フィルターバブルとは?定義やその問題点、フィルターバブルが関与した事件について解説

フィルターバブルとは

フィルターバブルとは、自分の好みや興味を持つ分野の情報ばかりに囲まれてしまう状態のことを指す。これはインターネットのアルゴリズムによって起こる現象だ。これまでユーザーがとった行動の履歴(例えば検索やクリックなど)が分析され、それを基に各ユーザーへ最適と判断したコンテンツが提供されている。

現代社会では、多くの人がインターネットを毎日利用しているが、実はその際の行動は、すべて追跡されているのだ。例えば、直近で検索した商品の広告がひたすら表示されるという現象は、誰しもが経験したことがあるだろう。他にも動画サイトでは、今みている内容と同じような動画がおすすめされるようになり、検索エンジンのトップページには、これまで閲覧したことのある記事と似たようなものが表示されるようになる。

自身の興味関心に合ったコンテンツが自動で提供される環境は、効率的で利便性も高まる。しかし一方で、自分とは異なる意見や情報を手に入れにくくなるため、どんどん視野が狭くなってしまうことが懸念されている。

エコーチェンバーとの違い

フィルターバブルと似た言葉に、エコーチェンバーがある。この言葉の直訳は「反響室」という意味で、SNSでよく起こるとされている。

反響室では自分が発した声がそのまま返ってくることから、エコーチェンバーは、自分が発したことと同じような意見や思想を見聞きしつづけることで、その考えが強化される現象のことを意味している。つまりエコーチェンバーは、フィルターバブルの中で起こる現象ともいえるものだ。

フィルターバブルのメカニズム

フィルターバブルが発生するメカニズムは、「トラッキング」「フィルタリング」「パーソナライズ」の三段階だ。それぞれ詳しくみていこう。

  1. トラッキング
    トラッキングとは、インターネット上のユーザーの行動を追跡・分析することである。特定のユーザーがどのようにしてこのサイトにたどり着いたのか、どれくらい滞在したのか、どこを閲覧しているのか、そこからどんな記事へ移動するのか、という一連の行動をすべてトラッキングツールによって収集し、把握する。
  2. フィルタリング
    トラッキングで収集されたデータを分析したのち、ユーザーが好むものと好まないものに分け、それに応じたコンテンツを表示および非表示にすることをフィルタリングという。この「ユーザーにとって好ましくないものを非表示にする」という機能を利用した代表的なものが、未成年ユーザーに違法または有害なサイトを表示させないようにするサービスだ。
  3. パーソナライズ
    最後に、トラッキングやフィルタリングによって行動を先読みし、最適化することをパーソナライズという。この段階になると、すでに自分にとって必要な情報のみが表示されるようになっている。パーソナライズの精度が高まるほど、欲しい情報がすぐに手に入るため、手間がかからなくなる。一方で、好みや興味に偏った情報しか目に入らないため、ものの見方が狭くなる恐れがある。

フィルターバブルの事例

フィルターバブルの事例

実際にフィルターバブルによって起きた事例は、どれも社会を動かすほど大きなものである。たった一人に表示される偏った情報は、如何にして世間を揺るがすこととなったのだろうか。

2016年 アメリカ大統領選挙

フィルターバブルの概念が知られるようになった大きなきっかけが、2016年に行われたアメリカの大統領選挙である。

選挙期間中、Facebookではトランプ氏の支持者はトランプ氏に関する投稿、クリントン氏の支持者はクリントン氏に関する投稿ばかりが表示されていた。これによって、国民は自分の支持する党をすべての人が応援しているという錯覚を起こしていたのである。

2021年 アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件

2021年1月に起きたこの襲撃事件は、フィルターバブルが関与した事件の中で最も衝撃的だといえるだろう。これは、当時のアメリカ大統領であるトランプ氏の支持者が、「大統領選挙において不正があった」と訴え、議会が開かれている議事堂を襲撃した事件である。

そのきっかけは、いわゆる「陰謀論」といわれるものだった。陰謀論とは、ある出来事が、特定の集団や人物による陰謀や策略によって起こっていると唱えるものだ。特に「Qアノン」という陰謀論はアメリカを発祥とし、真偽不明の情報ながら多くの人の支持を得ている。事件を起こした集団の中には、この陰謀に立ち向かおうとした人々も混ざっていたともされている。

一見、荒唐無稽のように思える陰謀論であるが、フィルターバブルが現実世界での事件にまで発展したして、世界中に衝撃を与えた。

フィルターバブルによる問題点

このように、フィルターバブルは時に社会的に重大な事件を引き起こすことがあるが、具体的にどのようなことが問題になるのだろうか。ここでは、主な問題点を3つ挙げる。

考え方や価値観が偏る

フィルターバブルによる一番大きな問題が、思考や価値観の偏りだ。これは特に、ニュースサイトや検索エンジンに表示される記事を例にとると分かりやすいだろう。

ユーザーがこれまで閲覧してきた記事を基に、常に関心がありそうな情報だけが提供され続けると、あたかも自分が触れているものだけが一般的な意見であったり、正しいもののように認識するようになる。その後、自分と異なる意見に出くわしたとき、それを嘘や間違いだと判断する可能性が高まってしまうのだ。

コミュニティの中で孤立する

フィルターバブルによって思考や価値観が偏ってくると、自分の中では常識だと思っているものも、実は世間ではあまり知られていなかったりする。しかし自分の考えと同じか近いものだけが正義であり、それ以外はすべて悪として他の人の意見を聞かなくなれば、その振る舞いによって周囲から孤立してしまう可能性も十分考えられるのだ。

こういった事態は特に災害時や政治関連で起きやすく、これもまた同じものばかりを見続けることの弊害といえるだろう。

情報が漏洩する危険がある

フィルターバブルは、思考だけではなく実生活にも悪影響を及ぼす可能性がある。それが、ユーザーの個人情報の流出だ。トラッキング機能によって追跡されるというのは、自身の情報が知らぬ間に相手の手に渡り、利用されているという恐ろしさがある。

特に動画配信サービスでの過剰な情報収集と、それによる個人情報流出は大きな問題であるとして、幾度も注意喚起されている。

フィルターバブルへの対策

日本でも、新型コロナウイルスのワクチン接種やマスク購買について、様々な情報や意見が飛び交っていたことも記憶に新しい。匿名利用できるSNSが発展した現代社会では、誰もが容易に発言できる。そして、誰もがフィルターバブルに陥る可能性があるのだ。

偏った情報に惑わされないためにも、日ごろから対策を行い、柔軟な考え方を身につけなければならない。

実は、SNSや検索エンジンのアルゴリズム設定は、自分で簡単に外すことができる。また「プライベートブラウズ」は、ブラウザを閉じれば履歴が消される仕組みになっているため、次に開いたときに好みや傾向とは関連のない検索ができるようになっている。

その他、時にはインターネット以外から情報を得るというのも有効な手段だ。新聞やテレビ、ラジオ、書籍などのオールドメディアに触れることで、幅広い視野を持つことができるだろう。

まとめ

インターネットの発展により、私たちの生活はより豊かに、より利便性の高いものになっている。自分の欲しい情報が手に入る状況は、タイムパフォーマンスを重視する現代人にとっては、最適な環境であるといえるだろう。

しかし、そのデメリットを考えてみること、目にした情報を一度疑ってみることも大切だ。また、時には自分がその情報の発信源になっていないか、自身のインターネットにおける言動も振り返ってみよう。

IT社会の発展に対して現実世界の法整備が追いついていないことによる危険性も指摘されている中、誰もが安心できる社会の実現は、一人ひとりの意識にかかっているのだ。

参考記事
令和元年版 情報通信白書「インターネット上での情報流通の特徴と言われているもの」|総務省
What is filter bubble? | Definition from TechTarget
第 10 章 さらに顕著になった「危機に瀕するアメリカのメディア」 現象|前嶋 和弘
米国連邦議会乱入事件の衝撃とSNSの危険性 | スペクティ

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