、ロボット技術やAI、ICT(情報通信技術)、IoTなどの先端技術を組み合わせた“新しい農業”のことだ。

農業の現場では、古くから熟練した農業者の経験や人手に頼る作業が多く、省力化や作業負担の軽減が難しいとされてきた。しかし、人手不足が深刻化するなかで、一人あたりが担当する作業面積は拡大しており、労働力への依存にも限界があると指摘されている。

こうした状況のなか、近年の技術向上によりスマート農業を導入することで、作業負担の軽減が可能になりつつある。

たとえば、「自動運転トラクター」や「自動運転田植機」を導入することで、繁忙期の作業人数を減らしながら、1人あたりが作業できる面積を広げることができる。IoTセンサーやデータ分析によって土壌や気象、生育状況を可視化することで、最適な栽培管理が可能になる。

また、ビニールハウスやガラス温室などの設備を利用する施設栽培では、光合成データなどを活用した栽培管理も進んでいる。センサーで取得したデータをもとに温度や湿度、CO2濃度を自動で調整し、作物が育ちやすい環境を保つ仕組みが取り入れられているのだ。

ドローンを使った農薬や肥料のピンポイント散布によって広範囲への散布を減らすことができ、必要な量だけを使用する「精密農業」の導入も始まっている。栽培のムラを防ぎ、農薬使用量を大幅に減らすことで環境負荷の軽減に役立っている。

このように、最先端技術を取り入れ、データや画像をうまく活用することで、作業の効率化や省力化に向けた実証実験や導入が各地で進められている。スマート農業の推進によって、自動運転や遠隔操作、モニタリング、データ管理といった作業が効率化され、少ない人手でも農業を続けられる仕組みが整いつつあるのだ。


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テクノロジーでつなぐ、持続可能な農業のかたち

高齢化や人手不足が深刻化する農業界において、テクノロジーを活用したスマート農業の導入は大きな可能性を秘めている。

技術導入には高額なコストや専門的な知見の習得が必要で、普及には依然として課題がある。しかし、環境整備がさらに進めば現場の作業負担が軽減され、誰でも農業に携わりやすくなり、農業に関心を持つ若い世代や女性、異業種からの参入拡大も期待できる。

また、農業データの管理・活用により安定した収量や品質を確保し、地域農業の持続性を高められる。遠隔地からのモニタリングや自動作業によって、管理面積の拡大や収益性の向上なども期待されている「農業は大変」といった従来のイメージを払拭することで農業従事者の母数が増えれば、将来的には生産性の高い食料供給体制の構築にも貢献できる可能性がある。

人口減少や高齢化という課題が重くのしかかる現状だが、テクノロジーと人の知恵を組み合わせることで、地域と食を未来につなぐ持続可能な農業の新しいモデルが生まれている。人と環境にやさしいスマート農業のこれからの動向に、引き続き注目していきたい。

Edited by k.fukuda

注解・参考サイト

注解
*1 農業労働力に関する統計|農林水産省
*2 第3節 担い手の育成・確保と多様な農業者による農業生産活動|農林水産省
*3 農地・荒廃農地等の分類と面積について|農林水産省
*4 令和6年度食料自給率を公表します|農林水産省

●参考サイト
厳しい状況に置かれている日本の農業事情|農林水産省
我が国の食料・農業・農村を とりまく状況の変化|農林水産省
農地・耕作放棄地面積の推移|内閣府ホームページ
スマート農業の展開について|農林水産省
スマート農業をめぐる情勢について|農林水産省

About the Writer

ともちん

大学で英文学を学び、小売・教育・製造業界を経てフリーライターに。留学や欧州ひとり旅を通じて「丁寧な暮らし」と「日本文化の価値」に触れ、その魅力を再認識。旅や地方創生、芸術、ライフスタイル分野に興味あり。言葉を通して、自尊心と幸福感を育めるような社会の実現に貢献することを目指している。
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