多文化主義とは?グローバル化における多様性を活かす調和のある社会づくり

多文化主義とは

多文化主義とは、多様な文化や言語を受け入れて調和のある社会づくりを目指す考え方である。この主義が反映された多文化社会の例として、カナダのトロントでは、様々な民族の料理店が軒を連ね、多言語での行政サービスが提供され、さらには異なる宗教の祭りが開催されている。このような社会づくりをするための考えが、多文化主義である。つまり、少数民族集団と主流民族集団両方の独自性を尊重することで、国としての成長や繁栄につながると考えられている。

多文化主義は少数民族グループの持つ文化や言語を放棄させ、住んでいる国の習慣を受け入れさせようとする「同化主義」とは相反するものでもある。過去に同化政策への反発から少数派が分離独立を求め、社会の分断を引き起こした事例もあり、現在多くの国では多様性を認めながら社会の一体性を保つ考え方として多文化主義の考え方が注目されている。

多文化主義と似ている概念

多文化主義には類似する概念がいくつか存在する。ここでは、それらの概念との違いを見ていく。

文化相対主義

文化相対主義とは、特定の文化観だけで異なる文化を評価するのではなく、文化的な違いを認識し、文化が育まれた環境や歴史的背景から多面的に理解しようとする考え方である。たとえば、インドのヒンドゥー教徒は牛を食用としないが、欧米では一般的によく食べられている食材である。文化相対主義では、これらの習慣を文化や宗教的な背景から尊重し、どちらが「正しい」とは判断しない。つまり、個々の文化に優劣をつけることはない。多文化主義では他文化を受け入れることが不可欠であるため、文化相対主義は基盤となる重要な概念だとされている。

文化的多元主義

文化的多元主義とは、社会の中に”強い”文化が存在するものの、少数民族グループも独自の文化を維持し、それが社会全体で認められている状態を指す。たとえば、ニューヨークのチャイナタウンでは、中国系アメリカ人のコミュニティが独自の言語や習慣などを維持しているものの、これらはアメリカ社会の一部として認知されている。一方、多文化主義では文化に強い、弱いといった概念はなく個々の文化が対等に扱われているため、二つは似て非なる概念なのだ。

多文化主義が注目されている背景

多文化主義という考え方が登場した背景には、おもに二つの動向があげられる。

一つ目は、1960年代後半から人々が個々や文化の独自性の維持を目指す「民族文化主義」が登場したことにある。この動向により、マイノリティの発言力が強まり、経済や社会における不平等や差別が問題視されるようになった。

二つ目は、第二次世界大戦以降に欧米へ大量の移民が流入したことで、社会で多数の少数民族グループが作られ、多様性が生まれたことにある。しかしその後、1960年代までは教育や雇用面などで移民に対する差別が蔓延していた。そのため、1970年代からは文化の違いを受け入れるための制度づくりや差別禁止法の制定などが各国で行われた。この時期に、カナダやオーストラリアで国家統合を目的とする理念として多文化主義の概念が誕生した。現在ではグローバル化の影響によって人口の流動性が高まったことにより、多様な文化の共存を目指す多文化主義の考え方は、さらに注目されている。

海外と日本の事例

カナダ・ケベック州の多文化主義の事例

ここでは、海外と日本における政策や課題について紹介する。

カナダ 

カナダにおける多文化政策は、英仏戦争後にフランス語圏であるケベック州で民族主義が登場し、二言語・二文化主義がはじまったことがきっかけとなった。1969年には公用語法が制定され、二言語主義が法的に保障された。一方、英語系やフランス語系以外の移民集団からの不満が高まったため、1971年に多文化主義が国策となり、1988年には法律として定められた。

カナダは、中国系移民への人頭税や第二次世界大戦時のマイノリティに対する強制収容などの人種主義の歴史がある。また、先住民族に対しては同化政策が行われ、先住民の集団訴訟の結果、2006年に和解が成立した。しかし、現在でも先住民は低所得で高失業率といった構造的暴力が続いている。カナダの政策は、多様な背景を持つ人々の共存を目指しつつも、先住民族の権利保護や社会統合に向けた取り組みが課題となっており、見直しが求められている。

イギリス 

イギリスでは、戦後に流入した移民により形成された少数民族グループに対する人種差別問題を解決するために政策が進められた。1965年に制定された「人種関連法」は、人種差別を禁止する法制度として初めて導入され、その後、改定を繰り返して強化された。

しかし、多文化主義が社会の分断を招き、少数民族グループが社会から孤立するという批判が高まったため、集団の権利を尊重しつつ、主流社会に統合させる「市民統合(移民が主流の価値観や慣習を理解し、社会の一員として参加することを目指す)」アプローチが重視されるようになった。たとえば教育分野では、複数の信条に配慮した宗教教育が導入されたり、多様性に関連する用語が教育課程に組み込まれたりした。このように、イギリスでは少数民族グループの権利尊重と市民統合のバランスをうまく取りながら対策が進められている。

日本 

日本は、高齢化と出生率低下に伴い、他国から移民を受け入れることで労働力を確保する必要性が高まっている。そのために、外国人居住者を支援し、市民統合するための政策が進められている。具体的な政策としては、特定技能労働者ビザを導入し労働力不足を解消したり、多文化共生センターによる言語クラスや法律相談を設けて、日本での生活がスムーズに行えるようなサポートをしたりしている。しかし、外国人労働者の不安定な雇用や、教育や医療などの生活で必須となる分野における言語の壁などさまざまな課題が存在している。

日本における在留外国人数は、2023年には約340万人となり2013年からの10年間で60%ほど増加した。このような社会の動きがある中で、多文化主義を推進するための体制づくりや生活・就労環境の準備、多言語での情報発信など、共生社会に向けた取り組みがますます求められる。

多文化主義の利点

多文化主義の利点

ここでは、多文化主義がもたらす利点を解説する。

国際的な義務である人権の尊重を果たせる

多文化主義では、国家における全ての民族の文化や価値観を優劣をつけずに尊重し合うため、国際的な義務である人権の尊重を果たせる。また、多様な文化の受容を促す政策を行うことで、同化や社会の分離といった問題が回避できるため、より安定した社会づくりにつながる。近年、社会における公正さの確保や平和の推進は国際社会においてより一層強く求められている中、多様な文化が共生できる社会は、人権の保護や社会の中に安心感をつくる基盤となる。

社会全体の福祉が促進される

もう一つの利点は、社会全体の福祉が向上することだ。多様性を認め、お互いを尊重する多文化主義では、すべての民族が個々の独自性を維持しながら社会に参加できるため、心理的なストレスが軽減される。さらに、多種多様な文化や価値観が共存することで、社会全体としても創造性や問題解決能力が高まる可能性があるともいわれている。

多文化主義の問題点 

多文化主義には人権の保護や社会の平穏さの確保といった利点がある一方で、いくつか課題や問題点も存在する。

将来的に社会が崩壊する可能性がある

多文化主義は時間と共に変化する可能性があり、政策によって社会が安定したとしても将来的には不安定になることもある。たとえば、さまざまな民族が混在していたバルカン半島では、1990年代に民族紛争やユーゴスラビア解体などが起こったことによって多文化主義が崩壊している。そのため、多様な文化の共存を維持し続けていくためには、長期的な視野に立って政策を立案する必要がある。

リベラル主義とコーポレート主義が対立する

多文化主義には「リベラル主義」と「コーポレート主義」と呼ばれる二つの形態が存在する。リベラル主義とは、多様性を認め、マイノリティの存在も容認するものの、公的な場では主流文化や言語に従うべきだという考えだ。つまり、少数民族グループの文化は私的な場所のみに限定される。一方のコーポレート主義では、少数民族グループは法的に認められ、公的な場でもその文化を発揮し、ビジネスにおける経済支援も行なわれる。その国の公用語ではない言語でビジネスやコミュニティ活動が展開されるため、一部で主流の文化や価値観が後退する可能性があるという懸念もされている。現在、多文化主義に関する政策が進められる欧米の国々では、両者が混ざっている。今後、政策を進めていくうえでは、その地域の特性なども考慮しながら、主流民族と少数民族グループ両方の権利のあり方を慎重に考えていく必要がある。

経済不況に陥ると多文化主義を守りづらい

多文化主義政策を実施していくうえでは、その国の財政基盤が安定していなければならない。経済成長期にある場合は、少数民族グループの所得は安定する傾向にあり、民族間の対立も起きにくい。たとえば、1980年代から90年代前半の経済成長期にあったカナダでは、移民の受け入れ拡大や支援などの政策を実施した結果、社会的な統合が進んだのだ。

一方で、国の財政が逼迫すると政策のための予算も削られるため、安定した社会の維持が困難となる可能性がある。実際に、2008年の世界金融危機後には、多くの欧米の国々で不況となり、移民に対する支援プログラムが縮小された。このように、多文化主義政策を成功させるには、経済の安定と成長を確保しつつ、不況時にも一定の政策を維持できるように努めていかなければならない。

まとめ 

グローバル化が進み人々の往来がかつてないほど活発になっている中、あらゆる社会において多文化・多民族の共生が求められている。そのような状況において、同じ地域内で生活する全ての民族や文化を尊重し合う多文化主義は、違いを受容して、決して排除しない平和な社会づくりをする上で重要な考え方である。

これまでも、現在でも、世界のあらゆる場所で民族同士のちょっとしたすれ違いを起因とした紛争が勃発している。私たちは他者との違いやそれに対するバリアを無意識で自身の中に植え付けている可能性もあるが、多文化主義という考え方を知ることで、「違い」を許容する態度を身につけることにつながるはずだ。そして、より多くの人々が多様な文化を許容することができれば、紛争を予防し、他者との対立を危惧する必要のない平穏な社会づくりにつながっていくことを期待できるのではないか。

【参考サイト】
多文化主義の限界はいかにして乗り越え可能か|名古屋市立大学
Multiculturalism|Stanford Encyclopedia of Philosophy
多民族国家の行方 -多文化主義の可能性と限界|神戸大学
Social psychological costs and benefits of multiculturalism|Queen’s University
多文化主義と多文化主義政策の動向|お茶の水女子大学
共同研究報告 : 欧米諸国における多文化の問題と日本の課題)|北海学園大学人文学会”>カナダ多文化主義の発展と今後の課題(<特集>共同研究報告 : 欧米諸国における多文化の問題と日本の課題)|北海学園大学人文学会
Multiculturalism in Japan: An Analysis and Critique|関西学院大学
「多文化主義」の理論、実践及びその限界について|立命館大学
The Challenges of Multiculturalism|Malory Nye
カナダの多文化主義政策の一考察|敬愛大学
カナダの多文化主義の光と影|ヒューライツ大阪

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