AIと子ども、健全なパートナーシップを築くためには

AIと子ども、健全なパートナーシップを築くためには

AIを使いこなす子どもがいる一方で、若年層の精神衛生や安全を脅かす潜在的なリスクが顕在化しつつある。AIは子どもたちの創造性を育む強力なツールとなり得るのか、それとも危険な落とし穴となるのか。AIと子どもたちが健全な関係を築くため、周囲の大人に求められる役割について考察する。

ChatGPTペアレンタルコントロール導入が示すもの

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近年の生成AI技術の発展は目覚ましい。その中心的存在であるOpenAIは、対話型AI「ChatGPT」で世界中に大きな影響を与えている。しかし、その普及に伴い、若年層の利用における潜在的なリスクも指摘されるようになった。

実際に、AIとのやりとりが原因とされる若者の自殺事件が米国で報告されている。これを受け、OpenAIは10代の利用者を保護するため、親が子どものアカウントを管理できる「ペアレンタルコントロール機能」の導入を発表した。子どもがAIと交わしたやりとりの履歴を保護者が確認したり、精神的依存につながる可能性のある機能を無効にできるものである。

従来のデジタルサービスにおけるペアレンタルコントロールは、不適切なコンテンツのフィルタリングや利用時間の制限が主だった。これに対しOpenAIの対策は、AIの応答内容を年齢に応じて自動調整したり、深刻な悩みを抱えている兆候を検知して保護者に通知したりするなど、対話そのものに踏み込んだ、これまでにない保護の形を提示している。

OpenAIの動きは、AI開発企業が自社技術の社会への影響、特に子どもたちへの影響を真剣に受け止め始めていることを示している。利用規約で年齢制限を設けるだけでなく、実際に保護者が介入できる仕組みを整えることで、利用者の安全確保に積極的に取り組む姿勢を明確にしているのだ。


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AIと子どもを取り巻く現実的な課題

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AI技術が急速に普及する中、AIはすでに子どもたちの生活に深く浸透している。日本全国の15歳~69歳の男女を対象にしたLINEリサーチの調査では、10代の生成AI利用経験率は7割を超え、他の年代を大きく上回っている。東京都教育委員会が都内公立学校の児童・生徒を対象に実施した調査でも、高校生の約3割が生成AIを利用した経験があることが明らかになった。

このように子どもたちのAI利用が進む一方で、さまざまな課題が潜んでいる。AIの利用が広がるにつれて懸念されるのは、ネットリテラシーの不足だ。ネットリテラシーとは、インターネット上の情報を正しく理解・判断し、適切に活用するための能力のことである。

AIは事実と異なる情報をあたかも真実のように提示することがある。提示された情報を鵜呑みにせず、その信憑性を自分で確認する力がなければ、誤った知識を身につけたり、誤情報を拡散したりする危険がある。

特に注意すべきは、インフォデミックフェイクニュースだ。インフォデミックとは、「information(情報)」と「epidemic(流行)」を組み合わせた造語で、誤った情報が急速に広まり、社会に混乱をもたらす現象である。AIは誤った情報を正しい情報のように提示してしまうことがあり、インフォデミックを加速させるツールとなりうる。

また、意図的に作られた虚偽の情報であるフェイクニュースも、AIによって生成が容易になっている。テキストだけでなく、画像や動画まで本物と見分けがつかないレベルで作成できるようになっており、子どもたちが真偽を判断することは非常に困難だ。

従来のインターネット利用における危険(SNS上のトラブルや個人情報の流出など)に対する対策は、一定のノウハウが蓄積されてきた。しかし、AIがもたらす課題は、これまでの枠組みには収まりきらない。

AIは、一方的な情報発信だけでなく、利用者の思考や感情に深く関わり、その行動に影響を与えうる。これは、危険なウェブサイトをブロックしたり、不適切なコンテンツをフィルタリングしたりするだけでは防ぎきれない、より複雑で根深い問題である。


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AIと健全な関係を築くために

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AIとの健全な関係を築くためには、子どもたち自身が適切な知識とスキルを身につける必要がある。しかし、それ以上に重要なのは、周囲の大人(特に保護者や教師)が子どもたちにとっての「メンター」としての役割を果たすことだ。

大人がメンターとなるためにまず必要なのは、AIに対する正しい理解を深めることである。AIは魔法の道具ではなく、あくまで特定のアルゴリズムに基づいて動くツールだ。その得意なことと苦手なこと、そして限界を理解することが、子どもに適切なアドバイスをするうえで不可欠である。

子どもとの対話を増やすことも有効だ。AIは、子どもにとって手軽な相談相手となる一方で、そこには人間の持つ共感や感情の機微は存在しない。子どもがAIに相談した内容や、AIから得た情報を大人と共有し、共に考える機会を設けることが重要なのだ。

また、批判的思考力を養うサポートをすることも、メンターの重要な役割として挙げられる。AIが生成した情報を鵜呑みにせず、「なぜそう考えるのか」「本当に正しいのか」といった視点を持ち、情報源を自ら探す習慣を促す。これは、AIとの付き合い方だけでなく、社会全体で氾濫する情報に対応するための重要なスキルとなる。

AIは、すでに社会のあらゆる場面に浸透しつつあり、今後その流れは加速するだろう。子どもたちがAIの恩恵を最大限に享受しそのリスクを乗り越えていくためには、私たち大人がAIの正しい使い方を教え、共に学び続ける姿勢が求められている。

Edited by k.fukuda

参考サイト

もっと役立つChatGPT体験を、すべての人に|OpenAI
児童・生徒のインターネット利用状況調査|都庁総合ホームページ
生成AIの認知度は9割強!全体の利用率は3割強、10代で最も高く6割弱|LINEリサーチ
ChatGPT、ペアレンタルコントロール導入 自殺事件受け対策 |日本経済新聞

本記事は、特集「デジタル社会を生き抜く」に収録されている。AIなどデジタル社会の課題と、人間らしくしなやかに生き抜くための持続可能な仕組みを探った。ほかの記事もあわせて、より多角的な視点を見つけよう。

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About the Writer
丸山瑞季

丸山 瑞季

大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。この人が書いた記事の一覧

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