
世界で衣類の環境負荷が問題となる中、英国ではUK Textiles Pactが2030年に向けた8つの指標を提示した。それらは、デザイン・ビジネスモデル・脱炭素の3領域にまたがり、衣服がつくられてから回収されるまでの流れを包括するものだ。本記事では、この指標を軸に2030年の循環ファッションの姿を読み解く。
“目標だけ”では進まない時代に、8つの指標が必要になった理由

UK Textiles Pact(旧称:Textiles 2030)は、英国の非営利団体WRAPが主導する業界横断の協定である。2019年を基準年とし、2030年までに英国市場に置かれる新しいテキスタイル製品のカーボンフットプリントを50%、ウォーターフットプリントを30%削減するという目標を掲げている。
一方で、年次の進捗報告は、循環の難しさも明らかにしている。製品1トン当たりの環境負荷は改善しているものの、市場に投入されるテキスタイル量自体が増加し、結果として総量ベースの環境負荷は増加する局面も確認された。
この状況は、素材改善や効率化だけでは、環境負荷を本質的に下げられないことを示している。
こうした背景からUK Textiles Pactは、最終的な削減目標だけでなく、日々の意思決定や投資判断を導くための8つの具体的な指標をロードマップとして提示した。
2030年に向けた「8つの指標」

UK Textiles Pactが提示する8つの指標は、循環を部分的な改善にとどめず、衣服のライフサイクル全体を変えていくための設計図である。指標は、デザイン、ビジネスモデル、回収・素材循環、脱炭素という4つの領域に整理されている。
デザイン:循環は設計段階で決まる
指標1:使用する素材の100%を「preferred sources」から調達する
製品に使われるすべての素材を、環境・社会面で望ましいとされる原料に移行することを求めている。
原料調達の段階で環境負荷を下げることは、製品全体のフットプリント削減に直結する。循環は回収から始まるのではなく、素材選択の時点ですでに始まっているという考え方がここにある。
指標2:製品の75%を「循環を可能にする設計」にする
単一素材化、分解しやすい構造、修理可能性、耐久性など、循環を前提とした設計を製品の大多数に適用することが求められる。
回収やリサイクルは製品の「最後」に起こる出来事だが、その可否はほぼ設計段階で決まる。2030年に向けて、デザインは「使い終わった後」を内包する行為へと変わりつつある。
ビジネスモデル:売り切り型からの転換
指標3:売上の20%を循環型ビジネスモデルから生み出す
リセール、レンタル、修理、サブスクリプションといった循環型ビジネスモデルを、主要な収益源として育てることを示している。
循環を理念や付加価値にとどめず、事業として成立させることが、持続的な変化には不可欠だ。
指標4:取引全体の30%を循環型ビジネスモデルが可能にする
売上比率に加え、取引量そのものにも目標を置いている点がこの指標の特徴である。
これにより、一部の高価格帯サービスに限定されない、日常的な購買行動としての循環が促される。
回収・素材循環:服の「出口」を社会に組み込む
指標5:消費後テキスタイルの60%を、販売量比で回収する
消費者の手を離れた衣類をどれだけ回収できているかを、明確な量として追うものだ。
回収が一定規模に達して初めて、再資源化設備への投資や再生素材市場の拡大が可能になる。「捨てる」ではなく「返す」行為を、購買体験の一部として組み込むことが想定されている。
脱炭素:サプライチェーン上流への踏み込み
※本章でいうTier1工場は縫製などの最終工程、Tier2工場は染色や加工など、その前段階の工程を担う工場を指す。
指標6:Tier1工場で生産される製品の80%を、再生可能電力100%で製造する
縫製など最終工程を担うTier1工場において、使用電力を再生可能エネルギーに切り替えることを求める指標である。
製品単位の配慮にとどまらず、生産体制そのものの転換を促している。
指標7:Tier2工場で生産される製品の50%を、再生可能電力100%で製造する
染色や加工など、エネルギー負荷の高い工程を担うTier2工場についても、再生可能電力への移行が明示されている。
環境負荷の大きい上流工程に踏み込むことで、循環の実効性を高める狙いがある。
指標8:Tier2工場における一般炭(thermal coal)の使用を50%段階的に廃止する
最後の指標は、電力だけでなく、熱源として使われる石炭への依存を減らすことを明確に掲げている。
脱炭素を避けて通れない課題として捉え、具体的な数値目標を置いた点が特徴だ。
2030年に向けて、循環を「仕組み」にするために

UK Textiles Pactの8つの指標は、英国の文脈で設計されたものだが、示している論点は国や地域を超えて通用する。
循環を成立させるには、どこが詰まりやすいのか、何を数値で追うべきか。その思考の枠組み自体が、企業や政策、そしてメディアにとって重要な示唆を与える。
2030年に向けて問われているのは、理想論ではなく、循環を可能にする条件をどこまで具体的に設計できるかである。UK Textiles Pactの8つの指標は、その問いに対する、現実的な道筋を示している。
Edited by k.fukuda
本記事は、特集「物語をまとう——つくる人、着る人、つながる世界」に収録されている。布や色の奥に重なる時間や人の気配。世界とのつながりを形づくるその輪郭に、静かに目を凝らしてみたい。ほかの記事もあわせて、より多角的な視点を見つけよう。
特集|物語をまとう——つくる人、着る人、つながる世界
私たちは毎日、何かをまとって外へ出る。
布や色、肌に触れる感触。その奥には、時間や人の気配が静かに重なっている。まとうという行為は、身体を守るだけでなく、世界との距離やつながりをかたちづくっているのかもしれない。
その輪郭に、静かに目を凝らしてみたい。





























丸山 瑞季
大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。( この人が書いた記事の一覧 )