
これから超高齢社会へと向かう日本では、高齢者は「支えられる側」というイメージの先行が、負担を感じる若い世代との間に分断を生じさせている。一方で、高齢者が積んできた豊かな経験と知識を求める声も、高まりをみせている。人と人の関係が希薄になり、孤独が蔓延する今、高齢者を要とした多世代間交流は、今後の社会をどう変えるのかを考察する。
日本の高齢化率(総人口に占める65歳以上の人口割合)は、2025年時点で29.3%となった。2050年には37.1%になると試算されており、いずれも世界で最も高い数字だ(*1)。世界人口における高齢化率は2020年時点で9.3%だが、先進諸国は軒並み15%を超えており、今後さらに上昇すると予測されている(*2)。世界は確実に、超高齢社会へと向かっている。
ちなみに、超高齢社会とは高齢化率が21%を超えた状態をさす。7%を超えると高齢化社会、14%を超えると高齢社会という。
そんな中、老年学(ジェロントロジー)という学問が注目されている。これは、加齢に伴う心身機能の変化と、高齢化に伴う生活環境、社会構造の変化がもたらす多様な社会課題を、複数の専門分野を横断して研究する学問だ。
近年の高齢者の心身の老化現象に関する研究結果では、特に65~74歳では心身の健康が保たれており、活発な社会活動が可能な人が大多数を占めていること、65歳以上の就業者の意欲が高い状況にあることから、65歳以上を一律に捉えることは現実的ではないとされている。
実は、65歳以上を高齢者とする明確な区分と一律の定義はなく、文脈や制度ごとに対象が異なる。高齢者の定義と区分に関しては、昨今では、日本老年学会・日本老年医学会が、心身の老化現象に関する各種データと意識調査から検討した結果に基づき、75歳以上を高齢者の新たな定義とすることを提案している。
さらに、内閣府の調査によると、高齢者に「経験や知識が豊かである」というイメージを抱いている人が半数近くおり、「高齢者は支えられる側」という画一的なイメージは以前と大きく変化している(*3)。実際、それまで培ってきた知識や経験をいかし、社会や地域で活動している高齢者も多く存在している。
活動の一つとしてあげられるのが、「地域の先生」となり、多世代間の交流を生み出す取り組みだ。ジェロントロジーの観点からも重要なこの活動を通して、これからの社会のあるべき姿を探る。
なぜ今、高齢者が“先生”となる取り組みが重要なのか

高齢者が先生となり、多世代間交流に取り組む理由はいくつかある。
これらの社会課題は、主にコミュニケーションの不足によるものであることが多い。社会が多様化し、個人が尊重されるようになった反面、人と人の関係は希薄となり、コミュニティの維持が困難になっていった背景がある。
高齢者を地域の先生とする取り組みは、高齢者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上、貧困の解消だけでなく、誰もが参加しやすい市民参加型まちづくりや、支え合える地域づくりにつながる可能性を秘めている。
地域の先生として、高齢者が支えられる側から支える側へとなる取り組みは、持続可能なコミュニティの再生と活性化に向けた、大きな役割を担っているといえるのだ。
“地域の先生”として活躍する取り組み事例

高齢者が「地域の先生」として活躍する取り組み事例を、いくつか紹介する。
おばあちゃんが伝えたい手作りレシピ集(北海道名寄市)
2023年時点で高齢化率33.4%の、豊かな自然に恵まれた北海道名寄市立大学の学生と、高齢化率39.5%の訓子府町の「おばあちゃんの知恵袋サークル」のメンバーとの協働で作成したレシピ集。
「おばあちゃんの知恵袋サークル」は、若い保護者や子どもたちへ自分たちの得意料理や知恵を伝えたいという思いから、女性7名で結成されたもの。おせち料理講習や、学校の親子行事などでの料理講習会、町のイベントで地元野菜を使った手づくりおやつの提供などを行っている。
このレシピ集は大学教員が間をとりもち、高齢者の知恵やわざを地域へ伝えることを目的として作成された。
昔遊び・伝承遊びで多世代交流(大阪府大阪市)
大阪市にある社会福祉法人大正区社会福祉協議会は、大正区子ども・子育てプラザと老人クラブ連合会の共催で、地域の子どもから高齢者までの世代間交流を目的に、誰もが楽しめる伝承遊び・昔遊びのイベントを実施。ダルマ落とし、けん玉、コマ回し、福笑いなどの遊びを、老人センター利用の高齢者が担当している。
大正区社会福祉協議会では、他にも「認知症カフェ」「おもちゃ修理ボランティア」「おやじカフェ」「支え合い活動ちょこ助」など、多世代間交流のきっかけとなるさまざまな事業を運営している。
人生を大いに楽しむ支援(東京都)
NPO法人シニア大楽では、リタイア後のシニアの講師デビューを支援している。国際線のパイロットやキャビンアテンダント、旅行会社のOB・OG、動物園の飼育係など、さまざまな経歴の高齢者を、自治体の生涯学習講座や市民講座、企業研修などに講師として派遣している。
ここで紹介したものは、一例にすぎない。高齢者を対象とした事業は、華々しく取り上げられる機会が少ないが、自治体や社会福祉法人、NPO、大学などを中心に、高齢者を地域の先生としたさまざまな取り組みが行われている。
高齢者が“地域の先生”になるための成功の鍵

高齢者が地域の先生となるための成功の鍵を握るのは、地方自治体はもちろんのこと、NPO法人や市民サークル、地元の大学などさまざまな団体の連携が欠かせない。
高齢者それぞれの得意とすることや、知識、知恵を引き出し、必要としている人や団体とつなぐのは、民間団体のほうが長けている面もあり、これまで培ってきたノウハウやネットワークも豊富だ。
ただ注意すべき点はある。元気にみえても、実際には加齢とともに体力が衰え、暑さや寒さを感じるセンサーも鈍くなっている場合がある。視野が狭くなり、数ミリの段差に躓いたりもする。
また、新しいことが苦手になったり、覚えたり理解したりするのに時間がかかるようになることは否めない。そういったことを周囲が理解して、無理をさせすぎない、理解できるようかみ砕いて説明するなどの配慮は欠かせない。
必要に応じて、加齢に伴う身体の変化に詳しい専門家からアドバイスを受けるといったことも、成功に欠かせない要素であるといえるだろう。
まとめ

これまでの高齢者のイメージは、体力や気力がない、若い世代が支えているといったものが多かった。そのため常に「支えられる側」として見られ、語られてきたという側面がある。
しかし今では、医学の進歩などによって平均寿命が延び、元気で活動的な高齢者が増えている。それにより、価値観や人生観も変化しており、人の生き方そのものが多様化している。年齢を重ねた人々を一律に高齢者とくくるのも、支えられる側として見ることも、もはや無意味なようにさえ感じられる。
さまざまな固定観念に縛られず、世代を超えて互いに支え合う関係性を築く。それが今後の社会にとって、何より重要で必要であることを、地域の先生たちは教えてくれているのではないだろうか。
Edited by s.akiyoshi
注解・参考サイト
注解
(*1)令和7年版高齢社会白書/高齢化の状況|内閣府
(*2)令和7年版高齢社会白書/高齢化の国際的状況|内閣府
(*3)内閣府の「年齢・加齢に対する考え方に関する意識調査」
参考サイト
日本の超高齢社会の特徴 | 健康長寿ネット
京都橘大学現代ビジネス学部先駆的事例集「おばあちゃんが伝えたい手づくりレシピ」
大正区社会福祉協議会
ふくしる大阪「昔遊び・伝承遊びで多世代交流」
東京ホームタウンプロジェクト「東京まちかど通信」
NPO法人シニア大楽


























Satoyo S
大学時代は英文科に在籍していたものの、建築設計の道へと進み、結婚・出産を機に退職。その三年後にHR広告営業を経て、障害福祉事業所の運営、行政事業の執行に携わり、現在はコンサルタントとして独立。社会福祉法人の理事も兼務している。ウェルビーイング、地域文化、伝統食品、市民活動、市民政治をテーマに執筆。物事の背景を深く掘り下げることを得意とし、「誰もが互いの個性、価値観、気候風土が育んだ文化を認めあい共生できる社会」を目指している。
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