
「スマホを長時間見続けてしまうが、翌日には内容を忘れている」「寝転がりながらスマホを見ていただけなのに、どっと疲れた」。そんな経験がある方は多いのではないだろうか。
情報化社会である現代において、私たちが抱えている課題の一つが「スマホ依存」だ。ほんの数分のつもりが1時間以上スマホを見てしまったり、スマホで寝不足になり翌日の仕事に影響が出たり……。
「スマホを見る時間を減らそう」と思っても、またふとした時につい手に取ってしまう。スマホ離れができない自分に、自責の念を抱いている人もいるだろう。
今回は、私たちがスマホを見続けてしまう理由や、現代における膨大な情報量と上手に付き合うためのポイントを見ていこう。スマホは現代における重要なツールだからこそ、使う側が自分の内面を客観視し、自分自身に警鐘を鳴らせる視野の広さを持つことが重要だ。
スマホが手放せない本当の理由

脳が求める「ご褒美」の正体
私たちがスマホを見続けてしまう理由を知るためには、ドーパミンのメカニズムについて知る必要がある。
ドーパミンは、脳内で生成される神経伝達物質の一つだ。快楽や多幸感だけでなく、「何かを得たい」「行動したい」といった期待感や動機づけにも関わっている。危険な依存の代名詞である覚醒剤に、ドーパミンの量を増加させるメタンフェタミンが含まれていることをご存知の方も多いだろう。
もちろんドーパミン自体は邪悪な物質などではない。ドーパミンの生成をうまく活用すれば、仕事や学習の意欲を維持したり、明るく幸福な気持ちで過ごしたりなどが可能になる。
重要なのは、然るべきシーンでドーパミンの力を借りることだ。基本的に、ドーパミンが多く放出されるものほど依存性も高いといわれている。ドーパミンが生成されるきっかけとなるものの一つが、今回のテーマでもあるスマホだ。
なぜスマホは脳にとって魅力的なのか
一般的なスマホ利用では、薬物やギャンブルのような強烈な多幸感は得られない。しかしスマホのさまざまな機能は、私たちの脳に「ご褒美」や「報酬」のような錯覚を与える可能性がある。
たとえばSNSで流れてくる便利なライフハック。インフルエンサーのオシャレなコーディネート。映画やドラマの最新情報や、クスリと笑えるジョーク系の投稿……。
これらの情報のすべてが脳にとって「報酬」という刺激になり、ドーパミンの生成に結びついてしまう。明日には忘れてしまうような情報でも、「ためになった」「面白かった」という感覚を抱いた結果、成功体験として脳が学習してしまうのだ。
情報過多による脳疲労とは
スマホ特有の懸念点として、「使用者の努力がほぼ不要」であることが挙げられるだろう。使用者は温かい部屋でゆったりと椅子に座ったまま、指を1本動かすだけで膨大な情報を享受できる。
スマホはワンタップさえすれば、無限ともいえる量の新しい情報がつねに供給される。情報を受け取るたびにドーパミンが生成されるのであれば、スマホを使い続ける限り、快楽から完全に逃げることは困難だ。
ドーパミンによる快楽に従い情報を受け取り続けた結果、私たちを待ち受けているのは「脳疲労」だ。
脳疲労とは、大量の情報を脳が処理しきれずに、集中力や記憶力が低下する状態を指す。脳疲労の状態が続くと、自律神経が乱れ心が不安定になり、心身に影響を与える可能性が危惧される。
スマホを見続けてしまうことの懸念は、時間や体力の浪費だけではない。たとえば業務上のミスによる信用の低下、集中力低下による自己実現の失敗、記憶力低下による生活上の不便など、私たちのあらゆるライフスタイルに影響を与えるといえるだろう。
休息のつもりが逆効果?
上記の理由から、休憩中のスマホはさらなる脳の酷使につながる。疲れた体や心を癒すために脳に疲労を与える状態は、休息として本末転倒だ。
とはいえ、スマホを癒しのためのツールとして使っている現代人は少なくない。しかしドーパミンの快楽による一過性の癒しは、いわゆる「眠り」や「美食」のような手放しの癒しとは異なるだろう。もちろんスマホが与える情報のすべてが悪ではない。前項でも触れたように、ドーパミンもそれ自体が悪ではないのだ。
問題となるのは、ドーパミン生成によって「情報の享受」自体が目的となってしまうこと。休息中のスマホの閲覧は、脳に情報を与え続けている状況になると同時に、その状況自体が快楽に紐づけされ、身体的かつ長期的なストレスにつながってしまう。
スマホに依存してしまう心の仕組み

「認められたい」気持ちがスマホを手放せなくする
スマホや情報の享受に依存してしまう心理的背景には、承認欲求や現実からの逃避が存在している。たとえば「誰かに認められたい」「特別な存在になりたい」という願望は、多くの人が大なり小なり自然に持っている。
この願望をかなえる手段の一つがSNSだ。「いいね」の数が多いほど自分が「認められた」「羨ましがられた」「チヤホヤされた」と感じ、画面上の快楽から離れにくくなる。
またIT社会に生きる私たちにとって、SNSは隔離された別世界ではない。SNSはもう一つの現実であり、実際にオンライン上のコミュニケーションは現実のそれと同様に重要視される。
「リアルな現実ではうまくいかなくても、ネットの現実では願望がかなう」。SNS上の成功体験の積み重ねが快楽につながり、スマホ依存をより進行させてしまう。
フォトジェニックへの執着によるストレス
フォトジェニック消費も、スマホを見続けてしまう心理的背景の一つだ。フォトジェニック消費とは、見た目や写真映えを重視したモノや体験を選び、その価値を消費するスタイルを指す。
フォトジェニック消費自体は、コンテンツやツールの楽しみ方の一つと考えれば、大きな問題はないといえるだろう。しかしフォトジェニック消費には「シェア」が付き物だ。「映える写真」や「映える体験」を「共有してこそ価値がある」と感じることで、撮影・投稿・反応の確認・次の撮影……と行動がループしてしまう。
フォトジェニックなものを楽しむことではなく、自らのフォトジェニック的な価値を承認してもらうことが目的となってしまうのだ。
シェアによって承認欲求が満たされるプロセスを、脳は報酬として認識する。SNS上での反応や評価に依存しやすくなった結果、「ストレスを感じているのに止められない」という状態になってしまう。
便利すぎるスマホが作り出す不安
「スマートフォン」とはいうものの、私たちにとってスマホの電話機能は、多くのツールの一つでしかない。SNSでのコミュニケーションはもちろん、ビジネス・教育・学習・メモ・情報収集・娯楽・撮影・健康管理・暇つぶしなど、スマホはニーズに手広く応えてくれる機器だ。
スマホの機能性に依存してしまうことも、スマホを見続けてしまう心理的背景として挙げられる。たとえば出先にスマホを忘れただけで、以下のような不安を抱く可能性がある。
スマホが万能感にあふれる機器だからこそ、本体を忘れたり失くしたりするだけで「できなくなること」が多すぎるのだ。スマホと生活が密接な関係性を築いた現代において、多少なりとも依存してしまうのは無理もないことだといえるだろう。
知らず知らずのうちに心が重くなる共感疲労
現代のスマホ依存を語るうえで外せないのが「共感疲労」だ。共感疲労とは、他者のネガティブな感情や困難に共感し、自分の心まで疲れてしまう状態を指す。
たとえば大規模な災害や悲惨な事件・事故、他者のネガティブな投稿やセンシティブな社会問題。これらをSNSやWebニュースで閲覧するだけで、自分の身に起こったような悲しみや無力感に包まれてしまう。
当然ながら、ネットに掲載される情報は明るいものばかりではない。被害者・被災者の気持ちに共感しすぎるあまり、自分の感情をコントロールできなくなり、心の境界線が曖昧になってしまうのだ。
しかし脳は情報の享受自体に快楽を感じているため、閲覧をやめることは難しい。見たくもないニュースを見て、聞きたくもない意見を聞き、それでもなおスマホがやめられない……。スマホ依存から抜け出すためには、生活習慣や思考プロセスに変化を取り入れることが重要だ。
脳にとっての「本当の休息」とは

スマホを見ない時間を意識的につくる
スマホ依存による脳疲労から脱却するためには、情報自体をシャットアウトする習慣が推奨される。つまり、スマホを見ない時間を意識的につくることが重要だ。たとえ1日5分程度からの挑戦であっても、習慣を積み重ねることで脳疲労の緩和が期待できる。
昨今では、スマホ依存の改善を目的としたアプリも多く展開されている。スマホ依存対策アプリでは、スマホを強制的に操作できなくなる機能や、特定のアプリの操作のみを禁止する機能などが特徴的だ。
スマホを触る習慣が多い人にとっては多少荒治療ともいえる方法かもしれないが、生活習慣の変化はこのような小さな一歩の積み重ねにある。気の持ちようだけでは継続が難しい場合、スマホ依存対策アプリのような具体的な解決方法を取り入れるのは有用な手段といえるだろう。
良質な睡眠で脳疲労をリセットする
脳疲労を癒すためには、睡眠環境の見直しが重要だ(*1)。厚生労働省によると、睡眠時間の十分な確保だけではなく、良質な睡眠の確保が脳疲労の改善につながるとされている。
以下に、同じく厚生労働省の資料『健康づくりのための睡眠ガイド 2023』を参考に、睡眠の質を向上するために必要な要素を記載する。
良質な睡眠では脳の疲労回復が期待でき、集中力・記憶力・思考力の維持と調整につながる。もちろん、スマホ由来を含むストレスの解消にも効果的だ。
軽い運動や瞑想、入浴などでリラックス
脳疲労を改善するためには、軽い運動や瞑想、入力などのリラクゼーションも推奨される。「頭が疲れているときは運動が効果的」という考え自体は間違いではないが、汗を大量にかくほどの運動は逆効果になる場合もあるため注意が必要だ。
心拍数や体温を上げると、体の機能を調節するために脳が酷使され、疲労が倍増してしまう可能性がある(*2)。ウォーキングやヨガ、ストレッチなど、汗をかかない程度に血流を促す運動のほうが、脳疲労の改善には効果的といえる。
また入浴以外にも、自分なりのリラクゼーション方法を複数持っていることが望まれる。ただし情報過多による脳疲労の回復のためには、読書や映画鑑賞のような「インプット型」の方法は避けたほうが良いだろう。
たとえば楽器演奏や絵画などの表現活動、文章作成や日記などの創作活動は、「アウトプット型」のリラクゼーションだ。より情報から距離を置くためには、深呼吸・散歩・アロマテラピーなどゆったりと過ごせる方法が良いだろう。
あふれる情報との向き合い方

スマホと健康的につきあう「デジタルウェルビーイング」
現代人が享受する1日の情報量は、平安時代の一生分、江戸時代の1年分ともいわれている。過去の人間であれば1日で脳のキャパオーバーになってしまうような情報量を、私たちは日常的に受け取り続けているのだ。情報過多で心身が疲れてしまうのもある意味当然といえる。
とはいえ、現代においてスマホを生活から完全に切り離すことは困難だろう。そこで取り入れたいのが「デジタルウェルビーイング」の考え方だ。
デジタルウェルビーイングとは、デジタルデバイスやIT技術を適切に使いこなし、心身ともに健康かつ幸福な状態を維持すること。デジタルウェルビーイングの実現のためには、スマホを生活圏内に置きつつも、生活の主導権はスマホではなく自分が握ることを意識する必要がある。
たとえば「スクリーンタイムや長時間使っているアプリを可視化する」「SNSやアプリの通知をオフにして、スマホを意識しない時間を増やす」「寝室にはスマホを持ち込まないルールをつくる」なども、日常的に実行できるデジタルウェルビーイングの手法だ。
とくに生活におけるルールづくりは、デジタルウェルビーイングの大きなポイント。情報の恩恵を受けつつも、自分自身を見失わないために、無理のない範囲で自分を律するルールを考案すると良いだろう。
ストレスにつながる情報は遮断する
デジタルウェルビーイングでは、ストレスにつながる情報のみを遮断するのも一つの手段となる。
たとえばスマホ疲れの代表的な要因が、SNSの閲覧による焦燥感や劣等感だ。自分より幸せそうな人や豊かな暮らしをしている人を見ると、焦りや苛立ちを感じてしまう方も多いだろう。
スマホをつい見てしまうからといっても、すべての機能を禁止する必要はない。自分にとってストレスの根源となる情報のみを遮断するだけでも、今以上にスマホとの良い関係性を築けるだろう。
アプリごと消すのもよし、フォロー・フォロワーを整理するのもよし、まずは通知だけオフにするのもよし。生活に小さな変化を取り入れ、自分なりのデジタルウェルビーイングの形を前向きに探っていこう。
情報に左右されない「鈍感力」のすすめ
デジタルウェルビーイングでは、鈍感力を磨くことも重要になる。他者の投稿や自身の劣等感に振り回されないためには、意図的に感受性を弱めたうえで、「情報を流し見する能力」が必要だ。
たとえば幸せそうな同僚の投稿を見ると、自分と比べて不安やストレスを感じてしまうかもしれない。「不安なんて無さそうだな」「充実した毎日を送っていそうだな」「それと比べて自分なんて……」と、投稿に記載された情報量以上の感情に苛まれてしまうこともあるだろう。
しかし鈍感力を磨けば、感想は「いいね!」だけで終わる。本来、他者のSNS投稿への感想はこれくらいで十分なのだ。必要以上に邪推しない能力、表面的な情報以外を受け取らない能力。これが、スマホによるストレスから脱却するために求められる鈍感力だ。
ときには、スマホを手放す勇気を

心や体が疲れたときは、睡眠やリラクゼーションなどによる癒しが必要だ。疲労を抱えたままではパフォーマンスが下がり、さらなるストレスを抱えてしまう。脳疲労でも同様であり、疲れた脳には休息を与える必要がある。心身と同じように、働いた分だけしっかり休むことが大切なのだ。
何事も「オンとオフのメリハリが重要」といわれるが、この言葉の意味は「オンのときはしっかり集中しよう」だけではない。オンのときにパフォーマンスを発揮するために、「オフはしっかりと休息しよう」という意味も含まれている。
膨大な情報量が行き交う世の中だが、私たちは情報を「受け取る選択」だけではなく「遮断する選択」ができることも忘れないようにしたい。
スマホに振り回される日々に疲れを感じたら、あえてスマホを見ない選択を取り入れてみてはいかがだろうか。定期的なデジタルデトックスを通して、自分の体・心・脳をリセットし、本来の自分らしい生活を取り戻そう。































METLOZAPP
数多くのジャンルの経験を生かし、分野横断的な執筆を得意とするWebライター。ウェルビーイングやメンタルヘルス領域を中心に、生活に新たな気づきを与えるコンテンツを発信中。マイノリティな感性に悩む人や、孤独や寂しさを抱きながら暮らす人の心に、少しでも寄り添えるような記事執筆を目指して活動する。現在は、女性のキャリア形成や、人間と動物の関わり方などに興味を持ち学習中。
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