
お気に入りの服が色あせて、クローゼットの奥に追いやった経験はないだろうか。大量生産・大量廃棄の時代において、服の寿命は短く見積もられがちだ。そんな中、「捨てるなら、染めよう」という発想で古くなった服に再び命を吹き込むサービスがある。「染め直し」という衣類ケアの新しいかたちから、持続可能なファッションの未来を探る。
色を重ねるというケア。「SOMA Re:」の染め直しが生む再生のかたち

汚れて着られなくなった服、少し古びてクローゼットで眠ってしまった服。これらは多くの場合、ゴミとして捨てられてしまう運命にある。しかし、埼玉県寄居町の染物事業者「きぬのいえ」が展開するサービス「SOMA Re:(ソマリ)」は、この流れに待ったをかけた。彼らが提案する「染め直し」は、古びた服に職人の手でもう一度命を吹き込むのだ。
SOMA Re:の特徴は、色あせや黄ばみ、落ちないシミなどを、職人の手で丁寧に染めあげる点にある。特に、元の色を隠して服を蘇らせる「黒染め」や、元の色に近い色へ染め直す「色かけ染め」、期間限定の特別なカラー染めが中心となっている。職人が一点一点、高温で洗浄してから染料を調合し、ムラなく均一に染め上げる工程は、まさに「服に命を吹き込む作業」に他ならない。
このサービスを通じて同社が目指すのは、服と長く付き合う「サステナブルなお付き合い」の実現だ。本来、役目を終えてしまうはずだった一着が、染め直されることで、再び「心を弾ませる一着」へと生まれ変わる。これは、従来の「作って、使って、捨てる」という一方通行の経済モデルから脱却し、資源を循環させ続けるサーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方を体現している。
サーキュラーエコノミーにおいて、製品を長く使い続けることは重要な取り組みの一つである。染め直しは、服の物理的な耐久性を高めるというよりは、「着続けたい」という服への愛着や価値を再生させる。つまり、廃棄の選択肢を増やすのではなく、着用の選択肢を増やすことで服の循環を支える仕組みとなっているのだ。SOMA Re:では、染め直した服を次のシーズンまで預かってくれるクローゼットサービスも展開しており、服を大切にする暮らしの輪を広げようとしている。
ファストファッション時代の選択肢。“染め直し”というオルタナティブ

現代は、ファストファッションの全盛期だ。安価でトレンドを取り入れた服が大量に生産され、世界中で簡単に手に入るようになった。しかしその裏側で、「地球環境への負荷」や「ファッションロス」といった膨大な衣類廃棄の問題が深刻化している。
世界では約9,200万トンもの衣類が廃棄されている(*1)とも言われ、その多くが埋め立て処分されている。これは、私たちが一秒ごとにごみ収集車一台分の衣類を捨てている計算である。日本国内だけでも、年間約70万トンもの服が手放され、そのうちリサイクルやリユースに回るのはわずか一部であり、多くは焼却や埋め立て処分となっているのが現状だ(*2)。
ファストファッションのビジネスモデルは、短いサイクルで新しい商品を投入し、消費者に頻繁な買い替えを促すことで成り立っている。この構造は、必然的に売れ残りやワンシーズンで飽きられる服の大量廃棄を生み出してしまう。中には、ハイブランドでさえ、ブランド価値を守るために、新品の在庫を焼却処分してしまうケースもあるほどだ。
こうした大量廃棄の問題に対し、SOMA Re:の「染め直し」は環境負荷を低減する有効な「オルタナティブ」となる。新しい服を一着作るためには、原料の栽培(綿花など)・染色・縫製・輸送など、多くの水資源やエネルギー、化学薬品が使われ、大量の二酸化炭素が排出される。しかし、既存の服を染め直す場合、これらの新規生産に伴う環境負荷の多くを削減できる。
服を捨てる代わりに染め直すという選択は、「新しい資源を使わない」という点で、環境への影響を大きく軽減する。特にこのようなサービスを利用することで、手間をかけずに個人のクローゼットからファッションロスに立ち向かうことを可能にするのだ。
循環の入口としての染め直し。ファッションロスに抗う小さな一歩

ファッションロスという巨大な問題に直面すると、「自分一人が何か行動しても無駄なのでは」と感じてしまいがちだ。しかし、この問題の解決は、私たち個人ができる小さな一歩から始まる。その小さな一歩の、最も効果的な行動の一つが「染め直し」の利用だと言える。
汚れたり色あせたりした服を捨てるという「終点」ではなく、染め直して再び着るという「再スタート」を選ぶこと。それは、一着の服の寿命を延ばすだけでなく、ファッションロス全体を減らすための循環の入口となる。多くの人がこの選択肢を選ぶようになれば、新規の衣類生産の需要は減少し、アパレル業界のサプライチェーン全体に変化をもたらすきっかけとなるだろう。
染め直しは、私たち一般消費者にとっても実践しやすいエシカル消費の形だ。「環境のために完璧な消費行動をしなければならない」と気負う必要はない。SOMA Re:のサービスは、LINEでの見積もりや配送で完結するため、忙しい中でもできる範囲で、気軽に持続可能な消費行動を始められるよう設計されている。
「捨てるなら、染めよう」というメッセージの裏には、「モノを大切にする暮らしの輪を広げたい」という職人の思いが込められている。愛着のある服をプロの技術で蘇らせる体験は、私たちに「長く大切に使うことの喜び」を思い出させてくれる。それは、ファストファッションによる大量生産・大量廃棄の流れに逆らう、私たち一人ひとりが起こせる最も小さな、そして最も重要な行動のひとつとなるだろう。クローゼットで眠っている服を一枚取り出すことから、未来のファッションを編み直す作業は始まるのだ。
Edited by k.fukuda
注解・参考サイト
注解
*1 世界では年間9,200万トン、着数にして約3,000億着が廃棄され、最終的に焼却・埋め立てされている。ボーダレス・ジャパン「アパレルの大量廃棄を減らすには? 人や環境に配慮した服が当たり前の社会をつくるEnter the E」による。
*2 衣類の国内新規供給量は計79.8万トン(2022年)に対し、その約9割に相当する計73.1万トン(69.6万トン+3.5万トン)が事業所及び家庭から使用後に手放されると推計。「資料3環境省説明資料」による。
参考サイト
SOMA Re:(ソマリ)
SOMA Re:の染め直しサービス|suim
捨てるなら、染めよう「服の染め直し」SOMA Re: |CAMPFIRE (キャンプファイヤー)
サステナブルファッション|環境省
本記事は、特集「物語をまとう——つくる人、着る人、つながる世界」に収録されている。布や色の奥に重なる時間や人の気配。世界とのつながりを形づくるその輪郭に、静かに目を凝らしてみたい。ほかの記事もあわせて、より多角的な視点を見つけよう。
特集|物語をまとう——つくる人、着る人、つながる世界
私たちは毎日、何かをまとって外へ出る。
布や色、肌に触れる感触。その奥には、時間や人の気配が静かに重なっている。まとうという行為は、身体を守るだけでなく、世界との距離やつながりをかたちづくっているのかもしれない。
その輪郭に、静かに目を凝らしてみたい。






























丸山 瑞季
大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。( この人が書いた記事の一覧 )