学びから生まれる地域の力。唐津Farm&Foodと高校生が創る循環社会

佐賀県唐津市で、高校生たちが地域資源を活かしたユニークな環境教育に取り組んでいる。プラスチックごみを生まれ変わらせ、里山を再生する体験は、教室では得られない「生きた知識」を彼らに与え、持続可能な未来を自分たちの手で創る力を育んでいる。唐津Farm&Foodと高校生が織りなす、地域ぐるみの循環型社会づくりの挑戦を追った。

地域資源を活かす実践型の環境教育

出典:NPO法人 唐津FARM&FOOD

佐賀県唐津市にあるNPO法人唐津Farm&Foodは、「食と農を軸にした持続可能な社会づくり」を理念に掲げ、さまざまな活動を展開している。地域の高校生たちと協働で始めたのが、「プレシャスプラスチック」という活動だ。

プレシャスプラスチックは、地域のプラスチックごみを収集・加工し、新たな製品へとアップサイクルする取り組みである。この活動は、単なる「ごみ削減運動」ではなく、ごみの問題に正面から向き合い、よりクリエイティブな解決策を模索するプロセスそのものが学びとなっている。

この活動の大きな特徴は、高校生たちが見学するだけにとどまらず、一連の工程に主体的に関わっている点にある。まず、唐津市内の一般家庭から出る使用済みプラスチック(主にペットボトルのキャップや食品トレーなど)を回収する。その後、集めたプラスチックを色や種類ごとに分類し、きれいに洗浄、そして細かく粉砕する。粉砕されたプラスチックは、唐津Farm&Foodが保有する専用の機械で加熱して溶かし、金型に流し込むことでさまざまな形に加工される。

生徒たちは、プラスチックの性質を理解しながら、粉砕から加工、そして製品づくりまでを、唐津Farm&Foodの指導のもとで体験する。そうして生まれたのが、色とりどりの植木鉢や、おしゃれなデザインのサングラス、さらに唐津市の観光名所である「呼子のイカ」を模したキーホルダーなどユニークな製品だ。

この活動は、ごみとして捨てられていたものが、工夫次第で価値あるものに生まれ変わるという「循環」のプロセスを、生徒たち自身が体感する機会となっている。教室を飛び出したリアルな学びは、生徒たちに大きな気づきを与えている。活動を体験した高校生の一人は、「プラスチックの製品は身近にたくさんあるけど、それを使って子どもも親も楽しめるような発想が凄いと思った」と、新たな視点を得たことへの感動を口にした。また別の生徒は、「今回の講演を聞き、こんなことができるのかと新しい気づきを持てた」と、新たな発見を得た喜びを語っている。

こうした実践型の環境教育は、教科書で学ぶ知識を現実の社会と結びつけ、環境問題への意識をより深く根付かせる力を持っているのだ。また、自分たちの手で作り出した製品が誰かの手に渡ることで、社会とのつながりや達成感を味わうことも、学びの大きな糧となっている。


本庄市の「生ゴミ出しません袋」
REMAREとフィッシャーマン・ジャパンによる海洋プラスチックのアップサイクル事例

OECM認定と地域の生物多様性保全

出典:NPO法人 唐津FARM&FOOD

唐津Farm&Foodと高校生たちの協働は、プラスチックごみのアップサイクルだけにとどまらない。彼らの活動は、唐津市横枕地区の豊かな自然環境、そして「OECM(Other Effective area-based Conservation Measures)」という国際的な保全の枠組みにも深く関わっている。横枕地区は、古くから人々が暮らし、里山や棚田の保全に努めてきた場所だ。人の手が入ることで維持されてきた二次的自然環境が広がり、多くの生き物の生息地となっていた。

しかし、近年は過疎化や高齢化が進み、手入れが行き届かなくなったことで里山が荒廃し、地域の生物多様性が失われつつあった。唐津Farm&Foodは、この状況を改善すべく、里山の保全活動を積極的に進めてきたのである。

OECMとは、「保護地域以外で生物多様性保全に資する区域」のことだ。国立公園のように法律で厳格に管理された場所ではなくても、地域住民やNPO、企業などが生物多様性の保全に貢献している場所を国際的に認めようという新しい考え方である。OECMの認定を受けたことで、唐津Farm&Foodが横枕地区で進める里山保全活動も、その意味と価値を地域内外に示すことにつながった。そして、より多くの協力者や支援を集められたのである。

高校生たちは、この里山保全活動にも参加している。例えば、外来種の除去・放置された竹林の整備・雑木の伐採・生態系のモニタリングなど、里山の健全な生態系を保つための多岐にわたる作業だ。こうした活動を通して、生徒たちは「里山」という場所が人と自然が共存してきた地域の成り立ちや、豊かな文化を育んできた場所であることを肌で感じる。

里山での学びは、未来の担い手である高校生たちに、生物多様性保全という重要な課題を、身近な地域から考え、行動するきっかけを与えている。里山を再生する体験を通じて、彼らは地域の自然が持つ本来の力を知り、それを守り、活かすことの意義を深く理解していくのだ。また、多様な生き物たちと触れ合う中で、生命のつながりの大切さを実感する貴重な機会にもなっている。


緑地管理の課題を市民の力で解決。アダプト制度の今とこれから
#3 里山の菜園を小さな生態系に

循環型社会の担い手を育てる学びのデザイン

無印良品でプレシャスプラスチックのワークショップ 出典:NPO法人 唐津FARM&FOOD

唐津Farm&Foodと学校、そして地域が連携して進める取り組みは、ボランティア活動や課外授業の域にとどまらない。高校の「探究学習」という枠組みの中で、地域課題の解決を目指す体系的な学びのプログラムとして位置づけられている。三者が協働することで、生徒たちはより多角的な視点から物事を捉えられるのだ。

唐津Farm&Foodは、プラスチックのリサイクル技術や里山保全の専門知識、そして実践の場を用意し、学校は教育課程の中でその学びを位置づける。そして、地域住民は温かく生徒たちを受け入れ、協力を惜しまない。その結果、地域全体が「教育の場」となり、学校だけでなく地域社会全体で学びを育んでいく可能性を示している。

生徒たちがプラスチックごみのアップサイクルや里山保全活動を通して体感するのは、まさに循環型社会の理念そのものだ。ごみが資源となり、里山が再生し、その過程で人々のつながりが生まれる。この「循環」のプロセスを現場で体験することで、彼らは持続可能な社会を築くための具体的な方法を学び、自分たちの役割を自覚していくのだ。こうした実体験からは、机上の学習だけでは得られない深い理解と自信を得られる。

唐津の取り組みは、ローカルな活動でありながら、大きな可能性を秘めている。地方の一つの小さなNPOと高校生たちが始めた活動が、OECMという国際的な保全の枠組みと結びつき、新たな環境教育のモデルとして全国に、そして世界に発信されていく。「ローカルからグローバルへ」という、新しい学びのあり方を示しているといえるだろう。

この学びのデザインは「ESD(Education for Sustainable Development)」、つまり「持続可能な開発のための教育」という理念を体現している。生徒たちは、地域社会が抱える課題を自分ごととして捉え、その解決策を自ら探究し、行動する力を身につけていく。

唐津の事例は、これからの社会を担う若者たちが、持続可能な未来を築くための力を、地域での実践的な学びを通じて育むことができるという、重要な示唆を与えている。そして、このような教育こそが、持続可能な社会を実現するために今後ますます不可欠なものになるだろう。

Edited by k.fukuda

参考サイト

ぐるりこ
ASTRA FOOD PLAN、新感覚クラフト調味料「タマネギぐるりこ」新シリーズ “食べるソース”「旨味しょうゆ」を新発売
ぐるりこ(法人向け)|ASTRA FOOD PLAN株式会社
“かくれフードロス”問題解決実現へ、ASTRA FOOD PLANが食品ざんさ再生装置『過熱蒸煎機』の販売を開始

About the Writer
丸山瑞季

丸山 瑞季

大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。この人が書いた記事の一覧

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