デジタル空間のごみ問題。急増するデータと地球温暖化の見えない関係

スマホのカメラロールに、見返すことのない写真が眠ってはいないだろうか。デジタル化が進み、ごみは減ったように見える現代社会。しかし、裏側では目に見えない「デジタルごみ」が急増し、環境問題を引き起こしている。本記事では、デジタルごみがもたらす問題の実態と、世界で広がる取り組み事例、私たちができる日常のアクションを紹介する。

デジタル化が生む新たなごみ問題 

デジタル化が進む現代社会において、紙の使用量が減ったと感じている人は多いだろう。最近では、紙の発行が当たり前となっていたレシートでさえもアプリ上で管理できるようになるなど、ペーパーレス化が推進されている。

しかし、紙のごみは減ったものの、代わりに「見えないごみ」が急増している。見えないごみとは、見返すことのない写真や動画、開封されないメールなど、削除されることなく放置され続けているデータのことだ。このような不要なデータは、「デジタルごみ」と呼ばれる。

デジタルごみは無形のため、地球環境に負担をかけているといわれても、悪影響を実感しにくい。ただ、サーバーに残り続けるデジタルごみは、維持するために電力を使い続ける。AIやテクノロジーの進化によって、今後も扱われるデータ量は増え続ける見通しだ。

デジタル化が便利さをもたらす裏で、デジタルごみという地球温暖化を加速させる新しい存在が生まれているのが現実である。


シンギュラリティは本当に来る?“人間の仕事”を見直し、AIと上手く付き合う
都市鉱山とは?定義や必要性、活用にあたっての課題を解説

見えない資源消費がもたらす環境負荷

インターネット上に放置された不要な写真やもう使わないアプリ、開封すらしていないメールなどはすべて「デジタルごみ」として扱われる。そしてその膨大データは、世界中のデータセンターで保存され続けている。

データセンターとは、データを保存・処理・管理・バックアップするための専用の建物で、高速回線や冷却設備、大容量の電源などを備えている。私たちが送るメール1通や、ビデオ通話1回の裏側では、データセンターが休むことなく稼働している。

データセンターでは、サーバーを動かすための電力はもちろん、機器が熱を持つのを防ぐための冷却にも大量のエネルギーが使われている。データが増えれば増えるほど、処理するための電力も増え、結果として「デジタルカーボンフットプリント」と呼ばれるCO2排出量も膨らんでいく。

データの中でも、使われないまま保存され続ける「ダークデータ」が問題視されている。イギリスにあるラフバラー大学ビジネススクールの研究によると、イギリスでは1人あたり1日に平均5枚の写真を撮影すると仮定した場合、国全体で年間で約80万トン以上のCO2が発生するという(*1)。これは、飛行機でロンドンとニューヨークを90万回以上往復するのと同じ量だ。必要のないデータを溜め込み続けるほど、無駄な電力消費による環境負荷も増えてしまうといえるだろう。

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の提案書によると、EUではデータセンターの電力消費量が2020年から2030年にかけて倍増する可能性がある。また、IPトラフィックと呼ばれる、一定の時間にネットワーク上を流れる通信データ量は、2030年には2018年の30倍以上、2050年には4,000倍になると予想されている(*2)。このままでは、情報関連だけで世界のすべてのエネルギーを使い果たしてしまうと懸念されており、省エネ対策が急がれる。


デジタルデバイドとは?情報格差の実態と解決策
AIと子ども、健全なパートナーシップを築くためには

デジタルごみ問題への取り組み事例

デジタルごみ削減に向けた世界的な取り組みが始まっている。ここでは、2つの事例を見ていこう。

Digital Cleanup Day 

Digital Cleanup Dayは、毎年3月の第3土曜日に世界中で開催される、デジタルごみを一斉に削除するイベントだ。不要なデータの削除により、CO2排出量を減らすことを狙いとしている。

個人でも企業でも参加できるDigital Cleanup Dayでは、2020年以降で175の国と地域から約120万人が参加し、合計で1,450万GB以上のデータが削除された。結果的に、年間で約3,600トン以上のCO2削減につながったのだ。

2024年の実施時には、TikTokを使った若者向けのキャンペーンも展開され、10代も多く参加した。

Digital Cleanup Dayは、世界中の人々が同じ日に行動することで、小さな取り組みが大きな環境改善につながると証明された事例だといえる。

グリーンIT

グリーンITは、IT技術を使いながら環境への負担を減らす取り組みの総称である。グリーンITには大きく分けて2つの概念がある。

1つ目は「Green of IT」と呼ばれる、IT機器そのものを省エネにする考え方だ。サーバーやパソコンなどの消費電力を減らしたり、効率的に動くように設計を改良したりといった取り組みが含まれる。

2つ目は「Green by IT」と呼ばれる、IT技術を他の分野に応用して環境負荷を減らす考え方だ。たとえば、IT技術によって電力量をコントロールできるシステム「スマートグリッド」を使って省エネにつなげたり、ペーパーレス化を進めたりするといった取り組みが挙げられる。


デジタルウェルビーイングとは?注目される背景や実践方法についてご紹介
デジタルタトゥーとは?消したくても消せない理由や社会的な影響、対処法について解説

今日から始める、デジタル資源循環の具体的なアクション

デジタルごみ問題の解決には、私たちが日常でできる小さなアクションが重要である。

データの整理と削除の習慣化

デジタルごみを減らすには、日頃からデータを整理して削除する習慣をつけることが大切だ。不要なデータが減れば、サーバーの負担も減り、エネルギー消費も抑えられる。

具体的には、スマホに残っている見返さない写真や重複した画像を定期的にチェックして消す、使わないアプリはアンインストールする、古いメールや大きな添付ファイルを整理するといった行動から始められる。また、アプリを使い終わったら終了させたり、開いているブラウザのタブを減らしたりする行為も効果的だという。

データ整理は、「毎週日曜日に10分だけスマホを整理する」といったマイルールを決めると、無理なく習慣化できるだろう。

ストリーミングサービスの利用意識を変える 

動画や音楽のストリーミング再生も、実は環境に影響を与えている。特に高画質の動画は大量のデータ通信を必要とするため、画質設定を見直すだけでエネルギー消費を減らせる。

動画を観る際は、HDや4Kなどの高画質ではなく標準画質を選ぶと、使うエネルギーがかなり抑えられる。また、音楽は聴くたびに通信が必要なストリーミングではなく、ダウンロードしたほうがエネルギーを節約できる。

さらに、モバイル回線よりもWi-Fi接続のほうが消費電力が少ないため、動画や音楽を楽しむ際はWi-Fi環境を選ぶのも大切だ。日常の小さな工夫で環境への配慮ができると考えれば、実践しやすいのではないだろうか。

環境配慮型検索エンジンの利用 

普段何気なく使っている検索エンジンを、環境配慮型のものに切り替えることも選択肢の一つだ。環境配慮型エンジンとは、ユーザーが検索する行為そのものが環境保護につながる仕組みである。

「Ecosia」は、検索で得た収益の100%を植樹活動に使っている検索エンジンだ。これまでに2億本以上の木が植えられ、約9,700万ユーロが環境対策に投じられた。

「ekoru」は、海の環境保護に貢献する検索エンジンだ。水力発電で運営されているため、検索時にCO2を出さない。他の検索エンジンと比べると、1回あたり約4.4グラムのCO2削減につながっている。

「OceanHero」は、検索から得た収益を海洋プラスチック回収活動に充てる検索エンジンで、5回検索するたびに海から回収されるペットボトル1本分に貢献できる。収益は、回収する人の報酬やリサイクルインフラの構築などに充てられる。

検索エンジンの切り替えは、日常生活を変えずに環境保護に参加できる価値ある行動である。


デジタル化に隠れるデメリット。取り残された人々の視点から気付く課題
デジタルデトックスとは?デジタルと距離を置く必要性と効果、具体的なやり方を解説

デジタル社会を「持続可能」にするために

デジタル技術は、私たちの生活を豊かにし、多くの恩恵をもたらしている。しかし、便利さの裏側には見えない環境負荷が存在している事実を忘れてはならない。

行政や企業単位での取り組みも大切だが、同じくらい一人ひとりが「デジタル断捨離」に対する意識を持つことも重要だ。不要なデータを削除する・動画の画質を下げる・検索エンジンを変えるといった行為は些細な行動に思えるかもしれない。だが、このような小さな選択の積み重ねが、持続可能な未来を作っていく。

デジタル技術によって得られた便利さを手放す必要はないが、使い手として利用方法を見直していくことが大切なのではないだろうか。

Edited by s.akiyoshi

注解・参考サイト

注解
※1 Digital decarbonisation for greener supply chains | Loughborough Business School
※2 情報化社会の進展がエネルギー消費に与える 影響(Vol.1)|国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)

参考サイト
Digital Cleanup Day 2025
電力需要について|資源エネルギー庁
グリーン ICT による 環境負荷軽減と地域活性化|総務省
デジタル社会における 持続可能な発展を実現する 10の方法|徳島県
Ecosia
Ekoru
OceanHero

About the Writer
中村衣里_中村エレナ

エリ

大学時代は英米学科に在籍し、アメリカに留学後は都市開発と貧困の関連性について研究。現在はフリーライターとして、旅行・留学・英語・SDGsを中心に執筆している。社会の中にある偏見や分断をなくし、誰もが公平に生きられる世界の実現を目指し、文章を通じて変化や行動のきっかけを届けることに取り組んでいる。関心のあるテーマは、多様性・貧困・ジェンダー・メンタルヘルス・心理学など。趣味は旅行、noteを書くこと、映画を観ること。この人が書いた記事の一覧

Related Posts