ReBOOTが育む“修理する社会”。ポルト発、ノートPC循環プロジェクト

電子ゴミの多くは修理可能な状態で廃棄されており、資源の損失につながっている。ポルトガル第二の都市ポルトでは、市民や企業から集めた中古ノートPCを修理・再生し、必要とする団体へ届ける循環型プロジェクト「ReBOOT」が始動した。修理の文化を育み、廃棄物削減とデジタル格差解消の両立を目指す仕組みを紹介する。

ReBOOTがつくるパソコン循環の仕組み

ReBOOTが育む“修理する社会”。ポルト発、ノートPC循環プロジェクト2

電子ゴミ(E-waste)は、世界的な課題となっている。国連の報告書によれば、2022年に世界で排出された電子ゴミは約6,200万トンに達し、2030年には8,200万トンに達すると予測されている。

これらの多くは修理可能な状態で廃棄されている。貴金属などの資源が含まれているにもかかわらず、適切に回収・リサイクルされるのは全体の20%未満に過ぎない。残りは家庭に放置されるか、埋め立て地へ送られているのが現状だ。

ポルト市が主導する「ReBOOT」プロジェクトは、この問題にサーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方で取り組んでいる。ReBOOTは、不要になったコンピュータを「廃棄物」ではなく「資源」として捉え直す。市民や企業が使用しなくなったノートPCやデスクトップPCなどの機器は、ポルト市や提携する廃棄物管理会社を通じて回収される。回収された機器は廃棄されるのではなく、訓練を受けた市民や専門家の指導のもと、修理セッションやリペアカフェで再生される。再生された機器にはオープンソースのOSが搭載され、実用可能な状態に戻される。参加者は修理技術を習得しながら、「修理する文化」の担い手へと育っていく。

修理・再生が完了した機器は、IT機器を必要とする社会福祉団体(IPSS)などの非営利組織へ提供され、デジタル格差の解消に貢献する。ReBOOTは、機器の寿命を最大限に延ばすことで、電子ゴミの削減という環境的な効果と、デジタルアクセス向上という社会的な効果を同時に実現している。

このプロジェクトが単なるリサイクル活動と一線を画しているのは、「修理による価値創造」と「知識の共有」に重きを置いている点だ。機器を分解して素材に戻すリサイクルではなく、修理して再び使える状態にするアップサイクルの手法により、エネルギー消費や天然資源の使用量を大幅に抑えられる。


リファービッシュとは

官民協働で育てる“修理文化”

ReBOOTが育む“修理する社会”。ポルト発、ノートPC循環プロジェクト3

ReBOOTプロジェクトの特徴は、ポルト市をハブとした官民協働体制にある。行政・スタートアップ企業・教育機関・廃棄物管理会社に加え、市民団体も一体となって推進されている。

プロジェクトには、ポルト市・Porto Digital・ERP Portugal・LIPORといった公的機関や企業が参画している。ポルト市はプロジェクトの主催者として、回収スキームの確立やイベントの開催を主導した。

特筆すべきは、地元のイノベーターとの連携だ。市は、循環型経済への取り組みに実績のあるスタートアップ企業「Recycle Geeks」と協働している。Recycle Geeksは、中古機器から回収した部品をオンライン再販し、その利益を寄贈者・Recycle Geeks・寄贈者が選んだ非営利組織の3者で分配するという独自のビジネスモデルを持つ。行政が柔軟な発想を持つスタートアップと連携することで、限られた予算の中でも社会的な価値を創出している。

また、「修理を当たり前にする文化」を育むため、市民への教育・啓発活動が重視されている。市内の大学や、ポルト大学内にあるスタートアップ支援施設などで定期開催されるトレーニングセッションとリペアカフェでは、市民は自分の機器の修理方法を学んだり、寄付された機器の修理に協力したりできる。修理のノウハウを身につける機会となり、「修理する権利」の精神を日常生活に根付かせる試みである。

さらに、公共サービスの仕組みづくりの面でも行政は積極的に動いている。既存の廃棄物法が再利用の障壁とならないよう、ポルト市は廃棄物管理会社と協力し、損傷したコンピューターを「廃棄物」ではなく「使用不能機器」としてラベリングするルールを確立した。法規制の側面からも、修理・再利用を前提とするシステムの構築を進めていている。

ReBOOTでは、行政が主導しながら、市民が参加し企業が専門知識を共有するという官民協働を通じて「修理文化」を社会全体に浸透させている。



小さな修理がもたらす大きな循環効果

ReBOOTが育む“修理する社会”。ポルト発、ノートPC循環プロジェクト4

ノートPC一台の修理は、個人の小さな行動に見えるかもしれない。しかし、ReBOOTが目指す循環効果は決して小さいものではない。

ポルト市は、2023年12月までに500台のノートPCを回収・修理することを目標に掲げていた。この目標が達成されれば、CO2換算で約70トンの削減が見込まれる。ノートPC1台の製造には膨大なエネルギーと天然資源が消費されるため、廃棄を避け再利用することで、環境負荷を大幅に削減できる。

また、社会的な効果も大きい。修理された機器は、IT機器を必要とする社会福祉団体に寄付される。機器を受け取った団体は、そのPCを教育や情報収集、社会活動に利用できるため、デジタル格差の解消に直接つながる。ReBOOTプロジェクトでは、これまで38の社会福祉団体をサポートし、修理セッションの参加者も83名に上るなど、着実に影響を広げている。

小さな行動に見えることでも、大きな循環を生み出すきっかけになり得る。企業は不要な機器を廃棄物として処理するのではなく、寄付という形で社会貢献と環境負荷軽減につなげられる。市民も、専門家でなくても修理に参加し、自らのスキルアップと社会貢献を両立できる。

高度な技術や大規模なインフラに頼るのではなく、地域に既に存在する資源(中古機器)と知識(修理スキル)を最大限に活用することは可能だ。誰でも、どこでも、低予算で始められる。

自分の使っている機器を長く使い続けることや、修理セッションに参加して知識を得ることは、この循環の一部となる。私たちもポルト発のプロジェクトから学び、「修理を前提とする社会」の実現に向けた小さな行動を始めるべきかもしれない。

Edited by k.fukuda

参考サイト

ReBOOT Porto
Project ReBOOT|Ellen MacArthur Foundation

About the Writer
丸山瑞季

丸山 瑞季

大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。この人が書いた記事の一覧

Related Posts