ピアサポートとは?「同じ経験」がもたらす、心の支えと回復の力

誰にも言えない悩みを、一人で抱え込んでいないだろうか。孤立しがちな現代社会で、同じ経験を持つ人同士が支え合う「ピアサポート」という取り組みが広がりを見せている。本記事では、ピアサポートの仕組みやメリット、課題、そして私たちのウェルビーイングにもたらす価値を説明していく。

あなたの「つらさ」を理解してくれる人

心の中に渦巻いているもやもやを、誰にも打ち明けられずにいるのではないだろうか。職場での人間関係、上司からのプレッシャー、経済的な不安、病気による将来への恐れなど、日常生活のさまざまな重荷が私たちの心を押しつぶす要因となる。誰かに助けを求めたいけれど、自分の弱さを見せることには抵抗があると考える人も少なくないだろう。

孤独に悩みと向き合う人が多い世の中で、同じような経験を持つ人たちが互いに支え合う「ピアサポート」と呼ばれる取り組みが、広がりを見せている。専門家による支援とは異なり、同じ立場で苦しみを知る仲間だからこそ、専門家の助言以上に心に届くことがある。

孤独やつらさは、決して一人だけのものではない。同じ経験を持つ誰かが気持ちに寄り添い、共に歩んでくれる可能性があるのだ。


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ピアサポートとは?「仲間」が支える理由

ピアサポートとは、英語の「peer(仲間)」が語源となっている支援の形である。カウンセラーや医師といった専門家ではなく、同じような立場や経験を持つ人同士が支え合う仕組みを指す。同じ病気を抱える患者同士の交流会、職場でのメンター制度、学生同士の相談活動など、形態はさまざまだ。

ピアサポートの特徴は、同じ経験を共有することで生まれる深い共感にある。専門家の客観的なアドバイスも重要だが、「あなたの気持ち、痛いほど分かるよ」と悩みについて同じ立場で分かち合ってくれる仲間の存在は大きい。

病気の症状を一から説明する必要もなく、言葉にならない苦しさも察してもらえる安心感は、当事者にとって何よりの支えとなるのだ。支える側と支えられる側が固定されず支え合うという関係性こそが、ピアサポートの本質である。


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ピアサポートがもたらす3つのメリット

ピアサポートは、受ける側にも提供する側にも、心理的な面で多くの良い影響をもたらす。具体的にはどのような効果があるのか、3つの視点から見ていこう。

孤立感の解消

「自分だけがつらい思いをしている」という思い込みは、人をより深い孤独に陥れる。しかし、同じ境遇の仲間と出会い、経験を共有すれば、その孤立感は和らいでいく。

2024年9月、習慣化アプリ「みんチャレ」が対象ユーザー148人にアンケートを実施。ピアサポートを実感したシーンとして「孤独・孤立感が減る」を挙げた人は、約44%の65人にのぼった(*1)。同じ目標に向かう仲間の存在を感じるだけで、心理的な負担が大きく軽減されることがわかる。

誰かとつながっているという実感は、不安やストレスを和らげる効果も持つ。ピアサポートは、個人のメンタルヘルスを支えるだけでなく、社会的なつながりを再構築する重要な役割も担っている。

自己肯定感の向上

体験を分かち合うことで、支援を受ける側は「自分は一人ではない」という安心感を得られる。一方で、ピアサポートは受ける側だけでなく提供する側にも前向きな変化をもたらす。自らの経験を活かして誰かを支えることで、自己効力感や自己肯定感が高まっていくのだ。

つらい経験も、誰かの役に立つと思えば意味のあるものに変わっていく。同じ病気と向き合いながら生活する仲間の姿は、支援を受ける側の未来を考えるうえで具体的なロールモデルとなるのだ。

このようにピアサポートは、お互いの体験を共有し合うことで、どちらも自己肯定感を高めていくことができる。一方的な支援関係では得られない、ピアサポートならではの相乗効果といえる。

回復への希望

困難を乗り越えた仲間の存在は、未来への希望を与えてくれる。ピアサポーターにとっては「誰でもリカバリーできると信じること」が重要だという。なぜなら、ピアサポーター自身がリカバリーの証拠だからだ。アメリカでは、“I am the evidence!(私が証拠)”という言葉で、この概念が表現されている。

絶望的な状況に置かれたとき、明るい未来を思い描くことは難しい。しかし、同じ苦しみを乗り越えた仲間の姿を目にすることで、「自分にもできるかもしれない」という小さな希望が芽生える。

回復の希望こそが、心の健康を取り戻すための第一歩となる。孤立感から解放され、自己肯定感を育みながら、前に進める道があることを具体的な形で示してくれるのだ。


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ピアサポートの課題点

ピアサポートには多くのメリットがある一方で、活動を続けていく上での問題点や倫理的な課題も存在する。支援の質を保ちながら持続可能な仕組みを作るために、課題に目を向けることが必要だ。

共感の「暴走」と境界線の問題 

相手の気持ちに深く寄り添えることがピアサポートの強みだが、共感しすぎることで支援者側が疲弊してしまうリスクもある。看護ジャーナル「Issues in Mental Health Nursing」に掲載されたレポートによると、患者の話に自分の経験を完全に重ね合わせてしまい、中立的な対応ができなくなったというケースも報告されている(*2)。

特に感受性の強い人は、他者の感情を吸収しやすく、刺激の受けすぎによる苦痛に陥ることがある。そのため、適度な距離感を保ちながら、自分自身を守る重要性を学ぶ必要があるだろう。

専門的な介入が必要な深刻な問題を、ピアサポーターだけで抱え込んでしまうことも危険だ。共感力の高さゆえに生じる課題を認識し、適切な境界線を引くスキルの習得が求められている。

活動の持続性と質の維持

多くのピアサポート活動がボランティアに依存している現状では、持続可能性が大きな課題となっている。

障害者職業総合センターの研究では、ピアサポート従事者の立ち位置の難しさが問題として挙げられている。自身も当事者であった経験から、職員として振る舞うべきか、それとも仲間として寄り添うべきか、その線引きが難しくなってしまうのだ。

また、日本では約3割の自治体が養成研修を実施せずにピアサポーターを雇用している(*3)。確立された養成プログラムやガイドラインが存在しない中で、どのように専門性を担保するかは重要な課題である。

倫理的な配慮やバーンアウトの予防など、支援の質を維持するための仕組みづくりが急務である。


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ピアサポートを普及させるには

ピアサポートには課題もあるが、その効果は大きい。同じ立場の人同士が支え合うことで、一人で抱えていた不安や悩みが軽減され、安心して治療に向き合えるようになる。

しかし現状では、認知不足や社会的な偏見、地域支援ネットワークの未整備などから、その価値が十分に理解されていない。そのため、いまだ多くの疾患当事者が孤立している。ピアサポートを社会的に定着させるためには、認知度の向上や専門家との連携など、多角的なアプローチが必要だ。

普及のための選択肢の一つが、テクノロジーの活用だ。メタバースやAI技術を使ったオンラインのピアサポートなら、地理的な制約がなくなり、遠方や移動が困難な人も参加できる。こうした取り組みの成果を可視化し、行政や医療機関、地域住民に具体的な効果を示していくことで、ピアサポートへの理解と協力が広がっていくだろう。

また、活動を支える安定的な資金源の確保や、効果を定量的に評価する仕組みの開発も重要だ。普及のためには、社会全体でその価値を共有し、持続可能な支援体制を築いていく必要がある。


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人と人がつながる場所は、心の拠り所になる

現代社会では、SNSで多くの人とつながっているように見えても、真の意味での心のつながりを感じられない人が増えている。そんな中、ピアサポートのような人と人との直接的な支え合いは、私たちのウェルビーイングにとって欠かせない要素となっている。

誰かと経験を分かち合い、共感し合える場があることで、人は自分が一人ではないと感じられる。弱さを見せることが恥ずかしいことではなく、むしろ勇気ある行動として受け止められる安心感が、日々の生活に前向きな変化をもたらすのだ。

周りを見渡してみると、同じような悩みを抱えた仲間がいるかもしれない。地域の支援団体やオンラインコミュニティなど、つながりを見つける場は意外と身近に存在している。まずは一歩踏み出して、誰かとつながってほしい。心の拠り所となる場所を見つけることで、あなた自身のウェルビーイングも、きっと豊かになっていくはずだ。

Edited by s.akiyoshi

注解・参考サイト

(*1)8割以上が実感!ピアサポートの効果|みんチャレ習慣化ラボ
(*2)Full article: Experiences and Challenges in the Role as Peer Support Workers in a Swedish Mental Health Context|An Interview Study
(*3)日本におけるピアサポートの現状と課題|障害者職業総合センター

参考サイト
ピアサポート|こころとくらし by 国立精神・神経医療研究センター
孤独・孤立対策について|厚生労働省
ピアサポートは、あなただからできること。|はとらく
ピアサポートの活用を促進するための 事業者向けガイドライン|社会福祉法人豊芯会
How to Overcome Empathy Overwhelm | Psychology Today
ピアサポートの価値創造と普及による新しい医療社会モデル構築にむけた展開|SOLVEシナリオ・ソリューション

About the Writer
中村衣里_中村エレナ

エリ

大学時代は英米学科に在籍し、アメリカに留学後は都市開発と貧困の関連性について研究。現在はフリーライターとして、旅行・留学・英語・SDGsを中心に執筆している。社会の中にある偏見や分断をなくし、誰もが公平に生きられる世界の実現を目指し、文章を通じて変化や行動のきっかけを届けることに取り組んでいる。関心のあるテーマは、多様性・貧困・ジェンダー・メンタルヘルス・心理学など。趣味は旅行、noteを書くこと、映画を観ること。この人が書いた記事の一覧

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