
生態系の破壊、遺伝子汚染、農業被害など、ネガティブなイメージが付きまとう「外来種」。しかし見方を少し変えれば、外来種は地域の問題を解決するためのヒントにもなるのだ。本記事では、外来種と歩む新たな道を模索し、駆除以外の共存方法を見つける糸口を探していく。
厄介者「外来種」への見方を変える

外来種とは、本来その地に生息していない生き物を指し、すべての外来種は人間の活動によって運ばれたものである。なぜなら生き物たちの自主的な移動や媒介による生息域の拡大は、自然の産物といえるからだ。そのため、外来種の増加や拡大は、人間による不自然な介入が前提となる。
たとえば餌や家畜としての輸入、貨物への付着、ペットの遺棄や脱走。さまざまな方法で野外に放たれた外来種によって固有種が排除され、従来の自然のかたちが乱れた結果、その国の環境は大きく変化する。ほかにも農作物の被害や寄生生物の拡大など、外来種の拡大による懸念点は多く存在している。
上記の理由から、外来種の拡大は国際的な問題の一つだ。なかでも侵略的外来種(生態系や農林水産業への被害を及ぼす外来種)の一部は、国ごとに特定外来種に指定され、駆除の対象となっている。
そんな悩みの種である外来種たち。人間の手によって拡大したとはいえ、基本的には生態系を脅かす「悪者」という認識が強い。しかし見方を変えれば、外来種は「地域の課題を解決する資源にもなる」ことをご存知だろうか。
外来種が「地域の宝」になる3つの理由

外来種が「地域の宝」になるには、「食材・特産品・観光資源」の少なくとも3つの道がある。ここでは、それぞれの道を実例とともに詳しく解説していく。
食材として活用
外来種のなかには、調理次第で美食に生まれ変わる生き物も多い。代表的な生き物が、条件付特定外来生物に指定されているアメリカザリガニだ。現在もアメリカザリガニは、農業被害や生態系破壊などを中心に問題視されている。
宮城県のNPO法人『シナイモツゴ郷の会』では、アメリカザリガニの魚醤や煎餅などへの調理法を日々研究中だ。昨今では一部中華料理店の自家用食材として利用可能なことがわかり、大量消費が期待されている。
ほかにもウシガエルの唐揚げや上海蟹の蒸し料理など、外来種の調理方法や料理は多岐に渡る。闇雲に駆除するのではなく、適切な調理法を取り入れることで、外来種は地域の食糧問題を解決するきっかけになるのだ。
食品としての展開は、地域ならではの特産品としての好例だ。たとえば高知県香美市では、害獣として疎まれていた鹿を鹿肉として加工し、特産品としてPRしている。同様の取り組みは外来種であっても実現が期待できる。
新素材としての生まれ変わり
外来種によっては、新素材として特産品に生まれ変わる可能性がある。例として挙げられるのが、特定外来生物に指定されているアライグマだ。アライグマの捕獲や駆除には役所の許可が必要だが、その毛皮は「ラクーン」と呼ばれ、保温性や耐久性に優れた素材として愛用者も多い。
昨今では動物愛護の観点から毛皮の展開には配慮が求められるが、害獣対策・地域活性化・文化の創造などを両立する方法としては、効果的な案といえるだろう。
観光資源(地域経済活性化への貢献)
外来種は、地域活性化の手段として活用することも可能だ。外来種を観光資源として昇華できれば、地域外からカネもヒトも呼び込め、新たな経済の循環の糸口につながる。
例として挙げられるのが、沖縄県沖縄市の東南植物楽園での試みだ。国内最大規模の植物園である同施設では、在来種・外来種含め約1,300種類もの植物を展示している。フォトジェニックな植物として人気のヤシやバオバブは、熱帯アジアやアフリカなどからきた外来種だ。
外来種問題を解決するための重要な視点

外来種問題を解決するために、環境省は以下の「外来種被害予防3原則」を掲げている。
- 入れない
外来種を自然分布域から非分布域へ入れない。
- 捨てない
飼育・栽培している外来種を適切に管理する。
- 拡げない
すでに野外にいる外来種を他地域に拡げない。
上記の3原則を守る手段として、「駆除」は確かに有効な手段だ。実際に環境・文化・社会・経済など多方面で実害が出ている以上、「殺すのはかわいそう」という綺麗事だけでは解決できない側面も強い。
しかし、駆除という一方的な視点だけではなく、持続可能な「有効活用」という視点から捉え直すことは可能だ。ここでは、駆除以外の観点から外来種問題解決の可能性を探っていく。
予防:侵入を防ぐ
外来種を有効活用するためには、現状の国内個体数を増加させない取り組みが重要だ。いわゆる「入れない」対策は最優先に取り組むべき施策といえる。どれほど有効活用の手段が増えても、生息する外来種が活用可能な個体数を上回ってしまえば、問題はいつまでも解決しない。
たとえば輸入時の検疫強化や流通管理では、通販や個人輸入での生体販売・拡大を規制できると同時に、貨物への付着などの偶発的な侵入の可能性も下げられる。
管理:個体数の抑制をする
一度定着した外来種の完全駆除は、ほぼ不可能だ。だからこそ教育や啓発などの手段も通じ、安易な放流や飼育放棄のリスクを周知させ、侵入のリスクを下げることが求められる。これは「捨てない」「拡げない」の対策に通じる。
捕獲による局所的な数の管理や、柵や構造物の設置による生息域の制限などは、有効な手段の一つといえるだろう。また在来種の生息環境を強化する取り組みは、競争力の向上につながり、外来種の間接的な個体数減少が期待できる。
啓蒙:市民の理解と参加
外来種の有効活用には、市民の理解と参加も欠かせない。たとえば「ホームセンターで購入したヘラクレスオオカブトを森に返してあげた」や「ペットのオカメインコが外に出たそうなので空に放してあげた」などの行動は、善意によるものだとしても外来種を拡大する行為だ。
外来種の正しい理解を広める環境教育は、義務教育だけでは十分とは言い難い。地域内で駆除イベントや体験セミナーなどの啓蒙活動を実施することで、外来種との正しい距離感や付き合い方を学べる。子どもだけではなく、大人や高齢者の知識のアップデートも重要だ。
段階的に有効活用の道を見出す

上記のプロセスを踏むことで、初めて外来種の有効活用の道を模索できる。有効活用と一言で言うものの、実際の施策には段階が必要だ。以下に、外来種を有効活用する際に求められる要素を記載する。
- 調査・評価
分布や個体数の調査や繁殖期の把握を通し、現状を正確に分析し、リスクと活用可能性を科学的に評価する。
- 優先順位と目標設定
被害の大きさや社会的影響を加味したうえで、「目指すべき共生のビジョン」を設定する。費用対効果による優先度決定も含まれる。
- 小規模パイロット
限定区域で回収や製品化を試み、活用モデルが現場で成立するかを検証する。
- 段階的スケールアップ
供給量が繁殖の抑制に適うことを確認し、段階的に範囲と生産量を拡大する。
- 長期的管理と適応
定期的な指標(在来種の回復や、外来種の再侵入の確認など)を維持し、「生態系の回復状況」と「経済活動」を両立し、運用のなかで柔軟に方針を修正する。
上記のプロセスは一例であり、被害の深刻レベルによって固有の検証方法や保護策を導入する必要がある。
重要なポイントとして共通するのは「小さく検証しつつ、保護策を入れて拡大する」だ。初期段階で倫理的・法的なボーダーラインを定めることで、将来的な再拡散や駆除の失敗を予防できる。
まちに眠る「地域の宝」

適切な対応を実現できれば、人々を悩ませる外来種は「地域の宝」として新しい生を得られる。前項ではアメリカザリガニの食品化や外来植物の観光資源化を例に挙げたが、活用の方法はそれだけではい。
たとえば、外来種の代表格である魚「ブラックバス」。ブラックバスは希少な淡水魚を捕食するだけではなく、アユやフナなどの漁業対象種にも深刻な被害を与えている。そこで環境省は、バス釣りを野外体験としてアクティビティ化し、青少年を対象とした教育機会として提案した。
埋め立てや宅地化によって釣り場が減少した現在では、バス釣りは身近でポピュラーな釣りとして受け入れられつつある。その結果、徳島県の旧吉野川や山梨県の河口湖などは、バス釣りの聖地として親しまれている。
外来種問題は、知恵や閃きによってユニークな解決策につなげることが可能だ。平和的な解決のためにも、まずは身近な環境に潜む問題に注目することが大切だ。
固定観念を捨てると新しい解決策が見えてくる

「外来種はすべていなくなるべきだ」「行政が率先して殺処分するべきだ」。外来種問題に関しては、度々過激な声も挙がる。
事実、外来種による文化的・経済的被害は深刻だ。しかし外来種問題では、必ずしも「完全にいなくなることが最善とは限らない」ことを念頭に置くことが求められる。
確かに外来種が在来の生態系を脅かすケースでは、根絶が理想的だ。しかし多くの地域では、すでに外来種が生態系の一部として組み込まれてしまっている。長く定着した生き物や植物をすべて排除すると、在来種にも負担が生じてしまうだろう。
また現実的な問題として、完全な根絶が難しいケースが多い。外来種の存在そのものをゼロにするよりも、「被害が出ない状態」や「生態系のバランスを回復する状態」を目的とするほうが、実現性が高い。
自然環境と共生するためには、現状抱えている問題を課題として捉えるだけではなく、「資源」として捉え直す柔軟な思考が必要だ。負の存在の印象が強い外来種を、社会の学びや循環の一部に変えれば、まだ見ぬ文化や教育が生まれる。
まずは一度、「外来種は絶対に悪者」という固定観念を手放してみよう。外来種が抱える課題を認識したうえで、駆除以外の新たな解決方法を模索することで、私たちは初めて自然の一部としての役割を果たせるのだ。
Edited by s.akiyoshi
参考サイト
アメリカザリガニの有効利用①~中華料理店のメニュー化~|NPO法人シナイモツゴ郷の会
身近な外来種を食べてみよう!|自然教育研究センター
シカ=地域資源 害獣から特産品へ|香美市
観る | 【公式】東南植物楽園
外来生物法|環境省・農林水産業
バスフィッシングの有用性と社会的意義|環境省
侵略的な外来種 | 日本の外来種対策 | 外来生物法|環境省
用語集 | 日本の外来種対策 | 外来生物法|環境省
外来生物対策|千葉県
上海ガニは「特定外来生物」に指定されています。|環境省
「特定外来生物」と「外来生物」と「外来種」・・・さて、違いは何でしょう?|東邦大学
2024年度 環境保全活動 (外来種駆除等) 実施報告|一般社団法人日本旅行業協会


























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数多くのジャンルの経験を生かし、分野横断的な執筆を得意とするWebライター。ウェルビーイングやメンタルヘルス領域を中心に、生活に新たな気づきを与えるコンテンツを発信中。マイノリティな感性に悩む人や、孤独や寂しさを抱きながら暮らす人の心に、少しでも寄り添えるような記事執筆を目指して活動する。現在は、女性のキャリア形成や、人間と動物の関わり方などに興味を持ち学習中。
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