
ケミカルリサイクルとは
ケミカルリサイクル(chemical recycle)は、使用済みの化学製品を再度資源として利活用することで、化石資源の採掘と廃棄物からの炭素排出を削減できる技術である。直訳すると「化学的に再生利用する」という意味だ。化学工業は石油・天然ガスなどの化石資源の使用と深く関わっており、地球温暖化対策の一つとして、化学産業でのリサイクルが注目されている。
我々の身の回りには石油・石炭を材料とし化学反応させて製造されるプラスチック・ゴム・塗料・繊維・化粧品・医薬品などの化学製品があふれている。これらを使用した後に焼却すると、化石資源に由来する二酸化炭素が排出され大気中の温室効果ガスを増加させてしまう。「2050年カーボンニュートラル」を目指す今日において、廃棄物の再生利用と化石資源からの脱却による二酸化炭素の排出削減は不可欠とされる。
廃プラスチックの再生利用

ケミカルリサイクルのなかでも我々の生活と関わりが深いのが、廃プラスチックの再生利用である。プラスチックは加工がしやすく安価であることから、社会のさまざま場面で使用されており、廃棄物の量も当然多い。
環境省によると、2009年の調査では一般廃棄物全体に占めるプラスチックの割合はおよそ4割であった。従来のプラスチックの製造から廃棄までのプロセスは次のようなものだ。
1. ナフサの精製
油田から採掘された原油をタンカーで製油所に運び、不純物を取り除く。原油に含まれる成分の沸点の差を利用して蒸留し、LPガス・ナフサ・ガソリン・灯油・軽油・重油など複数の石油製品に分ける。
2. 石油化学基礎製品の製造
ガソリンに似た透明な液体であるナフサを熱分解して蒸留を繰り返し、エチレン・プロピレンなど分子量の小さい石油化学基礎製品(モノマー)を作る。
3. 分子の重合
石油化学基礎製品の分子同士を化学反応により結合させ、高分子化合物(ポリマー)を製造する。エチレンからポリエチレン、プロピレンからポリプロピレンなどの石油化学誘導品が作られ、これらがプラスチックの原料となる。
4. ペレット化・製品の製造
石油化学誘導品を粒状のペレットにして運搬・加工し、製品の材料とする。石油化学誘導品は用途に応じて製品に加工され、社会のさまざまな場面で使用される。
5. 廃棄
使用後に廃棄となったプラスチックの内訳では、包装・容器類と電気・電子機器関連のものが多い。
6. 焼却
プラスチックは水素と炭素による高分子化合物であるため、単純焼却すると水と二酸化炭素、熱が発生する。このうち二酸化炭素は主要な温室効果ガスであり、2050年までに実質的な排出をゼロにすることが世界共通の目標となっている。
この工程で「5.廃棄」で生じた廃棄物を「6.焼却」ではなく「1.ナフサの精製」「2.石油化学基礎製品の製造」の段階に戻すことにより、再生利用が可能となる。
リサイクル技術の種類
廃プラスチックの再生利用には、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクル(エネルギー回収)の3つがある。
●マテリアルリサイクル
飲料や洗剤などの使用済み容器を再度同じ容器に作り変えるというように、廃棄物を廃棄前と同じ製品の原材料として再生利用する。製品を原油から製造する場合に比べて、二酸化炭素排出量は削減される。
ただし、マテリアルリサイクルは、種類が異なるプラスチックが混ざっているものや、匂い・色素・異物が付着している場合には不向きである。また、同じ製品を作るには品質が劣ってしまう場合には、品質レベルを一段下げた製品の原材料とし、これをカスケードリサイクルという。
●ケミカルリサイクル
廃プラスチックを化学的に処理し、モノマー化や油化、ガス化することで、再び新たな製品の原料とする。詳細については、後述する。
●サーマルリサイクル
廃プラスチックを固形燃料としたり、既存の焼却施設を使用して排熱やガスを回収する方法。
技術的に再生利用困難なものや分別コストが高いものは、焼却により熱エネルギーを回収しリサイクルとみなしている。発電・暖房・温水プールなどへの焼却熱の活用が例として挙げられる。
一般社団法人プラスチック循環利用協会の報告によると、2021年度のプラスチックの廃棄量は824万t、有効利用率87%であり、残りは単純焼却または埋め立てとなっている。有効利用されたものの内訳は、マテリアルリサイクル21%、ケミカルリサイクル4%、サーマルリサイクル(エネルギー回収)62%であり、ケミカルリサイクルの割合はわずかである。
しかし、ケミカルリサイクルにより、0.877kgのアンモニアを製造する場合の例では、天然資源から同量を製造する場合に比べ、2.11㎏のCO2削減が可能であるとの試算もある。ケミカルリサイクルは、資源循環や化石資源依存からの脱却につながる技術であり、循環型社会の実現には不可欠といえるだろう。
ケミカルリサイクルの種類
廃棄物に由来するプラスチックを化学的に再生利用する方法として、以下に代表的な4つの技術をご紹介する。
●コークス炉化学原料化
製鉄の過程で還元剤として、廃プラスチックを石炭の代わりに使用する技術。高温下でプラスチックが分解されると炭化水素油やガスとなり、カーボン残渣がコークスとして回収され、鉄鉱石から鉄を取り出すための還元材となる。
●原料化・モノマー化
化学反応によって合成樹脂の重合を解消し、原料やモノマーに戻す方法。再度重合すれば、元のプラスチック製品を作ることができる。
●油化
廃棄となったプラスチック中に含まれる異物を除去し、破砕・脱塩素・熱分解の過程を経て、原油由来のナフサと同じ炭化水素油が精製される。
廃棄物に由来する炭化水素油は、エチレン・プロピレンといった石油化学基礎製品の原料や燃料となる。製品の原材料として再生利用する場合、化石資源由来の原料と混合して処理されるのが主流である。
●ガス化
細かくして固形化した廃プラスチックを、低温と高温の2段階で蒸気により熱分解し、部分的に酸素により酸化することで、水素や一酸化炭素などの合成ガスを生成する。
ダイオキシンなど有害物質を合成することなく、製品の原料として適切な品質にまで精製できる。合成ガスから作られるメタノールは化学原料や燃料に、アンモニアは薬品に、水素は燃料電池などに使用される。
以上4つの方法に共通するのは、廃プラスチックを高温により分解し、合成ガスや分解油などの状態に精製して再生利用する点である。したがって、種類が異なるプラスチックが混在してもリサイクルが可能であり、石油由来の新品に近い高品質の製品を安定的に生産できる点も強みといえる。
ケミカルリサイクルの課題
有効活用される廃棄物のなかで、ケミカルリサイクルが占める割合が小さいという事実が示すように、廃棄物の化学的な再生利用技術はいくつかの課題を抱えている。
まず、高温・高圧などの条件下で処理する専用の再生プラントが必要であり、新設には時間とコストがかかる点だ。また、リサイクルの過程で大きなエネルギーを消費するため運用コストが大きく、二酸化炭素を発生させることもデメリットである。
また、プラスチックの耐久性を高めるために添加されている化学物質の処理が必要だが、技術の蓄積は十分でない。さらに、原料となる廃プラスチックを安定的に確保しなければならず、再生プラントまで運ぶ輸送コストも無視できない。
一方、大手企業は自社製品や包装材における再生材の使用について、野心的な目標値を掲げており、ケミカルリサイクルへの期待も大きい。今後、投資拡大や技術の蓄積による課題の克服が望まれる。
ケミカルリサイクルをめぐる国内外の動向
国内では、化学産業において従来の石油・石炭から、廃棄物由来の原料へと転換する必要性が認識されている。政府は、2050年カーボンニュートラル目標に向け創設されたグリーンイノベーション基金により、廃棄物からの化学品製造技術の開発を支援している。ENEOSと三菱ケミカルは、茨城県鹿島市にアジアで最初の大規模な熱分解油工場を建設中で、2024 年に完成予定だ。
欧州においては、脱炭素に関する施策が進んでおり、欧州委員会によるプラスチックに関する規制も検討されている。例えば、自動車向けのプラスチックは25%以上を再生材とし、包装材は全て再生利用可能なものとして再生材の使用率を品目ごとに設定するなどの動きである。
そのような潮流をうけ、2030年までにケミカルリサイクルへの投資額は70億ユーロを超えると見込まれ、企業や研究機関が実証プラントの建設・開発を進めている。オランダでは、熱分解油技術のベンチャー企業Prymeが、2023年に処理能力年間 4 万トンの工場を稼働させた。
まとめ
2050年カーボンニュートラルにむけ、化石資源の使用削減と循環型社会の構築が不可欠であり、廃棄物として4割を占めるプラスチックの再生利用は重要である。
ケミカルリサイクルには克服すべき課題が多いが、対象製品の特質を踏まえ他のリサイクル技術と組み合わせて取り入れることで、実質的に脱炭素を推進していくのが理想的だろう。
Edited by k.fukuda
参考サイト
資源循環型社会に向けた化学産業の取り組み|一般社団法人日本化学工業協会
真の循環社会確立に向けた 化学産業界の取り組み|一般社団法人日本化学工業協会
化学産業のカーボンニュートラルに向けた 国内外の動向|経済産業省
廃プラスチックを原料とするケミカルリサイクル技術の開発 CO2等を原料とする、アルコール類|住友化学
2022年12月掲載 2021年廃プラスチック総排出量は824万t、有効利用率は87% プラスチック製品の生産・廃棄・再生利用・処理処分の状況(マテリアルフロー図)を公表|一般社団法人プラスチック循環利用協会
プラスチック製容器包装再商品化手法およびエネルギーリカバリーの 環境負荷評価(LCA)|一般社団法人プラスチック循環利用協会
ENEOSと三菱ケミカル共同のプラスチック油化事業実施について ~国内最大規模のプラス






















曽我部 倫子
大学で環境問題について広く学び、行政やNPOにて業務経験を積むなかで環境教育に長く携わる。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、未就学児や保護者を対象に自然体験を提供。またWebライターとして、環境、サステナブル、エシカル、GXなどのテーマを中心に執筆している。三姉妹の母。
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