バタフライダイアグラムとは
バタフライダイアグラムとは、「サーキュラーエコノミー」の概念を視覚的に表現した図である。資源の効率的な使用や廃棄物を減らすことを目指し、持続可能な経済活動を支える指針の一つだ。
イギリスのエレン・マッカーサー財団によって提案され、左右対称の蝶(バタフライ)の羽の形状に似ていることから名付けられた。中央と左右2つの羽で構成され、異なるモデルを示している。
中央部分は、生産者から消費者に届くまでの流れを指しており、物の流通と利用までの過程が描かれている。一方で左右の羽部分は、資源や製品の循環を表している。
上記の図では、中心部に近づくほど環境への負荷が軽減される仕組みだ。例えば、リサイクルよりもリユースや修理といった取り組みの方がより効果的とされ、可能な限り中心に近い循環を目指すことが推奨されている。
概念図が生まれた背景
経済成長を追い求めた結果、モノを大量に生産しては廃棄することを繰り返してきた現代社会。その一方で、資源は有限であり、環境への影響を無視できない状況が浮き彫りになってきた。
これまでの「資源を節約する」「効率的に使う」といった手法では、資源枯渇の問題を一時的に遅らせるにすぎず、長期的な解決には至らない。こうした課題を踏まえ、エレン・マッカーサー財団は「廃棄物を出さない」という発想へと転換した。
この考え方は、「ごみは資源である」という視点を重視している。資源や製品を価値ある形のまま循環させる仕組みを構築し、廃棄物そのものをなくすデザインの追求が目指された。こうして、廃棄物を「経済の一部」として再統合する新しい枠組みが生まれたのだ。
「サーキュラーエコノミーの3原則」

概念図を理解する前に、循環モデルの基盤となる原則を説明したい。ここでは、以下の3つの要素について詳しく見ていく。
①廃棄物と汚染を生まないように設計する
1つ目の原則では、製品やサービスの設計段階から「廃棄物や汚染の発生を根本的に防ぐこと」を目指している。従来の経済モデルでは、廃棄物が出た後で対策を講じることが一般的であった。しかし、この原則では「そもそも廃棄物を発生させない仕組み」を設計に組み込んでいる。
例えば、再利用しやすい素材を採用した製品設計や、長く使える耐久性の高い製品を作るといった方法が挙げられる。また、製造の過程においても環境に優しい技術や方法を取り入れたり、汚染を減らしたりする工夫も重要だ。このような設計により、環境負荷を削減しながら、資源の効率的な利用が可能となる。
②製品と原材料を使いつづける
2つ目の原則は、「製品や原材料を可能な限り長く使い続けること」を目指す考え方である。廃棄物を減らすだけでなく、新たな資源の採掘や製造にかかる環境負荷を抑えることが重要だ。製品を使う側が再利用や修理を意識し、資源そのものや、それを得るために必要としたエネルギーや労力までも大切にすることが求められる。
例えば、製品を設計する段階から耐久性を高めることや、部品の交換・修理がしやすい仕様への変更が有効だ。また、不要になった製品は捨てるのではなく、形を変えて新しい製品として生まれ変わる仕組みを整えることも重要視されている。例えば、使用済みプラスチックを溶解して新たな原材料として活用する取り組みがその一例である。
③自然システムを再生する
3つ目の原則では、「自然界の持つ本来の循環機能を回復させ、さらに強化すること」を目指している。自然に悪影響を与える速度を緩めるだけでなく、そもそも私たちの行動を変え、自然環境を積極的に再生・改善することが求められる。
具体的には、土壌の劣化を防ぐための改良や、生物多様性の回復を促進する取り組みが挙げられる。例えば、ミツバチが巣を作りやすい環境を整えることは、植物の受粉を助け、農作物の生産性を高めることにつながる。また、農業分野では「アグロフォレストリー(森林農法)」などの方法を採用し、自然と共生する形で生産活動を行う事例も注目されている。
2つの循環サイクル
左右の羽には、循環型経済の要となる2つのサイクルが描かれている。「生物サイクル」と「技術サイクル」だ。2つの循環は、持続可能な社会を実現するための仕組みを示している。
技術サイクル
左側の羽には、化学燃料や鉱物資源など、自然に戻すと環境に悪影響を及ぼしかねない資源の循環(ストック資源管理)が示されている。これらは「枯渇性資源」と呼ばれ、使えば使うほど減少するとされているが、その価値を維持しながら再利用していくための仕組みが要点となる。
例えば、製品をメンテナンスしたり修理したりして寿命を延ばし、再配分やリユースで次の利用者につなげる取り組みが挙げられる。さらに、部品レベルまで分解して再製造し、新たな価値を持つ製品を生み出す方法も採用される。
最終的には、素材を原材料に戻し、新たな製品の生産に利用する。こうして「価値の循環」が実現され、限りある自然を守ることが可能となるのだ。
ここでの目的は、計画的に短命製品を生産することから脱却し、長く使える持続可能な製品を普及させることにある。限られた資源を最大限に生かしながら環境負荷を軽減し、持続可能な経済モデルを推進していくことが期待されている。
生物サイクル
右側の羽は、木材・食品・綿などの自然界で再生可能な資源が循環する仕組み(再生資源フロー管理)を指している。消費された後に自然の仕組みの中で再生され、再び利用可能な形に戻るまでが示されている。例えば、使い終わった食品廃棄物を堆肥化して土壌の栄養に変えることで、新たな作物の栽培に役立てるといった循環がその一例だ。
ここでは、資源の「カスケード利用」が重視される。これは、使用済みの資源を別の用途に変更したり、規模を変えたりしながら、段階的に再利用する取り組みを指す。例えば、建築材料として使用される木材は、その後家具や紙チップ、そして最終的には堆肥といった形で活用される。資源がその寿命を終えるまで、可能な限り利用される仕組みが特徴だ。
また、生物サイクルはCO2排出量を抑制する役割も果たしている。生物由来の廃棄物をバイオマスエネルギーとして転換することで、環境負荷を軽減できる。資源の有効活用だけでなく、持続可能な自然環境の維持にもつながっているのだ。
バタフライダイアグラムの特徴

バタフライダイアグラムは、その独自の特徴によって、循環型経済の本質をわかりやすく表現している。以下では、主な特徴を3つの視点から解説する。
中心に近いサイクルほど優先度が高い
資源の循環においては、中心に近い小さなサイクルほど優先される。これには、製品の共有(シェアリング)・再利用(リユース)・修理(リペア)などが含まれる。これらの取り組みは、製品の価値を最小限のエネルギーや資源で保ちながら、長期間にわたって利用し続けることを可能にする。
一方、外側にあるリサイクルや解体は、追加の資源やエネルギーを必要とし、効率が劣るとされる。こうした理由から、できる限り中心部に近い循環を優先する設計が求められている。
2つのサイクルは別々に捉える
「技術サイクル」と「生物サイクル」で示される2つの循環は、明確に区別されている。これらを別々に扱うことは、環境への影響を最小限に抑えるために重要だ。
例えば、木材と金属が混ざると、それぞれの資源が適切に再利用されない可能性がある。そのため、設計段階から両者を分離して管理する工夫が必要である。
「リサイクル」は最終手段
リサイクルは重要な取り組みであるものの、バタフライダイアグラムでは「最後の手段」とされている。どうしても資源やエネルギーの投入が必要となり、効率が低い側面があるからだ。図でも一番外側に描かれているのはそのためである。
つまり、製品の修理・再配分・部品の再製造など、価値を維持しながら循環を行う方法の優先度の方が高くなる。このような考え方は、単なる資源循環にとどまらず、環境負荷を抑える効率的なシステム構築を目指したものである。リサイクルを最終手段と位置付けることで、廃棄物の発生を根本的に減らすという目標に近づくのだ。
まとめ
近年、従来の生産と廃棄を繰り返すリニアエコノミーから抜け出し、資源を効率的に循環させる経済への移行がますます重要視されている。環境への影響を軽減し、資源の有限性に対処することが求められているのだ。
循環型社会を実現するには、個人・企業・政府といったあらゆる立場の理解と協力が必要となる。また、私たち一人ひとりの行動変容が伴うことで、バタフライダイアグラムの考え方が実践される。単なる理論にとどまらず、未来の地球を守るための指針となる概念として捉えていくべきものである。
参考記事
The Butterfly Diagram: Visualising the Circular Economy
サーキュラーエコノミーについて|経済産業省
サーキュラーエコノミーとは?|産総研マガジン
サーキュラーエコノミー|東京都環境公社
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