インクルーシブ・ビジネスとは?社会課題解決と企業成長を両立するビジネスモデル

インクルーシブ・ビジネスとは?

インクルーシブ・ビジネスとは、ビジネスのバリューチェーン(※1)の中に、地域社会で暮らす人々を巻き込み、雇用の創出や所得水準の上昇を目指すビジネスモデルだ。具体的には、貧困層の人々を消費者、顧客、取引先、起業家として取り込み支援することで、自立を促したり、生活の質を向上させたりする。これにより、事業の発展だけではなく、人権問題や社会問題の解決といった地域社会全体の発展を目的とする。

主に途上国のBoP層(※2)を取り込むことで、社会課題解決を目指すビジネスを指す場合が多い。BoP層は、世界人口の約7割を占める巨大な市場であり、未開拓のビジネスチャンスが眠っているといわれる。その経済効果は5兆ドルに及ぶ。

(※1)原材料の調達、製造、販売、アフターサービスの一連の流れ
(※2)Base of the Pyramidの略。ピラミッドの底辺層(貧困層)の人々を指す。

インクルーシブ・ビジネスの可能性

インクルーシブ・ビジネスは、多様性や平等で差別のない社会の創造を重視した仕組みで、社会全体に大きなインパクトを与える可能性を秘めている。具体的には、以下の点が期待されている。

多様性の尊重

性別、年齢、障がいの有無に関わらず、多様な人々をビジネスに参画させることで、BoP層を含めた幅広い層への包括的で公平な質の高い教育、ジェンダー平等に貢献する。

社会問題の解決

貧困層をビジネスに参画させたり、ビジネスの中で教育の場を設けたりすることで、貧困、失業、教育の機会均等といった社会問題の解決に貢献する。

持続可能性と規模の拡大が期待

一過性の利益ではなく、長期的な視点で環境への配慮や社会貢献することを重視し、ビジネスを展開する。また、BoP層を取り込むことで、事業規模の拡大と持続可能な経済成長が期待できる。

従来のビジネスモデルとの違い

インクルーシブ・ビジネスは、以下の点で従来のビジネスモデルとは明確な違いがある。従来の手法が利益最大化を第一の目的としていたのに対し、インクルーシブ・ビジネスは利益を追求しつつ、社会問題の解決や持続可能な開発への貢献を目指す。

そのため、製品やサービスそのものの提供に重点を置いていた従来の手法と違い、インクルーシブ・ビジネスは、製品やサービスを通じた価値提供に重きを置いている。また、インクルーシブ・ビジネスは、顧客の生活を改善し、エンパワーメントする(自ら考え、行動し、成長するための力を与える)ことで、より大きな価値や豊かさを提供する。

顧客との関係性においても、従来のビジネスモデルは、顧客との一過性の取引にとどまっていた。インクルーシブ・ビジネスは、顧客、従業員、地域社会との長期的な関係構築を重視し、信頼関係を築くことで、持続可能なビジネスを実現する。

インクルーシブ・ビジネスのメリット

インクルーシブ・ビジネスのメリット

インクルーシブ・ビジネスは、社会に対してはもちろん、企業にとっても大きなメリットを与える。本章では、社会全体と企業への具体的なメリットについて以下に解説する。

社会にもたらすメリット

インクルーシブ・ビジネスは、社会全体に多岐にわたるポジティブな影響をもたらす。

まず、貧困の削減に大きく貢献する。経済的に恵まれない人々に雇用機会を提供し、収入源を確保することで、貧困層の生活水準向上を促す。また、雇用創出を通じて、地域経済の活性化や失業率の低下につながる。

また、教育、医療、環境といった社会課題の解決にも寄与する。例えば、貧困層や地域社会への教育インフラ整備を通じた人材育成の促進や医療サービスへのアクセスが困難な地域への医療提供や予防医療の普及、持続可能な生産や消費を促進することによる、環境問題の解決などがあげられる。

これらの取り組みは、地域社会の発展を促し、サステナビリティの推進にもつながる。インクルーシブ・ビジネスは、単なる企業の社会貢献活動ではなく、社会全体の持続可能な発展に貢献する重要なビジネスモデルといえるだろう。

企業にもたらすメリット

インクルーシブ・ビジネスは企業にも多くのメリットをもたらす。例えば、多様な背景を持つ人々が集まることで、新しいアイデアや視点が生まれ、イノベーション創出の原動力となる。また、企業の社会的責任を果たすことで、従業員のモチベーションや帰属意識の向上につながる。さらに、企業として社会貢献することで、消費者の共感を得て、企業価値の向上も見込まれる。

加えて、インクルーシブ・ビジネスでは、従業員、顧客、投資家、地域社会といったステークホルダーと長期的に関わることで、関係性を良好に保つことが可能だ。これにより、企業のリスクを低減し、長期的な成長を促す。

このようにインクルーシブ・ビジネスは、企業にも多岐にわたるメリットを与える。単なる社会貢献活動ではなく、企業の競争力強化につながるビジネス戦略と捉えられる。

インクルーシブ・ビジネスの導入事例

本章では、インクルーシブ・ビジネスの導入事例を3つ紹介する。

インド:女性特有の課題に取り組む事業例

【課題】
インドでは、3億5,000万人の月経を迎えているインド女性のうち、生理用品を使用しているのは12パーセントのみであった。生理用品を使用していないと答えた女性の内、経済的な理由で買えないと回答した女性は70パーセント。これにより、生殖管感染症にかかる女性が多いことやトイレの未整備により学校をドロップアウトする女性が多いことが課題であった。

【解決方法】
低価格でできる生理用品の開発、製造・販売を女性のネットワークを活用して行った。開発・製造過程に女性を取り込むことにより、需要にマッチした製品づくりと女性の雇用機会の創出につながった。

【成果】
これらの取り組みにより、女性に雇用と収入の機会を提供しただけでなく、12-18歳の女性のドロップアウト率が低下した。また、衛生的な生理用品の使用により、生殖感染症の回避につながった。

ウガンダ:女性の収入向上・再教育の機会を創造する事業例

【課題】
ウガンダ農村部において、高校卒業前にドロップアウトした女性には、その後、収入向上、再教育の機会がなかった。また、ウガンダ農村部における女性の平均収入は3ドルと男性と比較して低い。国内での就学率が低く、特に、13-18歳の中高学齢期において、女子の3割が学校に行っていないことが課題であった。

【解決方法】
農村部の高校未修了の女子を対象に、パッションフルーツ生産を通じた農業技術習得と収入を得る機会を提供。さらに、収穫までの6か月間に、ノン・フォーマル教育(金融、健康、栄養、性教育)を行うことで、知識の取得による生活水準の向上をはかった。

【成果】
参加した女子の約90パーセント、1,500名がコースを修了し、卒業した。女子の収入は、プログラム開始前の3ドル/月から20ドル/月となり、600パーセント上昇した。これにより、女性の世帯での貯蓄が20パーセント増加。また、家庭内暴力を受けていた女性が独立したケースといった経済的な余裕から生まれる心理的変化も見られた。

ケニア:モバイルペイメントの導入によるBoP層への電力供給事業例

【課題】
ケニアでの電気へのアクセスは総人口の約36パーセントにとどまっている。特に農村部においては、12.6パーセントと都心部の68.4パーセントと比較して低いことが課題であった。また、電力の代わりに使用していたケロシンは、電力に比べコストが高いだけでなく、CO2の排出量の高さから、地球温暖化につながっていた。

【解決方法】
政府のサービスが届かない地域において、BoP層のニーズに合わせた形で電力を供給。ソーラー発電システムのリースや電化製品のパッケージを用意し、顧客が選べるようにした。また、4分の3が銀行口座を持っていないといわれる貧困層の支払いに対応するため、モバイルペイメントを導入。支払いプランも小額から選べるようにすることで、低所得者層の利用に対する障壁が減った。

【成果】
BoP層の電力サービス利用顧客が50万件に到達。事業に関わる2,500人の雇用を創出した。さらに、ケロシンを購入する場合に比べてコストが下がり、1世帯当たり4年間で750ドルの節約となった。また、CO2削減量は、むこう4年間で38万トンとなる見込みだ。

インクルーシブ・ビジネスの課題と解決策

インクルーシブ・ビジネスの課題と解決策

インクルーシブ・ビジネスには、いくつかの課題点もある。本章では、3つの課題点とその克服策について解説する。

導入における課題

インクルーシブ・ビジネス参入にあたっての課題点として主に3つあげられる。

まずは、コスト面における課題だ。インクルーシブ・ビジネスでは、新しい取り組みが必要となり、人材育成やシステム導入といったコストが発生する可能性がある。また、投資した貧困地域の成長には時間がかかるため、投資対効果が現れるまで長い期間を要する場合もある。

次に、貧困地域では、電気や水道、公共の道路といったインフラが整備されておらず、事業の開始、継続が難しい場合がある。これにより、投資額が増大する可能性がある点も課題として挙げられる。

さらに、貧困層の中には、海外企業に対する不信感を持つ人も多い。地域社会の住民や地元の中小企業、NPO・NGOとの信頼関係の構築、信頼できるNPOや地元企業との連携も課題となる。

解決策

インクルーシブ・ビジネス参入における課題の解決策としては、下記の4つが挙げられる。

まず、インクルーシブ・ビジネス・ボンドの利用により、資金調達面での課題を克服できる。インクルーシブ・ビジネス・ボンドとは、社会的な包摂性を促進する事業に資金調達を行うための債券を指す。

また、全社一斉に導入するのではなく、まずは一部の事業や地域からパイロットプロジェクトとして開始し、その成果を踏まえた段階的な拡大が重要だ。リスクを最小限に抑えつつ、事業の成功確率を高められる。

さらに、コンサルタントやNPOの支援を受けることで、地域社会との関係構築や事業計画の策定など、専門的な知識や経験を効果的に活用できる。特に、現地でのネットワークを持つNPOとの連携は、地域社会への浸透を加速させる上で非常に有効だ。

最後に、地域社会、NGO、政府機関といった様々なステークホルダーとの連携を強化し、情報共有や共同プロジェクトを進めることが重要だ。これにより、地域社会のニーズを的確に把握し、より効果的な事業展開を実現できる。また、地域社会との信頼関係を構築することで、長期的な視点での事業展開が可能になる。

まとめ

インクルーシブ・ビジネスは、貧困層を含む社会の底辺層の人々をビジネスに巻き込むことで、社会課題の解決と企業の持続的な成長の両立を目指すビジネスモデルだ。

単なる社会貢献活動ではなく、企業の競争力強化につながるインクルーシブ・ビジネスは、一つのビジネス戦略としても捉えられる。社会課題の解決と企業の成長を両立させたい企業にとって、インクルーシブ・ビジネスは有益な選択肢となるだろう。

参考記事
インクルーシブ・ビジネスの可能性|世界銀行グループ 国際金融公社
貧困・格差解消および ジェンダー平等促進に向けた インクルーシブビジネス活用・支援 に関する事例研究 |独立行政法人国際協力機構(JICA)
サステナブル・インクルーシブな成長ニーズへの 対応
次なる40億人|世界資源研究所 国際金融公社 p5
CUCマガジン:教員コラム > 企業のビジネスは世界の貧困を救えるか? ~インクルーシブ・ビジネスの可能性|千葉商科大学
インクルーシブ・ビジネス・ボンド|国際金融公社

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