フードダイバーシティとは?注目される理由や3つの要素、日本での現状や取り組みを解説

フードダイバーシティとは

フードダイバーシティ(Food Diversity)は「食の多様性」とも言われ、宗教、歴史、文化に基づく多様な食習慣や食文化を尊重しようという概念のことだ。近年では、病気や体質など健康的な理由や健康志向に基づいた食習慣に対する考え方も含まれている。

古くから地域や宗教上の理由から食の多様性は存在していたが、フードダイバーシティの概念や考え方が本格的に注目を集めだしたのは、グローバル化の拡大や多文化共生社会の発展が関与している。

「食のバリアフリー」との違い

フードダイバーシティと混同される言葉として「食のバリアフリー」が挙げられる。

フードダイバーシティは多様な食文化や宗教、健康志向に基づく食事の方法を尊重して、幅広い選択肢を広げることを目的とする。一方、食のバリアフリーでは食事における「障壁」を取り除き、特別な配慮が必要な人でも安心して食事できる環境を整えることを目的としている。

つまり、両方ともに「誰もが食を楽しめる社会」を目指す方向性は同じだが、フードダイバーシティは「選択肢を増やす」のに対して、食のバリアフリーは「障壁をなくす」というアプローチ方法に違いがある。

フードダイバーシティが注目される理由

日本においてフードダイバーシティが注目される理由は、在住外国人数および訪日外国人数の増加が挙げられる。

日本政府観光局の統計によると、新型コロナ流行時は400万人前後まで落ち込んでいた年間の訪日外国人観光客数は、アフターコロナに移行した2024年にはコロナ前の2019年の観光客数を上回る3,700万人を超える勢いとなり、過去最多を更新した。

政府は「明日の日本を支える観光ビジョン」のなかで2030年までに、訪日外国人旅行者数として6,000万人を目標に掲げている。直近では2025年に大阪・関西万博を控えていることもあり、多様な食に対するニーズに応え、誰しもが心地よく過ごすことができる環境を整えるフードダイバーシティの対応が必要と考えられている。

フードダイバーシティとSDGs

フードダイバーシティは、SDGsとも関わりが深い。

SDGsは「持続可能な世界」を実現するために、2030年までに達成すべき17の目標を示したものである。なかでも、目標10の「人や国の不平等をなくそう」は性別、年齢、障害、人種、階級、民族、宗教、機会に基づく不平等の是正も求めており、宗教やさまざまな考え方に配慮した食環境づくりはSDGsの推進につながる。

フードダイバーシティの3つの要素

フードダイバーシティが重視する要素は、大きく3つに分類できる。

1 宗教上の理由

宗教上の教えや信念に基づいて、特定の食べ物や飲み物を「食べてはいけない」ものと定めている場合がある。宗教によっては安心して食べることができるように、認証マークが発行されているケースもある。

具体的な代表例のいくつかを紹介する。

ハラール料理

①イスラム教
イスラム教は戒律によって食べてよいもの・いけないものが厳格に決められている。イスラム法によって食べてよいものは「ハラル(ハラール)」、食べてはいけないものを「ハラーム」と呼び、豚肉やアルコールは例外なく禁止されている。豚肉以外の肉類についても、イスラム法に則った加工方法のみ食べられるなどの制約をもつ。

②ユダヤ教
ユダヤ教は厳格な食事規定「カシュルート」に基づいて食べてよいものが定められており、「コーシェル(コーシャ)」と呼ばれている。ユダヤ教では「ひづめが2つに割れており、反芻する」動物にあたらない豚や馬、「うろこやヒレを持たない」イカやタコ、甲殻類や貝類、うなぎなどは禁止。また宗教上の適切な処理が施されていない肉や血液も避けられている。さらに、乳製品と肉類は一緒に食べることができないという制約ももつ。

③ヒンドゥー教
ヒンドゥー教では牛は神聖なもの、豚は不浄のものとされ食べることを禁じている。他の肉や魚介類を避けて、菜食主義を貫く人もいる。生ものや卵を食べることも避けられ、厳格な規律を重んじる場合には、五葷(にら、にんにく、らっきょう、玉ねぎ、あさつき)を避ける。

2 健康上の理由

フードダイバーシティ

体質や疾患を理由に食べることができない場合もある。特定の食べ物を食べることによって、健康状態を損なう、もしくは症状の悪化や命に危険が及ぶ可能性があるからだ。

例えば、食物アレルギーやグルテンフリーが代表的な例として知られている。

①食物アレルギー
食物アレルギーは特定の食べ物を食べることで、じんましん、かゆみなどのアレルギー症状、時にはアナフィラキシーショックなどの重大な病態を引き起こす。日本でも食物アレルギーをもつ患者数は年々増加しており、食品表示法では、患者数が多く重篤な症状を引き起こしやすい8つの食品は表示義務、それに次ぐ20種類の食品は表示を推奨するよう定めている。2025年2月には、消費者庁が患者数の増加に伴って表示義務にカシューナッツ、表示推奨にピスタチオを加える方針を発表したのは記憶に新しい。

②グルテンフリー
グルテンフリーは、主にグルテンを取り込むことで体調の悪化につながる小麦アレルギーやセリアック病、グルテン不耐症の患者数が多い欧米において広まった食事方法である。2010年以降、プロテニスプレーヤーのノバク・ジョコビッチ選手の食事法として注目を集めたこともあり、徐々に日本でも広まった。

3 食の志向性

個人の主義や志向性に基づいて特定の食材を避けることである。

動物福祉や環境保護に配慮したヴィーガンベジタリアンが代表例である。ヴィーガンやベジタリアンの世界人口は増加の一途をたどっており、ヴィーガンやベジタリアンの訪日観光客は2023年には全体の5.1%にあたる128万人と推計されている。

日本におけるフードダイバーシティの具体的な取り組み

日本における具体的なフードダイバーシティの事例を紹介する。

1 やまなしフードダイバーシティ認証(山梨県)

山梨県では多様な食文化をもつ旅行者が、安心して楽しんでもらえる食事メニューやお土産品を増やすことを目的に、ハラール、ヴィーガン、ベジタリアンの3つについて、国際的な認証基準に沿いつつ、事業者にとって取り組みやすい県独自の基準を策定し、基準を満たしたメニューや商品に認証マークの付与を行っている。

2 大阪・関西万博

2025年4月13日~10月13日に行われる大阪・関西万博では、ヴィーガンメニューの開発やグルテンフリーメニューの販売、多彩なハラル・ヴィーガンメニューを取りそろえたフードダイバーシティ型ファーストフード店を出店予定であることが発表されている。

まとめ:フードダイバーシティの今後

日本国内においても新型コロナウイルスを機に、健康意識が高まり、新たな食事や食習慣の形成に結びついている。

スーパーや食料品店でのプラントベースやハラール表示がある食料品の販売、飲食店でのヴィーガン、ベジタリアン向けのメニュー提供など、選択できる食事の幅は徐々に広がりをみせている。

国内外を問わず、食へのさまざまなニーズが求められている今、誰しもが自由に選択して食事を楽しめる環境づくりが求められている。

※フードダイバーシティはフードダイバーシティ株式会社の商標登録です。

参考記事
一歩から始まるフードダイバーシティ|日本調理科学雑誌
多様な食文化・食習慣を有する外国人客への対応マニュアル|国土交通省
外国人おもてなしポイント|東京都
ぜんそく予防のためのよくわかる食物アレルギー対応ガイドブック|独立行政法人・環境保全再生機構
グローバル時代における多種多様な食のニーズへの対応 |日本調理科学界誌
ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム 旅行者おもてなしガイド|観光庁

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