森で育む子どもたち。全国に拡大を続ける「森のようちえん」の教育効果

社会的ニーズや価値観の変化を背景に全国に広がっている森のようちえん。森や海、里山などの自然を舞台に、自由な遊びを通じて、子どもたちが非認知能力を伸ばせることからも注目されている。森のようちえんを取り巻く制度や社会的背景は、近年大きく変化している。科学的に裏付けられたその教育効果と、普及を支える制度について紹介する。

多様化する社会ニーズに応える森のようちえんの広がり

社会のニーズや保護者の価値観の変化を背景に、森のようちえんが全国で多様な形態で広がりを見せている。森のようちえんとは、おもに0歳から小学校就学前の乳幼児を対象にした、自然体験活動を基軸とした子育て・保育・幼児教育の総称である。

「森」は森林だけでなく、海や川、野山、里山、畑、都市公園など広く自然のフィールドを指し、「ようちえん」は幼稚園に限らず保育園や育児サークル、自然学校など多様な場を含む。

その形態も、認可園から自主保育、NPO法人による活動などまで幅広く、地域のニーズに応じた柔軟な展開が進んでいる。ここでは、森のようちえんの現状と必要とされる背景、公的な制度について解説する。

全国に広がる森のようちえん

現在、森のようちえんの活動は全国に広がり、地域の自然環境や子育てニーズに応じた多様な実践が展開されている。森のようちえんには法的な定義は存在せず、運営形態や規模も多様であるため、活動団体数や施設数について正確に把握することは難しい。

こうした状況のなか、2008年には任意団体「森のようちえん全国ネットワーク」が設立され、2017年にはその活動を引き継ぐ形でNPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟が発足。同連盟への加入数は年々増加しており、2016年10月時点では団体会員178、個人会員71だったが、2024年9月には団体会員247、個人会員115名にまで拡大している。連盟によると、北は稚内から南は石垣島まで、全国47都道府県に森のようちえんの団体会員が存在し、自然体験を基軸とした乳幼児教育を実施している。

森のようちえんが支持される背景

森のようちえんが支持を集めている背景には、教育・社会環境の変化やコロナ禍などが複合的に関係している。まず、持続可能な社会の担い手を育むESD(持続可能な開発のための教育)を推進する国際的な潮流がある。

2017年の新学習指導要領でも、ESDは個人と社会の成長につながる新たな価値の創造が期待されている。自然と人との関わりや共生を体験的に学べる場である森のようちえんは、ESDを実践する一つの手段といえる。

また、インクルーシブ教育の観点からも、森のようちえんは一人ひとりの発達に寄り添い、失敗や違いを受け入れながら共に育つ関係性を育む場として評価されている。

さらに、2016年の調査では、都市部の子育て世帯の約半数が森のようちえんに関心を持ち、自然体験の重要性を認識しているという結果であった。コロナ禍以降のテレワーク普及により、自然豊かな生活環境に関心がある人びとが地方移住を実現するハードルが解消されつつある。

そして、乳幼児も長時間メディアにさらされる現代、そのリスクが認識されるなか自然体験の価値が再評価されているのも一因といえる。こうした多面的な要因が、森のようちえんの全国的な広がりを力強く後押ししている。

森のようちえん認証制度・補助金の状況

森のようちえんを認証する国の制度はないが、一部の都道府県や市町村では独自基準を設け、森のようちえんを認証し活動を後押ししている。具体的には、埼玉県秩父圏域千葉県長野県滋賀県広島県鳥取県などの例がある。

特に長野県は信州型自然保育という独自の基準のもと、幼稚園や保育所、こども園などを認定する制度を2015年にスタートし、2025年9月現在313の園を認定している。

認可外の保育施設の場合、利用料が保護者の負担感につながるが、国の制度の一環として、月額上限2万円で利用料を直接保護者に給付する制度を、森のようちえんに適用する自治体の例もある。

これらの支援は、地域の自然を活かした保育の継続と普及を促し、家庭の経済的負担の軽減にもつながっている。


耕作放棄地が、子どもたちの秘密基地に。
「違い」を学びに変える。ヘラルボニーが描く、アート×インクルーシブ教育のカタチ

科学が証明する「森」の教育効果

森のようちえんは、子どもの権利として保障されるべき、遊ぶこと・学ぶこと・育つことを自然の中で実現する場である。近年の研究では、自然体験が子どもの心身や社会性の成長に確かな効果をもたらすことが示されている。

特に注目されているのが非認知能力の発達である。ここでは、森のようちえんで育まれる非認知能力や、脳と心のすこやかな成長について科学的根拠に基づき紹介する。

非認知能力をのばす

非認知能力とは、テストの点数では測れない、人生を豊かに生き抜くために必要な力を指す。例えば我慢する力、友だちと協力する力、失敗してもやり直そうとする力、そして自分を大切に思える気持ちなどが含まれる。

森のようちえんに通った子どもたちは、自然の中で興味のままに遊び込み、試行錯誤をくり返す中で、こうした力を伸ばしている。卒園児の保護者を対象にした調査(2020年)でも、森のようちえんの卒園児は「困難に向き合う強さ」や「自分を肯定的に捉える気持ち」が既存園より高い傾向が見られた。家庭環境も影響要因ではあるが、森のようちえんでの体験も子どもの非認知能力に寄与している可能性がうかがえる。

脳と心のすこやかな成長につながる

森のようちえんで行われる自然体験活動が、子どもの脳の発達を促すことを示唆する研究結果がある。

既存園の子どもと比較して、森のようちえんの子どもには、思考や判断、計画を担う前頭前野では活発型と呼ばれる発達傾向が見られるという。活発型とは、脳の働きが積極的で柔軟に反応できる状態を指し、学習や社会性の基盤となるものだ。

また自然体験は、感情に流されずに自分の行動をコントロールしたり、集中を保ったりするための行動制御能力の向上にも関係している。

さらに、自然環境で過ごすことで体内のコルチゾール(ストレスを感じたときに分泌されるホルモン)の量が減少することが確認されている。これにより、心身の緊張が和らぎ、ストレス反応が安定する効果が期待される。

このように、多様な自然の刺激が子どもの脳の発達に良い影響を与えている。


フィールドラーニングとは

ポストコロナ時代の新たな教育選択肢

多様な学びを保障する教育の選択肢として森のようちえんを位置づけるためには、制度と社会の両面からの支援が不可欠である。森のようちえんへの期待は高まるなか、いくつかの課題も残されている。

まず、園舎や職員配置などの基準の制約により認可取得が難しく、認可外施設として運営されるケースが多いことから経営の安定性に欠ける。また、理念や活動の価値が徐々に評価されている一方で、保護者や行政、企業への認知が十分ではなく、社会的支援が広がりにくい現状である。さらに、指導者には保育だけでなく自然体験や野外ならではのリスク対応など幅広い専門性が求められるにも関わらず、体系的な人材育成の制度が未整備であることも課題だ。

これらを解決するためには、柔軟な認可制度や補助金の創設、安全ガイドラインの普及、指導者研修や資格の体系化などが必要だろう。子どもたちに豊かな自然体験と学びの喜びを提供し、未来を切り拓く力を育む教育の選択肢として、森のようちえんがさらに広く社会に根付いていくことを期待したい。

Edited by k.fukuda

参考文献・参考サイト

参考文献
「幼児期の経験がレジリエンスと自尊感情に及ぼす影響―「森のようちえん」の卒園児に注目して」上越教育大学研究紀要山口美和・酒井真由子・木戸啓絵・大道香織

参考サイト
私たちについて | NPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟
自然体験を重視する保育の課題と展望: 森のようちえんの理念と指導法に注目して|西山学苑研究紀要
ESD環境教育プログラム ーはじめにー|環境省
3 コロナ禍による変化|国土交通白書2021
メディアとの 正しい付き合い方 マニュアル|宮城県
子供たちの自然欠乏を取り戻そう・コラム|JTB総合研究所
自然を活用した保育|日本環境教育学会
Stress in School. Some Empirical Hints on the Circadian Cortisol Rhythm of Children in Outdoor and Indoor Classes|National Library of Medicin

本記事は、特集「多様性社会における新たな教育のかたち」に収録されている。この特集では、教育という営みを通じて、多様化社会を「生きる実感」へと変えるためのヒントを探りたい。ほかの記事もあわせて、より多角的な視点を見つけよう。

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About the Writer
曽我部倫子

曽我部 倫子

大学で環境問題について広く学び、行政やNPOにて業務経験を積むなかで環境教育に長く携わる。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、未就学児や保護者を対象に自然体験を提供。またWebライターとして、環境、サステナブル、エシカル、GXなどのテーマを中心に執筆している。三姉妹の母。
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