
手作業などでおこなっていた業務をデジタルが担い効率化をはかるデジタル化がすすんでいるが、障がい者や高齢者など一部の人々は不便さを感じている。デジタルが必要不可欠な社会へと移り変わっていくなか、忘れてはいけないことや私たちにできることを考えていく。
日常に溢れるデジタル化

デジタル技術は、コロナ渦による非対面サービスへの需要の高まりや、人口減少や賃金引上げによる人材採用にかかる負担を軽減してきた。
消費者が注文・購入をする際の作業をデジタルが担うことで、店舗や企業は従来と同じ数の人材を確保しなくても経営を続けていける。消費者は店員を待ったり列に並んだりせずに商品を購入できる。つまりデジタル化は、提供する側にも消費する側にもメリットをもたらすのだ。
たとえば、消費者が日常のなかで目にするものには、次のようなものがある。
商品の作成段階や店頭での販売において必要な人数が減るということは、人件費や人材雇用にかかる費用のカットにつながる。結果的に、限られたコストで一定のクオリティの商品やサービスを届けられるのだ。
デジタル社会に向けた政府の指針

デジタル化の重要性は、民間企業だけではなく国も注目している。2024年6月21日、デジタル庁が「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(*1)を閣議決定した。この決定のもと、デジタルを活用することで、人それぞれが自分の要望に沿ったサービスの選択を可能にし、多様な幸せを実現できる社会を目指していく。
目指す具体的な姿は、以下の6つだ。
- デジタル化による成長戦略
- 医療・教育・防災・こども等の準公共分野のデジタル化
- デジタル化による地域の活性化
- 誰一人取り残されないデジタル社会
- デジタル人材の育成・確保
- 信頼性のある自由なデータ流通推進をはじめとする国際戦略
デジタルはマンパワーでは解決できない課題を解消する。データにもとづく根拠のある成長戦略を提供することもあれば、人材不足がすすむ介護業界で活躍することもある。国際競争の激化や人手不足に悩む現代社会には、欠かせないツールなのだ。
デジタル化に苦しむ人々。3つの事例から実態をひも解く

メリットが大きいように見えるデジタル化だが、不便さを感じている人や外出への意欲を失っている人もいる。言わば政府の指針の4番目が、まだ守られていない状態だ。その原因は何かと聞かれれば「スマホに慣れていないから」「高齢だから」だと推測する人も多いだろう。しかし、それはあくまで表面的な理由だ。
本当に必要とされている工夫やサポートを考えていくためには、実際に不便さを感じている人々の声を聞かなければいけない。
01.視覚障がい者の声
とある視覚障がい者は、朝日新聞のインタビューに協力した際、飲食店を利用する際のタッチパネル注文と配膳ロボットの不便さ、そして店員を頼りづらいことを述べた。
タッチパネル注文は、画面をタッチすれば注文が完了し、あとは待てばいいだけ。店員を探して呼び寄せる必要もなければ、オーダーミスの可能性も減る。しかし、多くのファミリーレストランやファストフード店で見かけるタッチパネルは、写真と商品名と値段が記載されているだけで音声案内はない。彼女いわく、音声案内があっても読み上げられる量が多く時間がかかる。配膳ロボットは、音で自分のテーブルに来たことは分かるが、運ばれてきた料理そのものはどこにあるか分からず、手探りで取るしかない。
店員を頼れば解決される問題かもしれないが、呼び出し用のボタンがないため声をあげて呼ぶしかなく、人材が不足しているお店ではサポートさえ断られてしまうこともある。デジタル化がすすんでから、外出が楽しくなくなったと彼女は言う。
人々が障害を理由に活動を制限されないよう、2024年4月に障害者差別解消法が改正され、事業者には「合理的配慮の提供」が求められるようになった。ここでは、障がいを持つ人が障壁を感じた際にサポートを頼むとき、事業者は過度な負担にならない範囲で配慮することが求められる。
しかし、タッチパネル注文の導入目的は不足する人材のカバーだ。障がいを持つ人が来ても対応できるように、つねに人を配置するのは人材不足とコストの双方の観点から難しい。「過度な負担にならない範囲」での配慮は、必ずしもその店舗のみでおこなえるものではない。地域や自治体もしくは民間企業が必要なサポートを提供できるよう事業やネットワークを普及させる必要がある。
02.高齢者の声
ここ最近、病院でもインターネットの事前予約をお願いする場所が増えた。予約をしていない場合は長時間待たなければいけない。
コロナ渦にすすめられたワクチン摂取は事前予約が基本で、なかでも自衛隊の敷地を利用した摂取会場はスマホアプリからの予約が必須だった。読売新聞のインタビューにこたえた80代の男性は、当日会場に向ったが、予約がないため受けられなかったと言う。係りの人に申し込みの手助けをお願いしたが、忙しさを理由に断られた。
一部の観光施設や美術館なども以前までは並べばチケットを買えたが、インターネットでの事前申し込みをお願いしている施設が増えている。電話での申し込みは手間のためか人件費のためか、受け付けていない場所も多い。事前申し込みが必要だという説明もウェブページだけに書かれていることが一般的で、インターネットを普段利用しない人は情報さえ入ってこない。
スマホの所持率は高齢者のあいだでも高い一方、インターネットの使用率は低い。消費者庁が実施した「消費者意識基本調査」(2022年度)によると、インターネットを利用していると答えた人の割合は、65歳から74歳までで約6割だったが、75歳以上は3割にとどまった。
問題はインターネットの普及率による情報格差や不慣れさだけではない。助けてくれる人が周りにいないことだ。地方の過疎化や核家族化がすすむなか、気軽に頼れる若い知り合いが近くにいる高齢者は、そう多くはない。デジタル化の課題から、高齢者の孤立というもう一つの課題も見えてくる。
03.想定外のことが苦手な人の声
デジタル化がすすめば、今まで当たり前にしていた行動の手順が変わる。ルールもやり方も変われば覚えればいいものかもしれない。なんとなくやってみればできるのかもしれない。しかし、変化に順応できるのは当たり前のことではない。
保険証とマイナンバーカードの紐づけにあたって、ある女性は東京新聞のインタビューで、自分の息子に保険証が変わることをどのように説明すればいいのか悩んでいると話した。想定外のできごとへの対応が苦手でパニックになる人もいれば、不慣れなことや想定外なことに強い不安感を感じて動けなくなってしまう人もいる。
デジタル化が促進される社会は、景色の移り変わりが激しい。病院には気付けばマイナンバーカードの読み取り機が設置されており、お店でクレジット払いをしようとすれば、パスワード入力のボタンの並びが自動で変わる液晶画面に変わっており、空港に行けばチェックインは機械化されスタッフの姿はほとんど見えない。障がいのない人でも、戸惑うことや困ることはある。ただ、慣れるのが早いだけだ。
障がいを持つ人の就労や生活をサポートする全国組織「きょうされん」の赤松英知常務理事は、環境の変化に順応するまで時間をかける必要がある人もいること、デジタル化に際しては、障害のある人のことをふまえて議論と配慮をお願いしたいことを訴えた。
取り残される人がいる現状をデジタルは解決できるのか

デジタル化を目指す政府の指針のひとつには、「誰一人取り残されないデジタル社会」があるが、デジタル化に翻弄される人がいる状況を、別のデジタル技術が改善することはできるのだろうか。ここからは、障がいを持つ人に向けて開発されたロボットやアプリを紹介する。
分身ロボット「OriHime」

「OriHime」は遠隔操作で動かせる分身ロボットだ。寝たきりの人が家で操作をして、社会活動に参加することができる。実際の活用事例はカフェの店員や秘書業務など、幅広い。
できることが少ないと、当事者はどうしても疎外感や無力感を感じてしまう。しかしOriHimeを活用して働きお金を稼ぐことで、ほかの人と同じように社会に参加できる。自己肯定感の向上や自立につながる。
音声認識アプリ「YYProbe」

「YYProbe」は、会話をその場で文字に変換してくれる音声認識アプリだ。聴覚障がい者や耳の遠い高齢者に向けて開発された。
文字起こしするだけではなく、相手が話しながら笑えば語尾に(笑)がつく。ただの情報伝達だけではなく、感情のやり取りも含めたコミュニケーションツールだ。
視覚支援アプリ「Be My Eyes」
「Be My Eyes」は、視覚障がい者や低視力者がビデオ通話をとおして視覚情報を教えてもらう無料アプリだ。助けを必要としている人とサポートする人とのマッチングアプリのため、障がいのない人がサポートする側として利用することもできる。
デジタルによるサポートの課題
上記のようなデジタル技術によって、カバーできている課題があるのは事実だ。しかし、デジタルゆえのデメリットも生じている。電波が悪く、相手の要望が聞き取れない・ビデオ画面が乱れて映像を認識できない・アプリの使用そのものが苦手といった意見がネット上に見られた。
さらに、アプリは不特定多数の人がアクセスできるため、本来の目的とは異なる人もまじっている。たとえば出会い目的や暇つぶしでの利用だ。安心してデジタル技術を活用できるよう、セキュリティの強化やサポートを必要としている人・サポートをしたい人のみが登録できる工夫を探っていかなければいけない。
マンパワーによるデジタル化課題の解決

地域のネットワーク
地域の障がい者向け施設などでは、その人の必要に応じたサポートを提供している。たとえば福祉サービスや支援の紹介、生活費に関する相談会の実施、障がいが発生したときの支援や生活に必要な知識の提供を行っている。その機能は情報収集の場としてのみに留まらない。なかにはレクリエーションの場や同じ悩みを持つ人との集いもあり、コミュニケーションや息抜きの場としても活用されている。
助けが必要なときは、身近な人だけではなく介助者を派遣してもらうことも可能だ。地域によっては無料でサポートをお願いできるので、障がいを理由とした金銭的負荷も避けられる。
障がいのない人も無関係ではない。自分が障がい者になったときや身近な人が困っているときなど、いざというときに頼れる地域の施設を事前に知っておくことが大切だ。
個人のサポート
デジタルの発達や地域のネットワーク、派遣サービスだけでは限界があるのも事実だ。私たち個人も、障がいを持っている人に積極的にサポートの手を差し伸べていく必要がある。公共交通機関で座席をゆずる、エレベーターのボタンを押す、そして注文を手伝うなど、簡単にできることが多数ある。
なかには相手の期待に添えないことや、サポートを断られることもあるだろう。しかし、誰がサポートを求めているか・どんなサポートを必要としているかは、まず話しかけてコミュニケーションを取らないと分からない。
教育現場での理解促進
障がいを持つ人にはサポートが必要なときがあると分かりつつも、実際は誰にどんなサポートをすれば良いのか分からないといった課題があった。その課題を解決し、多様な人々と手を取り合って生きて行くために注目されているのが、インクルーシブ教育だ。障がいのある人とそうでない人で学びの場を分けるのではなく、子どもの頃からともに学びともに交流する場をつくることで、お互いの理解を深め合理的配慮をしあえる社会を目指す。
また大人も、新聞やニュースなどのメディアでの情報収集や勉強会へ参加し、理解を深めていくことは十分にできる。まずは自分の周りに、どのようなリソースがあるのか探してみることが大切だ。
まとめ

デジタル化は、人材の確保だけではカバーしきれない課題を解決する社会に必要不可欠な存在だ。しかし、デジタル化がすすむなかで、不便さを感じる人や今までできていたことができなくなる人、他の人はできるのに自分だけが取り残されていると感じる人がいるのも事実だ。
実際に困っている人の声を聞くと、デジタル化によって創られていく「誰一人として取り残されない社会」の姿に沿っているとは言えないことが分かる。
デジタル開発に関わる企業は、利便性と安心安全に焦点を当てた開発を、個人は理解する努力と能動的なサポートを、社会は学べる場や環境をつくり共存できる社会づくりの工夫を重ねていくことが大切だ。
Edited by k.fukuda
注解・参考サイト
注解
*1 「デジタル社会の実現に向けた重点計画」による。
参考サイト
セルフオーダー、視覚障害者に配慮は 注文に苦労「外出の気持ち薄れる」|朝日新聞
「ネット予約は無理」ため息・諦めて7月に診療所で接種…戸惑う高齢者|読売新聞
マイナ保険証 障害のある息子が切り替えに対応できるでしょうか…現行の保険証「廃止」に揺れる母親|東京新聞
令和5年版消費者白書目次|消費者庁
本記事は、特集「デジタル社会を生き抜く」に収録されている。AIなどデジタル社会の課題と、人間らしくしなやかに生き抜くための持続可能な仕組みを探った。ほかの記事もあわせて、より多角的な視点を見つけよう。

特集|デジタル社会を生き抜く
人類史上かつてないスピードで発展していく現代社会。
デジタル社会の到来は、私たちの生活の利便性を高めている。
一方で、圧倒的なスピード感や情報の渦に疲弊していることも否定できない。
ウェルビーイングを保つため、私たちはこの社会とどう向き合っていけばいいのだろうか。




























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