アートが問いかける社会問題。”無関心”をなくすための取り組み【環境編】

アートと社会問題の結びつきは深い。アーティストはさまざまな表現で問題を提起し、鑑賞者は作品を通じて、曖昧だった世界を鮮明に捉え直すきっかけを得る。アートは問いかけを発信する装置であり、その解釈は個人の自由だ。今回は、社会問題で果たすアートの役割について、環境問題へのアプローチから紐解いていく。

近年は、社会問題が複雑化・多様化しており、当事者として捉えにくいものも増えている。しかし、自分には関係がないと思っていても、人間がお互いに影響を及ぼし合っているのは事実だ。社会問題は個々の言動の結果の集積であるにも関わらず、その実感が欠けていると、問題の重要性に気づくことは難しい。

わからないことは、悪いことではない。ただ、その「わからない」を受け止めるのか、はたまた無関心のままでいるのかは、一人ひとりの心に委ねられている。

アートは、自分の「わからない」に、一歩踏み込む勇気をくれるものだ。言葉にせずとも語り掛けてくるアートは、実は私たちの一番の理解者かもしれない。社会問題にはさまざまなものがあるが、今回はアートと環境問題に焦点を当ててみよう。

アートができる社会貢献とは

社会運動とアートの結びつきは、古くまで遡ることができる。18世紀頃には風刺画が登場し、19世紀になるとフランスでリアリズム(写実主義/現実主義)が起き、労働者の生活や過酷な労働環境が浮き彫りにされた。

第一次世界大戦中には、戦争への抵抗からダダイズムという芸術運動が起こる。戦争がアートに与えた影響は大きく、中でもパブロ・ピカソの《ゲルニカ》は、キュビズムの手法でスペイン内戦の惨状を表現した、反戦絵画の代表作だ。日本でも藤田嗣治や小磯良平らが、戦争を題材とした絵画を遺している。

20世紀後半になると、パフォーマンスアートやコンセプチュアルアートといった画期的な表現方法が登場し、社会的・政治的な問題提起を行うアーティストが増加する。フェミニズムや環境保護、貧困などさまざまな社会問題を題材とし、作品の中にあえて“余白”を残すことで、鑑賞者との対話を促すものも多い。

近年では、2021年に東京藝術大学大学美術館で「SDGs×ARTs展」が開催された。東京藝術大学の学生・卒業生・教職員による、SDGsにおける芸術の役割に切り込んだ展覧会だ。同校では2021年6月にSDGs推進室が設置されるなど、アートと社会課題の可能性を模索する取り組みが盛んである。

社会問題をテーマとしたアートは、見る人が自分自身で問いを立てるための装置ともいえる。強いメッセージを訴えるアートを目の前にして、私たちはその背景を考えざるを得ない。見る人に「考えるきっかけ」を与えることこそ、芸術家たちの願いかもしれない。


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具体的なアート作品や取り組み事例

環境問題を取り上げたアート作品は、国内外で発表されている。一見、美しく優雅な作品が、実は深刻な社会問題を反映しているケースも少なくない。実際に、どのような作品や取り組みがあるのかを見てみよう。

森美術館:「私たちのエコロジー展」

2023年、森美術館の開館20周年記念として開催されたのが、「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」だ。本展では、国内外のアーティスト34名が参加し、環境問題をテーマとした現代アートが紹介された。

「私たちとは誰か、地球環境は誰のものなのか」という問いかけを発端として、生態系や地球資源、テクノロジーと未来など、あらゆる切り口から社会問題に触れる。現代アーティストの新作のみならず、岡本太郎や木村恒久らが遺した歴史的作品も網羅し、人間活動と環境の関係性を多角的に捉えている。また、本展では輸送を最小限に抑え、可能な範囲で再利用資源を活用するなど、サステナブルな活動に取り組んだことも特徴だ。

オラファー・エリアソン:《Ice Watch》

オラファー・エリアソンは、光や水、霧などの自然現象をテーマとしたインスタレーションで、世界的に注目を集めるアイスランド系デンマーク人の芸術家だ。彫刻、写真、水彩、建築と多岐にわたる分野で表現活動を行い、気候変動や再生可能エネルギーをテーマとした作品も多い。

《Ice Watch》(2014-)は、サステナビリティを題材としたエリアソンの代表作ともいえる。地質学者のミニック・ロージング教授との共同プロジェクトで、グリーンランドから運搬した氷塊を並べ、それらが解けるまでの過程すべてが作品となる。

人々は氷塊に触れたり、写真をSNSにアップしたりと、思い思いの方法で鑑賞を楽しむが、氷は必ず解けていく。グリーンランドでは温暖化の影響により、毎秒1万個の氷塊が消えるというが、それを実感する人は少ないだろう。エアリソンの《Ice Watch》を目の前にすると、私たちは氷の行く末に無関心でいられない。それまで「遠い国の物語」であった気候変動が現実味を帯びて、私たちの生活に流れ込んでくる。

ジョン・サブロー:汚染された河川から顔料を取り出して絵を描く

ジョン・サブローは、環境保護主義者としても知られる現代美術家だ。サブローは科学者らと協力し、放棄された炭鉱の酸性鉱山排水から鉄酸化物を抽出したものを、顔料に加工する。その顔料を用いて制作された絵画やドローイングは、鮮やかで深みのある色彩が特徴で、言わなければ鉱山排水から生み出されたとは思えないほど幻想的だ。

サブローは問題提起するだけでなく、環境汚染そのものを絵画の素材として取り入れた。美しさの中に毒々しさを隠し持った絵画は、持続可能性について私たちに静かに訴えかけている。

藤浩志:「かえっこ」プロジェクト

鹿児島県出身の美術家である藤浩志は、あらゆる表現方法を用いて循環社会への転換を呼びかける。代表的なプロジェクトである「かえっこ」は、各家庭で不要となったおもちゃを持ち寄り、世界共通の子ども通貨「カエルポイント」に換えて買い物遊びを楽しむというものだ。「かえっこ」は全国のあらゆる地域で開催され、子どもたちが主体となって活動を発展させている。

藤浩志は、この「かえっこ」プロジェクトで集めたおもちゃを使って、巨大な恐竜や動物を創り出す。鮮やかな色彩作品の前に立つと、鮮やかな色彩とスケールの大きさが持つインパクトにまず圧倒されるが、細部に目を凝らせば、それがおもちゃの集合体であることにすぐ気づくだろう。ポップで迫力があり、一見親しみやすいモチーフが、大量消費社会の現実を痛烈に示している。

クリス・ジョーダン:《Midway》

クリス・ジョーダンは、アメリカのシアトルを中心に活動する写真家だ。彼の代表作《Midway》シリーズは、ショッキングなビジュアルで見る人の心を揺さぶる。

その内容は、ミッドウェー島のアホウドリの死骸を撮影したもの。死んだアホウドリの腹部には、大量のプラスチックごみが詰まっている。親鳥が漂流するプラスチックごみを餌だと勘違いし、それを与えられた雛鳥がお腹をごみでいっぱいにして息絶えてしまったのだ。大人のアホウドリは誤って飲み込んだごみを吐き出せるが、まだ幼い雛鳥は吐き出す行為ができない。アホウドリに限らず、多くの海鳥がプラスチックごみを飲み込んでいると言われている。

海洋プラスチックという言葉はよく耳にするが、私たちはその影響をどこまで理解しているだろうか。ジョーダンの《Midway》は、普段何気なく捨てるごみの行方を考えさせられる。


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表現と解釈の間にあるもの

アートは「答え」ではなく、「問い」を提示するものだ。見る人の経験や価値観、視点によって、解釈も変わる。その解釈に正解はなく、間違いもない。自分が感じたことを、そのまま受け止めていい。

アートの目的はきちんと理解することではなく、作品そのものや作者との“対話”を通じて、「社会問題への理解を深めるプロセスを辿ること」にある。アートに触れて問いが生まれ、議論するきっかけとなることが、その作品の本質的な価値ともいえるだろう。

「アートは難しい」と思われやすいが、まずは作品を見て、素直に感じるだけでいい。「こわい」「不快」「美しい」など、率直な感情を簡単な表現でアウトプットしてみよう。もしかしたら、自分が考えもしなかった新しい事実に気づけるかもしれない。気づくということこそ、私たちが社会問題の当事者となる第一歩だ。


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Edited by s.akiyoshi

参考サイト

SDGs×ARTs展 | 東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト
森美術館開館20周年記念展 私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために | 森美術館
気候変動を憂うオラファー・エリアソンの最新作がロンドン中心部に出現|美術手帖
research|john sabraw
株式会社 藤スタジオ
Midway: Message from the Gyre | Chris Jordan | Prix Pictet

About the Writer
小島奈波

夢野 なな

ライター、イラストレーター。芸術大学美術学科卒業。消費が多く騒々しい家族に翻弄されながらも、動植物と共存する生き方と精神的な豊かさを模索中。猫と海、本が好き。神奈川県の海に近い自然豊かな田舎で暮らす。創作に浸る時間が幸せ。
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