ボディ・ポジティブとは?ボディ・ニュートラルとどう違う?どんな身体もポジティブに捉える概念の利点や課題を解説

ボディ・ポジティブとは?

ボディ・ポジティブ(Body Positive)とは、2010年代初頭から始まった、「ジェンダー、人種、障害、体型に関わらずあらゆる身体」をポジティブにとらえる考え方や運動のことだ。

社会が押しつける美の基準や体型の規範は、非現実的に細いモデル体型だったり、毛穴がひとつもない肌だったりすることが多い。そういった規範に対抗し、あらゆる身体的特徴に対してポジティブな認識を促進するのがボディ・ポジティブなのだ。

ボディ・ポジティブというと、「プラスサイズモデルのこと?」と思われる方が多いが、ボディ・ポジティブは基本的には「どんな体型でも美しい」という理念であるため、痩せすぎだと思われている人を美しいと捉えることもまた、ボディ・ポジティブのひとつの形になりえる。

しかし現実には、ボディ・ポジティブの立役者になる人は標準体型よりもふくよかな、いわゆるプラスサイズの人が多い。これは、多くのメディアやメゾンが痩せたモデル至上主義を長年貫いた結果、「やせ信仰」に捕らわれ、息苦しさを感じている人が多かったことの反動だと言えるだろう。

ボディ・ポジティブの具体例は?

出典:Courtesy of Universal Standard

次に、ボディ・ポジティブの具体例について確認しておこう。

ボディ・ポジティブの具体例1 ソーシャルメディアのキャンペーン

InstagramやX、Tik Tokなどのプラットフォームで、「#BodyPositive」や「#SelfLove」等のハッシュタグを用いて、「自分の体を誇りに思う」写真やメッセージをシェアすることが一時流行したが、これもボディ・ポジティブのひとつの形態だ。これまで美しいとされてきた「モデルのような長身で細身(多くは白人)」の体型ではない一般の人たち、またはインフルエンサーが写真を撮り、堂々とした美しい写真を投稿することで、これまでの美の基準に息苦しさを感じていた人に、解放感を与えたのだ。

ボディ・ポジティブの具体例2 多様なモデルを起用する

ファッション業界や広告業界で、従来の若くてスリムなモデルだけでなく、さまざまな体型や年齢、肌の色のモデルを起用することが増えている。

日本でボディ・ポジティブの最大のアイコンとなったのは、お笑い芸人でインフルエンサーの渡辺直美だろう。渡辺直美は、シュウウエムラやスキンケアブランドSK-IIのアンバサダーに就任し、「可愛く、お洒落な」存在として認識されている。

これまで、お笑い芸人、とくに女性お笑い芸人に対しては、容姿をいじることが定番化していた。しかし、近年のボディ・ポジティブの流れもあり、「容姿いじりは古い」という認識に変わりつつあるようだ。

人の容姿をバカにしたり、笑ったりする行為は「ボディ・シェイミング」と呼ばれる。2024年5月、男性お笑い芸人が、女性タレントの写真をSNSに投稿し、「○○さん、でかいなー」とコメントをつけた。お笑い芸人は、面白いと思ってこういったコメントを書いたようだが、炎上し、削除を余儀なくされる騒ぎとなった。現代は、「ボディ・シェイミング」が「面白い芸」ではなく、「笑えない加害」だと認識される時代なのだ。

ボディ・ポジティブの具体例3 教育とワークショップ

女性誌などを中心にボディ・ポジティブをテーマにした記事が増えているのも、ボディ・ポジティブ・ムーブメントの一環だ。また、自分の体に対するポジティブな認識を深めるための教育が教育機関で行われることもある。たとえば、細身のモデルの写真のフォトショップ前の写真を見せ、メディアで表象されている「美しい人」がいかに非現実的かを見せることで、自分の身体に対するマイナスイメージを抱かせないように教育している学校もある。

ボディ・ポジティブのメリットとは?

次に、ボディ・ポジティブは人々にどういったメリットを与えたのか、を確認しておこう。

ボディ・ポジティブのメリット1 メンタルヘルスの改善

自分と同じ体型のモデルが活躍している姿などを見て、自己肯定が高まる人もいる。これにより、ストレスや不安、うつ病のリスクが軽減される可能性がある。

ボディ・ポジティブのメリット2 体型を揶揄されることが少なくなる

ボディ・ポジティブは、体型や外見の多様性を尊重することを推進している。ボディ・ポジティブは、「体型を揶揄する」ことを批判するムーブメントでもあるため、体型を揶揄される機会が減る、というメリットがある。

ボディ・ポジティブのメリット3 健康的なライフスタイルを推進する

若い女性たちが摂食障害に陥りやすいのは、「痩せていれば、痩せているほどいい」という価値観が一因になっているが、ボディ・ポジティブは、自分の身体を愛し、大切にすることを推奨している。それにより、無理なダイエットや過度な運動を避け、健康的なライフスタイルを追求することが促されるというメリットがある。

ボディ・ポジティブの問題点とは?

ボディ・ポジティブには、様々なメリットがあるが、一方でいくつか問題点もある。

ボディ・ポジティブの問題点1 誤解され、健康が蔑ろにされる

ボディ・ポジティブの概念が誤解されることがある。例えば、「どんな体型でも良い」とボディ・ポジティブを捉えた結果、健康に問題が出るほどの肥満を放置してしまう、という例がある。ボディ・ポジティブは、健康を損なう行動を奨励するものではなく、あくまで自己受容を促すものだが、誤解されてしまうケースもあるようだ。

ボディ・ポジティブの問題点2 商業化の加速によってメッセージがゆがめられる

ボディ・ポジティブのムーブメントは商業化され、マーケティングの手段として利用されがちだ。企業がこのムーブメントを利用して利益を追求する場合、本来のメッセージが薄れてしまうことがある。たとえば、プラスサイズモデルを広告に利用し、「太っている方が可愛い。ガリガリはモテない」といった趣旨のキャッチコピーをつけた場合、これは、本来のボディ・ポジティブの趣旨である「どんな体型でも、自己受容する」というメッセージから大幅に逸れることになる。

ボディ・ポジティブの問題点3 ポジティブや美しさを強要する

ボディ・ポジティブ・ムーブメントが外見に対するポジティブな認識を強調しすぎることで、息苦しさを感じる人もいる。

「どんな体型でも美しい」「自分を愛しましょう」というメッセージは素晴らしい。若い女性の摂食障害を減らすことに貢献できるメッセージになりえる。しかし一方、何を言われようと、自分の体型を愛せない人もいるし、美しいと思えない人もいる。そういった人にとって、ボディ・ポジティブのメッセージは息苦しさを感じてしまうものになりえる。

こういった人のために新しく現れた言葉が「ボディ・ニュートラル」だ。ボディ・ニュートラルとは、自分の身体にポジティブになる必要はない、ニュートラルでいい、という考え方だ。ボディ・ニュートラルは「自分の身体を愛せなくてもいい」という中立的な立場をとる。また、美しさよりも身体の機能の方に着目するようにボディ・ニュートラルは促す。足が太い、そこが自分では愛せない、でも、この足で立って歩くことができる、それこそが本来の足の機能なのだから、これでいい、無理にポジティブに「足が太いところが美しい」と思う必要はない、美しさはそもそもそんなに重要じゃない……こういった考え方がボディ・ニュートラルなのだ。

ボディ・ポジティブの問題点4 自分の身体を愛せないのは自己責任だと思わされる

ボディ・ポジティブ・ムーブメントによって、自分の身体を好きになれた人がいる。一方、好きになれない人もいる。ボディ・ポジティブ・ムーブメントが「自分の身体を愛そう」と呼びかけ続けることで、「愛せないのは自分のせい」だと思い込んでしまう人もいる。

自分の身体を愛せないのは、社会にはびこるルッキズム(外見にもどつく差別)が関係しており、社会の側の問題なのにも関わらず、「自分が悪い」と思いこんでしまいかねない、という問題がある。

さいごに

ボディ・ポジティブ・ムーブメントの多くは、従来の「痩せている人は美しい」に加えて「太っている人も美しい」と美のオプションを増やしただけであって、ルッキズムの構造自体は変わらない、という指摘がある。あながち的外れとは言えないだろう。

しかし、その「オプションを増やした」ことで救われている人も、確実に存在しているのだ。ボディ・ポジティブはそれさえあれば、ルッキズムからすべての人が開放されるという魔法の言葉ではない。しかし、「痩せている身体こそ美しい」という強固な神話に苦しめられている人の助けとなるコンセプトであることは間違いないだろう。

参考文献
『ルッキズムを考える 現代思想』(青土社)

関連記事

新着記事