ブルーカーボン生態系としても知られるサンゴ礁。保全に成功したタンザニア・ムネンバ島の取り組みとは

ブルーカーボン生態系のサンゴ礁の保全に成功。タンザニア・ムネンバ島の取り組みとは

透明な海と豊かな生態系で、観光地としても人気を集めているタンザニアのムネンバ島が、サンゴ礁の危機にさらされている。かつては島を取り囲むように全長7kmのサンゴ礁が広がっていたが、徐々に地元の住民が異変を感じるように。この事態を受けて、2021年以降保全活動が本格的に始められた。

世界的にサンゴ礁の白化が見られるようになったのは1950年以降だ。しかしその保全は容易ではなく、失敗におわった事例も多い。

一方でムネンバ島の取り組みは、サンゴ礁の回復と周辺の生態系の保全に成功している。

気候変動、漁業、そして観光など多面的に影響を受けて失われていくサンゴ礁を、どのように保全したのか。ムネンバ島が抱えていた問題と保全への取り組みを紹介する。

そもそもなぜサンゴは大切なのか

ムネンバ島の取り組みを紹介する前に、そもそもなぜサンゴの保全が重要視されているのかを解説する。

実はサンゴ礁が覆っている範囲は、海底のわずか1%にも満たない。それでも人々が時間をかけて保全活動を行ってきたのは、サンゴ礁が海の生き物の命や私たちの生活にも直結しているからだ。

サンゴ礁は、次の3つの理由でその重要性が認められている。

1.海の生態系への影響

サンゴが生息しているのは海洋全体で見てもわずかな面積だが、魚類の25%はライフサイクルの一部をサンゴ礁で過ごしている。

その主な目的は次の3つだ。

  • サンゴ礁をエサとしている
  • サンゴ礁の構造を利用し、隠れ家等として利用している
  • サンゴ礁の周りに集まる生態系をエサとしている

そのため、サンゴ礁はその周辺で暮らす多様な生態の共存に貢献してきた。さらに、人間も漁業の場として恩恵を受けており、そこで生計を立てている人もいる。日常生活で見かけるものとしては、ウニ類・タコ類・貝類・モズクなどが挙げられる。

つまりサンゴ礁の白化や死滅は、海の生態系や漁師の生活、そして私たちの食卓の変化に繋がる問題なのだ。

2.地上の酸素量にも影響

海洋の二酸化炭素吸収量の高さと酸素の排出量の多さが、ブルーカーボンとして近年注目を集めている。海の二酸化炭素吸収量は29億トンで、地上の光合成によって吸収される二酸化炭素量よりも7トン多い。さらに人間の呼吸に必要な酸素の80%は海から排出されているという研究結果もある。

近年の研究結果によると、サンゴ礁の二酸化炭素吸収量は排出量を超えることが判明。サンゴ礁の酸素排出量と二酸化炭素の吸収量は地上の植物と同等、もしくはそれ以上といわれている。サンゴ礁は実は植物ではなく動物なのだが、それでも「海の森」と呼ばれるのは、このことが理由だ。

私たちの普段の生活は、サンゴ礁を含む海洋環境に守られているといっても過言ではない。

3.地元の観光収益につながる

サンゴ礁は、一部の地域でしか見れない絶景であることから、観光客を惹きつける魅力にもなっている。

地方や離島は人口が限られており、都会のようにあらゆるビジネスが発展していく場所でもないため、観光収益が現地の財源に重要な役割を担う。現地ではシュノーケリングやダイビングによる収益はもちろんのこと、近隣の飲食店やホテルの売り上げや雇用も生み出している。

サンゴ礁を保全することは、地元住民の生活基盤維持にもつながるのだ。

ムネンバ島のサンゴ礁で起きている問題

ムネンバ島のサンゴ礁で起きている問題

ムネンバ島のサンゴが危ない状況にあるのは、環境問題、地元住民の生活、外部からの環境客による影響がからみあっている。

理由1. 地球温暖化

気温が上昇すると、サンゴは病気にもかかりやすくなるとされている。さらに気温の変化によって海流の流れが変わると、サンゴの栄養源となる藻類やプランクトンなどが得られなくなってしまう。

ムネンバ島でも、生息に必要な藻類が十分ではなくサンゴ礁の白化が進んでいるという。

理由2. 漁業

ムネンバ島では漁業の際にダイナマイトを使用していた。爆発の衝撃で魚を死なせたり気絶させたりして捉える方法だ。しかし、このダイナマイト漁業は、サンゴ礁にもダメージを与えてしまう。

漁業の影響と他の要因によるサンゴ礁への影響があいまって、地元の漁師はかつて大量にいた魚が今はめっきり減ってしまったことをBBCのインタビューで告げた。

理由3. 観光

ムネンバ島は、オーバーツーリズムが懸念されていた離島のひとつだ。離島では、足で踏みつけられたり、いかりをおろした際にサンゴが折れてしまうケースや、ボートからの排水によって生態系に影響が出るケースが各地で見受けられる。観光による収益と自然保護には、バランスを保つことが必要不可欠なのだ。

サンゴ礁保全への取り組み

サンゴ礁保全への取り組み

ムネンバ島のサンゴ礁を守るために、2021年にサステナブルツーリズム団体と地元アフリカのNPO団体が立ちあがった。活動内容とその成果を紹介する。

折れたサンゴの回復

保護団体はまず水中にスチール製の網で苗床をつくり、そこにサンゴ礁保護のための訓練を受けたダイバーがサンゴの破片を植えた。一般的に植物の枝は折れると枯れ、同様に動物も体の一部が破損したら破損したら修復が効かないが、サンゴは違う。サンゴの一部が本体から離れてしまっても、その破片をサンゴにくっつけるとふたたび接合し再生していく。自然の回復力を活かした取り組みだ。

2024年時点で、島を囲うサンゴ礁の約80%が回復した。人の手を加えての回復となったが、見た目は自生したサンゴと変わらない。魚も戻りつつあるという。

人工サンゴ礁の設置

スチールと石で形づくった人工のサンゴ礁も島から3kmほど離れたところに設置された。さらに、苗床で育ったサンゴの移植にも行っている。

ダイバーとして保全に加わった地元住民の1人は、この活動に参加したメリットを2つ挙げている。1つは家族を養えるようになったこと。そしてもう1つは、子どもの教育にもつながっていることだ。

保護地区の指定

保護団体は地元の自治体と協力をすすめた結果、2022年には同国のザンジバル政府によってムネンバ島周辺の海が保護地区に指定された。保護地区になるということは、観光や漁業によるダメージに制限を加えられるということだ。

ムネンバ島では、現地の環境保護にも協力的な旅行会社のandBeyondが観光を統括し、制限地区への立ち入りは、1日最大8隻のボートに制限。ボートの乗組員の説明により観光客は海洋生態系の扱い方を学ぶ。ホテルも同会社が持つ12棟のロッジに限られ、2023年6月からは1人1日あたり100ドルの税金が滞在時に課せられている。

漁業については、島を囲むサンゴ礁周辺での漁が終了となった。これを受けて地元の漁師は、ダイナマイトを使用した違法な慣習が減ってきているように感じると話している。さらに、漁師たちが持続可能な漁の仕方について知識を得るようになってきたという実感もあるそうだ。

なぜムネンバ島はサンゴ礁保全に成功したのか

なぜムネンバ島はサンゴ礁保全に成功したのか

苗床や人工サンゴ礁の設置を行ったのは、ムネンバ島がはじめてではない。同様の策で活動にあたったが失敗した例もある。それでも約3年にわたるムネンバ島の活動が成功に向かったのは、地元との協力が大きいだろう。

人工の素材を設置してサンゴ礁の修復をはかるとき、特に大事になるのは素材だ。素材を間違えると、特に幼生期における成長がはばまれてしまう。保全活動に参加した専門家は、世界の失敗例を参考にしながらも、地元住民との話し合いで慎重に使用する素材を選んだ。

また、保全活動において重要なことは保全された状態が維持・改善されつづけていくことだ。その際に重要になるのは、他の地域から来た団体や活動家ではなく、常にその地域にいる地元住民の存在である。ムネンバ島では現地の人々が教育を受けることでサンゴ礁の保全活動をおこなえるようになり、地元の漁師たちは環境に配慮して産業をつづけていくための知見を得た。

さいごに

サンゴ礁は海底のわずか1%をおおうにとどまる小さな生命だが、その存在意義は大きい。そしてサンゴ礁の保全は、海から離れた地域に暮らす人々にも深く関わっている問題だ。

地球温暖化につながる日常生活での行動がサンゴ礁の白化にもつながり、海の生態系や地元住民の生活に影響をおよぼしている。

ザンジバル政府は、今回のムネンバ島における取り組みが各地域にも広がっていくことを願っているという。しかし、直接的な活動だけがサンゴ礁の保全につながるわけではない。

カラフルで美しい海の森を守るために、そこに集う海の生物たちを守るために、そして地元の人々の生活を守るために、さらには食卓で魚の命をいただいている自分たちのために、地球温暖化の影響の大きさを再認識していく頃ではないか。

参考記事
How islanders are saving their Indian Ocean coral reef|BBC
What happens if all the coral reefs die?|WORLD ECONOMIC FORUM
海の森ブルーカーボン CO2の新たな吸収源|国土交通省港湾局

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