デカップリングとは?経済成長と環境保護を両立させるために必要なこと

デカップリングとは?経済成長と環境保護を両立させるために必要なこと

デカップリングとは

デカップリングという言葉は、英語では「decoupling」と表し、基本的には「切り離す」「分離する」という意味をもつ。元々は物理学や工学の分野で使われており、例えば機械の部品や電気回路の連動を解消することを指す。しかし、その概念は広がりを見せ、現代では経済・環境・農業などさまざまな分野で使われるようになった。

経済分野ではある国の経済が他の国の経済から独立して動くことを「デカップリング」と呼び、特定の経済圏の影響を受けずに独自の経済活動が行えるという意味が込められている。

また、環境分野においては、経済成長と環境負荷の関係を切り離すことを指す。これは、経済活動が環境に悪影響を及ぼさずに持続可能な形で行われるべきだという考え方から来ている。このように、「デカップリング」は単なる技術的な用語に留まらず、広範な社会的・経済的文脈においても重要な概念となっている。

デリスキングとの違い

デリスキングはリスクを最小化することを目的としており、語源は「de-」(否定の接頭辞)と「risk」(リスク)から来ている。ビジネスや金融の分野では、投資リスクを減らすための具体的な手段や戦略を指す。ポートフォリオの分散や規制遵守の徹底などがその例だ。

両者は、どちらも何かから独立することを意味する点では共通するが、デカップリングは関係性の解消に焦点を置き、デリスキングは具体的なリスクを排除または軽減することで安全性を高めることに重点を置いている。

デカップリングにおける3つの定義

デカップリングは「物事を切り離す」という意味を持つ言葉であるが、何と何を切り離すかは、専門分野によって異なる。ここでは、3つの分野における、デカップリングのそれぞれの定義を解説する。

経済・金融分野

経済・金融分野におけるデカップリングは、基本的に「世界経済」と「米国経済」が連動しなくなる現象を指す。歴史的にアメリカは戦後の世界経済をリードしてきたが、最近では中国など新興国や欧州連合(EU)の存在感が増している。このような状況で、米国経済の影響力が相対的に小さくなり、結果としてデカップリングが起こっているとされる。

しかし、2007年~2009年にアメリカで発生した「サブプライム問題」では、金融機関が信用力の低い人々に住宅ローンの過剰貸し付けを行ったために資金を回収できなくなり、アメリカ国内の経済が大きな混乱に陥ったが、これが他国にも波及し、世界的な金融危機となった。このことからも分かるように、完全にデカップリングが実現されているわけではなく、依然として米国経済の動向が世界経済に影響を与えることは少なくない。

しかしながら、今後新興国の経済がさらに成長し、グローバルな経済構造が変わるにつれて、デカップリングの傾向が強まる可能性がある。ただ、背景には各国の経済政策や市場の動向、技術革新など複雑な要因が絡み合っているため、単純に一つの要因だけで説明することは難しい。

農業分野

農業分野におけるデカップリングは、「生産」と「所得」の関係を切り離すことを意味する。従来の農業政策では、農産物の価格を一定に保つことで生産意欲を高め、その結果として農家の所得も増えるという仕組みだった。しかし、この方法は生産過剰を引き起こし、市場の公平性を損なうことがあった。

デカップリング政策では、生産量に関係なく農家に直接的な所得補償を行うことで、市場の需給関係に柔軟に対応しつつ安定した所得を保障する。これにより、生産過剰や価格変動のリスクを回避できる。また、安定した所得により農家は長期的な経営が可能となり、環境負荷の軽減や資源の有効利用にもつながる。

環境分野

環境分野におけるデカップリングは、主に「経済成長」と「天然資源の利用」や「環境への影響」を切り離すことを意味する。20世紀の急激な経済成長は、天然資源の大量消費や環境への負荷を伴っていた。しかし、持続可能な社会を実現するためには、経済活動が資源消費や環境への影響と必ずしも連動しないようにする必要がある。

これを実現するためには、技術革新や社会の変革が求められている。具体的には、リサイクルや再利用の推進・エネルギー効率の向上・再生可能エネルギーの導入などが重要となる。

国や自治体、企業の取り組みが不可欠であるが、個人レベルでの行動も重要だ。例えば、リサイクル製品の利用やエコカーの購入、エネルギー消費の削減などが挙げられる。これにより、環境への負荷を軽減しつつ経済成長を目指すことが可能となる。

デカップリングが注目される背景

デカップリングが注目される背景

デカップリングにはさまざまな定義があるが、環境分野において特に注目されている。その背景には、持続可能な経済成長と環境保護の両立が求められている現代の課題がある。

これまで、経済成長とエネルギー消費は比例関係にあるとされ、企業活動の活発化や生活の豊かさが増すほど、エネルギーの消費量も増加すると考えられていた。しかし近年は、限りある資源の消費を抑えつつ、経済成長を続けることが求められるようになった。これに対応するために提唱されたのがデカップリングの概念である。

例えば、ドイツでは再生可能エネルギーの導入や「コージェネレーションシステム」と呼ばれる、天然ガスや石油などの燃料を使って発電する際に発生する熱を回収して利用するシステムの構築、住宅の断熱化などを進めることで、経済成長と同時にエネルギー消費と温室効果ガスの削減を実現している。

日本においても、省エネ技術の向上や再生可能エネルギーの利用拡大が進み、デカップリングの動きが見られる。デカップリングの実現は、経済成長の持続性を保ちつつ、環境への負荷を減少させることが可能であり、省エネルギーや再生可能エネルギーを軸に新しいエネルギー社会を構築する「グリーンエネルギー革命」の一端を担うものである。長期的に持続可能な社会の構築が期待されているのだ。

日本の経済成長とエネルギー効率

日本の経済成長とエネルギー効率の関係は複雑だ。高度経済成長期の日本では、最終エネルギー消費がGDPの成長を上回るペースで増加した。しかし、1970年代の二度の石油危機を契機に省エネルギー化が進み、省エネ型製品の開発も行われた。これにより、エネルギー消費を抑えながらも経済成長を実現できた。

1990年代には原油価格の低迷で家庭や業務部門のエネルギー消費が増加したが、2000年代半ば以降は再び原油価格が上昇し、エネルギー消費は減少傾向に転じた。

2011年の東日本大震災以降、節電意識の高まりによりエネルギー消費はさらに減少。2020年度にはCOVID-19の影響もあり、最終エネルギー消費は実質GDPの減少よりもさらに減少した。部門別に見ると、製造業を中心に省エネが進んだ一方で、家庭や運輸部門ではエネルギー利用機器や自動車の普及によりエネルギー消費が増加した。

日本のエネルギー効率は1973年度の70PJ/兆円から2020年度には34PJ/兆円に改善し、世界的にも高い水準にある。日本は限られたエネルギー資源を効率的に活用しつつ、持続可能な経済成長を実現していると言える。

世界におけるデカップリングの現状

世界におけるデカップリングの現状は、地域や国ごとに異なるものの、全体的に見ると持続可能な発展を目指す動きが強まっている。特に、欧州諸国では再生可能エネルギーの導入が進み、経済成長と環境負荷の分離が進むなど政策的な支援と技術革新が相まって、経済と環境のバランスを保つ取り組みが進んでいる。

一方、アジアやアフリカの新興国では、経済成長が急速に進む中で、エネルギー消費も増加している。しかし、これらの地域でもデカップリングを目指す動きは見られ、再生可能エネルギーの導入や省エネルギー技術の開発が進行中だ。例えば、中国は大規模な再生可能エネルギーのプロジェクトを推進し、石炭依存からの脱却を図っている。

アメリカでも、連邦政府や州政府レベルでの取り組みが見られ、カリフォルニア州などは積極的に再生可能エネルギーの導入を進めている。経済成長と環境保護の両立を実現する努力が続けられているのだ。

デカップリングに向けた取り組み

経済成長と環境保護を両立させるために

デカップリングに向けて、世界ではさまざまな取り組みが行われている。ここでは、代表的な3つの取り組みを解説する。

ネットゼロ

ネットゼロとは、温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにすることを目指す概念だ。ゼロカーボンとも呼ばれ、排出量を削減すると同時に、森林の拡大や技術的な手段で二酸化炭素を吸収することで達成される。各国がこの目標を掲げ、政策や技術革新を推進している。

ネットゼロの実現には、再生可能エネルギーの導入、エネルギー効率の向上、そして持続可能な社会の構築が必要だ。これらの取り組みは、気候変動の抑制と持続可能な発展に不可欠である。

サーキュラーエコノミー

サーキュラーエコノミーは、資源を無駄にせず循環させる経済の仕組みだ。従来の「使い捨て」モデルから脱却し、製品の修理・リユース・リサイクルを重視する。これにより、廃棄物を削減し、資源の効率的利用を図る。デカップリングの一環として、サーキュラーエコノミーは持続可能な社会の実現を目指しており、経済成長と環境保護の両立に貢献している。

ESG投資

ESG投資は、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の要素を考慮した投資手法である。企業の持続可能性や社会的責任を評価し、投資先を選定することが特徴だ。長期的なリターンを確保しつつ、環境保護や社会貢献を促進する。ESG投資は、気候変動対策や人権問題の解決に向けた重要な役割を果たしている。投資家にとってもリスク管理の一環として注目されている。

ドイツの事例

経済成長と環境保護を両立させるためには、再生可能エネルギーの導入が鍵となる。例えばドイツでは、風力発電や太陽光発電の利用が進められている。

特に、北部では風力発電が盛んで、南部のバイエルン州では太陽光発電が普及しており、CO2排出削減に大きく貢献している。また、新しい建物には太陽光発電パネルの設置が義務付けられており、再生可能エネルギーの割合を2035年までにほぼ100%にすることを目指している。

このような政策や技術の進展により、ドイツでは経済成長と環境負荷の軽減を両立させる取り組みが進んでいる。エネルギー効率の向上や省エネ技術の導入も重要であり、社会が持続的に発展していくために必要不可欠な要素である。

私たちにできること

デカップリングが進まないと、経済成長が環境への負荷を増大させ、持続可能な発展が困難になる。温室効果ガスの排出が増え、気候変動の影響が深刻化する可能性も考えられる。

異常気象の頻発や生態系の破壊が進み、人々の生活にも大きな影響を与える。また、資源の枯渇や環境汚染が進行することで、将来的に経済活動が停滞し、社会全体の安定が脅かされる可能性もある。

私たちができることとして、家庭での省エネや再生可能エネルギーの利用、リサイクルの推進が挙げられる。個人レベルで環境負荷を軽減し、持続可能な社会の実現に貢献できる。デカップリングを進めるためには、社会全体での取り組みが不可欠であり、一人ひとりの行動が未来を変える力となる。

まとめ

これまで、経済成長と環境汚染は相関関係にあった。つまり、私たちが”豊かさ”を求め経済の発展を目指すことは、同時に、空気を濁し、森を破壊し、海を汚すことにつながっていた。しかし現在、環境汚染が深刻化し、地球の存亡に警鐘が鳴らされている。そのため、人類がますますの発展を望むのであれば、「経済」と「環境」の関係を切り離す必要があるのだ。

一方で「脱成長」というキーワードも登場するなか、私たちはどのように「豊かさ」を追及するべきなのか。いま一度、立ち止まって考えていかなければいけないだろう。

参考サイト

デカップリングとは何か? − 始めよう!”グリーンエネルギーの社会”|内閣官房

循環・廃棄物の豆知識 デカップリング:○○と●●を切り離す|資源循環・廃棄物研究センター
平成24年版「環境・循環型社会・生物多様性白書」第3節 社会経済活動と環境負荷|環境省
なぜドイツは経済成長と環境保護を両立できるのか?|日経ビジネス

About the Writer
丸山瑞季

丸山 瑞季

大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。この人が書いた記事の一覧

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