耕作放棄地が、子どもたちの秘密基地に。地域のあたらしい交差点「プレイファーム」

高齢化などにより全国的に増加する耕作放棄地。その土地が、子どもたちの遊び場であり、地域の交差点として再生されている。千葉県鴨川市で生まれた「SOIL to SOUL FARMPARK」は、農園と公園が融合した新しい公共空間として注目されている。そこには、地域の未来を耕すヒントがある。

深刻化する荒廃農地問題

日本の農業は、深刻な担い手不足に直面している。農林水産省の「荒廃農地の発生・解消状況に関する調査」によれば、農家の高齢化や減少を背景に、耕作されずに荒れ果てた「荒廃農地」が全国的に増加している。

2020年の農林水産省「荒廃農地の発生・解消状況に関する調査」では、荒廃農地の面積は約28.0万ヘクタールに達した。これは埼玉県の面積(約38万ヘクタール)の約74%に相当する。このうち約9万ヘクタール(32%)は適切な処理により農地として再生利用が可能とされているが、残りの19.2万ヘクタール(68%)は再生利用が困難と見込まれている。実際の再生は思うように進んでいないのが現状だ。

特に、起伏の多い中山間地域では、高齢の農家が体力の衰えから耕作を続けることが難しく、その問題が顕著だ。このまま担い手の高齢化が進めば、日本人の3人に1人が高齢者となる「2040年問題」が農村部でさらに深刻化し、耕作放棄地の増加に拍車をかけると予測されている。荒廃農地は、単に農業生産の減少にとどまらない。雑草が繁茂して景観を損なうだけでなく、土砂崩れなどの自然災害のリスクを高め、病害虫の温床となるなど、地域社会にさまざまな負の影響を及ぼしているのだ。これらの課題を解決するためには、既存の農業の枠組みにとらわれない、新しい発想が求められている。

「土から魂へ」-ユニークな再生プロジェクト

そんな社会課題に、ユニークなアプローチで挑むプロジェクトが、千葉県鴨川市にある。手入れされずに放置された耕作放棄地を、子どもたちの遊び場であり、地域住民が集うコミュニティスペースに再生させる「SOIL to SOUL FARMPARK」だ。

「SOIL to SOUL」という名前には、「土から魂へ」という想いが込められている。作物を育てるだけでなく、人々が土に触れ、自然とつながることで、精神的な豊かさや生きる喜びを得てほしいという願いだ。そして、荒れた耕作放棄地を再生することで、その土地に新しい命と活力を吹き込み、地域全体にポジティブな変化をもたらしたいという強い信念が根底にある。

プロジェクトの発起人である井上隆太郎氏は、もともと東京で花屋や造園の仕事をしていた。しかし、大量の生花が翌日には廃棄される現状を目の当たりにする中で、大量消費社会や都市生活のあり方に疑問を抱くようになり、もっと自然と共生する持続可能な社会のあり方に関心を抱くようになったという。

そして、食や農に対する関心を深める中で、2015年に家族で鴨川市へ移住。そこで目にしたのが、手入れされずに荒れ果て、竹林が侵食し始めていた耕作放棄地の広がりだった。彼はこの土地を、農園と公園が融合した新しい公共空間「プレイファーム」として再生させるプロジェクトを始めた。


OECMとは6

子どもが主役、地域が応援する場の設計

「SOIL to SOUL FARMPARK」がユニークなのは、その主役が子どもたちであることだ。単なる「農業体験の場」にとどまらない。

子どもたちは「キッズファーム」で、年間を通じてさまざまな農作業に主体的に関わっている。春にはジャガイモやサツマイモ、ナスやトマトの苗を植え、夏には太陽の光を浴びながら水やりや草取りに汗を流す。秋には自分たちが育てた野菜を収穫し、その喜びを体全体で感じる。

さらに、収穫した野菜をどうすれば美味しく食べられるか、どのように販売すれば多くの人に届けられるかを考え、商品化プロセスにも深く関わっていく。食が自分たちの生活とどのようにつながっているかを肌で学ぶのだ。

野菜の成長から食卓に並ぶまでのプロセス全体を学ぶことで、机上の学習では得られない、生きるための知識や知恵を育む「オルタナティブ教育」の場としての役割も果たしている。

またファームには「コミュニティガーデン」として、地域住民が自由に野菜や花を育てられるスペースが設けられている。ここでは、子どもからお年寄りまで、多様な世代の人々が集い、一緒に畑を耕し、収穫の喜びを分かち合う。

ボランティアとして作業を手伝う地域の住民も多く、世代や立場を超えた交流が自然に生まれるこの場所は、まさに地域の新しい「交差点」となっている。収穫祭などのイベントには多くの家族連れや地域住民が訪れ、笑い声が絶えない。荒れた土地が、人と人をつなぐ温かい場所に変わっていく様子は、地域の未来を象徴している。


自然と人と、ちょうどよい距離でつながる。ガーデンがつくるサードプレイス

耕作放棄地活用のモデルになり得る社会的意義

「SOIL to SOUL FARMPARK」の取り組みが注目されるのは、単なる地域活性化の事例にとどまらない、より大きな社会的意義を持つからだ。まず、耕作放棄地の再生を通じて、地域の自然環境の保全に貢献している。荒廃した土地は生物多様性を失わせる一因だが、プレイファーム化することで、多様な植物や昆虫が共生する生態系を取り戻すきっかけとなる。また、このファームは、子どもたちに食や環境への関心を育む「学びの場」であると同時に、収穫物を地域に還元する「循環の場」でもある。ここで得られる経験や成果は、持続可能な社会の基盤を築く一歩となっている。

現在、「SOIL to SOUL FARMPARK」には、全国の行政関係者やNPO、他地域からの視察受け入れも進めている。耕作放棄地という社会課題に対して「農地公園」という新しい解決策を提示し、持続可能なコミュニティづくりを目指す彼らの理念が、多くの人々の共感を呼んでいるのだ。

この取り組みは、耕作放棄地をただ嘆くのではなく、その土地の可能性を見出し、そこに人々が集い、未来を育む新しい価値を創造できることを教えてくれる。

Edited by k.fukuda

参考サイト

令和2年の荒廃農地面積について|農林水産省
子どもを育てる場所づくり 耕作放棄地が農園に|鴨川市公式ホームページ

About the Writer
丸山瑞季

丸山 瑞季

大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。この人が書いた記事の一覧

Related Posts