動きやすさを、都市がつくる。 富山市に見る「まちなかの移動」のデザイン

人口減少が進む地方都市では、労働力不足や公共サービスの維持が大きな課題となっている。そんな中、富山市は長年にわたり「移動しやすい街づくり」に取り組んできた。公共交通を都市の軸として再構築することで、市民の暮らしはどのように変化したのか。富山市の「まちなかの移動」のデザインを手がかりに、都市構造の変化を読み解いていく。

LRTが変えたのは、移動手段ではなく都市の構造

LRTとは、Light Rail Transit(ライトレールトランジット)の略称であり、次世代型の路面電車を指す。道路上のレールを走る点では従来の路面電車と共通するが、定時性やバリアフリー性、環境負荷の低さといった点で大きく進化している。

富山市のLRTは、日本で初めて、既存の鉄道路線を本格的にLRTへ転換した事例として知られている。同市が2006年(平成18年)から進めてきたLRTを軸とする取り組みは、単なる交通インフラのアップデートにとどまらない。移動を都市の中心的な要素として捉え直し、その結果、市街地の移動を設計し直すことで、街の構造そのものを組み替えてきた。路面電車を都市の「背骨」として位置づけ、人の流れや滞在のあり方を線や面で再構築してきた点に、この取り組みの本質がある。

富山市のLRTは、市民の移動手段であると同時に、駅周辺の街づくりや商店街の回遊性、オフィスや住宅の立地にも影響を与える「都市の骨格を形成する交通システム」として位置づけられている。たとえば、LRT沿線のカフェや商業施設では、通勤・通学だけでなく、買い物や散策を目的に訪れる市民の姿が徐々に増えていった。

富山市はこれまで、街づくりの課題として「自家用車依存」「割高な都市管理コスト」「都心のドーナツ化現象」の3つを挙げてきた。郊外へと市街地が拡大していった結果、日常の移動は自動車に頼らざるを得なくなり、中心市街地の空洞化が進行していく――これは、都市機能の低下だけではなく、街の魅力そのものが失われていくことにつながる。

国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によれば、2070年には日本の総人口は9,000万人を下回るとされている(*1)。人口減少と超高齢化が進む中、都市を広げ続けるモデルは限界を迎えつつある。こうした背景のもと、富山市は「移動しやすさ」を起点に都市をコンパクトに再編する道を選んだ。LRTを軸とした街づくりは、コンパクトシティの実現に向けた都市構造の転換そのものなのである。


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都市機能は、移動のしやすさとセットで考える

暮らしやすさにつながる都市設計とは、具体的にどのようなものなのだろうか。富山市が目指してきたのは、移動できる人だけを前提としない、誰にとっても日常が成立する都市である。

富山市のLRTは、主に旧JR富山港線を引き継いだ路線を走る「PORTRAM(ポートラム)」と、市内中心部を周回する環状線を運行する「CENTRAM(セントラム)」などで構成されている。これらは、住宅や商業、公共施設を公共交通沿線に集約するための基盤として整備されてきた。

これらの路線が導入されたことで、長らく利用が少なかった駅周辺には活気が生まれ、中心市街地の回遊性が向上した。ライトレール沿線における住宅の年間新規着工件数は、開業前から比較すると約5年間で1.3倍ほどに増加したとされている(*2)。沿線では、子育て世帯向けのマンションや、駅徒歩圏内の一戸建て住宅の開発が進み、駅まで歩いて買い物や通学ができる環境が整いつつある。

こうした都市設計の背景には、富山市が長年抱えてきた「クルマ依存」という課題の影響が大きい。郊外へと拡大した市街地の中で、過度に自動車に依存した生活を送ることは、車を自由に使えない人にとっては「住みやすい街」とは言えない。そして、歩く機会の減少による運動不足や、高齢者の運転による交通事故、CO2排出量の増大など、過度の自動車に依存した暮らしは、健康や環境にさまざまな問題をもたらす。

こうした課題を踏まえると、アクセシビリティに配慮した街づくりを行うことは多くのメリットをもたらす。住む場所や年齢に関係なく、平等にサービスを享受できる地域社会の実現という観点から見ても、富山市のLRT化による「日常の移動」の改善は、高齢者や子育て世帯を含めた、すべての人の暮らしの選択肢を広げていくことにつながっている。


車依存からの脱却を実証

移動の設計は、都市の将来像を決める

富山市のLRT化が示しているのは、移動のあり方をどう設計するかが、都市の将来像そのものを左右するという点である。都市機能と移動を切り離さずに考えることは難しく、地方都市が生き残るための前提条件になりつつある。

自家用車への依存度が高い地方都市の一つである富山市では、移動距離の拡大によって中心地と郊外部の分断が進み、道路整備や維持にかかるコスト、環境への負荷といった「見えにくい負担」が積み重なってきた。

今回の事例が示しているのは、移動そのものを我慢することではない。車が不可欠であるという従来の前提を見直し、「歩く」「公共交通を使う」「近くで用事を済ませる」といった選択肢が、日常生活の中で自然に成り立つ環境を整えることの重要性である。たとえば、駅前で買い物を済ませ、子どもを保育園に送り、そのまま職場へ通勤する――こうした日常の流れが、車に頼らずとも可能になっているケースも見られる。

動きやすさを意図的に設計することは、日常の移動に無理が生じない暮らしを生み出す。その積み重ねが、市民が「住み続けたい」と思える街を生み出し、結果として持続可能な地方都市像へとつながっていくのだ。

Edited by k.fukuda

注解・参考サイト

注解
*1 日本の将来推計人口(令和5年推計)報告書|国立社会保障・人口問題研究所による
*2 富山市 環境モデル都市行動計画|環境省による

参考サイト
軌道法(路面電車等)|国土交通省
LRT等の都市交通整備のまちづくりへの効果|国土交通省
地域の公共交通を取り巻く現状と 検討の視点・課題|国土交通省
富山市 路面電車事業概要|富山市公式ウェブサイト
富山市のコンパクトシティはLRTから始まった|NIKKEI MESSE

About the Writer

ともちん

大学で英文学を学び、小売・教育・製造業界を経てフリーライターに。留学や欧州ひとり旅を通じて「丁寧な暮らし」と「日本文化の価値」に触れ、その魅力を再認識。旅や地方創生、芸術、ライフスタイル分野に興味あり。言葉を通して、自尊心と幸福感を育めるような社会の実現に貢献することを目指している。
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