緑地管理の課題を市民の力で解決。アダプト制度の今とこれから

夏の暑さが年々厳しさを増すなか、街のみどりは都市環境において重要な役割を果たしている。倒木による事故など街路樹の危険性が注目を集める一方で、みどりは私たちの生活に不可欠なインフラでもある。この記事では、地域の住民が街のみどりの管理に参加できるアダプト制度について紹介し、現状や課題、今後の可能性について解説する。

アダプト制度とは?

アダプト制度とは、市民や企業が道路、公園、水路などの公共空間の「里親」となり、清掃や植栽管理などを通して公共施設の維持活動を自主的に行う制度である。

1985年にアメリカ・テキサス州で高速道路の美化を目的に初めて導入され、日本では1998年に徳島県神山町で初めて導入された後、全国の自治体に広まった。

活動は、自治体と地域住民・企業との合意文書(契約)のもとに行われ、自治体は必要な道具や資材の提供などの支援をし、地域住民・企業は責任をもって地域の環境改善に取り組む。

アダプト制度は、行政の負担軽減だけでなく、市民の参加意識や地域への愛着を高める仕組みとして注目されている。ごみ拾いや清掃などの美化活動も含まれるが、ここでは特に「みどり」に着目し市民による緑地管理の可能性を考えたい。


市民による花の植栽活動

アダプト制度が必要とされる背景

街のなかに当たり前のようにあるみどりは重要なインフラの一つだが、継続的な管理を行政だけで担うには限界があるため、アダプト制度が注目されている。

生きものとして成長を続ける街路樹は、剪定などの管理が必要であり、老化や強風による落枝や倒木の事故は絶対に防がなければならない。一方で、愛着をもつ市民の声も尊重されるべきだ。

では、なぜ今アダプト制度が求められているのだろうか。その背景を見てみよう。

都市の緑がもたらす豊かな恵み

街路樹や公園の草木などの都市のみどりは、全ての市民にとってかけがえのない財産である。植物の蒸散作用は周囲の気温を下げることから、猛暑が続く近年、ヒートアイランド現象の緩和に大きく貢献している。二酸化炭素を固定することから脱炭素を通して地球温暖化防止に有効であり、大気や水質の浄化といった環境改善にも役立っている。

また、緑地は災害時の避難場所としての機能も果たし、地域の安全を支える重要な存在でもある。さらに潤いのあるやすらぎの景観を創り、多くの生物のすみかとして生物多様性の保全にも寄与している。

街のみどりを守り育てることは、私たちの安全や暮らしの質を高め、未来の環境を守る対策にもつながる。

緑は生きている。植物としての街路樹

都市にあるみどりは街の景観を構成する要素であると同時に、他の公共施設とは異なり、植物として「生きて」いる。植物は光合成によって成長を続け、季節ごとに新緑、開花、結実、落葉といった生命活動を営む。

樹木は地面の下で、地上の枝葉の広がりと同じくらいの広さで根を張り、水分や栄養を吸収して生きる。やがて老化するだけでなく、弱った時には病気にかかることもあるため、適切な管理が必要だ。

みどりは生きものであり、他の生物と同じように日々変化し静かに命を育んでいる。街のみどりを生きものとして理解することが、よりよい共生や保全につながる第一歩といえる。

行政による管理の限界

街のみどりは生きものであるため、季節ごとの手入れや健康状態の見極めなど、継続的かつ丁寧な管理が欠かせないが、行政の財政や労力には限界がある。

成長にともない街路樹の枝は伸び続けるが、老化や病気で弱った枝が落下するなど、通行人や車両に被害を与える事故は避けなければならない。また、大雨や強風で倒木が発生すれば、迅速な対応が求められる。

道路や公園の樹木については、きめ細かな状況確認と剪定が必要で、時に伐採という判断に至ることもある。一方で、街路樹の美しい花や実、紅葉を楽しみにしている市民からは、剪定によって台無しにならないよう、適切な時期を選んでほしいという要望もある。さらに毎日接することで特定の樹木や景観に対し、特別な愛着をもつ市民もいる。そのような木が、ある日突然伐採されれば喪失感は大きく、行政への疑問や批判につながることもある。

こうした管理作業には専門的な知識と予算、さらに地域住民の理解が必要だ。限られた資源のなかで行政だけがすべての緑地管理を担うには限界があり、市民との協働による柔軟な管理体制が求められてきた。


コミュニティガーデンとは?

アダプト制度の導入例

アダプト制度は、市民と行政の協働の仕組みとして全国各地で導入が進む。公益社団法人食品容器環境美化協会によると、2025年3月時点でアダプト制度を実施している自治体は全国で521、プログラム数は約720件、参加団体数は約5万8千、活動者数は約240万人にのぼる。

地域が必要とする美化活動が広く含まれるが、この中で緑地管理に関する活動は約半数を占めている。ここでは、自然環境保全に力を入れる静岡市と、都市緑化に独自の工夫を凝らす新潟市の事例を紹介する。

自然環境アドプトプログラム|静岡市

静岡市では、ボランティアによる自然環境の保全を目的とした「自然環境アドプトプログラム」が実施されている。多様な生きものが生活する場所と、身近な自然に触れたい参加者とをつなげる事業であり、個人や団体を問わず誰でも気軽に参加できる。

具体的な活動として、藁科(わらしな)川において絶滅が危惧されているチョウ、ミヤマシジミの保全を目指し、その幼虫の食草であるコマツナギの育成が行われている。また、河川敷の清掃とともに、河川環境・水質・生物の情報を報告することで、基礎情報の収集にも貢献する。

この事業は、地域の自然と生きものを守ると同時に、市民が環境保全に関わるきっかけにもなっている。

レッツ・アダプト・ア・パーク!|新潟市

新潟市では、道路や公園・緑地について住民や企業が里親として清掃や植栽の管理を行う「レッツ・アダプト・ア・パーク!」というユニークな制度を展開している。

参加団体には、草刈や倒木処理、ガーデニングなどの専門技術を生かす「WAZA!アダプト」と、学校での体験学習として行う「MIDORI!アダプト」の2つのサブプログラムがある。

企業やNPO、市内7校の小中学校がそれぞれの特性を生かして取り組むことで、市民協働による緑の維持・向上が進められている。

また、看板の設置により里親の取り組みを可視化し、社会貢献のアピールやポイ捨て防止、地域への愛着の醸成といった効果も期待されている。

アダプト制度の課題

アダプト制度は多くの自治体で導入され、市民協働によるまちづくりが実現している一方、いくつかの課題も抱えている。

特に担い手の高齢化が進んでおり、継続的な活動のためには若年層の参加が不可欠だ。そのため、小中高等学校や地域スポーツチームと連携する取り組みも始まっている。また、制度に登録していても実際の活動が行われていないケースもあり、看板の設置や負担軽減策、やりがいを感じられるようにする取り組みなど、モチベーション維持が欠かせない。さらに、「アダプト」という言葉がなじみにくいとの声もあり、「街路樹キーパー」「里親制度」など、親しみやすい名称の工夫も各地で進められている。

アダプト制度を効果的に継続するためには、導入後の評価や改善が不可欠である。

これからの市民参加の形

これからの街のみどりの管理には、より柔軟で多様なアプローチが求められている。例えば、樹木の写真や位置情報をスマートフォンで登録できるアプリが開発されれば、市民が日常の中で樹木情報を手軽に記録・共有できる。

より多くの目で緑地の状態を見守り蓄積された情報をもとに、行政は効率的な管理が可能となる。こうした協働型の仕組みは、市民の意識を高めると同時に、都市全体の緑の質を向上させる基盤となるはずだ。

また、現在アダプト制度は自治会が中心となるケースが多いが、若年層や新しい層の参加を促すには、ガーデニングやより住みやすい環境への関心とつなげる工夫が有効だ。イベントなどで参加のきっかけをつくり、制度へのハードルを下げることが、今後の市民参加の裾野を広げる鍵となるだろう。

自分の暮らす地域の街路樹や公園の樹木に今一度目を向けてみると、新しい気づきがあるかもしれない。地元の行政の取り組みを知り、参加できるきっかけを見つけることが、街の緑に関わる第一歩だ。

一人ひとりの小さな関心や行動が、みどり豊かな街と持続可能な住環境を支える力になっていくだろう。

Edited by k.fukuda

参考サイト

アダプト・プログラム導入自治体調査 | 公益社団法人食品容器環境美化協会
静岡市自然環境アドプトプログラム
アダプト・プログラムとは 新潟市

About the Writer
曽我部倫子

曽我部 倫子

大学で環境問題について広く学び、行政やNPOにて業務経験を積むなかで環境教育に長く携わる。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、未就学児や保護者を対象に自然体験を提供。またWebライターとして、環境、サステナブル、エシカル、GXなどのテーマを中心に執筆している。三姉妹の母。
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