晒・鉄鍋・金継ぎ。江戸の台所に学ぶサーキュラーエドノミー®生活

江戸の台所には、限られた資源を工夫して使い切る知恵が息づいていた。晒や鉄鍋、金継ぎなど、使い捨てに頼らずモノを大切にする暮らしは、現代のサステナブルな生き方にも通じる。循環型社会の先駆けともいえる江戸の台所の知恵から、“豊かさ”の本質を見つめ直してみよう。

サステナブルが当たり前だった江戸時代

現代社会がめざすサステナブルな暮らしや循環型経済。

これらは一見、新しい概念として語られているが、実は約300年前の江戸時代の日本では、すでに日常の中に根づいていた。

人々は、限られた資源を無駄なく使い切り、修繕や再利用、再生を当たり前のように行っていた。

こうした江戸の知恵と暮らし方に、現代のテクノロジーやデザイン思考を組み合わせ、持続可能な社会を再構築する新しい価値観――それが「サーキュラーエドノミー®」である。

資源を大切に扱い、道具や食料を使い切る中に“豊かさ”を見いだしていた江戸の人々。彼らの暮らしに宿る知恵に目を向けることは、これからのサステナブルな生き方を考えるうえで、大きなヒントになるだろう。

本記事では、晒・鉄鍋・金継ぎといった江戸の台所を支えた道具を手がかりに、サーキュラーエドノミー®の原点を探っていく。

江戸の台所は、循環型社会の縮図だった

江戸時代の人々は、資源の循環を生活の中で実践していた。とりわけ、食と日常を支える台所は、その思想がもっとも色濃く表れた場所である。

当時の台所では、廃棄物がきわめて少なかった。生ごみは肥料や家畜の餌に、使用済みの灰は洗剤として再利用。紙くずも回収業者によって資源化されていた。つまり、「モノを捨てる」という概念自体が、ほとんど存在しなかったのだ。

道具は修理しながら使い続け、何世代にもわたって引き継がれたものも多い。そこには、道具への愛着と職人への敬意があった。壊れたから捨てるのではなく、直して生かすという考え方こそが、江戸時代の豊かな生活を支えていた。

繰り返し使い、直して生きる──江戸の台所道具

江戸の循環型社会を象徴する三つの台所道具を紹介しよう。

晒(さらし)──使い捨てない布の知恵

晒(さらし)は、一枚のシンプルな白い布のこと。江戸時代の台所では、濾す・拭く・蒸す・包むなど、万能に使われていた。

汚れた晒は手縫いで補強して雑巾にし、ぼろぼろになるまで使い込んだあと、最後は小さく裂いて焚き付けや照明の芯の燃料として使い切った。

現代のキッチンペーパーやラップと似た用途ながら、何度も洗って使える点が大きく異なる。まさに“使い捨てない”という江戸の考え方を体現する道具だ。

鉄鍋・鉄瓶──使い込むほど育つ道具

鉄鍋や鉄瓶は、使い込むほどに味わいと性能が増す道具だ。鉄鍋は手入れを重ねることで油がなじみ、鉄瓶は使うほどにまろやかなお湯になる。

底に穴が開いたり、鉉(つる)が壊れたりしても、溶接や部品交換で修理できる。家族の記憶とともに育てられた鉄器は、何十年、ときには何代にもわたって使い継がれた。

鉄器は耐久性だけでなく、調理用具としても非常に優れた性能を持つ。鉄は熱伝導率が高く、火の通りが均一で、食材のうまみを引き出す。保温性にも優れ、料理を温かいまま楽しめる。

「長く使い、育てる」という鉄器の哲学は、安価なものを頻繁に買い替える現代の消費行動とは対極にある。

金継ぎ──壊れた器を「再生」する美学

茶碗や皿が割れたとき、多くの人は廃棄を選ぶだろう。しかし江戸の人々は、割れた破片を漆でつなぎ、そのつなぎ目に金や銀を塗布して、食器として再生させた。これが「金継ぎ」だ。

金継ぎでは、割れや欠けを金粉で装飾し、壊れた痕跡をあえて強調する。不完全さを楽しむという、日本独自の美学──侘び寂びの精神を体現している。

金継ぎが施された器は、世界に一つだけの存在となる。それは物質的な価値観では測れない、精神的な豊かさにも通じる。壊れたものを捨てるのではなく、その歴史を受け入れ、愛おしむ心こそが、江戸時代の豊かさのひとつといえるだろう。

現代の暮らしに活かす、江戸の台所のエコ知恵

「江戸時代の台所文化を現代で再現する」と聞くと、多くの人が難しく感じるだろう。たしかに、モノを丁寧に長く使うことよりも、買い直すほうが手っ取り早い。

しかし今は、現代の生活様式に合わせた“昔ながらの道具”も登場している。コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスでは語り切れない“豊かさ”に目を向けたとき、これらの道具が役立つはずだ。

現代型のロールタイプの晒

「晒に興味はあるが、使い勝手が不安」という人におすすめしたいのが、株式会社武田晒工場の「和晒ロール Cut」だ。ミシン目つきのロールタイプで、キッチンペーパーのように必要なときに切り取って使えるため、手軽に晒を日常に取り入れることができる。

用途は幅広く、拭く・蒸す・濾すといった調理の基本に加え、コーヒーフィルターの代わりにもなる。さらに、冷凍保存や電子レンジでの解凍も可能なので、ラップの代用としても活躍する。お弁当に詰めるおにぎりも、濡らした晒を使えば熱々のご飯でも握りやすい。

南部鉄器

南部鉄器は、岩手県でつくられる鉄鋳物の伝統工芸品。鉄瓶や鍋、急須など、どれも伝統的な技法を受け継ぎながら、現代の生活様式に寄り添う形へと進化を続けている。

老舗の及源鋳造株式会社による「焼き焼きグリル」は、発売から20年以上にわたり愛されてきた鉄の焼き皿だ。魚焼きグリルの熱を活かして食材の焼き上げ、鉄の蓄熱効果で料理をふっくらと仕上げる。出来上がった料理は木台に乗せてそのまま食卓へ。使い勝手のよさから、家庭だけではなく、アウトドアでも重宝されている。

また、株式会社岩鋳が手がけるカラフルでモダンな急須は、テーブルウェアとの調和を楽しめると、国内外で人気を集めている。デザイン性に加え、鉄器ならではの高い保温性も魅力だ。内部に施されたホーロー加工により、サビにくく、忙しい現代の暮らしにも取り入れやすい。

南部鉄器は、時を重ねて育てていくことで味わいを増す道具。“使いながら長く育てる”という感覚は、江戸の人々が大切にしていた「直して生かす」精神とも重なっている。

金継ぎの初心者キット・ワークショップ

金継ぎと聞くと、職人の仕事で敷居が高いと感じる人も多いだろう。しかし近年は、初心者向けのキットやワークショップが増え、誰でも気軽に体験できるようになっている。

金継ぎキットを販売する「つぐつぐ」は、東京で金継ぎ教室を開講。生徒による金継ぎ作品展を開催するなど、国内外に向けてその魅力を広めている。

江戸時代から続く天然漆の専門店・播与漆行では、厳選した漆や天然素材を使用した金継ぎの工芸教室を開催している。初心者でも本格的な伝統技術を学べると評判だ。

金継ぎの初心者キットは、インターネットでも手軽に購入できる。

もし大切な器が割れてしまったら、金継ぎという方法で“使い続ける”という選択肢も考えてみてはどうだろう。

江戸の台所に学ぶ、“豊かさ”の本質

大量生産のなかった江戸時代、人々は自然と共に生き、限られた資源を工夫して使い切りながら暮らしていた。古布は雑巾に、壊れた鍋は修理し、器は金継ぎで美しくよみがえらせる——。

それは「もったいない」という言葉だけでは語り尽くせない、循環の美学そのものだ。手をかけ、工夫し、楽しむ暮らしの中に、心のゆとりや人とのつながりが息づいていたのだろう。

現代社会が抱える大量消費や環境問題を見つめ直すとき、江戸の台所の知恵は未来への道しるべとなる。使い捨てではなく、「大切に長く使う」という感性に触れたとき、日々の景色が少しずつ変わっていくだろう。江戸の暮らしが教えてくれるのは、「足るを知り、つながりの中で生きる」という、持続可能な幸福のかたちなのかもしれない。

Edited by c.lin

注解・参考サイト

注解
「注1」COS KYOTO株式会社|EDONOMY®

参考サイト
さささ 和晒ロール|株式会社武田晒工場
南部鉄器の老舗|及源鋳造株式会社
IWACHU|株式会社岩鋳
つぐつぐ株式会社つぐつぐ
株式会社播与漆行

About the Writer
小島奈波

夢野 なな

ライター、イラストレーター。芸術大学美術学科卒業。消費が多く騒々しい家族に翻弄されながらも、動植物と共存する生き方と精神的な豊かさを模索中。猫と海、本が好き。神奈川県の海に近い自然豊かな田舎で暮らす。創作に浸る時間が幸せ。
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