
子どもたちにとって、夏休みは待ちに待った長期休暇だが、多くの共働き家庭にとっては「壁」となる。毎日、子どもたちの預け先を確保し、仕事との両立に頭を悩ませる。学童保育だけではカバーしきれず、祖父母に頼るにも限界があるなど、その悩みは尽きることがない。
これは各家庭だけの個人的な課題ではなく、現代の働き方の仕組みに潜む社会全体の問題と言える。多くの親を「チャイルドペナルティ」や「マミートラック」へと追い込む要因にもなり得るのだ。
こうした「夏休みの壁」に対し、クラウド会計ソフトを展開するfreee株式会社(以下、freee)は、子連れ出勤施策「つばめっ子スペース」というユニークな取り組みを実施している。freeeが実施した調査データから見えてくる働く親たちの実態と、それを乗り越えるための企業の役割について考察してみよう。
夏休みが突きつける「小学生家庭の壁」

freee株式会社が小学生の子どもを持つ全国の共働き世帯958名を対象に行った調査によると、夏休み期間中の子育てと仕事の両立をめぐる問題は、多くの家庭で深刻な課題となっていることが浮き彫りとなった。
調査では、回答者の67.3%が「お盆の時期を含む夏休み期間で子どもを預ける場所がなくて困ったことがある」と回答している。また、預け先が見つからなかったことで、半数以上の親が「仕事を休んだり、時間単位の有給休暇などを取得した」と答えている。子どもの夏休みが、親のキャリアや収入に直接的な影響を与えているのだ。
預け先の選択肢が少ないことも問題だ。夏休み期間中に子どもが過ごす場所として、最も多かったのが「祖父母の家」(416名)、次に「学童保育」(371名)、そして「親が在宅勤務中の自宅」(351名)と続いた。夏休み期間中の預け先がこれら数カ所に集中していることは、多くの家庭にとって選択肢が限られている状況を示している。特に祖父母への依存は、高齢化社会における負担増の問題も示唆している。
さらに、気候危機による近年の猛暑も問題をさらに深刻にしている。83.9%の親が「外で遊ばせるのが心配だ」と回答しており、屋外の公園や児童館を居場所にする選択肢が減っている。その結果、子どもたちは屋内で過ごす時間が増え、親の負担も増しているのだ。
こうした状況は、子育て中の親のキャリア形成に深刻な影響を与えかねない。子育てによるキャリアの中断や、希望しない働き方を強いられる「マミートラック」、さらには子どもの世話によって仕事上の不利益を被る「チャイルドペナルティ」といった問題に直結する可能性も示唆される。夏休みは、子育てと仕事の両立という「小1の壁」以降も続く課題として、共働き世代を悩ませている。
freeeが取り組む「つばめっ子スペース」と子連れ出勤

多くの家庭が直面する夏休み問題に対し、freeeは2024年から子連れ出勤施策「つばめっ子スペース」を実施している。「子どもを連れてきていい」という許可制度ではなく、「従業員が子どもと出社し、オープンスペースを使って子どものそばで業務に取り組む」という、親と子どもが共に会社にいることを前提とした独自のモデルだ。
親が会議などで席を外す際は、有志の従業員が「見守り役」として子どもたちをサポートする。また、社内のボードゲーム部の備品を遊び道具として活用するなど、子どもたちが飽きずに過ごせるような工夫も凝らされている。
「つばめっ子スペース」は、社内で挙がった「夏休みはスケジュールの調整に悩む」という声から生まれた。「リモートワークでも集中できない」「オフラインのミーティングに参加しづらい」といった、働く親たちの切実な悩みに応えた結果だ。
freeeがこうした施策を推進する背景には、「社会の進化を担う責任感」という企業価値基準がある。社会全体を前に推し進めるために、リスクを取ってでも挑戦していくという強い意志を意味するものだ。前例がなくても、現代の子育て環境の課題解決に貢献したいという思いが、この革新的な施策を実現させたのである。
実際にこのスペースを利用した社員からは、多くの肯定的な声が寄せられている。
「つばめっ子スペース」は、社員同士が支え合う温かい企業文化として機能している。
多様な働き方推進に求められる企業の役割

子連れ出勤の事例は、夏休みの問題解決に役立つだけでなく、企業が果たすべき新たな役割を示唆している。
同じ調査で、85.2%の共働き家庭が「職場に迷惑がかからない環境やサポート体制が整っていれば、子連れ出勤を利用したい」と回答しており、その潜在的なニーズの高さがうかがえる。
多くの親が求めていたのは、「夏休み期間中も利用できる学童の充実」といった既存のサービスだけではなかった。「子連れ出勤時に子どもが安全に過ごせる環境整備」や「ルール明確化」など、職場そのものが子育てを支援する場となることを期待する声が多かったのだ。
現代の企業には、従業員が仕事で力を発揮できるよう、彼らが抱える生活上の課題、特に子育てという不可欠な要素に真摯に向き合う姿勢が求められる。freeeが示したように、企業理念に基づいて社会課題の解決に主体的に関わることが、結果として従業員のエンゲージメントを高め、企業の成長につながるのだ。
すべての企業がfreeeのような子連れ出勤を導入することは難しいかもしれない。しかし、この事例から学ぶべきは、企業が社会の問題に対して何ができるかを考え、行動を起こす姿勢だ。在宅勤務などの柔軟な選択肢、有給休暇の取得促進、あるいは短期間のサマーキャンプの開催など、さまざまなアプローチが考えられる。
夏休みの「壁」は、企業が働き方を根本から見直し、誰もが働きやすい社会をつくるための貴重な機会だ。freeeの挑戦は、社会全体で子育てを支えるための新たな道筋を示唆している。これからの時代、子育て世代が直面する課題を共に乗り越えることが、企業の競争力そのものに直結していくのではないだろうか。
Edited by k.fukuda























丸山 瑞季
大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。( この人が書いた記事の一覧 )