消費される動物たち。ペット産業の動向から「動物の幸せ」を考える

消費される動物たち。ペット産業の動向から「動物の幸せ」を考える

私たちの心を癒したり、生活を彩るものとして時代を問わず人気のペット。「愛玩動物」ともいわれ、多くの人がさまざまな動物と暮らしている。特に飼育の中心となっているのは犬猫であり、2024年の調査によると日本国内で犬は約679万6,000頭、猫は約915万5,000頭が飼育されている(*1)。また、同調査では「飼育の効用」として「毎日の生活が楽しくなった」「気分が明るくなった」「心が穏やかになった」など精神面での効用に加え、犬の飼育者では「規則正しく生活するようになった」といった面も見られている。

近年では、ペット(愛玩動物)というよりも家族の一員や友だちと同じ(伴侶動物)ように考える人も増加している。そのため、亡くしたときの悲しみも強く「ペットロス」という言葉も広く知られるようになった。

このように、人間と動物との共生社会の実現にも繋がるペットとの暮らし。ペット関連の市場は拡大する一方で、深刻な社会問題も生まれている。商品として扱われ、適切な配慮を受けられない動物たちの問題が続いている。

アニマルライツ(動物の権利)が主張され、動物愛護活動がますます活性化する昨今。「ペットを迎え入れよう」と行動する前に、今一度「動物と暮らすこと」の意義や覚悟について考えてみたい。

ペット関連市場の種類と動向

ペット関連市場の種類と動向

ペットに関する市場は多様化し、拡大の一途を辿っている。2023年度時点の市場規模は1兆8,629億円に達したと見込まれ、今後も増加していくと予測されている(*2)。中でも特に多いのは、ペットフードとペット用品市場だ。ペット用品店やホームセンターだけではなく、今ではコンビニエンスストアでもペットフードは売られている。また、ウェアやサニタリー、ドライブシートのような日用品から、「ねこのための音楽」などの変わり種まで、ペット向けの製品は多種多様な広がりを見せる。

ドッグラン併設の犬向け複合施設や、ペットホテルやトリミングサロン、動物病院、ペット保険、葬儀場など、動物の生涯に関連するサービスも発展。また、福岡、群馬、大阪、沖縄、東京などでは、災害時に飼い主と離れてしまったペットを救命するチーム「VMAT」が誕生し、全国各地でも設立に向けた講習会を開催するなどの動きが見られている。

このように多岐にわたって隆盛を極めるペット業界だが、その中で依然として高い市場規模を示すのが「生体販売」だ。ペットショップやホームセンターには、ガラスケースの向こう側からこちらを見つめる犬、猫、うさぎなどの姿がある。そのガラスには値札が貼られ、時には「○○%OFF」という値引きのお知らせがなされていることも。中には、先天的な疾患があったり、「内股」「毛の色が違う」などの身体的特徴から商品価値がないとされ、破棄されるといった、不適切な扱いを受ける動物もいるという。

コロナ禍でのペットブームの裏に潜む“闇”

新型コロナウイルス感染症の流行により、私たちはステイホームを余儀なくされた。おうち時間が増えたことでペットブームが興り、犬や猫を迎え入れる人が増えた一方で、「こんなに大変だとは思わなかった」「思ったよりお金がかかった」という理由によって数日で手放す事例が発生したという。

また、規制が緩和されたことで外出の機会が戻り、ペットを預けっぱなしにしたり家に残したまま旅行に出かけるなどの飼育放棄も問題となっている。また、個体それぞれの特徴や特性に合わせず適当な飼育をすることによって、動物が体を壊したり命を落としたりするという例もあるようだ。

ペットを家族として迎え入れ、幸せな生涯のために尽力する人がいる一方、安易に飼いはじめ煩わしくなったら捨てる人もいる。こうしたペットブームの背景にある問題がメディアで十分に報道されることは少ない。

保護活動を行う団体は、このように動物を安易に飼いはじめることに対し、注意を促している。「最期を看取る覚悟を持って迎え入れて」——保護団体は、そう願いながら活動しているにも関わらず、未だに年間9,000頭以上の犬猫が殺処分されている(*3)。昭和49年には120万頭を超えていたことを考えれば大幅に減少傾向にあるとはいえ、これだけ「動物は家族」とする人が増えた令和の時代でも、殺処分ゼロの実現には、さらなる取り組みが必要な状況である。

その要因の一つが、やはり先述のとおり、動物を飼うことを安易に考えている人がいることだろう。そして、生体販売の市場規模の大きさによって「動物は儲かる」と考える悪質ブリーダーが減らないことも原因の一つと考えられる。

動物の生体販売を禁止する国は増加傾向に

動物の生体販売を禁止する国は増加傾向に

動物の福祉が最も進んでいるとされるドイツでは、2001年に「動物保護―犬に関する規則」が施行され、犬の飼育に関する厳しい基準が制定されている。これに違反すれば罰せられる場合もある。ペットショップでの生体販売は禁止されていないものの、この法律が飼育者だけではなくペットショップにも適用されることから、実質的にペットショップでの生体販売を抑制しているようだ。また、犬税(犬を飼っている人にかかる税金)を導入しており、安易に犬を飼おうとする人を減らすことにも繋がっている。

また、「ペット大国」とされるフランスでは、2024年からペットショップでの犬猫の生体販売が法律によって禁止されている。フランスでも、日本と同様に捨てられる犬や猫が後を絶たなかったという。こうした状況を受け、消費者によるペットの衝動買いや、商品として売上しか見ない店舗をなくすことを目的に法改正が行われるに至ったようだ。一方で、ルールを守り、店舗を人と動物とのふれあいの場として捉えてきたショップオーナーたちからは反発の声が上がるなど、賛否両論を巻き起こした。

そのほか、イギリス、オランダ、米国の一部州などさまざまな国で動物の生体販売が禁止されるなど、世界ではアニマルウェルフェア(動物の福祉)を考慮した法整備が急速に進んでいる状況だ。

また生体販売以外にもさまざまな動物愛護に関する法律が存在する。スウェーデンでは、飼育の際に犬や猫をケージに入れたり、6時間以上留守番させることを禁止するなど、世界一厳しいともいわれる基準が制定されている。こうした世界の傾向と比較すると、日本の国レベルでの取り組みには改善の余地があると考えられる。

悪質なブリーダーが顕在化。社会問題へと発展

ペットブームの背景で拡大し続けている深刻な問題が、劣悪な環境で繁殖を行う悪質なブリーダーの存在だ。多くのブリーダーは真面目に取り組んでいる中、一部の悪質ブリーダーのもとで狭いケージに閉じ込められ、十分な世話を受けないまま繁殖のためだけに〈使用〉され、役目を終えれば捨てられる犬や猫の存在が昨今顕在化しはじめている。また、少しでも売れないと考えられる要素がある子犬や子猫は、安易に処分するという行為も問題となっている。

こうした状況を受け、一部の悪質業者の排除を目的として動物愛護法の改正案が出され、2021年6月から順次、改正動物愛護法が施行されている。生涯出産回数や交配上限年齢などが定められるなど、第一種動物取扱業および一般の飼い主にも適正飼養に関する規制が強化された。

しかし一方で、この制限によって行き場を失った“繁殖犬”たちが遺棄される事例も相次ぐこととなってしまった。また、繁殖犬の引退後に遺棄を免れ、保護されることになっても、急激な生活環境の変化に戸惑いを隠せない犬もいる。狭いケージの中で暮らしていたため首輪を着けたことも、決められた場所で排泄を行ったこともない、もちろん散歩もしたことがない、という犬にとっては、どれほど恵まれた環境であっても、人間との生活に一から馴染まなければならないというストレスがかかる。

ブリーダー=悪というレッテルを貼られることに苦悩しているブリーダーもおり、いち早い問題解決が望まれるものの、こうした状況から悪質ブリーダーを排除するには長い時間と労力がかかり、一朝一夕に実現できるものではないというジレンマがあるのだ。

ペットの幸福を守るために考えなければならないこと

ペットの幸福を守るために考えなければならないこと

悪質ブリーダーをはじめ、日本のペット産業が抱える問題の背景には、日本ではまだまだアニマルウェルフェアの考え方が浸透していないという点がある。アニマルウェルフェアとは、すべての動物が心身ともに健康で、生態にあった快適な環境で一生を過ごすことを目指す概念で、ペットはもちろん、家畜、実験動物、動物園で飼育される動物などにも適用される。日本では動物愛護の観点が主流だが、アニマルウェルフェアが動物自身が主体となるのに対し、動物愛護は人から動物に対する感情が主体となっている。

ペットの幸せを考えるときには、動物愛護よりもアニマルウェルフェアの視点が重要だという指摘もある。人間が「可哀そう」と思う感情よりも、動物自身が「心地よい」と思えるか、その動物らしい振る舞いを自由にできるかを優先させなければ、本当の意味での共生社会を作ることは不可能だろう。

「可愛いから」「寂しいから」という一時的な感情や、「流行っているから」という理由だけでペットを飼うことは適切ではない。将来の自分や家族の生活状況、経済状況などをしっかりと見据え、「本当にこの子の一生を背負う覚悟があるか」と自分自身に何度でも問うてみてほしい。アニマルウェルフェアの実現には多くの課題が存在するが、まずは私たち人間の動物に対する意識を変化させていくことが課題解決の第一歩なのではないだろうか。

Edited by s.akiyoshi

注解・参考サイト

注解
(*1)令和6年(2024年)全国犬猫飼育実態調査|一般社団法人ペットフード協会
(*2)ペットビジネスに関する調査を実施(2024年) | ニュース・トピックス | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所
(*3)環境省_統計資料 「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」 [動物の愛護と適切な管理]|環境省

参考サイト
『図解入門業界研究 最新ペットビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本』|川上清市|秀和システム
コロナ禍、癒やし求めてペット…数日で飼育放棄する実態 [新型コロナウイルス]|朝日新聞
コロナ禍で安易に飼いたくなる犬猫、限界感じ手放す人も増加…専門家「寿命まで飼う覚悟して」|読売新聞
フランス 犬と猫がペットショップから消える?いったいなぜ? | NHK
環境省_動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年6月19日法律第39号) [動物の愛護と適切な管理]|環境省

About the Writer
秋吉紗花

秋吉 紗花

大学では日本文学を専攻し、常々「人が善く生きるとは何か」について考えている。哲学、歴史を学ぶことが好き。食べることも大好きで、一次産業や食品ロス問題にも関心を持つ。さまざまな事例から、現代を生きるヒントを見出せるような記事を執筆していきたい。この人が書いた記事の一覧

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