
政治が行われている至る所で駆使されてきたプロパガンダ。SNSが普及している現代では、政治的な発言が容易にできるようになっており、プロパガンダの影響力も強まっているとされる。そこでプロパガンダの手法や、プロパガンダによる影響などを解説し、どのように向き合うといいのかも紹介する。
プロパガンダとは?

「プロパガンダ(Propaganda)」とは、大衆宣伝を指す言葉で、特定の思想や意見、信念を広めたり、世論を誘導するために行われる活動のこと。語源はラテン語の「propagare(広がる、種をまく)」で、17世紀にカトリック教会が設立した「Congregatio de Propaganda Fide(信仰普及聖省、1622年設立)」が由来とされる。布教活動が他宗派から反発を招いたことから、否定的な意味合いで使われるようになった。
本来は中立的な語だが、政治や社会運動で世論を操作する目的に多用され、戦争を正当化する手段として用いられた事例がよく知られている。
プロパガンダの影響
プロパガンダは、政治的な選択や消費行動など、さまざまな意思決定に影響を与える。意識の統一や結束を高め、「社会をまとめる」「信念を共有する」といった側面もある。
たとえば「オリンピックで金メダルを◯個獲得」「国内総生産(GDP)世界第◯位」といった表現は、国際的な優位性を示す際の典型だ。
一方で、情報が偏ると社会の分断を助長する。「敵」と「味方」の単純な二分法が生まれ、二極化が進むことで社会の対立が深まることもある。この場合、建設的な対話や問題解決が阻害されてしまう。
さらに、事実を湾曲したり誇張したり、都合のよい情報ばかりを発信し、都合の悪い情報を隠蔽するといった情報操作も行われる。こうした操作をもとにプロパガンダが展開される場合、正しい意思決定が阻害されたり、歪められる危険がある。つまり、プロパガンダの影響が強まることで、民主主義の健全な機能が損なわれる危険性もある。
プロパガンダが注目されている背景
現代はSNSによる情報発信が政治的影響力を持つようになっている。こうした中、SNSを駆使したプロパガンダが広く用いられるようになり、特定の政党の優位性や政策、選挙の結果に強い影響を与えていることから、プロパガンダへの関心が高まっている。
背景には、大衆迎合的な言説や、対立構造を強調する政治的手法の広がりがあると指摘されている。特定の集団に敵意を向けさせ、それを政治的求心力に転換しようとする思惑があるとも指摘されている。
SNSの普及により、個人の意見や主張が容易に発信できるようになった。情報の拡散スピードが速いのも特徴で、プロパガンダ的な要素を含むメッセージ性の強い投稿が迅速かつ広範囲に伝わる。特に生成AIの登場以降は、動画や画像など多様な形式でフェイクニュースや陰謀論、デマが容易に作られるようになっている。
これらにより、プロパガンダの影響力が高まると同時に、それへの警戒心や懸念も強まっている。
プロパガンダの歴史

プロパガンダは第一次世界大戦や第二次世界大戦で戦争のために用いられたことで知られるが、政治のさまざまな場面でもプロパガンダ的手法が使われてきた。
例えば、ローマ時代に皇帝の名を刻んだ建造物は、皇帝の権威を広めるためのものとされる。また、フランス革命時にマリー・アントワネットが言ったとされる「パンがなければお菓子を食べればいい」という言葉も、マリー・アントワネットが実際に発言した証拠はなく、後世の創作や当時の反王政プロパガンダの一環だった可能性が指摘されている。現代で言えば、フェイクニュースを利用した反政府的なプロパガンダにあたる。
第一次世界大戦とプロパガンダ
第一次世界大戦で代表的なプロパガンダの例として知られるのが、アメリカの兵士募集広告である。“I Want YOU for U.S. Army(アメリカ陸軍に君が必要だ)”と書かれたポスターは、プロパガンダの象徴的事例の一つとされている。
戦後はさらにプロパガンダが頻繁に用いられるようになった。例えば、自らの主張を受け入れさせようとする「美辞麗句による普遍化(Glittering Generalities)」や、証拠を示さずに敵対者に悪いレッテルを貼る「ネーム・コーリング」などの手法が主流となった。
第二次世界大戦とプロパガンダ
第二次世界大戦では、ラジオや映画、雑誌などを通じて多様なプロパガンダが展開された。注目すべきは、日本・ドイツ・イタリアの枢軸国だけではなく、アメリカ・イギリス・ソ連といった連合国でもプロパガンダが重視された点である。戦争においてプロパガンダが極めて重要な役割を果たしていたことがわかる。
例えば、アドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツは「国民啓蒙・宣伝省(1933年設置)」を設置し、歌やオリンピックなどあらゆるものをプロパガンダに活用した。日本でも1937年の日中戦争をきっかけに、政府や軍部が率先してプロパガンダを展開し、戦争に向けた士気高揚を図った。
一方、連合国側のイギリスでは「プロパガンダを使えばドイツに勝てる」と考え、当時のチェンバレン首相がラジオを通じてドイツ国民に向けてメッセージを発信した。これは、ドイツ国内を分断させることを目的としていたとされる。
プロパガンダの手法
プロパガンダとは、人々の感情に訴え、あるいはそれを巧みに利用して特定の方向へ導くことを指す。時には恐怖を煽ったり、誤った情報を用いたりするなど、さまざまな手法が取られる。
1937年にアメリカで設立された「プロパガンダ分析研究所(Institute for Propaganda Analysis)」の報告書「Propaganda Analysis」では、以下のように代表的な手法が整理されている。

これらの手法は現在も用いられているが、媒体はポスターや新聞、テレビ・ラジオ広告から、SNSなどのデジタルメディアへと移り変わっている。こうしたものは「サイバープロパガンダ」とも呼ばれる。
SNS時代に必要なプロパガンダへの対応力

ポスターや新聞広告などによる従来のプロパガンダは集団に向けて行われていたが、SNSを用いたプロパガンダはターゲットを絞って発信することが可能となっている。その背景にあるのが、情報流通の特徴の一つである「フィルターバブル」だ。利用者にとって必要、あるいは興味があると判断された情報をアルゴリズムが優先的に表示する仕組みである。
このような環境では、虚偽情報であっても利用者が関心を持てば類似情報が次々と届けられる。そして「エコーチェンバー現象」によって意見が強化され、プロパガンダの影響を受けても気づかず、それを世界の常識だと誤認してしまい、意思決定や行動に影響を及ぼすことになる。
さらに、インターネットのグローバル化によって他国からの情報も容易に届くようになり、国外のプロパガンダの影響を受けやすい状況にもある。
こうした環境下で、個人の自由な思考や判断を守るためには、プロパガンダを見抜き対応する力を持つことが不可欠である。それが健全な民主主義社会を維持することにつながる。
プロパガンダに向き合うには

本来は中立的な意味をもつプロパガンダも、特定の権力者や都合によって利用されれば、社会の歪みや人権侵害につながる可能性がある。しかし、受け手に適切な判断力があれば、発信者が巧妙にメッセージを作っても、プロパガンダとしての効果は限定的となる。
プロパガンダを正しく見極めるには「健全な懐疑心」が不可欠である。日本社会では「性善説」を前提とした教育や文化的傾向がみられるため、情報を疑わずに受け入れてしまうケースもある。そのため、情報リテラシーの向上や多様な視点を養うことが求められる。
具体的には、以下のような方法で対応力を高めることができる。
・正確なデータを基に判断する
・発信者がその分野の専門家かどうか確認する
・同じ意見だけでなく異なる見解にも目を向ける
性善説に基づく価値観は望ましい面もあるが、それを悪用しようとする思惑が働くこともある。
心に強く訴えかける情報に触れた際は、一度立ち止まって冷静に考えることが重要だ。事実が確認できない場合は、鵜呑みにせず、安易に拡散もしないこと。それがプロパガンダに対する耐性を養うと同時に、健全な情報環境を守ることにもつながる。
Edited by c.lin
参考サイト
戦争プロパガンダが子ども達に与えた社会的な影響について|遠藤礼菜
インターネットとの向き合い方ニセ・誤情報にだまされないために|総務省
プロパガンダとは?意味や事例について解説|TREND MICRO BUSINESS

























倉岡 広之明
雑誌記者として活動した後、フリーライターとして独立。さまざまなジャンルの記事を執筆しているが、北海道で生まれ育ったこともあり、自然環境や気候変動、SDGs、エネルギー問題への関心が深い。現在は、住宅やまちづくり、社会問題、教育、近代史など、多岐にわたるテーマを手がけている。
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