
「設備の力」ではなく「家の力」で快適に暮らせる住宅、パッシブハウス。日本でもパッシブハウスの導入事例は増加しており、自然との調和を実現する暮らしが拡大している。本記事ではパッシブハウスの特徴やメカニズムを解説しつつ、自然保護とウェルビーイングを両立する「21世紀の新しい暮らしのかたち」について掘り下げていく。
夏は涼しく、冬は暖かい。維持コストが低く、環境にも優しい住宅。

多くの人にとって、これらは「理想の家」の条件だが、すべての要素を実現することは難しい。なぜなら1年中快適な室温で暮らすためには、冷暖房機器への依存が前提となるからだ。
大量のエネルギー消費を引き換えにした「快適な暮らし」では、自然を犠牲にすることは避けられない。CO2の排出による環境への悪影響はもちろん、光熱費によるランニングコストも決して無視できない問題である。
上記の課題を解決する「新時代のウェルビーイング住宅」が、パッシブハウスだ。
パッシブハウスを支える3つの技術的要素

パッシブハウスの「パッシブ(passive)」とは、「受け身の」という意味。パッシブハウスにおける受け身とは、冷暖房器具が不要であることに例えられる。
断熱性、気密性、換気システム、自然エネルギーの利用。これらを高水準で連動させることで、最低限の電力で「魔法瓶のような快適な室内環境」を保てるのが、パッシブハウスの最たる魅力といえる。
ここでは、建築メソッドの発展や素材の開発など、パッシブハウスのメカニズムについて解説する。
①高い断熱性と気密性
四季の変化による温度・湿度の変化が大きい日本では、夏の暑さや冬の寒さを緩和するために、冷暖房器具の利用が必須だ。パッシブハウスはこれらの器具(設備)に頼らず、素材の種類や厚み、建築の構造によって熱の出入りを防ぐ。
たとえば日本の住宅の窓には、断熱性能の義務基準がない。そのため真冬の氷点下の気温でも、たった1枚のガラス窓で寒さを凌がざるを得ない住宅も多い。日本における暖房器具の利用は、命を守るための行動といえる。
対してパッシブハウスでは、窓を二重・三重の構造にし、外気温から室内を守る。壁も機能性の高い断熱材で厚く作られることで、夏の猛暑による熱も室内に入りにくくなる。建築コストを上げることで「家の燃費」が高まり、設備に頼らずとも快適な暮らしが実現するのだ。
②高効率な換気システム
パッシブハウス内の空気は、窓を締め切っていてもなぜか清々しい。その理由は、熱交換器による熱回収だ。
たとえば冬の寒い日に換気をする際、窓を開けることで冷たい空気が入ってきてしまう。入れ替えた新しい空気を暖めるためには、新たなエネルギーが必要だ。それに対し、熱交換器の導入による「室内の熱を残したまま、室内と室外の空気を入れ替えられる仕組み」がパッシブハウスの提案だ。これにより「綺麗な空気が内に入り、汚れた空気は外に出るのに、室温はキープされている」という理想的な状態が実現可能になる。
またパッシブハウスには、ソーラーウォーマーや床ガラリ、煙突、デマンド換気など、さまざまな換気システムが導入されている。機械に頼らずに、自然な空気の流れだけで室内を換気する方法は「パッシブ換気」とも呼ばれる。
③自然エネルギーの積極利用
パッシブハウスには、自然エネルギーを最大限活用するための多くの工夫が取り入れられている。
たとえば南向きに設置された大きな窓は、冬には太陽熱を取り込むことで暖房の代わりに、北側に設置された高い窓は、夏には熱気を逃がす「空気の通り道」となる。
日射や風などを素材や建設によって制御することで、設備に依存せずにコストパフォーマンスの良い暮らしがかなえられるのが、パッシブハウスの魅力だ。
1年間の温度差が激しい日本では、いくらパッシブハウスとはいえ「暖房器具を一切使用しない暮らし」は難しいかもしれない。しかし建設デザインによって、器具の利用時間を大幅に削減することは可能だ。
さまざまな工夫と開発の賜物であるパッシブハウスは、普段は忘れがちな自然の恵みを実体験させてくれる。
「快適性」と「資源保護」の両立

パッシブハウスは、住宅における大きな革命だ。その理由として、快適性と資源保護の両立が挙げられる。
そもそも資源保護には、省エネの概念が付きまとう。従来の住宅における省エネの考え方では、「夏場の冷房は28℃まで」「冬の暖房も20℃まで」のような、いわゆる「我慢の省エネ」が一般的だった。
しかし、我慢の省エネは、環境保全と快適な暮らしの両立から、目を背けているだけとも考えられる。
その課題を解決したのが、パッシブハウスだ。
パッシブハウスでは、高気密・高断熱によって、家中どこでも温度差が少ない快適な空間が得られる。同時にエネルギー消費が最小化され、火力発電などに頼る地球資源の消費とCO2排出量を大幅に削減する。
住む人の快適性と、地球の持続可能性。パッシブハウスは、一見相反する2つの要素を両立させる「新しい時代の住宅」なのだ。
“自然との調和”がもたらす、人間のウェルビーイング

前項でも触れたように、パッシブハウスでは自然エネルギーを積極的に活用する。
特筆すべきは、太陽の光(自然光)を取り入れた住宅デザインだ。パッシブハウスでは、季節ごとに強さや角度の変わる自然光を巧みに取り込み、四季の変化を感じながら生活できる。
自然光の活用方法は、大きな窓による暖房・照明代わりだけではない。たとえば計算されつくした角度で設置された庇(ひさし)は、冬の低い太陽の光を効率的に取り込み、室内をやわらかに暖める。
家にいながら自然の恩恵を感じられるパッシブハウスでは、光・風・温度のリズムが心を整えてくれる。寒暖差によるストレスも少なく、穏やかな心理状態を保ちながら暮らせるのが大きな魅力だ。
人間の愛情のかたちの一つに、「バイオフィリア」が存在する。バイオフィリアとは、私たちが本能的に自然や生命を愛し、深いつながりを求めるという考え方だ。
パッシブハウスは人間と自然との調和を実現し、バイオフィリアによる安心感を与えてくれる。自然に包まれたような安らぎを室内で実現することで、環境・人間双方のウェルビーイングが両立されるのだ。
また自然の力を活用するパッシブハウスは、言い換えれば「エネルギー自給率が高い住宅」でもある。日本において、電気代や石油代が年々増加傾向にあることは言うまでもない。
光熱費の変動リスクからの解放がもたらす「経済的な安心感」も、パッシブハウスならではの貢献のかたちといえるだろう。
持続可能な暮らしの新しいスタンダードへ

パッシブハウスがかなえるのは、人間と地球が共存するための「持続可能な暮らし」だ。電力発電や火力発電に極力頼らず、自然の恩恵を有効活用することで、現在だけではなく未来の共存にもつながっていく。
地球の資源は限られている。今もエネルギーの排出により環境は変化し続けており、生態系にも大きな影響を及ぼしている。パッシブハウスを選ぶことは、巡り廻って動物たちや未来の子どもたちを守ることにもつながるのだ。
エネルギーに過度に頼らない住まい、パッシブハウス。それは未来の暮らしのあり方を示す「住宅の新しいスタンダード」であり、人にも地球にも優しい「究極の快適性」とも言えるだろう。
Edited by s.akiyoshi
参考サイト
パッシブハウスとは|PASSIVE HOUSE JAPAN
自然の力でむらなく換気 パッシブ換気システム|株式会社マツナガ
【Zehnderとは】窓を開けず快適!パッシブハウスの効率的な換気システム|PASSIO PASSIVE
バイオフィリアとは?オフィス緑化とどう違う?効果や導入方法まで徹底解説|移転Biz
パッシブハウスとは。高気密高断熱住宅とは何が違うの?|sakura Home Insoection
パッシブハウスに住んでみてわかるメリット・デメリット|パッシブデザインに強いメーカーの選び方も解説|NORQ HOME
パッシブハウスの特徴や基準とは?事例も紹介|スーモカウンター 注文住宅
ドイツに学ぶパッシブハウス|ケンコーホーム
三井ホームのゼロエネ | スマートハウスでエコな暮らし|三井ホーム


























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数多くのジャンルの経験を生かし、分野横断的な執筆を得意とするWebライター。ウェルビーイングやメンタルヘルス領域を中心に、生活に新たな気づきを与えるコンテンツを発信中。マイノリティな感性に悩む人や、孤独や寂しさを抱きながら暮らす人の心に、少しでも寄り添えるような記事執筆を目指して活動する。現在は、女性のキャリア形成や、人間と動物の関わり方などに興味を持ち学習中。
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