政治に「敵」は本当に必要?私たち有権者が考えるべきこと

政治の世界で「敵」を作ることが当たり前になっている。SNSで対立を煽る投稿が増え、Z世代も分断の構造に巻き込まれている。2025年参院選では期日前投票が過去最高を記録し、政治への関心は高まる一方で、感情に訴える「エモーショナル・ポリティクス」が浸透。協調を重視する新しい政治の可能性を探る。

Z世代が直面する政治の現実

現在の選挙活動にはネット選挙が欠かせない。選挙投票日前にSNSの投稿や動画コンテンツのおすすめで政治に関連した内容が多く流れてきた経験は多くの人が持っているはずだ。

公式だけではなく、支援者による切り抜き動画や個人による政治批判など語られる内容は幅広い。また、SNSから「投票に行こう」と呼びかける芸能人の動きも多く見られる。

直近の2025年7月の参院選では投票率は58.51%と2010年以来の55%超となり、期日前投票は2618万人と衆参あわせて過去最多になった。(*1)今回の参院選では多くの人々の政治参加への関心が高まったということを示している。

一方で、世代別の投票率で見てみると18・19歳の投票率は41.74%(*2)と低水準が続いており、若者の声が政治に届きにくい状態だ。

日常的に目にするTikTokやInstagramでは「〇〇が日本をダメにしている」など、誰かを悪者にするような投稿が広く出回っている。

本来なら、政治への意見は投票で伝えるべきだが、選挙に行かない代わりに、感情的な投稿や分断的な言葉が“意見”のように扱われてしまう場面が多々ある。

私たちは、知らないうちに「誰かを敵にする空気」に慣れてしまっていないだろうか。


スケープゴート

ポピュリズム時代の「敵」設定と新しい政治手法

私たちが日々触れているSNSは自分と似た価値観や見解の情報が集まり、繰り返し同じような意見に触れやすい状況になりやすい。いわゆるエコチェンバー現象である。こうした環境の中では、社会への不満や不安が一方向に増幅され、共感の輪の中で「怒り」や「敵意」が強化されていきやすい。

そこに入り込んでくるのが、「ポピュリズム」と呼ばれる政治の手法だ。

これは、「〇〇が悪い」と明確な“敵”を作り、分かりやすいメッセージで民衆の感情を刺激するやり方である。「私たちの味方」と「私たちを苦しめる敵」という単純な構図をつくることで、人々の支持を集めていく。

2024年の衆院選や2025年の参院選では、選挙活動の一環として、YouTubeの活用やAIによる選挙戦術が目立つ。ターゲットに合わせた映像やメッセージ性でより若者に「刺さる言い方」や「感情を揺さぶる映像」が活用されているのだ。

「エモーショナル・ポリティクス」とは何か

これからの政治手法を考えるうえで、新たな概念として「エモーショナル・ポリティクス」がある。 これは「感情で人を動かす政治」のことで、理屈よりも怒り、不安、共感などの感情を重視する手法だ。

具体例を挙げると、政治家が政策の詳細な説明よりも「怒り」の感情を煽る発言をSNSで拡散したり、複雑な経済問題を「〇〇のせいで生活が苦しくなった」といった単純な因果関係で説明したりすることがある。また、選挙CMでも感動的な音楽と映像を使って有権者の感情に直接訴えかける手法が増えている。

このような手法が効果的な理由は、人間の脳が論理的思考よりも感情的反応を優先する傾向があるからだ。特にSNSのような瞬間的な情報消費の場では、感情に訴える内容の方が拡散されやすく、記憶にも残りやすい。

Z世代のようにSNSに慣れていて、スピード感や共感を重視する世代は特に影響を受けやすいと考えられている。 政治だけでなく、社会のあちこちで共感できる側に寄り、反対意見を無視する動きが強まっている。


感情リテラシーで変わる人間関係。感情に振り回されないためには

なぜ私たちは「敵」を求めてしまうのか?

就職への焦りや経済的な不安定さ、SNS上での他人との比較など、常に不安を感じやすい環境にさらされているZ世代。

そんな日常のなかで「今のこの状況を作り出した〇〇が悪い」という言葉に、つい心惹かれてしまう瞬間はないだろうか。

「敵」を設定することで、自分の不安や問題の原因を「敵」に責任転嫁でき、自分以外にも同じ不満を抱えている仲間がいるという帰属意識が生まれ、ある種の安心感につながる。

社会心理学的に「スケープゴート」と呼ばれる現象だ。

特にSNSでは、リアルタイムで情報が変化していくため、すぐに反応しないと置いていかれる焦りが出やすい。また、怒りや共感の感情の言葉の方が目に入りやすく、反応してしまいがちだ。結果として、じっくり考える時間が減り、「なんとなく正しそう」という感情に流されやすくなるのだ。

【世界の先進事例】ポピュリズムを超えた政治は可能か?

では、ポピュリズムやエモーショナル・ポリティクスを超えた政治の実現は難しいかというと、すでに少しずつ変化を始めている事例は存在する。

「敵」を作る政治から脱却する鍵は、感情ではなく建設的な対話と協働にある。これは決して理想論ではなく、世界各地で実際に成果を上げている手法だ。以下に紹介する3つの事例は、いずれも市民の感情に訴えるのではなく、透明性の確保、市民参加の拡大、課題解決への協働を通じて新しい政治の形を実現している。

台湾のデジタル民主主義

台湾のデジタル発展省の大臣も務めたオードリー・タン氏らが構築した「デジタル民主主義」である。

「デジタル民主主義」はネットやテクノロジーを活用して市民が積極的に政治参加できるようにする取り組みである。

台湾では政府や技術者や専門家、民間企業が中心となって「開かれた政府」を実現するためのステップとして多元的なプラットフォームを利用した試みが行われている。

代表例

  • vTaiwanプラットフォーム……政策に対して市民や専門家が意見を投稿して、議論を深められる
  • Joinプラットフォーム……市民が政策のアイディアや請願を政府に直接行える

実際にこれらのプラットフォームで出てきた意見や議論をもとに実際の政策につながった例もある。注目すべきは、これらのプラットフォームが「敵対」ではなく「協力」を前提としていることだ。異なる意見を持つ人々が建設的な議論を通じて合意点を見つけることを目指している。

エストニアの電子政府

バルト三国の1つであるエストニアは世界最先端の電子国家といわれており、2024年12月には行政サービスがオンライン上で完結する100%電子化を達成。

また、世界初のオンライン投票も実現したことで、投票時にたとえ国外にいたとしても投票に参加できる環境を整えた。

エストニアの電子政府はデジタル化による利便性だけではない。透明性と情報公開が徹底されている。エストニアでは国民が自分の情報にいつ、どこから、誰がアクセスしたのかを確認することができる。また、政治資金や予算、議会記録などの情報はオープンソース化され、誰でも確認や分析が可能。

国民が政府について、いつでも知れる状態だからこそ、国民の信頼と積極的な政治参加に繋がっている。

日本の地方自治体の参加型予算

日本でも開かれた行政への取り組みは始まっている。

その1つが、東京都の事業提案制度だ。都民や都内にある大学の研究者から集まった行政に対する提案に都民が投票する仕組み。都民の声を政策に反映させる新しい都政参加の方法として運用されている。

ほかに、デジタル民主主義の動きも始まっている。行政からの情報提供や市民からの意見表明ができる場として、行政と市民双方向のコミュニケーションが可能なプラットフォームを導入している地方自治体もある。

これらの事例に共通するのは、透明性の確保、全ての市民の参加機会の拡大、建設的な対話の促進という3つの要素だ。感情に訴えて支持を得るのではなく、市民の理性と判断力を信頼し、協働を通じて社会の課題を解決する姿勢が見える。

私たちが今日からできること

有権者である私たちが政治の敵ではなく、課題に目を向け、解決に向けて今日から取り組めることには何があるのだろうか。

①情報の多角的な検証

まずは小さなことから始めてみよう。

例えば、日頃見ている情報を複数サイトで比較してみるのも1つだ。複数サイトで見比べることで、同じ事実に対して違う見え方や情報の偏りに気付くだろう。

②積極的な政治参加

また、行政のパブリックコメントに意見を寄せることも立派な参加である。行政で今、どんなことが議論されているのか、自分の生活にどう関わってくるのか、行政のWebサイトや議会中継を見て関心を持って見守ることで自分事として考える意識が形成される。

③感情と理性のバランス

政治的な問題について考える際は、感情的な反応と理性的な分析のバランスを取ることが重要だ。怒りや不安といった感情は問題に気づくきっかけとしては有効だが、解決策を考える段階では冷静な分析が必要になる。

政治を動かす力は必ずしも大きな行動だけではない。国民、市民として関心を寄せることや小さな選択が社会全体に変化をもたらす大きな一歩に繋がるのだ。

「敵」を作る政治から「課題を解決する政治」へ。その転換点で、有権者である私たち一人ひとりの意識と行動が重要な役割を果たしている。

Edited by k.fukuda

注解

(*1)参院選投票率58.51% 期日前は最多2618万人―総務省【25参院選】|時事ドットコム
(*2)18・19歳投票率は41% 参院選、前回比6ポイント上昇|日本経済新聞

About the Writer
中山(水無月もえ)

水無月もえ

大学卒業後、管理栄養士免許を取得。小学校で栄養士として従事し、給食や食育分野に携わる。自分の気持ちに正直で、日々、成長できる生き方をモットーにライターとして活動。新たな発見や気づきにつながり、誰かの人生を後押しできる記事づくりを心がけている。関心がある分野は食、ライフスタイル、健康、マインドフルネス、ダイバーシティ。散歩や食べ歩き、観劇、旅行など新たな発見がある趣味が好き。この人が書いた記事の一覧

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