センスオブワンダーとは?環境教育との関わりや具体例も解説

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センスオブワンダーとは?環境教育との関わりや具体例も解説

センスオブワンダーとは

センスオブワンダーとは、自然のなかで美しいもの、未知のものに出会ったときの喜びや驚き、大きな自然の力を前にしたときの畏れや畏敬の念など、柔軟な感性のことを指す。

この言葉は、アメリカの作家レイチェル・カーソン(Rachel Carson) が著書『センス・オブ・ワンダー(The Sense of Wonder)』で提唱したことで広まった。日本語版の『センス・オブ・ワンダー』では「自然の神秘さや不思議さに目を見はる感性」と訳されている。

センスオブワンダーは子どもが生まれながらにもっているもので、幼少期は皆、身の回りのもの全てを新鮮に感じ、驚き、感動することができる。しかし成長するにつれて、先入観なく無垢な心で自然を受け入れ感動する能力、つまりセンスオブワンダーは失われやすくなる。

地球規模の環境問題が深刻化し、環境教育の必要性が叫ばれている今日、センスオブワンダーは人と自然環境との関係性を再認識するための重要な視点の一つといえる。

書籍『センス・オブ・ワンダー』について

センスオブワンダーとは?環境教育との関わりや具体例も解説

『センス・オブ・ワンダー』は1965年に出版されたレイチェル・カーソンの最後の作品である。彼女の深い信念が込められており、遺言ともいえる内容となっている。

もとは「子どもたちに不思議さへの目を開かせよう」という題で『ウーマンズ・ホーム・コンパニオン』誌に掲載されたエッセイだったが、本にまとめられ彼女の死後に出版された。

その内容は、姪・マージョリーの息子であるロジャーをひきとり養育することになった彼女が、メイン州にある別荘と周辺の森や海を舞台に、幼いロジャーと一緒に過ごした経験がもととなっている。

風や波の音、森の香り、夜空の星などとそれらに対するロジャーの反応が描かれ、読者が『センス・オブ・ワンダー』を追体験できるような場面も多い。

繊細な自然の描写を通して、生命の輝きや地球の美しさを感じ探求する心や、子どもの心に大人が寄り添うことの大切さが述べられている。そして、人類が自然と共存していく道を選択できるよう、子どもたちがもつセンスオブワンダーを保ち続けることが重要だというメッセージも込められている。

読者は、身近な視点で自然と向き合う必要性や、環境破壊を省みない現代社会のあり方への疑問を感じることができるだろう。多自然主義マルチスピーシーズなどの考え方がその例だ。

『センス・オブ・ワンダー』の著者レイチェル・カーソン

『センス・オブ・ワンダー』の著者レイチェル・カーソンは、アメリカの海洋生物学者でありベストセラー作家でもある。

特に、有機塩素系殺虫剤であるDDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)による環境汚染の実態を告発し、世界に大きな衝撃を与えた著書『沈黙の春』が有名だ。『沈黙の春』は1962年に出版されたが、2週間もたたないうちにベストセラーとなり、20か国語以上に訳され全世界に広まった。地球環境への人々の発想を大きく変えるきっかけとなり、アメリカだけでなく世界中で農薬の使用制限につながっている。

レイチェル・カーソンは1907年にペンシルヴェニア州に生まれ、幼少期は母親と野原や果樹園を歩くなど、一日のほとんどを自然の中で過ごしていた。子どもの頃から作家になると決めていたが、動植物に対する関心も大きく、大学では生物学に魅了され大学院で海洋生物学者としての研究生活を始めることになる。

アメリカ連邦漁業局に就職すると、公務員として働きながら広く一般に分かりやすい海に関する本を書き始めた。1951年に出版された『われらをめぐる海』がベストセラーになり、海の作家として才能がみとめられ、以後は文筆業に専念。

『沈黙の春』の功績をたたえられて多くの賞を獲得したが、がんにより体調が徐々に悪化し1964年4月に56歳の生涯を閉じた。彼女が残した作品の数々は、科学的知見をもとに一般の人々にも親しみやすい形で、自然の魅力や偉大さを伝え続けている。

『センス・オブ・ワンダー』日本語版

日本における『センス・オブ・ワンダー』の初版は上遠恵子氏の翻訳により、1991年に佑学社から刊行された。その後、1996年に新潮社により再版され、2024年4月までに70刷を重ねている。

26刷以降、カバーと本文の写真がカーソンの別荘があるメイン州の海辺、森、植物などの写真に全面的に変更されている。これらの写真は、映画『センス・オブ・ワンダー』のスチールを担当した森本二太郎氏が撮影したものである。また、新潮社の文庫本には、「私のセンス・オブ・ワンダー」として福岡伸一氏、若松英輔氏、大隅典子氏、角野栄子氏のエッセイが収録され、川内倫子氏の写真が用いられている。

さらに2024年に筑摩書房より刊行された『センス・オブ・ワンダー』は、森田真生氏による新訳と「その続き」として描かれた「僕たちの『センス・オブ・ワンダー』」で構成されている。

『センス・オブ・ワンダー』は日本国内でも、多くの人の共感を得て長く読み継がれてきた。年齢や心のあり様によって理解の仕方や印象が変化する奥深い内容であるが、人が自然に向き合ううえで大切なことをゆるぎなく伝え続けている。

センスオブワンダーと幼児教育

レイチェル・カーソンによると、センスオブワンダーは生まれつき備わっているものであり、それを保ち続けるには感動を分かち合ってくれる大人の存在が必要だとしている。

また、子どもにとって「感じること」は「知ること」よりも何倍も重要で、感情が動くからこそ対象についてもっとよく知りたいと思うようになるとも述べている。

日本の保育園・幼稚園における幼児教育の指針となる「保育所保育指針」「幼稚園教育要領」には、センスオブワンダーに通ずる内容が盛り込まれている。

第1章 総則
(中略)
(2) 幼児期の終わりまでに育ってほしい姿
(中略)
キ 自然との関わり・生命尊重
自然に触れて感動する体験を通して、自然の変化などを感じ取り、好奇心や探究心をもって考え言葉などで表現しながら、身近な事象への関心が高まるとともに、自然への愛情や畏敬の念をもつようになる。また、身近な動植物に心を動かされる中で、生命の不思議さや尊さに気付き、身近な動植物への接し方を考え、命あるものとしていたわり、大切にする気持ちをもって関わるようになる。

第2章 保育の内容
(中略)
ウ 環境
(中略)
② 幼児期において自然のもつ意味は大きく、自然の大きさ、美しさ、不思議さなどに直接触れる体験を通して、子どもの心が安らぎ、豊かな感情、好奇心、思考力、表現力の基礎が培われることを踏まえ、子どもが自然との関わりを深めることができるよう工夫すること。

引用:保育所保育指針(◆平成29年03月31日厚生労働省告示第117号)|厚生労働省

子どもが自然と触れ合う体験を積極的に取り入れることが、心身の健やかな成長や豊かな感性の育成につながる。

幼児と関わる大人が、子どもが自然の中で五感を通して直接体験できるような環境を整え、子どもの心に共感し成長に寄り添うことの重要性を、国も指針として示しているのである。

センスオブワンダーと環境教育

センスオブワンダーという概念は、環境教育のなかで用いられることが多い。現代では地球温暖化や生物多様性の損失など、人の活動が数々の環境問題を生んでいる。これは、太古の昔から繰り返されてきた自然の営みや循環を、私たち人類が蔑ろにしてしまった結果であろう。

人間も生物の一つであり、人間社会は自然資源のうえで成り立っている。自然のサイクルの中でしか生きられないのだが、今日の複雑化した社会では自然とのつながりを感じることは難しくなっている。

センスオブワンダーは、自然との関わり方や自然について知るための手段の一つである。自然に対して感動や畏敬の念を抱き、生きものどうしの複雑な関係性を知ることが、人が自然と共生するためのヒントを与えてくれるだろう。

センスオブワンダーの例

センスオブワンダーとは?環境教育との関わりや具体例も解説

都会の日常生活のなかでも、センスオブワンダーを実践することはできる。大人になるにつれ衰えてしまうが、意識することで自然に対する新鮮な感動を味わうことは不可能ではない。

都市の暮らしであっても感じることができるセンスオブワンダーの例を紹介する。

  • 朝の太陽の光を気持ち良いと感じる。
  • 雨上がりの匂いを意識してみる。
  • 鳥の声に耳を澄ませてみる。
  • 空の色や雲の動き、月の形を観察してみる。
  • 花壇や街路樹の花に目を向けてみる。

山や草原、河川、海など自然のなかに足を運べば、センスオブワンダーの要素があふれている。早春の田んぼを例にすると次のようなものだ。

  • 風に舞い水面に落ちる花びら
  • カエルの卵塊とおびただしいオタマジャクシ
  • すばやく姿を隠そうとする水中の生きもの
  • 柔らかい緑色をした木々の芽吹き
  • もぐらが作った土饅頭
  • 手についた泥の感触と匂い
  • 軽やかに響くカエルの声
  • 鳴き交わす鳥のさえずり
  • 緩やかに流れる水の音

自然の姿は土地や季節によって異なり、一つとして同じものはない。生きものの変化や美しさを感じることができれば、どんな時でも心が満たされるだろう。めぐる季節に応じて繰り返される自然の営みは、私たちに安心感を与え疲れた心を癒してくれる。

まとめ 

人と自然のつながりを再認識し持続可能な社会を築くために、今こそセンスオブワンダーが求められている。子ども達がセンスオブワンダーを失うことなく成長し、自然と共生する選択をする大人が増えるほど、地球の未来は明るくなるだろう。

また、センスオブワンダーは、私たちがどんな境遇にあっても人生を楽しむための鍵なのかもしれない。レイチェル・カーソンは、センスオブワンダーの意義について次のように述べている。

地球の美しさについて深く思いをめぐらせる人は、生命の終わりの瞬間まで、生き生きとした精神力をたもちつづけることができるでしょう。

引用:『センス・オブ・ワンダー』 レイチェル・カーソン、上遠恵子/訳 | 新潮社

自分自身のためにも、地球の未来のためにも、センスオブワンダーを意識してみてはいかがだろうか。

参考記事
特集:センス・オブ・ワンダーがつむぐ未来(SNL 42号/2024年7月号) |カワウソくんのネイチャーゲームフィールドノート
レイチェル・カーソン日本協会
幼 稚 園 教 育 要 領
レイチェル・カーソンから学ぶ
『センス・オブ・ワンダー』 レイチェル・カーソン、上遠恵子/訳 | 新潮社
レイチェル・カーソン – センス・オブ・ワンダー(新潮文庫)
『センス・オブ・ワンダー』レイチェル・カーソン | 筑摩書房

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