QOLとは
QOLは、“Quality Of Life”の略語で、日本語では「生活の質」や「人生の質」などと訳されている。人が生きていく上での満足度を表すものであり、どれだけ人間らしく、自分らしく過ごせているか、自分の人生に対してどれほど幸せを感じているか、といったことを尺度として捉える概念だ。これはウェルビーイングの考え方とも共通している。
主に医療現場で使用されてきた言葉だが、今では介護や教育現場でも使用されている。特にライフスタイルに関するシーンでも多用されており、各メディアにおいて「QOLを上げるモノ・コト」などの特集を目にしたことがある人も多いだろう。
これは自分が育ってきた環境や、生きている中で身についた価値観を基準に判断した主観的なものであり、収入や財産から算出される生活水準とは異なるものだ。心身ともに健康で、社会との繋がりや将来に希望が持てる状態のことを「QOLが高い」というように表現する。
QOLの定義はさまざま

QOLの歴史を遡ると、人間は古来「人生の質」について考えていたことが窺える。たとえば、古代ギリシャの哲学者・ソクラテスが「なによりも大切にすべきは、ただ生きることでなく、よく生きることである」という言葉を残していたり、弟子のプラトンが「善き生」を探求していたことにたどり着く。
国際的な定義はないものの、世界保健機関憲章前文に記されている「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます」という部分が相当すると考えられている。
また、日本の医療・保健分野においては、2000年に当時の厚生省(現 厚生労働省)が公表した「障害者・児施設のサービス共通評価基準」に記されている。すなわちQOLとは、「日常生活や社会生活のあり方を自らの意思で決定し、生活の目標や生活様式を選択できることであり、本人が身体的、精神的、社会的、文化的に満足できる豊かな生活を営めることを意味します」と定義される。
ここから見て取れるように、何を持ってQOLとするかは個人の価値観によるものが大きく、決して客観的に判断されるものではないのだ。
いまQOLが注目される背景
QOLは、先述のように医療における概念として、1970年代ごろから注目されるようになっていた。それまでの治療というのは、治癒率や生存率の数字を重視する方針であった。延命治療や数回にも及ぶ手術などは当たり前に行われていたが、それでは患者の心身の負担は激しくなる一方だったのだ。
そのため、治療中の患者の身体的な苦痛や不快感、予後の生活などを重要視した方がいいのではないか、という考え方が生まれた。その後、知的障がい者における生活の満足度も注目されはじめ、医療や保健の分野でQOLの研究が盛んに行われるようになった。
一方、人々の生活においても、この頃にQOLの元となるような価値観が生まれている。戦後の高度経済成長期の中、技術の発展によって様々な物が簡単に手に入るようになった人々の間では、物質的な豊かさが人生の幸せとして評価されるようになっていた。
その後、生産性の向上により大量生産が可能になると、それに伴い大量消費・大量廃棄が引き起こされ、環境への影響が懸念され始めた。そこで、物の価値は所有する「量」ではなく、「質」にあると認識されるようになり、QOLという概念が生まれたと考えられる。
QOLと現代の価値観
上記のような経緯で生まれたQOLの概念は、主に3つの観点から構成されると考えられる。それは、「心身ともに健康であること」「自立していること」「社会との繋がりがあること」である。さらに、余暇や趣味なども楽しみ、自分にとっていかに「満足度が高いか」ということも大切だ。
つまり、他人からの評価ではなく「自分軸」で生きることを大切する、とも言い換えることができる。
このことから、QOLと昨今の「自分らしさ」を追求する風潮は相性がよく、一般消費者向けのメディアなどでも使用されるようになった。今の時代は、仕事や家庭の枠だけにおさまらず、自分だけの人生を謳歌したいという人が増えており、QOLの重要性やQOLを向上させる生き方について注目が集まっているのだ。
QOLを重要視する分野

QOLは、今では様々なシーンで使用される言葉となった。中でも、特に重要視しているのが「医療」「介護・福祉」の分野だ。ここではそれぞれついて、詳しくみていこう。
医療
QOLは医療分野で誕生、発展しただけあって、この界隈では非常に重要視されている。たとえば、がんの治療を受ける患者は薬の副作用、治療や病気の進行による様々な不快症状に苦しむことが多い。また、長期的な入院によって社会との繋がりが希薄になり、未来に希望が持ちづらくなったりと、抑うつ状態に陥ってしまうことも少なくない。
そんな中、副作用の少ない治療法や、社会生活を送りながら利用できる「外来化学療法」、従来の開腹手術に比べて傷口が小さい腹腔鏡手術など、患者のQOLをできるだけ低下させない医療を提供する病院が増えている。
介護・福祉
医療分野から発展し、介護・福祉の分野でも重視されるようになったQOL。この分野で特に大切なことは、ADL(日常動作)との関係だ。高齢者や障がい者にとってADL能力の低下が、直接QOLに関係する。そのため、まずは本人のADL能力を評価し、どこに不便さを感じているのかを考えることが、QOL向上へのスタートなのである。
また、ADL能力が低下している場合でも、できる範囲で美味しい食事や映画などの娯楽を味わったり、他者との会話を楽しんだりすることで、QOLは向上すると考えられる。
QOLの向上に必要なこと
QOLは、自分の人生の中に「生きがい」や「やりがい」を見つけ、日々に彩りを添えることである。では、QOLを向上させるために必要なこととは、いったいどんなことだろうか。
栄養バランスのよい食事をとる
QOLの向上には、第一に体の健康は欠かせない。普段は栄養バランスのとれた食事を心がけ、時に好きなものを好きなだけ食べたり、お酒を楽しんだりすることが大切だ。
また、昨今は個食(複数人が集まっても、各々が好きなものだけ食べること)や孤食(一人で食事をすること)が問題となっている。これらは食事に偏りが出るだけではなく、家族や友人、パートナーとの会話が減るという面でも、QOLの低下に繋がってしまうので、なるべく避けるように意識したい。
適度な運動を行う
心身の健康を保つものとして、栄養とともに大切なのが運動だ。特に年齢が上がるにつれ、運動の機会が減っているという人も少なくないだろう。しかし、適切な運動は体だけではなく、気分がリフレッシュするなど精神の安定にも繋がり、睡眠の質が向上するとされている。
軽めのウォーキングや筋力トレーニング、ストレッチなど、日常で簡単に取り入れられることからはじめてみよう。
社会とのつながりをもつ
IT技術の発展によって仕事がリモートで行えるようになり、会話もチャットやSNSのみで済ませられることから、人との繋がりがオンライン上だけになっている人も増えてきている。
しかし、実際に顔を合わせて会話をすることによって、孤独感や不安感が減り、反対に安心感や幸福感が生まれることが期待できる。人間関係が希薄になっている現代だからこそ、家族や周囲の人と、積極的にコミュニケーションをとることを心がけたい。
趣味や好きなことに没頭する
社会とのつながりが重要な一方で、常に誰かといなければ不安になるという依存状態もQOLの低下に繋がる。他者とのコミュニケーションは取りつつ、一人でも楽しむことができる趣味や習い事、好きなことを見つけることでQOLが向上する。
ときには仕事や家庭から離れ、自分のためだけに時間を使うことで、さらに人生が豊かになっていくだろう。
まとめ
近代では医学の発展によって革新的な治療法が確立され、不治とされていた病気でも治るものが増える一方、その治療にかかる患者の心身の負担は、あまり考慮されていなかった。治療の目的は、「治るかどうか」「延命できるかどうか」にあったのだ。
翻って現代では、治療の効果だけでなくQOLを重視する傾向にある。また、人生100年時代ともいわれるようになったことで、健康寿命を延ばし、いかに自分の生活を彩り豊かに過ごせるかという点に、人生の目的を見出す人が増えている。
QOLは医療や介護の分野に留まらず、定年後の趣味や取り組み、現役時代のワークライフバランスの確保など、人生の様々な場面でQOLの大切さが説かれている。今やりがいがなく、生きる目的を見失っているという人も、「自分にとってQOLとは何か」を考えてみると、その答えが見つかるかもしれない。
【参考サイト】
重度・重複障害者におけるQOL評価法の検討| 吉川明守、宮崎隆穂|新潟青陵大学
世界保健機関(WHO)憲章とは | 公益社団法人 日本WHO協会
身体障害者ケアガイドライン|厚生労働省
WHOQOL: Measuring Quality of Life|The World Health Organization
QOL(生活の質)の向上とはどんなものですか?|東京ミッドタウン先端医療研究所
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