光害とは?“明るい夜”がもたらす意外な環境問題の実態と対策

現代社会において、夜でも明るく照らされた街は便利で安心感を与えている。しかし、”明るい夜”が実は深刻な環境問題を引き起こしていることを知っているだろうか。明かりが与える問題は光害(ひかりがい)と呼ばれており、私たちの健康や生態系にさまざまな影響を与えている。


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光害とは?過剰な光がもたらす、“公害”の一種

光害とは、照明の設置場所や光の向きが適切でないために、景観や周辺環境に悪い影響を与えてしまう現象である。

光害は、照明器具から出る光が本来照らすべき場所を超えて漏れ出したり、必要以上に明るすぎたり、必要のない時間帯まで点けっぱなしになったりすることで起こる。また、最近では当たり前となっている白色のLED照明には青っぽい光が多く含まれており、光が空気中で広く散らばることも問題になっている。

光害は大気汚染や海洋汚染などのようにパッと目に見える環境問題ではないため、存在を知っている人は多くない。しかし、人の暮らしや生態系、エネルギー資源などに影響を与え始めている。


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光害の種類

光害は、性質によって大きく4つのタイプに分けられる。

漏れ光

漏れ光とは、本来照らすべき場所を越えて周りに広がってしまう光である。

たとえば、道路を照らすための街灯の光が、隣にある家の窓まで明るく照らしてしまうようなケースが当てはまる。そのため、漏れ光は近所の人たちの睡眠を妨害する原因になることが多い。

上方光束

上方光束は、漏れ光の中でも特に水平線より上に向かって出ていく光を指す。

上方光束は夜間に空気中のちりや水分によって散らばり、夜空全体を明るくする「上方漏れ光」として光害の原因になる。星の観察に支障が出たり、動植物にも悪い影響を与えたりしている。

グレア

グレアは、目に入ると不快になるほど、強烈な明るさを持つ光を指す。

光源があまりにもまぶしいため、本当に見たいものが見えなくなったり、目がくらんで危険を感じたりする現象も起こる。運転中にこのような光に出会うと、交通事故のリスクが高くなる可能性がある。

スカイグロー

スカイグローは、上空に漏れた光が空気中の小さな粒で散らばることで夜空全体が明るくなる現象のことだ。

スカイグローにより、本来人間の目で見られるはずの星の数や明るさが大きく減ってしまう。たとえば、都市部では天の川がほとんど見えなくなるほど、夜空の暗さが失われてしまっているのが実態だ。


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「明るい夜」はなぜ問題?光害が引き起こす深刻な影響

地球上のあらゆる生き物は、長い進化の過程で「昼間は明るく、夜間は暗い」という自然のリズムに慣れ親しんできた。

ところが、人工的な明かりが自然なリズムを乱しているために、人の暮らしから生態系までさまざまな深刻な影響が起きている。ここでは、具体的にどのような問題が起きているのかを詳しく見ていく。

人の暮らし

都市部に住む人の中には、過剰な夜の明かりにより睡眠の問題や生活の質の低下といった健康被害を受けている人がいる。

道路の照明や街灯の光が家の窓から室内に入り込むと、住民の睡眠を妨げてしまう。部屋の窓に当たる光の明るさの上限は決められているのが基本だが、実際には基準を超える光が入り込むケースが少なくない。また、屋外の看板が出すまぶしい光や点滅する光は、寝る時以外でも住民に不快感をもたらしている。

建物の中にいる人だけでなく、ドライバーや歩く人にとっても、過度なグレアは安全を脅かす可能性がある。たとえば、まぶしい光により目の機能が落ち、歩いている人や標識が見えにくくなったり、見たいものとその背景のコントラストがわからなくなって危険に気づきにくくなったりする。まぶしさによる悪影響は、交通事故のリスクを高める要因として懸念されている。

動物・植物

夜行性の動物をはじめとする生き物は、人工的な照明によって住む環境や行動パターンに深刻な影響を受けている。

夜行性の動物にとって、本来暗いはずの時間が明るくなるのは命に関わる。活動できる時間が短くなり、餌を探すために移動できる範囲も狭くなってしまうからだ。また、照明に引き寄せられる虫の住みかが変わると、虫を餌にする動物や花の受粉を助けてもらう植物にも影響が広がり、地域全体の自然のバランスが崩れる心配もある。

動物だけでなく植物への影響も深刻であり、特に農作物において目立った被害が報告されている。たとえば、イネのような日照時間の短さで花を咲かせる植物は、夜の明かりにより稲穂が出るのが遅れ、育ちに異常が起きる。

街路樹では、花が咲いたり落葉したりする時期が遅れるとされており、植物の自然な成長のリズムが乱されている可能性があるのだ。ほかにも海岸部ではウミガメの産卵行動が妨げられ、ホタルが住む場所では数の減少がみられるなど、多方面へ影響がある。

エネルギー、天体観測

本来必要のない方向に光が漏れたり、過剰な明るさで照らしたりすることは、単純にエネルギーの浪費につながる。企業や自治体が目立つために明るさを競い合うような状況では、その浪費はさらに拡大する。そのため、明かりの設計を見直し、より少ないエネルギーで使える照明の設置が求められる。

また、光害は天体観測への影響も見られる。天体観測では、上空に漏れる光により夜空が明るくなるため星がはっきりと見えず、観察が困難になっているのだ。天文学の研究だけでなく、小学校の授業で星空観察の宿題が出された際に、光害により星を見つけることができずに困る児童が増えているともいわれている。


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光害への各地の対策と取り組み事例

光害対策で大切とされているのは、必要な場所のみを適切な明るさで、適切な時間だけ照らすことにある。

具体的な対策としては、青色光を多く含むLEDなどの照明は避け、暖色系の温かい光の選択が推奨されている。また、照明器具にカバーを取り付けて上空や不要な方向への光の漏れを防いだり、人感センサーやタイマーを活用して不要な時間帯の消灯を自動化したりする方法も効果的である。

光害対策として注目されているのが、国際ダークスカイ協会(IDA)が設ける「星空保護区」と呼ばれる認定制度である。認定制度では光害対策に優れた取り組みを行う地域を表彰しており、日本でも複数の自治体が光害対策に取り組んで認定を受けている。認定は単に星が美しく見える場所を指すのではなく、光害対策の実施、暗さの基準値達成、光害に関する教育プログラムの実施など、厳格な条件を満たした地域にのみ与えられるのが特徴だ。

ここでは、2つの自治体の光害対策について紹介する。

東京都神津島

東京都神津島は、「神津島の星空を子どもたちへ」をモットーに住民一体となって光害対策に取り組んでいる離島だ。2020年12月に東京都で初めて国際ダークスカイ協会の星空保護区認定を獲得した。

神津島では、島内500基以上の街灯・防犯灯を、夜空に光が漏れない仕様の照明器具に交換する大規模な工事を実施した。さらに、屋外照明の光漏れ抑制や暖色の照明に制限する条例を制定し、島全体で統一した光害対策を推進している。

対策により、神津島では都心部では決して見られない満天の星空が広がり、次世代への貴重な遺産として守り続けられている。

岡山県井原市美星町

岡山県井原市美星町は、1989年に全国で初めて「光害防止条例」を制定した、光害対策における開拓者的な自治体である。

しかし、条例制定から30年が経過した頃、省エネ効果の高い白色LED照明への交換が進んだ結果、上空への光漏れが増加する問題が発生した。そのため、町はパナソニック株式会社と協力して上空への光漏れが0%となる特殊な照明器具を開発し、町内740基すべての防犯灯・道路灯を交換した。

「街の安心も星空も守る」というコンセプトを体現した美星町の取り組みが評価され、2021年11月には日本で三番目の星空保護区認定を受けた。現在では天文愛好家が全国から訪れる「星空公園」も整備され、光害対策が地域振興にもつながっている。


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まとめ

光害は多くの人にとって身近でありながら、その深刻さはまだ十分に知られておらず、静かに進んでいる環境問題といえるだろう。

一方で、大気汚染や海洋汚染とは異なり、光害は照明器具の改善によりすぐに解決できる特徴がある。また、単純に照明を減らすだけでなく、美しい星空を積極的に「守る」という前向きなアプローチにより、地域に新たな魅力を生み出す可能性も秘めている。

私たち一人ひとりが光害について関心を持ち、適切な照明の選択と使用を心がけることが、健康な生活環境と豊かな自然環境の両立につながるのではないだろうか。

Edited by s.akiyoshi

参考サイト

環境省「星空を見よう」 光害について|環境省
光害対策ガイドライン|環境省
美しい星空や生態系にも影響を与える、身近な「光害(ひかりがい)」の実態を専門家が解説|LINK@TOYO|東洋大学
光害から 暗い夜を 守るために|国立天文台 周波数資源保護室
星空保護区に認定された神津島。美しい夜空を保護する取り組みを紹介|神津島
星空を条例で保護する岡山・美星町 道路灯などをごっそり特別開発の照明に交換|朝日新聞社

About the Writer
中村衣里_中村エレナ

エリ

大学時代は英米学科に在籍し、アメリカに留学後は都市開発と貧困の関連性について研究。現在はフリーライターとして、旅行・留学・英語・SDGsを中心に執筆している。社会の中にある偏見や分断をなくし、誰もが公平に生きられる世界の実現を目指し、文章を通じて変化や行動のきっかけを届けることに取り組んでいる。関心のあるテーマは、多様性・貧困・ジェンダー・メンタルヘルス・心理学など。趣味は旅行、noteを書くこと、映画を観ること。この人が書いた記事の一覧

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