
エコフェミニズムとは
エコフェミニズムは、エコロジーとフェミニズムを合わせた造語で、双方の概念を掛け合わせた新しい思想の形や、そこから起こる社会運動のことを意味する。
私たちの生活のあらゆる場面で「持続可能性」について考えさせられている昨今。特に、自然環境に関するエコロジー問題と、男女平等をはじめとするジェンダー問題は活発に議論されている。この二つの問題は一見関連性のないように見えるが、実は根本的な構造は同じだと考えられているという。
産業革命以降の人類が地球環境に大きな悪影響を及ぼしてしまった原因は、資源を大量に搾取・消費し、生態系を壊しつづけ、自然界を支配しようとしたことにあるとされる。ここに、男性優位社会や家父長制によって女性を支配する社会構造を重ねて合わせているのが、エコフェミニズムの概念だ。つまり、人間による自然支配と男性による女性支配が、同じ形であると考えている。
また、これまでのエコロジーに関する運動は主に男性によって実践されてきたため、その思想には女性支配社会が反映されているのではないか、といった指摘もエコフェミニズムの主張に含まれている。そのため、エコロジー分野での持続可能性を考えるのであれば、まずは女性支配の構造を変化させなければならないとも言われているのだ。
エコフェミニズムの歴史

エコフェミニズム誕生の背景には、フェミニズムが発展してきた歴史が大きく関わっている。フェミニズムの歴史において最も大きな変革をもたらしたのは、1960年から70年代にかけて起こった、第二波フェミニズムといわれる運動だ。
この頃、第二次世界大戦後の復興のため、各国で大きな社会や経済構造の変化が起きていた。この体制に対する反発の声が大きくなり、学生運動なども盛んに起こっていた時期である。市民運動が広まる中で、日常的な性差別に対して声をあげる女性が現われ、これが第二波フェミニズム運動へと繋がっていった。
時を同じくして、1962年にレイチェル・カーソンの『沈黙の春』が出版される。化学物質が生態系に与える影響について警鐘を鳴らし、生物多様性の重要さを訴えた本書は瞬く間に話題となり、多くの人々がエコロジーについての関心を高めていった。
エコフェミニズムは、こうした時代背景の中で誕生した概念だ。そのきっかけは、フランスの作家フランソワーズ・ドボンヌが1974年に出版した、『フェミニズムか死か』の中で使用したことだと言われている。彼女は、本の中で地球環境破壊と女性差別、そして植民地支配の問題はすべて、男性優位社会における家父長制が引き起こしたものと述べている。
エコフェミニズムが注目される背景
ドボンヌによって提唱されたエコフェミニズムは、その後アメリカで話題となり、今では世界中で注目されている。
例えば、途上国における男女格差や貧困問題は深刻化しており、教育や医療を受けられる女性の割合が、男性よりも圧倒的に少ない地域も未だに存在している。
中でも大きなものは、災害時の避難における問題だ。女性は男性の許可なく外出できない、家族のケアを優先させなければならないといった慣習や、木登りや泳ぎ方に関する教育を受けていないといった状況から、女性たちが逃げ遅れるという事例が多発している。実際、気候変動に起因する自然災害で命を落としたり、やむを得ず環境難民となってしまった人々の大多数が女性といわれている。
ある調査では、女性の政治参加率が高い国は他の国と比べ、二酸化炭素の排出量が少ないという結果が示されている。その理由は、女性は気候変動に対して男性と異なる懸念を示す、リスク回避に慎重である、技術的な解決策に頼りすぎない、といった点が挙げられている。
昨今は気候変動によって自然災害が大型化、あるいは長期化していることが問題となっているが、こうした状況もエコフェミニズムが注目されている理由の一つである。
エコフェミニズムにおける4つの思想

このように展開されてきたエコフェミニズムの概念は、多様な広がりを見せている。ここでは、アメリカのフェミニストであるキャロリン・マーチャントによって大別された思想について、それぞれ詳しく見ていこう。
リベラル・エコフェミニズム
リベラル・エコフェミニズムの大きな特徴は、資本主義体制に対して概ね肯定する姿勢を見せていることだ。人間が望む合理性や、利益を最大化するための行動について否定的ではない。むしろ、そのための経済体制は資本主義が最適であると考える。
ただし、そうした経済構造作り出すために必要な教育やビジネスの場から女性が閉め出されていることが問題だとするのが、リベラル・エコフェミニズムの考え方だ。つまり、環境問題においても、解決に向けた役割や教育の機会を男女共に平等に与えることができれば、改善に向かうとしている。
カルチュラル・エコフェミニズム
カルチュラル・エコフェミニズムでは、女性および自然の価値について再評価を行うべきという主張がベースになっている。
というのも、男性優位社会が確立する以前の先史時代、妊娠することができる女性は、生命を生み出すものとして自然と同じように尊敬されていたという。しかし、歴史の中で家父長制が誕生すると同時に、女性は出産や育児、家事のみを担当する役割であるとして、社会から隔離されるようになる。結果として女性や自然の地位を下げ、どちらも男性が支配する社会構造が出来上がったと考えている。
そのため、まずは女性と自然を先史時代と同じ地位に高めることが必要であると捉え、人間と自然との繋がり、古代の女神信仰など宗教的な要素を含んだ考え方を持っていることが、カルチュラル・エコフェミニズムの特徴だ。
ソーシャル・エコフェミニズム
ソーシャル・エコフェミニズムは、そもそも今の家父長制および資本主義社会が諸悪の根源であり、この構造を壊して支配・被支配の関係をなくすことが重要と考えている。そうでなければ、自然を支配するシステムも終わらないからである。
この考えは、マレイ・ブクチンの提唱するソーシャル・エコロジーをエコフェミニズムに転用したものとされる。男性と女性の身体的特徴の差異が存在していることは明らかだが、それらによって性的な支配・被支配の関係が築かれていることが大きな問題だと指摘する。
生殖能力の差によって女性を抑圧することは認められず、自然に対する支配もこれと同じように考えられている。つまり、資本主義社会下では環境問題もジェンダー問題も解決に至らないという考えが、ソーシャル・エコフェミニズムである。
ソーシャリスト・エコフェミニズム
ソーシャリスト・エコフェミニズムは、資本主義における市場での生産と、家庭での再生産(家庭内労働)のあり方を見直す考えが特徴だ。これはマルクス主義フェミニズムの考えを、エコロジーに当てはめたものである。
女性が行う再生産は、男性が行う生産よりも地位の低いものとして捉えられ、賃金も払われていないため、まずはこのあり方に変革が必要であると主張している。
社会主義体制は、この点に配慮した新しい社会の形であり、利潤の最大化ではなく欲求の充足が基礎にあるため、人間と自然、生産と再生産が調和した持続可能な社会を運営することが可能になるという。
日本でのエコフェミニズム論争
日本では、1980年代にエコフェミニズム論争が巻き起こった。この論争は、日本における「エコフェミニズムの提唱者」とされる女性論評論家の青木やよひと、社会学者の上野千鶴子によるもので、別名〈青木・上野論争〉と呼ばれている。
青木は、現代文明から女性と自然が疎外されている点を挙げ、フェミニズムの観点から文明を問い直すこと、「エコロジーとフェミニズムは切り離せるものではない」と主張した。
一方の上野は、男性と女性の二元論ではなく、男女の性差を最小に抑えること、男女の力関係の変革、社会的役割分業の撤廃を主張しており、青木の主張を「女性原理」に偏りすぎていると真っ向から否定した。
青木の主張が、産業社会を批判したイヴァン・イリイチの思想と同一視されていたことも、この論争におけるポイントとなっている。イリイチが提唱するジェンダー論は、前近代的な男女の関係が相互補完的なものであるとして理想化し、フェミニストたちから総攻撃を受けていた。これを背景にイリイチ批判は青木批判へと繋がっていき、最終的に青木は論壇から追い出されるような形になってしまったのである。
こうして、激論化した日本のエコフェミニズム論争は失速し、その後大きな広がりも見せることなく今日に至っている。
エコフェミニズムの今後

日本ではかつてのように議論されなくなったエコフェミニズムだが、特に発展途上国で実践的な活動が行われるなど、活発な動きを見せている。
1970年代には、インドで女性が森林伐採に抗議するため、木に抱きついて守ろうとした「チプコ運動」が北インドで社会現象となった。またケニアでは、ノーベル賞受賞の環境活動家ワンガリ・マータイを中心とした植林運動が、およそ10万人の女性たちによって行われている。
この運動は、環境保全だけではなく女性たちの地位を高めること、貧困からの脱却にも繋がっており、エコロジーとフェミニズムの関連性がうかがえる出来事である。
さらに、「一見関係のない問題が、実は同じ構造だった」ということは、エコフェミニズム以外にもあり得ることだ。このような既成概念を掛け合わせて新たな問題提起を行うことはこれからの時代に重要なことであり、エコフェミニズムは、そうした時代の動きに一石を投じる存在となるかもしれない。
参考サイト
エコロジーと女性-エコフェミニズム|森岡正博
80年代日本のエコフェミニズム論争を総括する― 〈青木・上野論争〉の5つの争点をめぐって|森田系太郎
Gender and climate change: Do female parliamentarians make difference? |ScienceDirect
Women’s status and carbon dioxide emissions: A quantitative cross-national analysis |ScienceDirect
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