リビングラボとは?市民・企業・行政が共創する取り組みのメリットや事例を紹介

リビングラボとは

リビングラボとは、主に市民・企業・行政が協力して新しいサービスや製品を作り出すという概念を指す。「Living(生活空間)」と「Laboratory(実験室)」を組み合わせたもので、社会課題の解決や新しい価値の創造を目指している。

主な目的は、実際の生活を実験場とすることで、日常生活で使いやすいサービスや製品を生み出すことである。従来の企業が主導する開発とは異なり、市民の声を企画段階から取り入れ、本当に必要とされるものを見出そうとしている。

世界では、欧州を中心に約400か所のリビングラボがあり、日本でも徐々に広がっている。特に行政や大学が中心となって、地域に根ざした活動を行うケースが多い。

リビングラボでは、住民のニーズをゼロから検討するところから始まる。その後、関係者がアイデアを持ち寄って試作品をつくり、実際の生活環境でテストを行う。

例として、コールセンターのサービス改善を紹介する。コールセンターでは、消費者が商品の復旧を求めて電話をしても、対策が決まるまで待たされるケースが散見していた。これは、問題解決よりもコールセンターの業務効率を重視するシステムを採用していたからだった。そこで、リビングラボを設立し、利用者の声を直接聞くことで、利用者の満足度を重視したシステムの構築に成功した。

このように、リビングラボはさまざまな機関が共同でサービスや製品をつくり出す方法として関心が集まっている。

リビングラボが注目される背景

リビングラボが注目される背景には、デジタル技術の進化と社会課題の複雑化がある。従来行われている製品やサービスの開発方法では、市場ニーズに応えられなくなっているのだ。

世界では産業革命以降、効率性を重視したモノづくりが行われ、作り手が使い手のニーズを把握しないことも多かった。そんな中、1990年代半ばに、地域や企業などさまざまな主体が共通の目的やビジョンを共有する「フューチャーセンター」が生まれ、組織内で生み出したモノを組織外で展開して新しい価値を生み出すオープンイノベーションが提唱された。そこで、オープンイノベーションを推進する方法の1つとして、作り手・使い手の両者で一緒にモノを作り出すリビングラボが注目されることとなった。

リビングラボの種類

リビングラボの種類

近年ますます注目が高まっているリビングラボだが、主体の違いなどによって4種類に分けられる。

①利用者主導型

利用者主導型は、大学や企業が中心となって運営し、新しい製品やサービスの開発を目指すリビングラボだ。

例えば、スマートフォンアプリの開発では、実際の利用者に使ってもらいながら改良を重ねていく。このように、作る側と利用する側が一緒になってモノをつくり上げていくのが特徴である。実際の生活環境での実験を通じて、より使いやすい製品が生まれているのだ。

また、企業や大学は、課題解決に取り組むことで、ブランドとしてのイメージアップにもつなげられている。

②実現者主導型

実現者主導型は、市役所や県庁などの行政機関が中心となって運営し、より良い政策づくりを目指している。

例として、新しい公園を作る際に、地域の子育て世代や高齢者から直接意見を聞いて設計に反映させる。行政と市民が協同し、誰もが使いやすい施設やサービスを作り上げるのが目的だ。また、住民の声を反映させるために、NPOや市民団体と協力して課題解決にも取り組む場合もある。

③ユーザー主導型

ユーザー主導型は、地域の住民やNPO、お店などが主役となり、暮らしやすい街づくりを目指す。

例えば、空き店舗を活用した地域の交流スペース作りや、地元の特産品を使った新商品の開発など、住民から意見を出して活動するのが特徴だ。ユーザー主導型では、行政や企業に頼らず、地域の人々が自発的に解決策を見つけていく。

また、地域の課題を地域住民が解決することで、街のにぎわいづくりや住民同士のつながりを深める効果もある。

④プロバイダー主導型

プロバイダー主導型は、大学や研究機関が中心となり、リビングラボの運営方法を考える活動を行う。

ただし、大学や研究機関だけではなく、他の3つのタイプと協力しながら、より良い運営方法を探っていく。大学は地域との関係を築きやすく、専門設備や知識ももっているため、運営の主体に適しているのだ。

また、事例や課題の研究を重ねることで、より良いリビングラボの在り方を追求している。

リビングラボに期待されること

リビングラボに期待されることとは?

さまざまな主体によって運営されているリビングラボには、いくつものメリットがある。

新しい発見につながる

まず、参加者全員が新しい視点や気づきを得られる点は大きなメリットだ。

利用者にとっては、企業の力や新しい技術を活用することで、これまで思いつかなかった方法で問題を解決することができる。一方、企業や行政も、製品やサービスの利用者の声を直接取り入れられるため、隠れていたニーズに気づけるケースも多い。

また、リビングラボではこれまで関わりのなかった異なる分野の人々と共創するため、お互いに固定概念から解放され、新しい考えを取り入れられる。

誰もが納得できる解決策を生み出せる

全員が納得できる解決策を生み出せる点も、大きなメリットである。

リビングラボでは、全員が対等な立場で意見を出し合い、アイデアを形にしていく。そして、作った試作品を実際の生活の中で使用して改良を重ねていくことで、誰もが満足できる良いモノづくりへとつながるのだ。

納得できる解決策を見つけるには、問題の特定から解決策の検討、試作品の作成まで、全員が共創する意識をもつことが求められる。

より実用的な製品やサービスを生み出せる

将来の予測が難しい現代社会において、リビングラボであれば、より実用的な製品やサービスを生み出せる。

従来の製品やサービスの開発方法では、企業や行政が主導し、後から利用者の声を聞くスタイルが一般的だった。しかし、この方法ではニーズをうまく把握できず、作る側と利用者側の間にずれが生じやすかった。

リビングラボでは、企業・行政・利用者が開発の初期段階から対等な立場で共創するため、利用者のニーズに沿った実用的なモノづくりが可能になるのだ。

参加者の成長につながる

参加する人々の成長を促進する機会にもなる。企業の人材育成においてリビングラボに参加する場合は、新しいアイデアを生み出すスキルが身に付き、行政職員や地域住民にとっては、課題解決力を身につける貴重な場となっている。

経済産業省では、「学びと社会の連携促進事業」において、社会課題を題材にしたリビングラボのプログラム開発に力を入れている。政府としても、リビングラボを教育の機会として取り入れようとしているのだ。

関係者同士のつながりが生まれる

関係者同士がつながり、さらに新たなネットワークづくりにつながるというメリットもある。

企業や行政は、利用者との関係を深めることで、ニーズの理解を深められる。また、これまで接点のなかった他の企業や大学との連携も生まれ、新しいサービス開発のきっかけとなる。一方、利用者は、利用者同士のつながりを強めたり、専門的な知識をもつ企業とのネットワークを確保したりすることができる。

現代社会では地域のつながりが薄れているという声もあるが、リビングラボはネットワークづくりを支援する役割も果たしているのだ。

リビングラボの事例

リビングラボの事例

最後に、日本国内におけるリビングラボの事例を2つ紹介する。

信州大学

信州大学では、次世代の教育・研究におけるイノベーションを推進するプラットフォームとして、独自のリビングラボを展開している。

信州リビング・ラボは、特定の関係者で活動するのではなく、地域の人々を巻き込んでおり、県内各地のコワーキングスペースやフューチャーセンターと連携して活動している。

信州リビング・ラボでは、地域に根ざしたテーマに注目し、新しい製品やサービスの検討を行っているのが特徴だ。例えば、台風による住宅浸水被害やアニマルウェルフェア、防災減災など、地域住民の日常生活に密着した課題をテーマに、新しいサービスや製品づくりに取り組んでいる。

横浜市

横浜市では、変化する地域社会の課題に対応するため、地域活動としてリビングラボを展開している。

背景には、これまでの地域活動は高齢者や主婦が中心だったが、人口構造の変化や働き方の多様化により、働く世代や大学生など、より幅広い世代の参加が必要となってきたことがある。そこで横浜市は、地域の事業者がビジネスの視点を活かしながら地域課題の解決に取り組めるリビングラボを考案したのだ。

現在は市内の10地区以上で、各地域ならではの課題に寄り添った活動が展開されている。例として「都筑リビングラボ」では、生きづらさを抱える住民がいきいきと学び働ける環境づくりに取り組んでいる。

まとめ

リビングラボは、市民・企業・行政が協力して課題解決につながる新しいサービスや製品を開発する概念である。

企業や行政が一方的に決めるのではなく、利用者も一緒に関わることで、より納得感のある解決策を生み出せる点が魅力的だろう。また、リビングラボの活用は、地域全体を活性化する面でも効果的だと考えられる。異なる立場の人が対等に意見交換をすることで、自然とつながりが生まれるからだ。

さまざまな場所で”持続可能性”が重要視される中、地域の未来を全員で共創していくリビングラボの存在は、今後さらに求められていくだろう。

参考文献
リビングラボの可能性と日本における構造的課題|国立国会図書館調査及び立法考査局
社会課題解決に向けたリビングラボの効果と課題|NTT サービスエボリューション研究所
令和元年度 中小企業実態調査事業|経済産業省
信州リビングラボ
横浜リビングラボ

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