
昨今、メディアが世間や個人の価値観に与える影響は大きくなっている。時代とともにジェンダー表現は変化してきたが、課題は残っているのが現状である。本記事では、メディアにおけるジェンダー表現の変遷をたどり、現代社会への影響と今後のあり方を探っていく。
メディアにおけるジェンダー表現の変遷と今後のあり方

テレビや新聞、SNSなどのメディアが世間や個人の価値観に与える影響は大きく、時代とともにジェンダー表現は変化してきたが、いまだに課題は残っている。
そもそも、ジェンダー表現におけるジェンダーロールとは、性別をもとにした社会的な役割を指す。「男は外で働いて稼ぎ、女は家で家事や育児をするべき」といった考えがその一例である。
本記事では、メディアにおけるジェンダー表現の変遷をたどり、現代社会への影響と今後のあり方を探っていく。
固定化されたジェンダーロール(昭和〜平成初期)

昭和から平成初期にかけては、「男性は仕事、女性は家事や育児を担当する」という固定的な思い込み(ステレオタイプ)に基づいたジェンダーロールが強調された時代であった。
ジェンダーロールが固定された背景には、高度経済成長以降の社会における大きな変化がある。製造業が成長して農業人口が減ったために、未婚の女性は非農業の仕事に就き、男性は安定的な雇用が保証される正社員として働く人が増加した。女性は結婚すると、家庭で専業主婦として家事と子育てに専念するのが標準的な世帯として位置づけられたのである。
内閣府の調査によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という考え方への賛成率は、1979年時点で約72%に達していた(*1)。実際、1980年の専業主婦世帯割合は約64%を占め、多くの家庭で男性は外で働き、女性が家事や育児に従事するジェンダーロールとなっていた。
当時は男性の終身雇用や年功序列制度が当たり前だったため、女性が専業主婦でも生活できる給与水準が保たれていた。また、「第3号被保険者制度」や「配偶者特別控除」など、専業主婦が優遇される税制・社会保障制度が整備されていたのも、専業主婦でも生活できた理由として挙げられる。
こうした社会的背景から、昭和〜平成初期は、メディアも固定化されたジェンダーロールを当然のものとして捉えていたのだ。
【事例】ハウス食品CM「私作る人、僕食べる人」への抗議運動
固定的なジェンダーロール表現が問題視された事例として、1975年のハウス食品のCM「私作る人、僕食べる人」への抗議運動が挙げられる。CMは男女が並んで座り、女性が「私作る人」、男性が「僕食べる人」と言うものだった。
問題となったのは、食事を作るのは女性の役割なのが当然であるかのように描かれた点である。市民団体「国際婦人年をきっかけとして行動を起こす女たちの会」が抗議し、CMは中止された。
ハウス食品のCMの事例は、メディアが無意識に発信していたジェンダーロールに対する本格的な抗議として、世間に知れ渡った事例だといえる。
ジェンダーロールの変化(平成中期〜後期)

平成中期〜後期に入ると、共働き世帯の数が専業主婦世帯を上回り、ジェンダーロールの変化が起こっていく。男女共同参画局のデータによると、1997年には共働き世帯が949万世帯、専業主婦世帯が921万世帯となり、初めて共働き世帯が上回った(*2)。
共働き世帯の数が増えた背景には、さまざまな要因が影響し合っている。まず、女性の大学進学率が上昇したため、女性が就職する機会が増えた点だ。実際1991年には、4年制大学を卒業した女子の就職率が男子を上回ったという報告がある(*3)。同時に、1986年の男女雇用機会均等法により、女性の採用や昇進の環境が整備された点も要因として挙げられる。
働く女性の増加により、家族・育児・仕事のジェンダーロールが見直されるようになった。内閣府が行った平成28年の調査では、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という考え方に反対する割合が54.3%となっており、1979年の約20%と比べると、考え方が変化していることが読み取れる(*4)。
一方、アンコンシャスバイアスの影響はまだ表れていた。アンコンシャスバイアスとは、本人が気づかないうちに持っている偏見や固定観念を指す。
たとえば、「事務作業は女性がするべき」や「リーダーに向いているのは男性」といったアンコンシャスバイアスがその例だ。実際、内閣府の調査(*5)によると、2017年における新聞・通信社の女性管理職の割合は6.1%、民間放送は14.3%にとどまっており、「リーダーは男性」というアンコンシャスバイアスが顕著に表れている。
【事例】小学館『Domani』の広告
この頃にジェンダーロールで話題になった事例が、小学館の女性向けファッション雑誌『Domani』が2019年に打ち出した広告の炎上である。駅に掲示された雑誌を宣伝するための広告には「働く女は、結局中身、オスである」というコピーが使われていた。
しかし「働くのは男性」というアンコンシャスバイアスと結びついてしまい、「女性が女性として堂々と生きる自由を否定している」「制作者側の意識の低さを感じる」といった批判が相次いでしまったのだ。
『Domani』の広告は、表面的には女性の社会進出を応援しているように見えながら、固定的なジェンダーロールを前提とした表現だとして非難の声が寄せられた。
ジェンダー多様性への配慮と課題(現在)

近年は、メディアがジェンダーの多様性や個人の尊重を強調し始める時代になっている。
たとえば、2021年の東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森会長の女性蔑視発言による辞任は記憶に新しいだろう。また、同年の「ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10には「ジェンダー平等」がノミネートされている。
世界では、メディアにおいてアンコンシャスバイアスを助長するジェンダー表現への配慮が求められ、広告に規制を課した国もある。日本でも企業が固定的なジェンダーロールから脱却するための取り組みが始まっている。例として、化粧品メーカーのコーセーでは「ジェンダーにとらわれない」をテーマの一つとして掲げ、性別を問わない化粧品やスキンケア商品の開発を進めている。
しかし、現在でも偏りは残っているのも事実である。世界経済フォーラムによると、2025年の日本のジェンダーギャップ指数は148カ国中118位と低い順位にとどまっている(*6)。特に政治分野では125位、経済分野では112位と、ジェンダーロールの偏りが浮き彫りになっている。女性首相が一度も出たことがない点も順位に影響しており、順位を上げるには社会全体の変革が必要となるだろう。
【事例】ファミリーマート「お母さん食堂」の炎上
現代のジェンダーロールに関する事例として、ファミリーマートの「お母さん食堂」の炎上が挙げられる。ファミリーマートでは「お母さん食堂」と呼ばれるオリジナルブランドがあったが、「お母さんが食事を作るのが当たり前」というアンコンシャスバイアスが働くとして、2020年末に女子高生を中心に名称変更の署名活動が行われた。
ファミリーマートは、2021年に「お母さん食堂」を家族で安心して利用できる点をテーマにした新ブランド「ファミマル」に統合。「お母さん食堂」の炎上は、若い世代がメディア(SNS)を活用して変革を促した出来事となった。
今後のメディアのあり方に求められること

これからのメディアに求められる姿とは、一体どんなものだろうか。
日本の報道番組では、アナウンサーの役割にはっきりと性別での分担が存在してきた。たとえば、社会的に重要とされる政治や経済ニュースは男性アナウンサーが、生活や文化関連は女性アナウンサーが担当する傾向が続いている。
実際のところ、メディア業界では男性優位な状況にある。ジェンダーロールとメディアの役割を分析した論文によると、テレビの民放各局の女性の割合は20%程度、管理職であれば10%程度にとどまっている(*7)。制作現場の男女比に偏りがあることで、企画段階において男性の視点が反映されやすく、結果的に表現の多様性を阻害する環境が作り出されてしまっているため、構造の変革が求められるだろう。
メディア側の変革と並行して、情報を受け取る側の意識向上も欠かせない。ジェンダーギャップをなくすために、情報を見極める力を指す「メディアリテラシー」教育も大切だ。教育の一例として、全国のテレビ局ではメディアリテラシーの出張授業や、メディアリテラシー向上のための教材作りなど、各局がさまざまな取り組みを進めている。
このように、今後は各個人がメディアリテラシーを身につけ、メディアの影響を理解し、適切なジェンダー表現を伝えていく力が求められる。
まとめ

メディアは単なる情報伝達手段ではなく、社会への大きな影響力を持ち、時には人々の価値観を丸ごと変えてしまう力を持っている。私たちが日常で目にする広告や雑誌、ニュースの中には、無意識に吸収してしまうジェンダー表現が紛れ込んでいる。
大切なのは、メディアから情報を受け取る際に受け身でいるのではなく、批判的な視点を持って向き合うことだ。「どんなジェンダー表現があるか」「この表現は誰かを傷つけていないか」といった疑問を持ち続ける姿勢である。
まずはメディアの情報を受け取る私たち一人ひとりがジェンダー表現に興味を持つところから始めてみてはいかがだろうか。
Edited by s.akiyoshi
注解・参考サイト
注解
(*1)ジェンダー役割不平等のメカニズム|鈴木淳子
(*2)男女共同参画白書(概要版) 平成28年版 | 内閣府男女共同参画局
(*3)女性労働者の現状と課題―パートタイム労働者を中心に―|江川直子
(*4)男女共同参画社会に関する世論調査|内閣府
(*5)様々な分野における女性の参画|内閣府
(*6)Global Gender Gap Report 2025
(*7)日本のジェンダー規範とメディアの役割についての一考察|田中(斎藤)理恵子
参考サイト
ハウス食品のCMが「ジェンダー炎上」の先駆け|日経BizGate
「働く女は、結局中身、オスである」 小学館の女性誌広告に批判、識者「時代遅れ」: J-CAST ニュース
アダプタビリティ | サステナビリティ | 株式会社コーセー 企業情報サイト
ファミマが「お母さん食堂」を消滅させた本当の理由…「変化恐れない」とブランド責任者 | Business Insider Japan
調査報告 テレビのジェンダーバランス|NHK
民放メディアリテラシーポータルサイト | 一般社団法人 日本民間放送連盟



























エリ
大学時代は英米学科に在籍し、アメリカに留学後は都市開発と貧困の関連性について研究。現在はフリーライターとして、旅行・留学・英語・SDGsを中心に執筆している。社会の中にある偏見や分断をなくし、誰もが公平に生きられる世界の実現を目指し、文章を通じて変化や行動のきっかけを届けることに取り組んでいる。関心のあるテーマは、多様性・貧困・ジェンダー・メンタルヘルス・心理学など。趣味は旅行、noteを書くこと、映画を観ること。( この人が書いた記事の一覧 )