
少子化や核家族化が進む現代では、従来の「家で守るお墓」を維持することが難しくなっている。墓じまいが増える一方で、永代供養や樹木葬・海洋散骨、手元供養など、「自分らしい供養」を選ぶ人も多い。お墓をめぐる課題と新しい供養のあり方を通じ、多様な価値観が交差する現代の”死生観”を探る。
多様化する家族のあり方と“供養”の選択肢

お墓は、故人とのつながりを感じられる場所であり、大切な文化の一部だ。故人の魂を迎えるお盆にはお墓参り、彼岸や新年のお墓掃除と、お墓を中心とした風習が暮らしに根付いてきた。
しかし現代では、家族構成や価値観の変化により、以前のように「家単位でお墓を守る」ことが難しくなっている。お墓を継ぐという責任を、負担に感じる人も少なくない。
それと同時に、自分らしい供養を望む声も増えている。お墓との向き合い方も含め、これからの供養について考えてみよう。
受け継がれてきた供養の精神

日本におけるお墓の歴史は古く、すでに縄文時代には地面に掘った穴の中に遺体が埋葬されていたことが確認されている。古墳時代には、権力者の象徴として古墳が建てられた。江戸時代中期以降になると、今のような「先祖代々のお墓(家墓)」が庶民にも普及し、明治時代に家制度が規定されたことにより、長男が財産の一部として墓を継ぐ慣習が定着した。
戦後に家制度は廃止されたものの、今日に至るまでお墓は受け継がれてきた。しかし価値観の多様化が広まる現代では、この家墓を維持することが難しくなっている。核家族や単身世帯をはじめ、未婚や子どもを持たないことを選ぶ人も増えた。「家」よりも「個人」を尊重する傾向は強まっており、供養のあり方にも影響を与えている。変化の大きい時代に生きる私たちには、故人とどう向き合うかが問われている。
現代の家族が抱える“お墓”の課題

近年、お墓を解体し更地として返還する「墓じまい」が増えている。墓じまいにあたっては、多くのケースで遺骨を取り出して別の墓地へ移す「改葬」が伴うが、2023年度の改葬件数は16万6,886件で、昨年度の過去最多を更新した(*1)。
なぜ、このように墓じまいが増えたのだろうか。その理由を考えると、現代の家族が抱えるお墓の課題も見えてくる。
お墓を継ぐ人がいない
今の日本では、二世帯同居や大家族が減少し、核家族化や地方の過疎化が進んでいる。都市部に住む人にとって、定期的に故郷へ戻りお墓を管理するのは容易ではない。そもそも子どもがおらず、承継する人がいないというケースも増えている。
手入れがされず、放置されたお墓は「無縁墓」と呼ばれる。供養されない、魂がさまようといったイメージから、無縁墓は縁起が悪いと敬遠されがちだ。そのため、「お墓を継ぐことは難しいが無縁墓にはしたくない」と考え、墓じまいを選ぶ人が増えている。
金銭的な負担
お墓を維持するには年間5,000〜2万円の管理料がかかり、墓石の修繕費や交通費を加えると、さらに金額が膨らむと考えられる。このため、自分の子孫に負担をかけたくないという思いから、墓じまいを考える人も少なくない。
一方で、墓じまいの費用も数十万〜数百万円に及ぶ。お墓を維持するのか、墓じまいをするのかについては、慎重な判断が必要だ。
価値観の変化
昔のように家族でお墓参りをする機会が減り、お墓離れが進む中、若い世代を中心に自分のライフスタイルに合った供養を選びたいというニーズが強まっている。宗教的儀式にとらわれたくない人、手元で遺骨を管理したい人など、その価値観はさまざまだ。
また、故人本人が「お墓に入りたくない」と希望するケースもある。個人の想いを叶えるために、従来の方法でない供養について調べる人も少なくない。
広がる新たな”供養”のかたち

社会の変化と価値観の多様化に対応するため、供養の選択肢も広がっている。ここでは、近年特に注目を集めている供養の方法について、代表的なものを見てみよう。
永代供養墓
「永代供養墓」は、寺院や霊園が供養と管理を行うお墓のことだ。遺族による管理や承継の必要がないため、墓参りが難しい場合や承継者がいない場合などに選ばれる。一般的には契約期間が設けられており、一定の期間が経過すると、複数の人の遺骨とともに合祀される。
永代供養墓の方法はさまざまで、個別墓や合祀墓、そして次に紹介する樹木葬などから選ぶことができる。
樹木葬・海洋散骨
自然に還ることを願う、「自然葬」への関心も高まっている。樹木葬は、樹木や植物を墓標とし、遺骨を土の中に埋めるというものだ。お墓を建てないものの、残された人はお参りに足を運ぶことができる。季節折々の草花の表情を楽しめるため、公園のように気軽に訪れる人も多い。
海洋散骨は、遺骨を粉末状にしたものを海へ撒いて供養する方法だ。墓石や墓地を必要とせず、承継者がいない人や海が好きな人から選ばれやすい。海洋散骨の歴史は古く、家墓が主流となるまでは一般的に行われていた。死後に自然に還りたいという思いは、昔から引き継がれているのかもしれない。
自宅供養・手元供養
自宅供養・手元供養とは、遺骨のすべてもしくは一部を自宅に保管し、日常の中で供養する方法だ。遺骨を手元に置いて日々を送れるという特徴から、「故人を身近に感じたい」「定期的なお墓参りが難しい」という遺族から選ばれる傾向にある。
骨壺で保管するほか、ペンダントや指輪などのアクセサリーに遺骨を納め、「遺骨を身につける」という考え方も広まっている。遺骨を加工して合成ダイヤモンドや養殖真珠を作るなど、そのかたちは実に多様だ。
新しい供養の落とし穴。懸念されるリスクと注意点

さまざまな供養の選択肢が広がる一方で、環境問題や倫理観・法律との兼ね合いなど、大きな課題も存在する。家族や親族と十分に話し合い、複数の専門家とも相談しながら、理想の供養のかたちを見つけよう。
ほかの親族からの理解を得られない
先祖代々のお墓でない供養を選ぶ場合、親族や関係者から反対意見が出ることもあるだろう。
たとえば合祀墓の場合、血縁関係のない人と一緒に埋葬することを、良しとしない人もいる。複数の遺骨と混ざるため、埋葬後に遺骨を取り出すことができない点にも注意が必要だ。
お墓のない海洋散骨ではお参りができないため、心の拠り所がなくなることに不安を感じる人もいる。残された人の想いを汲み取り、意見をすり合わせることも大切だ。
自然葬にはルールがある
自然葬の場合は、埋める場所や散骨方法に最大の配慮が求められる。法律上、土中に遺骨を埋める場合は墓地以外に埋葬してはならないため、樹木葬は寺院や霊園に依頼する必要がある。
海洋散骨の場合は、沿岸部から離れた沖合で行うことや、遺骨を2㎜以下の大きさの粉末状とすることなどが指定されている。また、献花や献酒の際には、プラスチックやビニールなどを一緒に海に撒かないよう注意することも大切だ。
これからの時代の“死生観”とは

「墓じまい」は、単なるお墓の撤去ではない。自分のこと、そして未来のことを考えたときに、過去の家族や地域との関係性を再構築するプロセスのひとつだ。一人ひとりの死生観が尊重される時代で、お墓は継承から選択、そして義務から自由へと変化している。
供養のかたちは変わろうとも、故人を偲ぶ想いに変わりはない。墓じまいを考える場合は、身近な人とも相談しながら、自分たちにとっても、祖先にとっても安心できる供養の方法について考えてみよう。そして、自分の死後について思いを馳せる時間を持ってみてはどうだろうか。
今は、生き方と同じように、眠り方も自分で選べる時代だ。死を受け入れ、自分らしい供養のかたちを考える。その静かな時間こそが、死生観を深め、「今」をより豊かに生きるきっかけとなるかもしれない。
Edited by s.akiyoshi
注解・参考サイト
注解
(*1)衛生行政報告例(令和6年度)|厚生労働省
参考サイト
墓地、埋葬等に関する法律の概要|厚生労働省
自然葬(しぜんそう)とは | 自然葬について | NPO法人-葬送の自由をすすめる会
終活を考える | イオンライフの終活
はじめて手元供養を始められる方へ|やり方や遺骨の行き先、お供え物についても紹介|手元供養の未来創想


























夢野 なな
ライター、イラストレーター。芸術大学美術学科卒業。消費が多く騒々しい家族に翻弄されながらも、動植物と共存する生き方と精神的な豊かさを模索中。猫と海、本が好き。神奈川県の海に近い自然豊かな田舎で暮らす。創作に浸る時間が幸せ。
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