ピンクウォッシュとは?3つの問題点と回避する方法について解説

ピンクウォッシュとは

「ピンクウォッシュ」とは、企業や政府が、表向きにはLGBTQ+コミュニティへの支援を表明しつつも、実態が伴わない、あるいは他の問題を隠蔽するために支援を利用する戦略を指す。

例えば、企業のパワハラ問題が発覚した際、その問題を有耶無耶にするために「LGBTQ+コミュニティを支援する、人権感覚の優れた企業」というブランディングを行うことなどがピンクウォッシュに当たる。

ピンクウォッシュの語源

ピンクウォッシュの語源は、英語のホワイトウォッシュ(Whitewash)である。ホワイトウォッシュとは、「白く塗りつぶすこと」から派生し、不正や不祥事を隠したり、誤魔化したりすることを意味する。日本では政界などで不都合な文書を黒塗りすることが一般的になっているが、欧米では黒塗りではなく白塗りが不祥事を隠す言葉として認識されている。

ピンクウォッシュは、このホワイトウォッシュと、同性愛者のシンボルカラーとされることも多いピンクを掛け合わせた造語だ。つまりピンクウォッシュとは、LGBTQ+フレンドリーな姿勢を見せることで、その他の不都合な真実を覆い隠す行為を指すのである。

ピンクウォッシュの起源と歴史

ピンクウォッシュという概念が生まれたのは、2000年代後半のこと。当時イスラエル政府は、自国のことを「中東で唯一の民主主義国家であり、LGBTQ+フレンドリーな国」だとアピールしていた。イスラエルは、同性愛者に差別的なイスラム文化圏と比較し、自国が人権先進国だと主張したのである。

しかしイスラエルは、パレスチナへの抑圧や占領などの人権問題が山積みであることに加え、LGBTQ+に対する支援も限定的だったため、「LGBTQ+フレンドリーだとアピールし、その他の問題を誤魔化そうとしている」として批判されたのだ。

ピンクウォッシュの事例

昨今は国だけではなく、企業もピンクウォッシュを行っていると非難されることが少なくない。

例えば、レインボーパレードなどに出展したり、プライド月間にレインボーグッズを販売したりするなど、LGBTQ+フレンドリーであることをアピールする企業が増えている。しかし、これらの取り組みが実際の支援を伴わない場合、ピンクウォッシュとみなされるのだ。

また、H&Mやリーバイスは、LGBTQ+フレンドリーであるかのようなマーケティング戦略を取りながらも、LGBTQ+の人たちを差別している国で生産を行うなど、実際にはLGBTQ+フレンドリーとはいえない内幕が明らかになり、問題となった。さらに、格安の服と選択肢の多さで人気になったアパレルメーカーSHEINは、LGBTQ+フレンドリーを謳っていたが、労働者が月に1日しか休みが取れない、週に75時間働かされるなど、労働環境に大きな問題があった。

その他、多国で販売を展開している多国籍企業が、LGBTQ+に対する人権意識が高い国ではLGBTQ+フレンドリーであることを打ち出す一方、ロシアやサウジアラビア、中東諸国ではLGBTQ+フレンドリーであることを表明しなかったために非難されてしまうこともある。

このような企業は本当に人権に配慮しているのではなく、「単なるマーケティングや利益のためにLGBTQ+を利用している」とみなされ、企業イメージが低下することで、結果的に不利益を被ることになってしまうのだ。

日本でのピンクウォッシュの事例

日本でも、ピンクウォッシュに関する出来事が起きている。

例えば、東京都渋谷区は2015年にいち早く同性パートナーシップ制度を導入し、LGBTQ+フレンドリーな区であることをアピールしていた。一方で、再開発の過程でホームレス状態の人たちを排除し、ジェントリフィケーション(都市の高級化)を後押しするなど、LGBTQ+以外のマイノリティへの配慮が欠けていると指摘された。これにより、渋谷区の取り組みはピンクウォッシュだと非難されたのである。

また、企業がプライド月間に合わせてレインボーカラーの製品を販売し、その売上の一部をLGBTQ+支援団体に寄付すると宣言している場合でも、具体的な寄付先や金額を明らかにしていない場合、ピンクウォッシュと見なされることがある。

ピンクウォッシュの3つの問題点

ピンクウォッシュには、大きく3つの問題がある。

一つ目は、LGBTQ+フレンドリーを謳いながらも、実質的な援助が伴わないという問題だ。レインボーのグッズを売っている企業が、同性愛者に差別的な福利厚生の制度などを放置していることも多い。LGBTQ+フレンドリーを表明している企業が、必ずしも完璧な制度を設ける必要はないが、ある程度の実態が伴っていることは不可欠だろう。

二つ目の問題は、LGBTQ+フレンドリーを利用し、搾取しているという点だ。LGBTQ+フレンドリーであることを表明し、マーケティングの手段として経済的利益を追求しながらも、実態が伴わない場合、逆にコミュニティを傷つける結果になる。

三つ目の問題は、LGBTQ+フレンドリーであることを前面に出すことで、他の人権侵害や不正を覆い隠す点だ。

ピンクウォッシュを避けるために企業や国ができること

ピンクウォッシュを避けるために企業や国ができること

では、ピンクウォッシュを避けるために企業や国ができることを確認しておこう。

透明性を確保する

LGBTQ+フレンドリー支援に取り組んでいると表明したり、レインボーグッズを売るだけでは、実態が見えてこない。例えば、LGBTQ+フレンドリーなグッズを販売し、売上の一部をNPOなどに寄付する場合、売上の何%をどこの団体に寄付するのかを明記し、ホームページに掲載するなど、透明性を確保する必要があるだろう。

企業内にも一貫性を持たせる

LGBTQ+フレンドリーな姿勢を打ち出す際に、企業内でもそのポリシーに一貫性を持たせる必要がある。例えば、企業の採用や昇進制度、福利厚生などでLGBTQ+の従業員を平等に扱うポリシーを定めたり、勉強会やハラスメント対策を行うことが重要だ。「そこまでは考えられない」という場合は、LGBTQ+フレンドリー企業とは言い難いため、LGBTQ+フレンドリーであるとアピールすることは難しいだろう。

コミュニティと連携する

LGBTQ+の当事者コミュニティや専門家と連携し、実際のニーズや課題に対応することは不可欠だ。LGBTQ+の当事者ではない人のみで何か施策を考えても、当事者が求めているものにはならない場合が多い。LGBTQ+フレンドリーであることを表明するならば、積極的に当事者と関わっていく必要があるだろう。

国や地域で態度を変えない

企業が本当にLGBTQ+フレンドリー企業になることを目指すのならば、LGBTQ+が差別を受けている国や地域でも同じ姿勢を貫くことが大切だ。展開する国ごとにLGBTQ+に関連する施策が大きく異なる場合は、単なるマーケティング利用だと判断されてしまう可能性がある。

ピンクウォッシュを見抜くためのヒント

私たちが、消費者や市民として、国や企業のピンクウォッシュを見抜くためのヒントを解説していく。

  • 具体的な行動を調べる
    言葉だけではなく、具体的な行動を取っているかどうかを確認することが大切だ。企業のHPなどで個別の取り組みを確認することで、より実態をつかむことができるだろう。
  • 企業内の取り組みをチェックする
    社内でダイバーシティ研修が行われているか、同性パートナーへの福利厚生は提供されているか、などを確認することで、企業の本気度を知ることができる。
  • 矛盾した行動を指摘する
    企業がプライド月間にLGBTQ+フレンドリーな姿勢を打ち出している一方で、LGBTQ+に対して差別的な言動を行っている党や政治家に献金している場合もある。そうした行動に対して疑問を持つことも、ピンクウォッシュを見抜く行動の一つといえるだろう。

まとめ 

ピンクウォッシュとは、LGBTQ+フレンドリーなイメージを打ち出すことで、他の問題を隠したり、マーケティング目的のみでLGBTQ+コミュニティを利用したりする行為のことだ。企業や政府が、実際には支援を行っていないにもかかわらず、表面的なアピールをする場合、ピンクウォッシュだと批判されることになる。

企業や政府は、単なるマーケティング戦略としてLGBTQ+支援を打ち出すのではなく、透明性を確保すること、一貫性を持つこと、そしてコミュニティと連携することで、真の支援者となることが求められているといえるだろう。

ピンクウォッシュを防ぐことは、LGBTQ+の権利向上だけでなく、社会全体の信頼性を向上させることにもつながるはずだ。私たち一人ひとりが、表面的なアピールに惑わされず、本質を見極める力を持つことが大切だろう。

参考サイト
プライド月間に考えたい「ピンクウォッシング」とは? | GQ JAPAN
ピンクウォッシュとは何か。日本にもある?「LGBTQ当事者が、イスラエルの虐殺に声を上げるのは自然なこと」と専門家【解説】 | ハフポスト NEWS
ピンクウォッシュ | Magazine for LGBTQ+Ally | PRIDE JAPAN

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k.fukuda
大学で国際コミュニケーション学を専攻。これまで世界60か国をバックパッカーとして旅してきた。多様な価値観や考え方に触れ、固定観念を持たないように心がけている。関心のあるテーマは、ウェルビーイング、地方創生、多様性、食。趣味は、旅、サッカー観戦、読書、ウクレレ。