フォトジェニック消費とは
フォトジェニック消費とは、見た目や写真映えを重視してモノや体験を選び、その価値を楽しむ消費スタイルである。特にソーシャルメディアが普及した現代において顕著に見られ、InstagramやTikTokなどでシェアされる写真や動画が消費の中心にある。
例えば、華やかなパンケーキやおしゃれなカフェの内装、カラフルなイベントなどはその代表的な例だ。単なる美味しい食事や楽しい場所としてだけでなく、「どのように見えるか」「どのように映えるか」が重視される。
モノそのものや体験の満足度だけではなく、それが「写真や映像として魅力的であるか」が選択基準となるのが特徴だ。
特にデジタルネイティブ世代に見られ、自己表現や「いいね」の獲得といった承認欲求とも深く関係している。SNSの投稿から情報や体験をシェアすることが生活の一部となりつつある現代社会において、フォトジェニック消費はますます広がりを見せている。
「インスタ消費」「ワンショット消費」との違い
フォトジェニック消費に関連する用語には「インスタ消費」と「ワンショット消費」が挙げられる。
「インスタ消費」は、Instagramの写真映りを基準にモノや体験を選ぶ行動を指し、フォトジェニック消費とほぼ同じ概念である。ただし、Instagramという特定のプラットフォームでの投稿を目的とした行動に焦点を当てている点が特徴だ。
一方、「ワンショット消費」は、一度のSNS投稿のためだけに商品を購入し、その後すぐにフリマアプリなどで売却する消費スタイルを指す。特にファッション分野において顕著で、高額なアイテムであっても投稿後すぐに手放すため、実際に所有する感覚よりも一時的な利用感に近い。
ワンショット消費は、商品そのものよりも「撮影した画像」や「投稿後の反応」を重要視するという、フォトジェニック消費の特徴をさらに際立たせている。
時代とともに多様化する消費行動

人々の消費行動は、その時代や世代ごとに変化を遂げてきた。ここでは、それぞれの消費行動の特徴について深掘りする。
モノ消費
モノ消費とは、商品の所有そのものに価値を見出す消費行動を指す。戦後の高度経済成長期に注目された消費スタイルで、家電製品や車など、生活を便利にするための機能的なアイテムが広く求められた。
「3種の神器」と呼ばれた冷蔵庫・洗濯機・テレビなどが代表例であり、それらを手に入れることがステータスの象徴でもあった。背景には物資の不足を補うという社会的要請があったが、時代の進展とともに市場の需要が満たされ、次の消費形態へと移行していった。
コト消費
モノ消費が一定の成熟を見せる中、注目を浴びるようになったのがコト消費だ。所有よりも体験そのものに価値を見出す消費スタイルで、観光地への旅行やコンサートへの参加、体験型アクティビティがその典型例である。
インターネットの普及によって情報が収集しやすくなり、個々の嗜好に合わせた体験を選ぶことが一般的になったころから広がりはじめた。記憶や感動を共有する点で、近年のフォトジェニック消費とのつながりも見られる。
トキ消費
トキ消費は「その瞬間、その場所でしか体験できない」ことに価値を見出す消費行動を指す。SNSの普及に伴い、ライブイベントやフェス、映画館での応援上映といった限定的な体験型イベントが増加した。
これらの活動は単なる消費以上の感情的価値を伴い、特定の時間と空間でのみ実現される特別な体験をシェアするという点が特色である。フォトジェニック消費とも交差し、瞬間のシェアがより求められるようになった。
イミ消費
イミ消費は、物質的価値の先にある社会的意義に注目する消費行動である。環境保全や地域復興、フェアトレード商品など、社会問題への意識の高まりと共に注目されるようになった。
例えば、復興支援のために被災地の農産物を購入することは、消費者に社会的貢献を実感させる。自己実現の欲求にも応える新たな価値観として、現代に根付きつつある。
エモ消費
エモ消費とは、感情に訴えかける要素を重視した消費スタイルである。「共感」や「感動」を求めることが特徴で、感情的な満足感を得ることを目的とする。フィルムカメラのようなレトロなアイテムを使ったり、「推し」の存在を祝う文化などがその一例だ。
フォトジェニック消費が視覚的な美しさに価値を置く一方で、エモ消費では感情を共有し、内面的な満足感を求める点が特徴である。特にSNSを活用してその価値を分かち合う場面が多く、Z世代の嗜好を象徴している。
フォトジェニック消費とSNSの普及
フォトジェニック消費の背景には、SNSの急速な普及が影響している。特にスマートフォンが一般化した2000年代以降、InstagrmaやTikTokといったビジュアル中心のSNSが広がる中で、「写真映え」を重視した消費行動が注目されるようになった。2017年には「インスタ映え」が流行語となり、SNS上でシェアするための写真が撮れる商品やスポットが人気を集めたことが象徴的である。
SNSは単なるコミュニケーションツールに留まらず、日常生活の瞬間を切り取ってシェアする新しい文化を生み出した。その結果、消費者は商品や体験を選ぶ際、機能や実用性だけでなく、「どれだけ魅力的に見せられるか」という点を重視するようになったのだ。また、商品を生産する側もこの傾向に対応し、ビジュアル的に訴求力のある商品の開発や店舗デザイン、マーケティング戦略を強化している。
さらに、SNS上での拡散力を活かし、個人が「発信者」としてブランドイメージを広める役割を担うことも増えてきた。SNSの普及は、現代の消費スタイルを形づくる原動力の一つとなっている。
フォトジェニック消費の問題点

フォトジェニック消費では、さまざまな問題点も指摘されており、消費行動がもたらす影響について考える必要がある。ここでは、フォトジェニック消費が抱える4つの問題点について、それぞれ解説する。
必要のないものまで買ってしまう
フォトジェニック消費は、見栄えや写真映りを重視するあまり、必要のないものまで購入してしまうケースがある。特にインスタ映えする高額なアイテムや飲食店への出費が増える傾向がある。
例えば、ホテルのスイーツビュッフェやブランドアイテムなど、写真を撮るために予算オーバーしてしまい、経済的に苦しくなることも少なくない。また、SNS上で他者と競うような心理が働き、無理をしてでも「映える」消費を続ける傾向もみられる。
結果として、節約を余儀なくされたり、他の部分で我慢する必要が生じるなど、消費行動が生活の質に影響を与える場合がある。
食べ残しや食品ロスが増える
フォトジェニック消費の影響で、食品ロスが増える問題も指摘されている。例えば、見た目が華やかでインパクトのある料理を注文するものの、実際には食べきれずに残してしまうケースがある。
このような消費行動は特にレストランやカフェで顕著であり、写真を撮ることが目的で注文された料理が廃棄されることが問題となっている。また、食品ロスは環境への負担を増やすだけでなく、食材を提供する側にも影響を及ぼすため、持続可能性の観点からも懸念されている。
実際には購入せずに写真だけ撮る
フォトジェニック消費の中には、購入せずに写真だけを撮影する行動も含まれる。特に小売店や飲食店で問題視されており、商品の写真を撮るだけで実際に購入しないため、店舗側に負担がかかる場合がある。
例えば、商品ディスプレイの前で写真だけ撮影して立ち去る行動や、店舗の設備を勝手に使用する行為が挙げられる。一見無害な行為にも思えるが、店舗側にとっては業務の妨げとなり得る。
撮影のため周囲に迷惑をかけることがある
「映え」を追求するあまり、周囲への迷惑を引き起こすケースも少なくない。一例として挙げられるのが、SNSで話題となった「コインランドリー女子」だ。コインランドリー内で大型乾燥機の扉に腰掛けて自撮りを行い、写真をInstagramに投稿する行動を指す。
このような行為は、洗濯物を清潔に乾燥させるための設備を不適切に使用しており、他の利用者に不快感を与えるだけでなく、施設側を困惑させることがある。
迷惑行動はコインランドリーだけに限らない。公共の場で撮影を行うことで通行人の邪魔になったり、私有地に無断で侵入して撮影したりするケースも報告されている。多方面で問題視されているにもかかわらず、撮影者自身がその影響を認識していないことも多い。
まとめ
フォトジェニック消費は、SNSの普及に伴い誕生した消費スタイルで、特に若者世代を中心に広がりを見せている。単なる商品や体験そのものの価値だけでなく、そこに付加する視覚的な魅力や共感を重要視する点が特徴だ。
一方で「映える」ことを目的とした消費は、消費者に経済的および心理的負担を与える場合もあり、本質的な価値の見直しが必要という指摘もある。
マーケティング手法としてもフォトジェニック消費が注目される一方、昨今は消費のバランスと質が問われる時代でもある。SNS上の見え方を意識するだけでなく、本来の価値や自分にとっての意味を再考することも必要だ。
参考記事
「エモマーケティング」はZ世代以外にも効果的?エモ消費に関する意識調査を実施!|僕と私と株式会社のプレスリリース
ワンショット消費にみられる新品の価値観と、中古品への抵抗感の変化|NTTコムウェア
「フォトジェニック消費」を牽引するミレニアル世代の日本人女性|Campaign Japan
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