シスジェンダーとは?ヘテロセクシャルと何が違う?

シスジェンダーとは・意味

シスジェンダーとは、生まれた時に医師から告げられた性別と性自認(ジェンダー・アイデンティティ)が一致している人を指す言葉だ。さまざまな性自認・性的指向がある中の一つで、これまでは「ノーマル」と呼ばれることもあった。

例えば、以下のような人たちをシスジェンダーと呼ぶ。
・生まれた時に医師から女性と診断され、本人も自分を女性だと認識している
・生まれた時に医師から男性と診断され、本人も自分を男性だと認識している

シスジェンダーという言葉はなぜ必要?マジョリティに名前をつける意味

シスジェンダーという言葉はなぜ必要?マジョリティに名前をつける意味

シスジェンダーという言葉は、トランスジェンダーという言葉の対義語として生まれた。トランスジェンダーとは、生まれた時に医師から宣告された性別と、自認する性別が異なる人を指す。

つまり、
・生まれた時に医師から女性と診断され、本人は自分を男性だと認識している
・生まれた時に医師から男性と診断され、本人は自分を女性だと認識している

このような人たちをトランスジェンダーと呼ぶ。

トランスジェンダーという言葉が生まれた当初は、シスジェンダーという言葉はなかった。シスジェンダーであることがノーマルであり、トランスジェンダーは特殊だ、という位置付けだったからだ。シスジェンダーは「普通のこと」なのでわざわざ名付ける必要がなく、トランスジェンダーは「特殊・マイノリティ」ゆえに、しるしをつける必要があり、トランスジェンダーという言葉が生まれた。

このように、マジョリティは名付けられず、マイノリティに名前がつけられる現象を、有徴化と呼ぶ。例えば、女性の医師や作家が少なかった際には、女医・女流作家という言葉が使われた。しかし、男医・男流作家という言葉はなかった。医師が男性であることは「当たり前」であり、マジョリティであったために、わざわざ徴(しるし)をつける必要がなかったのだ。

シスジェンダーは、トランスジェンダー以外の人を表す言葉として生まれた。つまり、マジョリティを意識的に有徴化したのだ。マジョリティの有徴化は、多様性を認める上で大きな意味がある。

なぜなら、有徴化によりこれまでになかった、「マジョリティとマイノリティを並列に語る言葉」が生まれるからだ。これにより、トランスジェンダーは特殊な人ではなく、性自認の一形態だと示すことが可能になった。

このようなマジョリティの有徴化には他にも様々な例がある。

例えば、同性愛という言葉が生まれた後、マジョリティであった異性を好きになる人々を表す異性愛という言葉が生まれた。これにより、同性愛と異性愛を並列におき、性的指向のバリエーションとして示すことが可能になったのだ。

性自認の種類

性自認にはシスジェンダーとトランスジェンダーの他にも種類がある。ここでは、代表的なものを紹介していく。

ノンバイナリー

性自認が「男性」や「女性」という二元的な枠組みに当てはまらない人。ジェンダーフルイドも含まれる。

ジェンダーフルイド

ジェンダーフルイドとは、時々、性自認が変わる人を指す。ジェンダーフルイドの人は時によって自分が女性だと感じたり、男性だと感じたり、ジェンダー・ニュートラルだと感じたりすることがある。アイデンティティがシフトするのがジェンダーフルイドの特徴だ。

ヘテロセクシャルとは何が違う?

シスジェンダーはヘテロセクシャルと混同されがちだが、全く異なる概念だ。

シスジェンダーは、性自認を指すのに対し、ヘテロセクシャルは性的指向(誰に性的または恋愛的関心を持つか)を指す。ヘテロセクシャルは、異性に性的または恋愛的な関心を抱く人を指す。

つまり
・性自認が男性で、女性を恋愛的・または性的に好きになる人
・性自認が女性で、男性を恋愛的・または性的に好きになる人

がヘテロセクシャルにあたるのだ。

シスジェンダーでヘテロセクシャルの人はマジョリティであるが、全てのシスジェンダーがヘテロセクシャルというわけではない。シスジェンダーの人の中には、同性愛者や、恋愛的・性的な欲望を持たない人もいるのだ。

シスジェンダーの特権

シスジェンダーには特権がある?

シスジェンダーはマジョリティであるがゆえに特権を持っている。

具体的には、
・公の書類に性別を記入する際に、心理的抵抗や問題が生じることがない
・性自認について人から何度も説明を求められることがない
・学校やコミュニティ、職場などで、性自認を理由に排除されない
・シスジェンダーかつヘテロセクシャルの場合、結婚などで法的な保護が受けやすい

シスジェンダーは、社会的な規範と一致しているため、トランスジェンダーやノンバイナリーの人たちが日々経験している差別や偏見、暴力を受けることがなく、法的にも保護されるという特権があるのだ。

シスジェンダーは差別的な言葉なのか

2023年6月、実業家のイーロン・マスクは、Twitter(現X)上で、シスジェンダーという言葉を使うことは中傷にあたるとし、この用語を使用したユーザーをブロックまたは排除する可能性があると述べた。

なぜイーロン・マスクはシスジェンダーという言葉を使うことを嫌ったのだろうか?—それは、イーロン・マスクがトランスジェンダーの存在や権利を否定しているからだ。

同年4月には、ヘイト行為に関するポリシーページを更新し、禁止事項から「意図的にトランスジェンダー個人の性別を間違えたり、性別移行前の名前で呼んだりすること」を削除し、トランスヘイトを放置する方向に舵を切っている。(※1)

シスジェンダーは差別的な言葉ではない。しかし、トランスジェンダーをヘイトする人たちにとっては、シスジェンダーという言葉がマジョリティを有徴化することで、マイノリティであるトランスジェンダーと並列な存在となり、それによってトランスジェンダーの権利擁護・人権擁護につながる、脅威の言葉だと感じられるのだろう。

さいごに。他者の多様な性自認や性的指向を尊重するために、言葉を獲得する

シスジェンダーとヘテロセクシャルは異なる概念だが、どちらも個人の性のあり方を説明する重要な言葉だ。

シスジェンダーの人々は、性自認が社会的に認められているため、マイノリティの人々は享受できない様々な特権を無自覚に得ている。この特権を認識し、他者の多様な性自認や性的指向を尊重することが必要だろう。

シスジェンダーという言葉の広がりは、トランスジェンダーやノンバイナリーの人々の存在を周縁に追いやることなく、彼ら彼女らの人権を守る一助となるだろう。

※1 マスク、「シスジェンダー」を中傷表現に指定 ツイッター新規則に言及|Forbes Japan 

参考書籍
「ノンバイナリーがわかる本 heでもsheでもない、theyたちのこと」エリス・ヤング著 上田勢子訳 (明石書店)

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