車依存からの脱却を実証。アメリカの砂漠都市「カルデサック」が示す15分都市モデル

車社会の代表格であるアメリカの砂漠都市アリゾナ州に誕生した「カルデサック」は、アメリカ初の車禁止住宅街として15分都市を実現。徒歩圏内に生活施設を集約し、住民1000人で年間3000トンのCO2削減を見込む。地中海風の白い建物で暑さ対策も兼ねたこの先進モデルは、人口減少に悩む日本の都市計画にも新たな可能性を示している。

徒歩15分圏にすべてが揃う「砂漠の完結型都市」

アメリカの多くの地域では、移動のほとんどを車が占めている。特にカリフォルニア州ロサンゼルスでは、巨大なアスファルトの網目のように道路が張り巡らされ、交通渋滞にうんざりしつつ、単調な郊外生活を余儀なくされてきた。自動車中心の都市設計は、大気を汚染し人々の孤立を深め、街をますます暑くしている。

しかし、このような車社会の象徴ともいえるアメリカの地で、大きな変化が起きている。アリゾナ州テンピに位置する「カルデサック」は、現代においても自動車に依存しない「車の乗り入れを禁止する都市」の実現が可能であることを証明している。

カルデサックのコンセプトは、すべての生活必需品を徒歩15分圏内に集約する「15分都市」である。歩くことを前提とした「ウォーカブルシティ」として設計されており、飲食店やショップ、コンビニ、診療所、さらにはドッグラン・プール・ジム・コワーキングスペースといった施設が整備され、住民は多くの用事を徒歩で済ますことが可能だ。

車は通らないものの、モビリティが充実している点がカルデサックの大きな特徴である。遠方へ出かける際は、ライトレール(路面電車)が直結しており、フェニックスのダウンタウンや空港へも簡単に行ける。さらに、自動運転の電動ロボタクシーやシェア電動自転車も利用可能だ。


リバブルシティとは 住みやすい都市に求められる条件や世界の事例を紹介

車道がないことで生まれる利点

地中海を思わせる白い建物と、密集した配置もカルデサックのユニークな点である。建築家たちは、イタリアやギリシャの街並みから着想を得て、自動車が普及する以前の、人が快適に過ごすために設計された街の構造を再現した。

白い外壁は太陽光をよく反射し、密集した建物は互いに日陰を作り出す。2023年にハーバード大学の研究者が行った調査では、夏の猛暑が厳しいテンピにおいて、カルデサック内の地表温度が周辺の舗装路より約17〜22℃低いことが確認された。そしてアスファルトがないことも、この「微気候」に貢献している。

また、車道がないことで生まれたスペースは、広場や歩道、そして公共の場へと姿を変えた。住民たちは広場でグラスを合わせ、会話を楽しみ、コーンホールのゲームに興じる。歩行者専用の小道は、住民同士の偶発的な交流を生み出し、孤独感を和らげる効果もある。

カルデサックでは、ジェームズ・ビアード賞にノミネートされたメキシコ料理店やDIY陶芸、キャンドル作りのスタジオに自転車店など、小さな店が軒を連ね街全体を賑わせている。街では商売と暮らしがごく自然に溶け合っており、店主の中には住民も多く、アパートを拠点に事業を営むことも可能だ。

徒歩圏内に生活機能を集中させることで、コンパクトシティとしての利便性を追求しながら、同時に自動車に頼らず徒歩や公共交通機関で快適に移動できる街づくりの理想的な姿を体現しているのである。

年間3,000トンのCO2削減を実現する環境設計

カルデサックは、持続可能な都市モデルとして、カーボンニュートラルの実現を視野に入れた設計を採用している。

その中核をなすのが、自動車からの脱却だ。

国連の報告によると、自動車から公共交通機関・自転車・徒歩へと移動手段を切り替えるだけで、個人のCO2排出量を年間2.2トン〜3.6トン削減できるという。つまり、数年後の完成時には約760戸の住居と1,000人の住民を収容する計画であるカルデサックでは、住民全員が車中心の生活から脱却することで、約3,000トンの温室効果ガス排出削減が見込まれる。

エネルギー面でも、持続可能な取り組みが随所に見られる。地中海風の建築デザインはただ美しいだけでなく、街全体の暑さを和らげ、エアコンの使用を抑える機能を持っている。そのため、電力消費量を大幅に削減することが可能だ。

さらに、カルデサックはエネルギー効率の高い設備を導入し、太陽光発電などの再生可能エネルギーの活用も推進している。水資源についても、乾燥した砂漠地帯の気候に合わせた節水技術や、雨水の再利用システムが検討されている。

このように、カルデサックは自動車から脱却するだけでなく、エネルギーや水資源においても持続可能な都市モデルを追求している。個人の行動変容を促すだけでなく、都市全体として環境負荷を低減する包括的なアプローチだ。


ゼロエミッションとは?カーボンニュートラルとの違い・世界の現状と取り組みを解説

人口減少社会の日本が取り入れるべき都市モデルとして

カルデサックの事例は、日本の都市が抱える課題、特に人口減少と地方創生に新たな視点をもたらす。

現在、日本の地方都市の多くは、車依存という課題を抱えている。郊外に広がる生活圏に対応するため自家用車が欠かせない存在となり、公共交通機関の利用者も減少傾向にある。その結果、さらに多くの人々が車に頼らざるを得ない状況を生み出している。高齢化が進むにつれ、自家用車の運転が困難になる「買い物難民」や「通院難民」といった問題も深刻だ。

このような状況において、カルデサックのような「15分都市」モデルは、日本の既存市街地を再生させるための手本となりうる。都市の中心部に生活機能を再集約し、歩いて暮らせる「ウォーカブルシティ」を目指すことで、生活の利便性が向上し、環境への負荷も減らせる。

しかし、既存市街地への適用には、課題も多い。まず、車依存の生活に慣れた住民たちの理解を得ることや、歩いて暮らせる街にふさわしい店舗をどう誘致するかが問題だ。また、広大な駐車場や車道を再利用する方法や物理的な課題も山積している。

これらの課題を解決し、カルデサックのような都市モデルを日本で実現するためには、政府や地方自治体の積極的な支援が不可欠だ。コンパクトシティの実現に向けたロードマップを策定したり、規制緩和や補助金制度を設けて民間セクターの開発を促す必要がある。例えば、カルデサックのように住宅と商店が一体となった「職住近接」の暮らしを可能にするためのゾーニング規制の見直しや、コミュニティを活性化させるためのイベント開催への助成金も有効だろう。

カルデサックは、アメリカという車社会の象徴的な地で、「車がなくても人々は快適に、そして幸せに暮らせる」ことを証明した。この実験的な都市モデルは、未来の都市像を考える上で、私たちに多くのヒントを与えてくれる。日本でも、この成功事例を参考にしながら、持続可能で人々が互いにつながりあう新しい都市づくりを進めるべき時期に来ているのかもしれない。

Edited by k.fukuda

参考サイト

‘It’s like being in Greece’: The US neighbourhood where cars are banned|BBC

本記事は、特集「『移動』とは何か——AI時代に考える、移動の意義」に収録されている。動かなくても生きられる時代に、私たちはなぜ動くのか。 AI時代における移動の意味を、人間と社会の関係から見つめ直す。ほかの記事もあわせて、より多角的な視点を見つけよう。

動きやすさを、都市がつくる。 富山市に見る「まちなかの移動」のデザイン
動きやすさを、都市がつくる。 富山市に見る「まちなかの移動」のデザイン
previous arrow
previous arrow
next arrow
next arrow
About the Writer
丸山瑞季

丸山 瑞季

大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。この人が書いた記事の一覧

Related Posts