
あなたのクローゼットには、まだ着られるのに眠っている服はないだろうか。大量消費・大量廃棄が当たり前の現代で、修理やリメイクを通じてモノと長く付き合う「お直し文化」が改めて注目を集めている。本記事では、お直し文化が広がる背景や取り組み事例、私たちにもたらす価値を説明する。
モノが投げかける、現代社会への疑問

現代では、大量生産・大量消費が当然の仕組みとなり、次々と新商品が生み出される一方で、古い製品は簡単に廃棄されている。ファッション業界を例に取ると、流行のサイクルが短くなり、わずか数シーズンで商品が入れ替わる状況が続いている。スマートフォンやパソコンなども機能的には十分使えるにもかかわらず、新モデルの登場とともに使っている機器を手放す人もおり、旧機種は時代遅れとして扱われてしまう。
環境省によると、「調達、生産、消費、廃棄」という一方通行の流れを作る「線形経済(リニアエコノミー)」は、資源の無駄遣いを加速させ、気候変動問題や天然資源の枯渇など深刻な環境問題を引き起こしている。
そんな中で改めて注目されるお直し文化は、使い捨ての社会から持続可能な社会への転換を象徴する動きといえるだろう。
お直し文化が見直される背景

お直し文化へ関心が高まっている背景には、先述の通り「大量生産・大量消費・大量廃棄」の現代社会が抱える問題への反省がある。
特にファッション業界は、水の消費量が膨大かつ温室効果ガスを大量に排出する産業として指摘されるようになった。また流行のサイクルが早くなり、消費者は次々と新しい商品を求めているため、生産のサイクルも短くなっている。
さらに深刻なのは廃棄の実態である。環境省が2022年度に実施した調査によると、国内に新たに供給される衣料品の約92%が使用後に手放され、そのうち約64%がリユースもリサイクルもされずに廃棄されている(*1)。年間約100万トンもの衣料品がゴミとして処分されているのだ。
現代社会の「安く、新しく」を追求しながらの買い物は、一時的には満足感を得られる。しかし、新しい商品を買った時の高揚感は数日で薄れ、またすぐに新たな欲しいものを探し始めるという無限ループに陥りがちだ。
一方、「長く、大切に」使う生活は、長期的な目で見ると精神的な豊かさが得られるとして、改めて見直されている。たとえば、祖母から受け継いだアクセサリーを修理して身に着けたり、愛用のジーンズのダメージ部分に刺繍を施して自分好みにアレンジしたりすれば、モノに新たな価値を生み出せる。
お直し文化は、資源の無駄遣いを防ぐだけでなく、消費に頼らない充実感を得られる新しいライフスタイルとして支持を集めているのだ。
お直し文化をリードする取り組み事例

国内外でお直し文化を推進する取り組みが広がっている。ここでは、3つの取り組み事例を紹介する。
ユニクロ
国内外で幅広い年代に愛されるファストファッションブランドのユニクロは、近年「RE.UNIQLO STUDIO」というリペア・リメイクサービスを展開している。
サービスでは、簡単な補修は500円から(*2)という手頃な料金設定を実現し、店内のミシンで手短に修理を行うものもある。また、刺繍のデザイン見本から選択するオーダーメイドのリメイクサービスも提供し、顧客の要望や予算に応じて柔軟に対応している。さらに、単なる補修にとどまらず、古いユニクロ製品を新しいアイテムにアップサイクルするサービスを実施しているのも魅力的だ。
ユニクロを展開するファーストリテイリンググループは、企業理念として「LifeWearを手にするごとに、世界全体が豊かになる事業」を掲げ、服が捨てられることのない世界の実現を目指している。多くの人にとって身近な存在であるユニクロが「お直しして長く使う」という選択肢を提示することで、消費者の購買行動に影響を与え、企業の社会的責任を果たしているのである。
パタゴニア
アウトドアブランドとして知られるパタゴニアは、1988年から修理サービスを提供している企業だ。
修理サービスの「Worn Wear」プログラムでは、年間約2万件(*3)もの修理を手掛け、不要になった製品の買い取りも行っている。Worn Wearでは「修理することの価値」を大切にしており、パタゴニア製品の寿命を延ばして地球への負担を軽減することを目指している。
パタゴニアの取り組みは企業理念と実際の行動が一致しているため、消費者に共感されている。「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」という企業理念を持って本気で環境問題に向き合う姿勢が、「モノを修理して長く使う」というWorn Wearのメッセージと通じ、消費者の支持を得ているのだ。
暮らしに根付く「リペアカフェ」
地域レベルでお直し文化を支えているのが、「リペアカフェ」と呼ばれる存在だ。
リペアカフェは、オランダ発祥の取り組みで、現在世界2,500箇所以上(*4)で運営されている地域密着型の修理支援活動である。修理に必要な道具や材料が用意された空間で、地域のボランティアが壊れたモノの修理をサポートしている。
リペアカフェの魅力は、衣類から電化製品、家具まで幅広いジャンルのモノの修理を扱っている点と、消費者自らの手で修理を行える点の2点が挙げられる。また、修理の知識を持つ人からアドバイスを受けながら自分でお直しする中で、新しい技術を学んだり、同じ趣味を持つ人と出会ったりする機会も生まれる。
また、リペアカフェはモノを直す場所としてだけでなく、お直しを通じて人々のつながりを生み出し、地域コミュニティの結束を深める役割も果たしている。
お直し文化がもたらす「内面的な豊かさ」と「新しい価値」

お直し文化が生み出す内面的な豊かさと新しい価値とは何なのだろうか。ここでは、心理的効果と経済的・環境的価値の二面からお直し文化がもたらす影響を探っていく。
心理的効果
お直しをすると、モノに対する気持ちが変わり、買った時以上に愛着を感じるようになる。たとえば、お気に入りのTシャツに小さな穴が開いてしまったとき、捨ててしまうのではなく、可愛らしいワッペンを当てて直したとする。するとTシャツのワッペンを見るたびに、自分で直した達成感とともにそのモノがより特別に感じられるようになり、愛着が増すのだ。
また、お直ししたモノには「自分だけの物語」が宿る。新品の靴はどれも同じように見えるが、何度も修理を重ねながら履き続けた靴はまったく違う。ソールを張り替えた時や紐を新しくした日の記憶、汚れを落とした時間など、思い出が靴に刻まれていくのだ。たとえ他の人が同じモデルを履いていたとしても、お直ししたモノには唯一無二の存在として思い入れが深くなり、長く愛用できるようになる。
経済的・環境的価値
お直しは、経済的にも環境的にも価値がある。まず経済的な面から考えると、修理は経済的に優しい選択になるケースが多い。たとえば、3万円で買ったブーツの靴底がすり減ってしまった場合、新品を買い直せば再び3万円かかる。しかし靴底の張り替えならば3,000円程度(*5)で、新品のような履き心地を取り戻せるのだ。
海外では、修理費用の一部を補助してくれる制度を設けている国もある。日本でも、手頃な価格で修理しやすい仕組みが広がれば、より多くの人が修理を選ぶようになるだろう。
環境面で考えてみると、モノを修理して長く使えば、新しいモノを作る必要がなくなる。たとえば、ジーンズの裾がほつれた時、新品を買わずに直せば、新しいジーンズを作るために必要な大量の水や電気を使わずに済む。修理文化が浸透すれば、大量生産・大量廃棄のサイクルが断ち切られ、資源やエネルギーの使用量も減るため、環境負荷の低減につながるのだ。
モノを大切にする暮らしが描く未来

お直し文化は、環境保護や節約のためだけに必要なものではなく、私たちとモノとの関係を見直し、毎日の暮らしに充実感をもたらしてくれるものなのだ。お直しを通じて得られる達成感や思い出が刻み込まれたモノに愛着が深まる感覚などは、お金では解決できない心の豊かさだといえる。
「修理して長く使う」選択が当たり前になると、社会はどう変わるだろうか。消費者は大量生産・大量廃棄に頼らず、自分が持っているモノを大切にする持続可能な社会が実現していくはずだ。
まずは、身の回りにある使わなくなったものを捨てずに、修理してみてはいかがだろうか。
Edited by s.akiyoshi
注解・参考サイト
注解
(*1)環境省「令和6年版環境白書」
(*2)ユニクロ公式サイト「RE.UNIQLO STUDIO」
(*3)Gore-tex「修理して長く着ることが、当たり前の世界に。リペアサービスを通じて Patagoniaが実現したいこと。」
(*4)リペアカフェ公式サイト
(*5)靴修理レスキュー
参考サイト
環境省「令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」
経済産業省「資源循環経済政策の現状と課題について」
株式会社ダイアモンド・リテイルメディア「服に愛着を生む リ・ユニクロスタジオのリペア&リメイクサービスとは」
パタゴニア「Worn Wear」
一般社団法人エシカル協会「リユース推進に向けた提案」
環境省「ACTIONS ファッションと環境へのアクション」



























エリ
大学時代は英米学科に在籍し、アメリカに留学後は都市開発と貧困の関連性について研究。現在はフリーライターとして、旅行・留学・英語・SDGsを中心に執筆している。社会の中にある偏見や分断をなくし、誰もが公平に生きられる世界の実現を目指し、文章を通じて変化や行動のきっかけを届けることに取り組んでいる。関心のあるテーマは、多様性・貧困・ジェンダー・メンタルヘルス・心理学など。趣味は旅行、noteを書くこと、映画を観ること。( この人が書いた記事の一覧 )