MSC認証とは
MSC認証は、商品に使用されている水産物が、サステナブルな方法の漁業で水揚げされたことを示す環境ラベルである。この認証制度は、1997年にロンドンで設立された国際的なNPO「Marine Stewardship Council(海洋管理協議会)」によって運営されている。
水産資源の枯渇を防ぎ、将来の世代までが海の恵みを享受できるようにするには、漁業の方法や時期、漁獲量などを適切に管理し、海の生態系を守っていくことが不可欠だ。しかし、世界の海では、将来的にも長く継続できる方法で漁獲された水産物の割合は、残念ながら減少傾向にある。
MSC認証は、将来にわたり水産資源を守るためにMSCによって定められた基準をクリアした企業だけに与えられる。また、漁業だけでなく、水産物の製造・加工・流通・販売まで一貫して、認証を取得した企業が管理する仕組みとなっている。
つまり、MSC認証は、サステナブルな方法で漁獲された商品を、確実に消費者の手に届けることができる枠組みなのである。つまり、海の豊かさを守りつつ、消費者のエシカル消費を後押しできる。
MSC認証が求められる理由
MSCが必要とされている背景には、過剰な漁業と地球温暖化の影響による水産資源の枯渇がある。
国連の推計では、世界人口は2050年までに96億人に達する見込みであり、食糧確保の面からも水産資源への圧力はより一層高まると予想される。国連食糧農業機関(FAO)の報告によると、適正レベル以下で利用されている水産資源の割合は、1974年には90%だったのが2019年には65%まで低下した。反対に、過剰に漁獲されている状態の資源の割合は、10%から35%まで上昇している。
さらに、地球温暖化の影響による海水温の上昇や海流の変化にともない、魚類の個体群が極地や深い海に移動し、分布域の拡大や縮小が起きている。日本近海においても、利用可能な天然資源が将来的に減ってしまう可能性は否定できない。
一方、海・川・湖からの資源は、栄養価が高いため、増加する世界人口に食料を供給する鍵となるという見方もある。農畜産物を生産する場合には土地・水・肥料・殺虫剤が必要だが、天然魚介類の漁獲にはそれらの資源は不要であるからだ。
また、地球温暖化対策の視点では、天然漁業の漁獲量1kgあたりのCO2排出量は1〜5kgであり、赤身肉1kgを生産する場合のCO2排出量50〜750㎏に比べて格段に少ない。
以上のことから、地球環境と海洋の生態系を守りながら、将来的にも継続的に利用し続けられる水産物の生産を普及させることの重要性が増している。
MSC認証の仕組み

MSC認証には、漁業に対する「MSC漁業認証」と、水産物の水揚げから先のサプライチェーンに対する「MSC CoC認証」の2種類がある。
- MSC漁業認証
環境に配慮したサステナブルな天然漁業に対する認証 - MSC CoC(Chain of Custody)認証
MSC漁業認証を受けた漁業によって水揚げされた認証水産物と、それ以外の水産物を区別して管理し、消費者に認証水産物を確実に届けることを目的とした認証
製品にMSC認証のラベルを表示するには、 漁業者だけでなく加工業者・卸売業者・レストランなど、サプライチェーンに関わる事業者それぞれがMSC CoC認証を取得する必要がある。
審査を行うのは、独立した第三者認証機関ある。認証取得後、企業は定期的に監査を受け、有効期間は最大5年であるため、継続するには再審査を受けなければならない。日本においては、MSCジャパンがMSC認証や認証を受けた水産物の普及を担っており、認証取得に関わる資金援助についての情報も提供している。
このようにMSC認証は、水揚げから店頭での販売まで、認証水産物が他の商品と混ざらずに管理される体制であることを保証するため、信頼性の高い制度といえる。
MSC認証の基準
MSC認証の基準となるのは、各方面のステークホルダーとMSCの協議によって策定されたMSC漁業認証規格である。この規格は、国連食糧農業機関(FAO)の「水産物エコラベルのガイドライン」をはじめとする国際的な基準を満たしている。
審査は、次に示すMSC漁業認証規格の原則に基づいて行われ、各原則について100点満点中平均で80点以上を満たすことが求められる。
【漁業認証の原則】
- 資源の持続可能性:
過剰な漁獲を避け、資源を枯渇させない。枯渇してしまった資源について、回復させる方法で漁業を行う。 - 漁業が生態系に与える影響:
漁業を支えている生態系の構造、多様性、生産力などを維持できる方法で漁業を行う。 - 漁業の管理システム:
国、地域のほか国際的なルールに沿った管理システムを用いる。サステナブルな資源利用を行うための制度や体制を整備している。
【CoC認証の原則】
- 認証製品は、認証取得サプライヤーから購入する。
- 認証製品であることが識別できる。
- 認証製品は分別される。
- 認証製品は追跡可能であり、数量が記録される。
- 事業者の管理システムは、本規格の要求事項に対応する。
- CoC認証グループ向けバージョンに適用される追加要求事項について対応する。
マグロ・カツオ類、白身魚などの幅広い魚種と海域を対象とした調査によると、MSC認証を受けた事業者が対象とする水産資源は、乱獲の可能性が低く、資源量が豊富であることが明らかになった。
このことからも、厳格な審査によりMSC認証を取得した漁業が、サステナブルな資源量管理に貢献していることがうかがえる。
日本でも広まりつつあるMSC認証
2024年3月現在、国内で漁業認証を受けた日本の漁業は26件、CoC認証を認められた事業者は約370にのぼる。
MSC認証を受けた漁業の内容は、カツオ・マグロを対象とした一本釣り漁業・はえ縄漁業・まき網漁業、ホタテガイやカキの垂下式漁・桁網漁業などである。中には、同業の2社が共同で審査を受け、認証を獲得した例もある。
漁業大国であり、世界でも主要な水産物市場となっている日本には、将来にわたり水産資源と海の生物多様性を保全していく責任があるだろう。
下記で、国内におけるMSC認証をめぐる動向についてご紹介する。
「海のエコラベル」が表示された商品

MSC認証の商品には、青地に白の魚がデザインされた「海のエコラベル」が表示されている。このラベルにより、消費者は海の環境に配慮した商品を視覚的に分かりやすく識別することができる。
2020年度以降、日本で販売された「海のエコラベル」つきの品目の数は30%増加し、700品目を超えた。 2023年度に国内で消費者に対し販売された「海のエコラベル」が付いた製品の重量は、約2万tになるという。商品の例は、簡単に食卓に出せるレトルトの総菜をはじめ、漬け魚・干物・刺身・練り物など多岐にわたっている。
MSC認証取得には審査費用や維持コストがかかるが、メバチ刺身商品を対象にしたアンケート調査によると、MSC認証の商品は認証のない商品に比べ13円高く評価された。これは、「資源のサステナブル性のためには商品を高く買ってもよい」と消費者が考えていることを示唆している。
企業にとっては、消費者の商品選択と企業イメージの向上により、認証取得のためのコストを上回るメリットを得られる可能性がある。
MSC認証の普及に貢献する企業
日本では、イオン株式会社と日本生活協同組合連合会がMSCラベル付き製品の市場を牽引している。
また、セブン &アイ・ホールディングスは、プライベートブランドでMSCラベル付き商品を順次増やしているほか、グループ小売企業を対象にCoC認証を取得した。大手水産会社のニッスイもMSCラベル付き製品数と販売重量を増やしている。
2024年に初めて開催された「MSCジャパン・アワード2024」では、小売り部門にイオン、メーカー部門にニッスイ、フードサービス部門に日本マクドナルドが選ばれた。選定されたこれらの企業は、3部門それぞれにおいて2023年度に消費者向けラベル付き製品の販売重量が最も多かった事業者である。大手企業が率先してMSC認証の商品を扱うことで、今後消費者の認知度が高まっていくと考えられる。
MSC認証とASC認証の違い
水産資源に関するエコラベルには、MSC認証のほかにAquaculture Stewardship Council(水産養殖管理協議会)が運営するASC認証がある。MSC認証が天然の水産物を対象としているのに対し、ASC認証は養殖による水産物を対象としている。
世界的に見ると、中国・インドネシアなどを中心に、養殖業生産量は1990年代以降急激に伸びており、適切な管理が必要となっている。国内では、外食産業や海外向けの輸出で需要の多いブリ・マダイ・ホタテガイ等の生産において、養殖業は重要である。
サステナブルな漁業を目指すためには、MSC・ASCといったエコラベルの普及が不可欠であり、水産庁もエコラベル普及推進や認証取得の支援に力を入れている。
まとめ
長期的な視点から、自らの事業の安定成長と社会貢献を目指す先進的な漁業者や企業が、コストや労力をいとわずMSC認証を取得している。私たち消費者は、エコラベル付き商品を選んで購入することで、このようなサステナブルな漁業と商品の流通を支える事業者を応援することができる。
MSC認証の商品が店頭に無い小売店などに対して取り扱いを要望することも、MSC認証を普及する有効な方法の一つであろう。サステナブルな漁業と水産物の生産を消費者の立場から支持することは、日常の食生活、ひいては日本食という文化を維持していくためにも重要だ。身近なところから、MSC認証商品をチェックしてみてはいかがだろうか。
参考記事
令和5年度水産白書|水産庁
水産エコラベルをめぐる状況について|水産庁
(1)漁業・養殖業の国内生産の動向|水産庁
令和4年度以降の我が国水産の動向|水産庁
漁業認証規格 | Marine Stewardship Council
MSC年次報告書 2022年度
環境ラベル等データベース_MSC認証制度
MSC認証|コープ商品サイト
海を守るためのエコラベル~サステナブル・シーフードを知る~|WWFジャパン
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