
ミサンドリーとは・意味
ミサンドリー(Misandry)とは、ギリシャ語の〝憎悪(mísos)〟と〝男(andrós)〟からできた言葉で、「男性蔑視」「男性差別」などと訳される。「男が嫌い」という男性への嫌悪感から発展した男性に対する差別的な発言や行動、あるいはそれらを含めた概念を指す。
ジェンダーバイアスによる「男性」や「男らしさ」への偏見が根底にあり、「男というものは◯◯である」という固定観念からミサンドリーが生まれる。もちろん女性だけではなく、男性が男性に対して抱くこともある。
反対に、女性への嫌悪感から女性を差別することを「ミソジニー(Misogyny)」という。こちらもギリシャ語の〝憎悪(mísos)〟と〝女(gunḗ)〟からできている。新しい概念のように思えるが、ミサンドリストという言葉は1871年に発行された雑誌の中で、初めて使われたとされる。
対義語|ミサンドリーとミソジニー
男性蔑視を表すミサンドリーと女性蔑視を表すミソジニーは対の言葉となっているが、ミソジニーに比べてミサンドリーはあまり浸透していない。日本は長く男尊女卑国と言われてきたが、世界的に見ても性差による不平等が存在し、女性の方が社会から抑圧されてきた歴史があるからだ。ミサンドリーは、長く差別的に扱われてきた女性が男性に嫌悪感を抱くことで生まれる。つまり、ミソジニーがミサンドリーを生んだとも言える。
ただし、ミサンドリーとミソジニーには大きな違いがある。具体的な問題があるかどうかだ。ミソジニーでは、雇用や賃金に格差が生まれたり、女性が家事労働を強いられ、「勉強は必要ない」と学校に通わせてもらえないという過去が日本でもあった。また、性的な欲求を満たすために性的虐待や暴力が起きるケースもミソジニーが根底にある可能性がある。
一方、ミサンドリーでは実際に男性が危険にさらされたり、具体的な差別を受けることは事例としてはほとんどない。こうした社会的な背景も、ミサンドリーとミソジニーでは異なっている。
ミサンドリーとフェミニズムの相違点
男性批判に用いられる言葉の一つにフェミニズムがあるが、このフェミニズムもミサンドリーと同様に社会的な女性差別から生まれたとされる。
だが、根底となる主旨が多少異なる。「フェミニストは男が嫌い」という視点で捉えている人もいるが、フェミニズムは女性の権利や地位向上を主張するために行われている運動のことで、ミサンドリーは男性への嫌悪感からくる男性蔑視のことだ。
ただし、フェミニズム運動が発展していく中で、ミサンドリーを助長した可能性もある。フェミニズムによる男性への批判が、ミサンドリー的な思考につながったということだ。
このように性別による概念や思考の違いは、例えば男性優位な仕組みであるマチズモ(男性優位主義)が女性差別を生み出し、それに反対する形でフェミニズム運動が生まれ、さらにミサンドリーにつながったというように複雑に絡み合っていると捉えることができる。
ミサンドリーの具体例
ミサンドリーは、「男は◯◯だから」という性別による強いイメージによって判断してしまうことが原因の一つとなっている。例えば以下のような例が考えられる。
・男性は暴力的だから、女性は被害に遭っている
・男性は常に性的なことを考えているから、女性が性的な虐待を受けている
・女性の地位が向上しないのは男性優位社会のせい
・無神経な男性が多くて、女性はいつも傷ついている、など
すべての男性が暴力的ではないし、無神経でもないし、性的なことばかり考えているわけではない。反対に、暴力的で無神経な女性もいる。あくまでも個人個人の特徴だが、それをすべての男性のイメージに紐づけてしまうことで、男性蔑視あるいは男性差別につながっているのだ。
ミサンドリーの原因

ミサンドリーにつながる原因は、生い立ちや過去のトラウマのほか、情報の刷り込みに起因する過度な思い込みによるところが大きい。
例えば、女性にとって身近な存在である父親の影響が大きいケースがある。「父親が暴力的だった」「父親がモラハラ的な発言をする」といったことで、男性のイメージがついてしまったために男性を差別的に批判してしまうのだ。実際の男性と直接会話する機会が少ない場合、さまざまなタイプの男性がいることを知らず、そのイメージがより強固になってしまうケースもある。
また、日常には「男とはこういうものだ」というジェンダーバイアスが潜んでおり、その影響を受けていることもある。代表的なのはしつけだ。男の子を叱るときに「男だから我慢できる」「男だから痛くない」「男は泣かない」といった決めつけのもとでしつけが行われるケースがあるが、こうした偏見やジェンダーバイアスが心の中に染み付いてしまっているのだ。
また、過去に性被害に遭った、男性に対する幻滅につながるような元恋人の悪い面を見たということでも、男性蔑視、男性差別、男性嫌悪につながっていることがある。
ミサンドリー的思考の特徴
「男性に対するアンビバレンス(両面価値)尺度」(Ambivalence toward Men Inventory、 AMI)を用いた研究(1999年)では、ミサンドリーの人には以下のような心理があると指摘している。
・伝統的な父権主義への抵抗
・社会的に強い立場である男性への抵抗
・男性による女性への攻撃的な行為への抵抗
また具体的なミサンドリーの人の特徴については、以下の例が挙げられる。
・男性に対する攻撃的な言動
・女性の権利に対する強い主張
・女性の意見に対する強い同意
・女性差別に対する敏感な反応および嫌悪感、など
同じ意見でも、男性が言っている場合は反対し、女性が言っている場合は同意するというのもミサンドリーの特徴の一つだ。緊張や恥ずかしさからではなく、嫌悪感で男性とは話もしないという人もいる。
ミサンドリーへの対策
ミサンドリーの傾向が強くなると、男性排除の考え方につながることも考えられる。中には、「男性がいる職場では働けない」「男性の上司の意見に反対ばかりする」といったように、自身の生活に悪影響が及ぶケースもある。ここでは、ミサンドリーへの対策についても考えてみよう。
ジェンダーバイアスについて考える
ジェンダーバイアスとは、男女の役割について偏見や固定観念を持つこと。「家事は女性がするもの」「男だから青」といったように無意識のうちに抱いているケースも多い。
しかし、家事は男性がしてもいいし、女児が青い服を着ていても何も問題はない。性別による差別や偏見を持たないように、ジェンダーバイアスについて知識を重ねたり、考えていくことが必要だ。
身近な仕組みやルールを改善する
男女の格差につながるような身近にある仕組みやルールの改善をしていくことも、ミサンドリー対策となる。例えば、「お茶汲みは女性の仕事」としていた会社が、「手が空いている人がお茶を出す」というようにルールを変えた場合、男女の間で仕事の格差は解消される。
役職や管理職の割合など会社全体で変えなければいけないことは一人の力では難しいが、こうした身近なことから改善していくことがミサンドリー的な思考が薄れていくことにつながる。もちろん、仕組みやルールの改善は、女性からではなく、男性が行っても問題はない。
差別に対する意識改革を行う
ミサンドリーは男性差別を表す言葉だが、社会にはさまざまな差別がある。女性差別をはじめ、教育格差による差別、貧困層への差別、人種差別なども日本では存在している。
差別的な思想を持っていると、何かのきっかけで差別に対する意識が強くなることがある。そのため、差別に対する問題意識をまずは自分自身で持つこと。また、周囲の人たちと共有し合うことが重要だ。
例えば、職場で差別的な発言があった場合や、子どもが通う小学校に外国人の子どもがいる場合などで人種による差別的な発言などがあった場合は、適切に指摘し合うといったような意識が必要だろう。
まとめ
ミサンドリーは、男性差別や男性蔑視を表す言葉。男尊女卑など古典的かつ伝統的な男性主導の世の中で、女性が虐げられてきた歴史が生まれた原因になっているともされる。また、身近な男性による差別的な発言によって、男性蔑視や男性差別につながるケースもある。
ただし、行き過ぎたミサンドリーは性別による分断につながり、職場などにおける人間関係を悪化させる可能性もある。そのため性別によって判断するのではなく、一人の個人として見ていくことが重要だ。
長く男尊女卑国と言われ「Global Gender Gap Report(世界男女格差報告書)2024年版」(世界経済フォーラム)でもG7中最下位の118位に位置する日本だが、その結果をばねにして、今後性別による差別をなくしていくこともできるだろう。
Edited by k.fukuda






























倉岡 広之明
雑誌記者として活動した後、フリーライターとして独立。さまざまなジャンルの記事を執筆しているが、北海道で生まれ育ったこともあり、自然環境や気候変動、SDGs、エネルギー問題への関心が深い。現在は、住宅やまちづくり、社会問題、教育、近代史など、多岐にわたるテーマを手がけている。
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