
近年注目が高まる「食品ロス問題」。その裏には、私たちの目に触れることのない「かくれフードロス」が存在する。生産や加工で生まれる野菜の端材や規格外品だ。独自技術でこの問題に挑む日本のフードテックベンチャー「ASTRA FOOD PLAN」が創り出す、新しい食の循環と持続可能な社会のあり方を探る。
廃棄をおいしさに変える。「ぐるりこ®」が実現する食のアップサイクル

私たちの食卓に届く食品の多くは、加工工場でさまざまな工程を経て作られている。しかしその過程で、大量の野菜の端材や規格外品が発生している。形が不揃いなだけで、本来は食べられるはずのものだ。こうした食材は通常、廃棄物として処理されるが、フードテックベンチャー「ASTRA FOOD PLAN」は新たな解決策を提示している。
同社が開発したのは、食品の乾燥・殺菌装置「過熱蒸煎機」だ。約400度の超高温スチームを使い、わずか5〜10秒で食品を乾燥・殺菌する。食材の風味や栄養価を損なうことなく、廃棄されるはずだった食材が高品質な食品パウダーに生まれ変わる。
こうして作られる高付加価値パウダーの総称が「ぐるりこ®」だ。過熱蒸煎機内で原料がぐるぐると回転する様子と、循環型社会を意味する「ぐるり」、そして粉の「こ」を組み合わせた造語である。捨てられるはずだった食材に新たな命を吹き込み、食の循環を生み出すことを目指している。
「ぐるりこ®」の最大の特徴は、芳醇な香りと高い栄養価だ。例えば、大手牛丼チェーンの加工工場で出るタマネギの芯や端材を原料にした「タマネギぐるりこ」は、一般的な乾燥オニオンパウダーと比較して、香り成分が最大135倍も強い。また、熱に弱いビタミンCなどの栄養素も破壊されずに残るため、健康面でも優れている。
「ぐるりこ®」は、調味料としてそのまま料理に振りかけたり、炒めタマネギの代用として使ったりと、さまざまなシーンで活用できる。パンやお菓子作りの材料にもなり、用途は多岐にわたる。「タマネギぐるりこ」をベースにした食べるソース「旨味しょうゆ」のように、ペースト状での活用も可能だ。
ASTRA FOOD PLANは、廃棄物をリサイクルするだけでなく「おいしさ」を追求することで、アップサイクルの価値を広げようとしている。エシカルな取り組みへの共感だけでなく、純粋に「おいしいから」という理由で選ばれることを目指している。
見えない「かくれフードロス」とは何か

「食品ロス」と聞いて、スーパーの売れ残りや家庭での食べ残しを想像する人は多いだろう。これらは「可食部」のロスとして、年間約500万〜600万トンが発生していると推計されてきた。農林水産省によると、2023年度の食品ロスは464万トン。年々減少傾向にあるとはいえ、これは東京ドーム約3.7杯分に相当する量だ。
しかも、この数字には食べられる部分以外の「不可食部」や、規格外品として捨てられる食品は含まれていない。これが「かくれフードロス」だ。かくれフードロスとは、野菜の芯や皮、ヘタといった不可食部分や、生産・加工段階で生じる規格外の農作物や端材のことだ。統計上の「食品ロス量」にカウントされないため、その実態はあまり知られていない。
しかし、その量は膨大だ。農林水産省の推計によると、2023年度の「食品由来の廃棄物等」の総量は2,104万トンにのぼり、可食部のロスの約4.5倍に達する。産地で発生する規格外や生産余剰作物を含めると、その量はさらに増える。
かくれフードロスを削減することは、環境負荷の軽減だけでなく、経済的なメリットも大きい。例えば、廃棄コストをかけていた食品加工業者は、そのコストを削減できるだけでなく、新たな収益源を生み出す可能性も広がる。
吉野家ホールディングスの野菜加工センターでは、1日に最大700kg出ていたタマネギの端材を、過熱蒸煎機で「タマネギぐるりこ」に加工し、ほぼ全量のアップサイクルに成功した。従来かかっていた年間数百万円の廃棄コストをなくせたという。
「もったいない」を価値に変える、新しい食の循環

日本には古くから「もったいない」という言葉がある。「無駄にしない」という意味だけでなく、資源や物に対する感謝や畏敬の念、それらを大切に使うという精神を表している。この精神は、現代の持続可能な社会づくりと深く結びついている。
ASTRA FOOD PLANの取り組みは、こうした価値観を体現した一例だ。「もったいない」という感覚を、エシカルな消費行動ではなく、「おいしさ」という誰もが共感できる価値に変換している。ただし、このアプローチが広く受け入れられるかは、製品の品質と価格、そして消費者の選択にかかっている。
「かくれフードロス」への取り組みは、他の企業や研究機関でも始まっている。食品加工の過程で出る廃棄物や、規格外で市場に出回らない農産物を、高品質な食品原料や調味料に変える技術開発が進む。ビール製造時に出る酒粕の活用や、野菜くずから採れる出汁など、多様なアップサイクル製品が登場し、新たなサプライチェーンが構築されつつある。
一方で、課題も残る。加工装置の導入コストや、アップサイクル製品の認知度向上、流通網の整備など、社会全体での取り組みが必要だ。
私たち消費者にできることは何か。アップサイクル食品を試し、その品質を評価すること。企業には、技術革新とともに、透明性のある情報発信が求められる。フードロスを価値に変える食の循環は、生産者、企業、消費者それぞれの選択から生まれていく。
Edited by k.fukuda
参考サイト
ぐるりこ
ASTRA FOOD PLAN、新感覚クラフト調味料「タマネギぐるりこ」新シリーズ “食べるソース”「旨味しょうゆ」を新発売
ぐるりこ(法人向け)|ASTRA FOOD PLAN株式会社
“かくれフードロス”問題解決実現へ、ASTRA FOOD PLANが食品ざんさ再生装置『過熱蒸煎機』の販売を開始























丸山 瑞季
大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。( この人が書いた記事の一覧 )