水ストレスの原因と解決策とは?企業の具体的な取組もご紹介

水ストレスとは

水ストレスとは、人間や生態系が必要とする水需要に対する不足の度合いを指す言葉である。

水ストレスを評価するために広く用いられる指標が、「年間の取水量」を「年間の淡水資源量」で割った値である。年間の取水量は、ある特定の地域や施設が1年間にどれだけの水を取り出すかを示す指標のことで、年間の淡水資源量は、1年間に自然の循環によって供給される淡水の総量のこと。水ストレスの値が高いほど、地表水や地下水が枯渇して利用者間の競合が増し、環境と生態系の機能に影響が及ぶリスクが高まる。

水ストレスとは
内部資源に対する淡水の取水量の割合 出典:国連食糧農業機関

国連食糧農業機関(FAO)は、水ストレスを指標の値によって次のように分類している。

  • 25%未満…水ストレスなし
  • 25~50%…低ストレス
  • 50~75%…中ストレス
  • 75~100%…高ストレス
  • 100%を超える…重大なストレス

100%を超える場合、地下水が補充される速度を上回る量の水をくみ上げているか、大量の海水を淡水化して利用していることを意味する。水ストレスの指標は、水不足に陥っているか否かを示すものではないが、利用可能な淡水資源の限度までどのくらい余裕があるのかを示す目安となる。

国連食糧農業機関による2021年の報告によると、中東および北アフリカの数か国では、水ストレスのレベルが100%を超えている。逆に水ストレスがない地域は、カナダ、ラテンアメリカの大半、サハラ以南のアフリカ、オセアニアなどである。日本は米国や中国と同じく低ストレスとなっているが、隣国の韓国は高ストレスと評価されている。

水ストレス悪化の原因

水ストレスのリスクを高める原因となっているのは、世界人口の増加と、それにともなう工業用水・農業用水・生活用水など水需要の増加である。

世界の人口が増え、農業や工業、家庭での水需要が増加したことにより、2014年時点の世界の淡水の使用量は1900年に比べ約6倍となっている。特に、1950年代以降の急増が顕著で、2000年以降は横ばい傾向である。

さらに気候変動が水ストレスに影響を及ぼす。世界の水ストレス度変化と要因の分析によると、東アジアや南アジアの一部では水資源量が増え水ストレス度が低減する一方、中央アジアなどでは増大の可能性があるとされている。 

また、インダンス川流域は、2030年以降水資源量減少などにより水ストレスが増大し、その程度は温暖化レベルに依存するとのことだ。さらに、コロラド川流域は、温暖化に伴う水資源量減少により水ストレスが2050年頃まで増大すると分析されている。

水ストレスの軽減には、利用可能な淡水量に応じて水資源を利用する必要があり、年間降雨量の変動が大きい国では、特に水資源管理の重要性が増す。

安全な水へのアクセスの保障を目指すSDGs

国連の持続可能な開発目標(SDGs)では、目標6「安全な水とトイレを世界中に」として飲料水や衛生施設の改善や水資源の持続可能性の問題を取り上げている。

安全な飲料水と衛生へのアクセスは、人間の健康と福祉において基本的なニーズであり、重要な人権の一つである。しかし、世界では約20億の人々が未だに安全な飲料水へのアクセスができず、世界人口の40%が水不足の影響を受けている現状である。また、農業における需要だけで水使用の約70%を占めており、淡水への負荷は2050年までに40%以上増加すると予測され、水ストレスの悪化は避けられない。

安全な水やトイレの使用に向け、2023年3月にはニューヨーク国連本部において46年ぶりとなる水会議が開催され、世界各国の幅広い部門から約1万人が参加した。

国連水会議では、強制移住や気候変動、紛争に及ぼす影響を含めた水危機の緊急性から、健康や貧困削減、食料安全保障に至るまで広く議論が交わされた。この会議の成果である「水行動アジェンダ」には、「水危機にある世界」から「水が確保された世界」へと変革するための、700を超えるコミットメントが盛り込まれている。

日本政府も、アジア太平洋地域における水に関する社会的課題の解決に向け、今後5年間で約5,000億円の資金援助を行ない、質の高いインフラの整備に貢献すると発表した。今後も「水行動アジェンダ」のもと各国による具体的な取り組みが加速すると期待される。

企業による持続可能な水資源利用の取組事例

企業による持続可能な水資源利用の取組事例

企業の長期的な成長と社会的責任を果たすために、水資源の重要性を認識し、持続可能な利用と保全について公表している企業の例を紹介する。

いずれもグローバルに事業を展開する大企業だが、水利用の目標を定め無駄を防ぎ、水源地の保全に努めるという方法は共通している。

投資家たちが企業に投資する基準の一つとして重視されるCDPも、水セキュリティに関するスコアを公表している。企業は、世界の水需要と水資源の不足、水リスクについて理解し対応していくことが求められている。

キリンホールディングス株式会社

キリングループにとって水は、基本的な原料であるだけではなく、製造設備の洗浄などにも不可欠である。2014年以降、キリングループは科学的なツールを使って水ストレスを定期的・定量的に把握し、各事業所の水ストレスに応じた効率的な水利用を行っている。

今後、単に節水だけではなく流域全体の自然資本に及ぼす影響について把握するとともに、影響を低減できる目標設定に向けてステークホルダーとともに取り組む計画である。

■主な取組

  • スリランカの紅茶農園内で累計22か所の水源地を保全し、水源地の近隣の住民約1万5千人を対象に水の重要性や保全に関するパンフレットを配布し意識向上に貢献
  • 今後、土砂の流出を防いで水源地の水質を確保し、生物多様性を向上させるため、地域固有の在来種を植林する予定
  • 工場設備や配管の洗浄・殺菌工程において水の無駄を防ぐために、洗浄できたことを確認できる体制・仕組みを整えるとともに、流量・流速を厳密に管理
  • 使用後の水は法律が求める以上の自主基準を設定して浄化し、水生生物生態系へ配慮し海洋や河川、下水道に放流
  • 国内の水源の森活動による生物多様性の保全や、雨や川の水を地面にしみこませて地下の水を増やす地下水かん養などの取り組みを継続

伊藤忠商事株式会社

伊藤忠商事は、水ストレスの高い地域を含む世界各地で事業を展開している。水資源の保全・有効活用については、環境方針において 「水の効率的な使用やリサイクルを通じた水の使用量削減、水の適切な処理に努める」と定めている。

持続可能な水の利用のために、企業文化の中で意識を高め、ビジネス上の意思決定の判断に水の持続可能性を含めるとしている。既存事業では水利用について包括的に評価し、水資源の利用効率の改善、使用量の削減に取り組んでいる。

また、水関連ビジネスを重点分野と位置付け、海水淡水化事業や水処理事業など、世界各地の水問題の解決への貢献を目指している。

■主な取組

  • 水の使用量削減に関し、目標数値を設定
  • 水インフラや衛生環境の整備、水・廃棄物の適切な処理及び有効利用を通じて、衛生環境の向上、経済活動の発展、及び地球環境保全に寄与
  • 東京本社ビルでは、水資源を有効利用するためにビルの設計段階から水管理計画を取り入れ、1980年の竣工時より雑排水を原水とする中水製造設備を設置し、トイレの洗浄水に利用
  • 雨量によって中水の確保量に毎年変化が生じるため、上水使用量抑制の自動節水機を設置するなど、水資源を有効活用
  • オマーン北部のバルカ地域における水の安定供給に向けて、逆浸透膜(RO膜)方式の海水淡水化設備と周辺設備の建設及び20年間にわたる運営を担う海水淡水化事業契約を締結

スターバックスコーヒー

スターバックスコーヒーは、2030年までに水使用量を50%削減することを環境目標のなかで掲げている。

従来、コーヒーの加工には多くの水を必要としてきた。しかし、環境に配慮した機械を加工過程に使用することなどにより節水を実現でき、品質を標準化し加工効率を高めることが可能となっている。

■主な取組

  • グアテマラ、メキシコ、ペルー、ケニア、ルワンダの認定コーヒー農園に、約600台のエコミル(果肉除去機)を配布し、果肉と生豆を分ける工程において、従来の水洗式くらべ最大80%の節水が実現
  • スターバックス本社のトライアー・センター(Tryer Center)にて、サプライヤーとともに水処理技術・機械の改善について検討し、ファーマーサポートセンターにて機械のデザインや操作性について生産者の声を収集
  • 生産者に対し、水使用とCO2排出量を削減する設備や施設、気候変動に対応できるコーヒーの苗と実践的なサポートを提供するプロジェクトを開始
  • 環境配慮型店舗の国際認証 Greener Stores Framework を取得したグリーナーストアにおいて、節水器具の採用とオペレーションにより水の使用量を削減
  • 国連グローバル・コンパクトによる水資源問題のグローバルプラットフォーム CEO Water Mandate および他の先進企業と協働するための水レジリエンス・イニシアチブ Water Resilience Coalition に参加

まとめ

日本の年間平均降水量は世界平均を大きく上回るが、人口1人当たりの降水総量と潜在的な水資源量は世界平均を大きく下回っている。

日本の年間降水量約6,600億㎥のうち、約3分の1は蒸発散で利用できない。また、日本は急峻な地形で河川が短いため、残りの水資源もほとんど使われることなく海へと流れ出てしまう。その結果、利用可能な水は降水量の約1割にすぎない。

生活や産業活動にともない水利用が増加する一方で、舗装による雨水の地下浸透の低下や水源林の荒廃により、地下水のかん養機能の低下が危惧されている。

そのため水資源の持続可能な利用を迫られているのは、日本も例外ではない。私たち一人ひとりが日常生活の身近なところから節水を心がけ、漫然とした利用を見直すことが必要だろう。

参考記事
水資源問題の原因 |国土交通省
3.4 水ストレスの試算|経済社会総合研究所
歴史的な国連水会議、世界的な水危機と水の確保に対処する分岐点となり、閉幕(2023年3月24日付プレスリリース・日本語訳) | 国連広報センター
水資源の取り組み | 環境 | キリンホールディングス
水資源の保全|伊藤忠商事株式会社
スターバックスが掲げるコーヒーに関する環境目標|スターバックス
飲み水はどこから?使った水はどこへ? 暮らしを支える「水の循環」 | 政府広報オンライン

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