直すことが、あたりまえの社会に。ナガクが築くリペア・リメイクのプラットフォーム

大量消費の社会でモノが簡単に捨てられる現代、「直して長く使う」という文化を取り戻す動きが広がる。修理情報を集約し、全国の職人とユーザーを結びつけるリペア・リメイクのマッチングプラットフォーム「ナガク」は、新しい消費のあり方をリードしている。モノの寿命を延ばし、愛着とともに使い続けるための仕組みを探る。

消費社会に対するナガクの挑戦

現代社会は、一度きりの消費を前提とするリニアエコノミー(線形経済)の上に成り立ってきた。大量生産・大量消費・大量廃棄を行ってきた従来のモデルは、確かに私たちの生活を豊かにしてきたが、その結果として地球温暖化や資源枯渇という深刻な課題を生み出している。

特に、製品の寿命が尽きる前に次々と新しいモデルが発売されるサイクルは、まだ使えるモノが「古い」という理由だけで捨てられる状況を生み出した。このような社会では、「直すこと」は軽視されてきたと言える。

壊れたものを直したいと思っても「誰が」「何を」「どのくらいの費用と期間で」直せるのか、という情報は不足している。修理にかかる費用や手間が新品を買い替えるコストを下回らないことも多く、修理が敬遠されがちだった。そもそも「モノを修理して使う」というライフスタイル自体が、私たちの日常から遠ざかってしまったという文化が薄れてしまったことも背景にある。

しかし、地球規模での持続可能性が問われる今、世界的な潮流は資源を循環させるサーキュラーエコノミー(循環型経済)へと移行しつつある。欧米で広がる「修理する権利(Right to Repair)」や、修理費用を補助する「リペアボーナス」制度の動きは、モノを修理し長く使うことが社会的な要請となっている表れとも言えるだろう。

長野市に拠点を置くスタートアップ『ナガク』が掲げるビジョンは、「直すことを日常にする」社会の実現だ。モノの寿命を延ばす核となる「リペアやリメイク」という営みを、特別なことではなく、誰もが気軽にアクセスできるプラットフォームとして提供することで、限界が指摘されるリニアエコノミーに、新たな選択肢を提示しているのだ。


バタフライダイアグラムとは

職人とユーザーをつなぐ仕組み

ナガクが展開するのは「リペアやリメイクの技術を持つ職人」と「大切なモノを直したいと願うユーザー」を、ウェブ上で効率的につなぐマッチングプラットフォームである。

これまで依頼の最大のハードルとなっていたのは「情報の壁」だった。金継ぎ、ジュエリー、革製品、家具、着物、包丁研ぎなど、多岐にわたるリペアの専門分野は全国に点在しており、一般の消費者が自分の直したいモノに対応できる職人を探し出すのは至難の業だ。ナガクは、この壁を打ち破ることを目指している。

ナガクに登録した職人は「プロアカウント」として、ウェブ上でリペア・リメイクショップを開設できる。ここでは、費用や制作期間、そして最も重要な要素として、リペアのビフォア・アフターを比較できる豊富な事例写真が掲載される。ユーザーは自分の壊れたモノと似た事例や、職人の技術レベルをスマートフォンで手軽に確認できるのだ。

ユーザーは、直したいモノのカテゴリやタグから、簡単に最適なショップを探し出せる。気になるショップを見つけたら、直したいモノの写真をメッセージで送り、見積もりを依頼する流れだ。相談自体は無料で、見積もりから決済、依頼完了まですべてオンラインで完結できる仕組みである。

また、プラットフォームとして安心感を持ってもらうため、代金をナガクが一時的に預かる「エスクロー決済」を採用している。第三者としてユーザーとショップ間の取引に介入することで、お金に関するトラブルの防止につながり、ユーザーも安心して依頼できるようになる。

ナガクは、ただ修理依頼を仲介するだけのシステムではない。修理事例がシェアされることで、モノにまつわる愛着や、それを直した職人の技術が「物語」としてユーザー間で語り継がれるコミュニティの側面も持っているのだ。

修理されたモノは「新品よりも愛着のある一品」となり、その価値とストーリーが次のユーザーの「直す」行動を促す。ナガクは、誰もが手軽にリペアを依頼できる仕組みづくりを行ったと同時に、職人の見えにくい技術を可視化し、モノを直すという文化を社会に深く根付かせようとしているのだ。


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修理からはじまる新たなストーリー

修理やリメイクは、ただ壊れた箇所を直すだけでなく、モノに手を加えることでその価値を高め、持ち主の愛着をさらに深める。ナガクを通じてリペアされた革靴、金継ぎで美しく蘇った器。黒染めで新たな命を吹き込まれた衣類は、その持ち主にとって「新品よりも愛着ある一品」へと変わるのだ。

創業者である渡部一紀氏は、自身が古民家をセルフリノベーションする中で「直す」面白さに目覚めた経験から、このプラットフォームを構想したという。彼が指摘するように、現代は「買い替えの方が楽な消費スタイル」だが、それは数十年の間に生じた一時的なものにすぎない。今、消費者はその反動として、リユースやリペアを通じた持続可能なライフスタイルへと回帰しつつある。

同社は、こうした文化の転換期において、循環型社会の担い手としての役割を果たしている。サービス開始から半年で200人近い職人が参加し、中にはジュエリーの修理に約20万円をかけたユーザーもいるという。人々の間で「長く使いたい」という意識が、確実に高まっていることが伺える。

リペア・リメイクという行為は、モノの寿命を延ばし、廃棄物を減らすという環境への貢献に直結している。それだけでなく、モノにまつわる愛着や思い出といった情緒的な価値を高め、消費者の精神的な豊かさにもつながる。

ナガクは今後、取り扱いカテゴリの拡大や機能の拡充を進め、「飲食店なら食べログ、リペアならナガク」と、誰もが想起できるリペアのデファクトスタンダード(事実上の標準)となることを目指している。モノが直されて長く使われる社会、すなわち「直すことが、あたりまえの社会」は、このプラットフォームから発信される小さな修理の物語一つひとつによって、着実に築かれていくだろう。

Edited by k.fukuda

参考サイト

リペア・リメイクショップを探して依頼できる『ナガク』|ナガク株式会社
「直して使う」が当たり前の社会へ ナガクの渡部一紀さん|日本経済新聞

About the Writer
丸山瑞季

丸山 瑞季

大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。この人が書いた記事の一覧

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