ソバーキュリアスとは?変わりゆくアルコールに対する価値観と社会の動き

ソバーキュリアスとは

ソバーキュリアスとは、アルコールを控える新しいライフスタイルの一つである。アルコールを完全に断つわけではなく、その消費を見直し、より健康的な生活を追求する姿勢を示している。2019年頃に欧米で広まり始めたこの言葉は、シラフを意味する「ソーバー(sober)」と好奇心を意味意味する「キュリアス(curious)」を組み合わせた造語であり、直訳すると「シラフへの好奇心」という意味になる。

ソバーキュリアスの背景には、健康志向の高まりや、アルコールの摂取がもたらす身体的・精神的な影響への関心がある。多くの人々が、飲酒による悪影響を避けつつ、社交の場での楽しみを維持する方法を模索しているのだ。ソバーキュリアスは、飲酒をしない選択が恥ずかしいことではなく、むしろ積極的なライフスタイルの一部であると捉えられている。

この新しい価値観は、Z世代やミレニアル世代など、若い世代を中心に広がっており、ノンアルコール飲料の市場も急速に成長している。ソバーキュリアスの実践者たちは、アルコールを控えることで得られるメリット、例えば翌日の体調の良さ・集中力の向上・精神的な安定感を得ている。彼らは、アルコールに依存しない新しい楽しみ方を見つけ、より充実した生活を送っているのだ。

マインドフル・ドリンキングとの違い

ソバーキュリアスは、アルコールを控えることに重点を置き、飲酒を完全にやめるわけではないが、飲む頻度や量を減らすことを目指す。一方、マインドフル・ドリンキングは、飲酒の際にその瞬間をしっかりと意識し、周りの雰囲気に流されず味わいながら飲むことを重視する。つまり、飲む量を減らすことよりも、飲む際の意識を高めることに焦点を当てている。

ソバーキュリアスは、アルコールを控えることで得られる健康面・精神面のメリットを目的としているが、マインドフル・ドリンキングは、飲酒そのものを楽しむことを大切にしつつ、過度な飲酒を避けることを目指している。このように、両者はどちらもアルコールとの付き合い方を見直すライフスタイルであるが、異なるアプローチを提案している。

注目されている背景

注目されている背景

ソバーキュリアスが注目されている背景には、現代社会における健康志向の高まりが大きく影響している。多くの人々が、健康的な生活を送るために食生活や運動習慣を見直す中で、アルコールの摂取についても再考するようになった。アルコールがもたらす身体的・精神的な影響についての認識が広がり、飲酒を控えることが一つの選択肢として受け入れられている。

また、ソバーキュリアスは単なる禁酒ではなく、社会的なつながりを保ちながらも健康を維持する方法として支持されている。ノンアルコール飲料の市場が拡大し、多様な選択肢が提供されるようになったことも、ソバーキュリアスの普及を後押ししている。飲酒をしないことが特別なことではなく、自然な選択肢として受け入れられるようになっているのだ。

さらに、ソーシャルメディアやインターネットの普及により、ソバーキュリアスという概念に触れる機会が増えていることも大きい。多くの人々が自身の経験を共有し、互いに励まし合うコミュニティが形成されることで、ソバーキュリアスは現代のライフスタイルの一部として広く認識されつつある。

若者がアルコールから離れつつある理由

では、なぜ若者の「アルコール離れ」が加速しているのだろうか。2019年の厚生労働省が行った「国民健康・栄養調査」によると、過去20年間で飲酒習慣率は全世代で減少しているが、特に20代男性に顕著である。

このような傾向は、Z世代特有の価値観が影響している。彼らは健康志向が強く、アルコールの摂取を控えることが一般的になっているのだ。ある調査によれば、8割超のZ世代の若者は「日常的にお酒を飲みたくない」と考えていることが分かった。

出典:BIGLOBE

この背景には、健康意識の高まりや、アルコールのリスクに対する認識の変化があると考えられる。若者たちは、アルコールを摂取しないことで得られるメリットを重視し、より健康的なライフスタイルを追求しているのである。では、アルコール離れの背景にある若者の価値観とは、具体的にどのようなものだろうか。

娯楽が多様化している

若者のアルコール離れの背景には、娯楽の多様化が大きく影響している。現代では、インターネットやスマートフォンの普及により、オンラインゲームや動画配信サービス、SNSなど、さまざまな娯楽が手軽に楽しめる環境にある。これにより、時間やお金をアルコール以外の活動に使いたいと考える若者が増えているのだ。

さらに、タイムパフォーマンス(タイパ)を重視する若者が増えている。タイパとは、限られた時間をいかに有効に使うかを考える価値観であり、飲酒に時間を費やすよりも、他の有意義な活動に時間を使いたいと考える傾向が強まっている。例えば、趣味・自己啓発・フィットネスなどに時間を割くことで、より充実した生活を送れると感じているのである。

お酒で失敗したくない

飲酒による失敗は、健康面だけでなく、社会的な信用や人間関係にも悪影響を及ぼす可能性がある。例えば、酔った勢いでの失言や行動が原因で、友人や同僚との関係が悪化することもある。

また、飲酒運転やアルコール依存症といった深刻な問題も避けたいと考える若者が増えている。SNSの普及により、飲酒による失敗が瞬時に広まるリスクを懸念する人も多いだろう。

さらに、アルコールハラスメント(アルハラ)への意識も高まっている。飲み会での無理な飲酒の強要や、飲酒をしないことへの偏見が問題視される中で、アルコールを摂取しないことが自然な選択肢として受け入れられるようになっているのだ。

より健康的な暮らしがしたい

Z世代は自身のウェルビーイングやライフワークバランスを重視し、仕事とプライベートの両立を図る傾向が強い。アルコールの摂取を控え、翌日の体調を良好に保ち、仕事や趣味に全力で取り組むことを重要視する若者が多いのだ。

また、精神面の健康も重要視されている。アルコールは一時的にリラックス効果をもたらすが、過度な摂取はストレスや不安を増幅させることがある。若者は、瞑想や運動などの健康的な手段を取り入れることで、アルコールに頼らずにストレスの解消やマインドフルネスの向上、健康の維持に努めている。

そもそもお酒に興味がない

現代の若者は、アルコール以外の楽しみ方や娯楽が豊富であり、必ずしも飲酒を必要としない。SNSなどオンラインで常にだれかとつながっているため、友人とわざわざ飲みに行く必要がないと感じる若者が増えている。リアルな飲み会を開催することが少なくなり、自然とアルコールの摂取も減っているのである。

そのため、アルコールに対する興味が薄れ、代わりにデジタルコンテンツやオンラインコミュニケーションを楽しむ傾向が強まっている。

ソバーキュリアスを実践する方法

お酒を飲まないライフスタイルをサポートする取り組み

現代の若者の価値観やライフスタイルにマッチしているソバーキュリアスは、ほかの世代にも広がりつつある。しかし、お酒と距離を置きたいと考えていても、日常生活にお酒が溶け込んでいる場合は、ソバーキュリアスへの移行が難しいこともある。そんな時には、以下のような取り組みを試してみるのも一つの方法である。

ドライ・ジャニュアリー

「ドライ・ジャニュアリー」とは、1月の1カ月間禁酒をすることで、体と心をリセットし、より良い気分で新年をスタートしようというムーブメントである。2013年にイギリスのAlcohol Change UKが始めたこのキャンペーンは、欧米を中心に広く支持されている。2023年のアメリカの調査では、対象者の41%が「ドライ・ジャニュアリー」に挑戦すると回答している。

国によっては「ドライ・ジュライ(7月)」や「ソバー・オクトーバー(10月)」、「ソバー・スプリング(春)」など、1年を通してさまざまな禁酒キャンペーンが存在している。いずれも飲酒のペースを見直し、健康的な生活を送るための良い機会となるだろう。

日本でも、ノンアルコール飲料の人気が高まりつつあり、今後「ドライ・ジャニュアリー」が広まる可能性がある。例えば、株式会社パルコでは2022年1月から「PARCO Dry January」を開催し、ノンアルコール飲料の販売やトークショーを行っている。このようなイベントを通じて、アルコールとの健全な付き合い方を模索する文化がさらに浸透していくことが期待されている。

アルコールを提供しないバー

ソバーキュリアスへの関心の高まりとともに、アルコールを提供しないバーが注目を集めている。

例えば、ニューヨークのブルックリンにある「Getaway」は、アルコールを一切含まないドリンクを提供するバーである。バーテンダーがシェイカーを振る姿はまさにバーそのものだが、提供される飲み物はすべてノンアルコールだ。

また、2020年には日本初の完全ノンアルコールバー「0%」が東京・六本木にオープンした。アルコールを一切提供せず、代わりにフルーツやハーブを使ったカクテルを提供している。店内は幻想的なネオンのオブジェで飾られ、訪れる人々に新しい体験を提供している。

「減酒プラン」を考えてくれるアプリ

お酒と上手に付き合う方法を模索している人には、減酒プランを立ててくれるアプリの利用がおすすめだ。飲酒量をコントロールし、健康的な生活をサポートするために開発されているアプリで、減酒や禁酒を目指す人の間で人気がある。

例えば、米国を中心に多く利用されている「Sunnyside」というアプリは、個人のペースや生活スタイルに合わせた減酒プランを提供してくれる。リマインドやアドバイスをSMSやメールで送ってくれるほか、節約できたお金や減らせたカロリーなどもデータとして見える化される。希望者は、アルコールに関する問題を専門とするプロのコーチングチームに相談することも可能だ。

このようなアプリを活用することで、無理なく飲酒量を減らし、健康的な生活を送れるだろう。

ソバーキュリアスに対する飲料メーカーの動き

ソバーキュリアスに対する飲料メーカーの動き

ソバーキュリアスの価値観が広がると、アルコール飲料メーカーは売上減少の懸念がある。しかし、実際には多くの企業がノンアルコール飲料や代替飲料を積極的に宣伝し、ソバーキュリアスの動きを支援するキャンペーンを展開している。ここでは、代表的な3つの事例を紹介する。

ウィルキンソン「#sober(タグソバー)」

ウィルキンソンの「#sober」は、アサヒ飲料が展開する炭酸水シリーズだ。ターゲット層は、普段からあまり炭酸水を飲まない20〜30代で、ウィルキンソンブランドの新たなユーザー層の拡大を目指している。

2022年から若年層向けに展開されており、第1弾として「スパイシーレモンジンジャー」が発売された。その後、「ライチ&トニック」などのフレーバーも追加されている。

フレーバー炭酸水は、アルコールを含まずに爽やかな味わいを楽しめるため、飲み会やパーティーなどの社交の場でも満足感を得られる。ウィルキンソンは「#sober シリーズ」を通じてソバーキュリアスの動きを支援し、健康的なライフスタイルを提案している。

アサヒビール「スマートドリンキング」

アサヒビールの「スマートドリンキング」、通称「スマドリ」は、新しいお酒の楽しみ方を提案するキャンペーンである。現代では、誰もが自分のペースで人生を楽しむようになり、お酒の楽しみ方も多様化している。

スマドリは、一人ひとりの体質や気分に合わせて、安心して選べるドリンクを提供することで、誰もが楽しめる飲み方を推進している。「飲める人」も「飲めない人」も、好きなドリンクを手に、自分らしく楽しむことができる社会を創造することが、スマドリの理念だ。

ハイネケン「Heineken® 0.0(ハイネケン ゼロゼロ)」

ハイネケンは、通常のビールを醸造してアルコールだけを除去することで、本格的な味わいを実現した「ハイネケン0.0」を展開している。日本でも展開されているこの製品は、ノンアルコールビールでも堂々と楽しめる社会を目指し、飲み方の多様性サステナビリティを推進している。

さらに、適正飲酒を推進するために、広告予算の10%を適正飲酒のコミュニケーションに充てている。消費者が健康的な飲料習慣を持ち、アルコールを控えたい日でも楽しめる選択肢を増やすことで、自由に飲酒スタイルを選べる環境を整えているのだ。

まとめ

健康志向の高まりとともに、今後もソバーキュリアスはさらに多くの人々に受け入れられるだろう。特に若者を中心に、アルコールを控えるライフスタイルがクールでスタイリッシュなものとして認識されつつある。ノンアルコール飲料や低アルコール飲料の市場は拡大し、メーカーもこの動きを積極的にサポートしている。

ソバーキュリアスはここ数年で広まったライフスタイルであるが、単なる一時的なトレンドではなく、持続可能なライフスタイルとして定着すると考えられる。アルコールに対する多様な価値観が広まることで、ひとりひとりの健康意識も向上すると同時に、社交の場での健全でより豊かなひと時が育まれるのではないだろうか。

参考記事
さらに進んだ若者のアルコール離れ-20代の4分の1は、あえて飲まない「ソーバーキュリアス」|ニッセイ基礎研究所
Z世代「日常的にお酒を飲みたくない」8割強|BIGLOBE
ドライ・ジャニュアリーってなに? ~ノンアルにまつわる素朴な疑問~|株式会社パルコ
NYでノンアルコールバーが生まれる理由|NEWSWEEK JAPAN
0% NON-ALCOHOL EXPERIENCE
【スマドリ】スマートドリンキング | アサヒビール
Heineken®0.0|ハイネケン

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丸山 瑞季
大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。